第11話
人は謝罪より感謝をされたほうが嬉しいと聞いたことがある...
だから、この小説を見に来てくれてありがとう!!
「おーい、冬樹いるかー?」
小鳥がさえずり、昇りたての太陽が肌を照らす朝の冬樹家玄関。来客が呼び鈴を鳴らすと同時に家主の名前を大声で呼び始めた。
「はいはい~」
「聞いたぞ、けがしたんだって……んっ?」
「おはようございます~。私はけがなんてしてませんよ、ご覧の通り元気いっぱいです~!ところで…どちら様ですか~?」
元気いっぱい小走りで玄関まで来て、来客の応対をしている紅葉はきょとんと首を傾げた。
「おいこら冬樹――――!さっさと出てこいや!」
「もう何うるさいわね。どうしたのよ光春、こんな朝っぱらから」
光春と呼ばれる来客が玄関先で大声を出したのを聞きつけた葵は、長い髪の毛をくしでとかしながら玄関までやってきた。まだ朝の早い時間だからか、葵はまだパジャマ姿である。
「あっ、葵⁈冬樹ぶっ殺すから早く出てこいっっ!」
「なんだよ物騒だな…」
そう言いながらこの家の(暫定的な主の)冬樹が頭を掻きながら階段を下りてくる。ついさっきまで寝ていたのだろう、大きなあくびがこっちの眠気を誘ってくる。
「遺言があるなら聞くぞ」
「だからなんで殺される前提なんだよ」
「そりゃそうだろ、なんで葵と…」
「あっ、紅葉です。冬樹さんにお世話になってます~」
光春が葵から自分の方に目線を移したことを敏感に感じ取った紅葉は、咄嗟に自己紹介をした。
「あっ、光春です。よろしく。じゃなくてっ!!なんで葵と紅葉さんと一緒にお前が暮らしてるんだよ冬樹!」
「いや、暮らしてないけど」
「んなわけあるか。なんで寝間着姿の女の子がこんな朝方に、それも二人もいるんだ。納得いく説明をしてみろ!」
「ばれたか…」
「ばれるに決まってんだろっ!」
「まぁ二人とも、玄関先で喧嘩するのも近所迷惑だしとりあえず中入れば」
そう言いながらくるりと向きを変え、リビングに向かっていく葵の背中を追いかけるように3人ぞろぞろと後に続いた。
リビングにたどり着いた一同はソファーに座る。紅葉はさも当然かのようにキッチンに向かい人数分のお茶を用意し、お盆に乗せて運んでくる。
光春はその様子をただただ見つめていた。
「それで、どうしたんだ。こんな朝早くから」
「いや、冬樹がけがをしたって風のうわさで聞いたから、お見舞いにでも行ってやろうかなと思ってきたんだよ。冬樹の親父さんとお袋さん旅行に行ってるから、冬樹が死んでないか確認してやろうってな」
「お前いいやつだな…と言いたいところだが俺がけがしてから何か月たってると思ってんだ‼もうとっくに治っちまったよ」
「んだよ、せっかく友達が見舞いに来てやってるのにその態度は。それに当の本人は可愛い女子二人と同棲してるし。そりゃ、殺すよな」
「いや、殺すなよ」
「なぁ、お前の家のキッチンに包丁あるよな」
「キッチンの流しの下にありますよ~」
「いや、本気で殺す気かよ…。紅葉さんも教えないで…」
「まぁ、冗談はいいとして…。この人は…?」
光春はそう言いながら、自分が持ってきたお茶を幸せそうに飲んでいる紅葉の方に目線をやった。
「あぁ、この人は紅葉さん。道端でお腹すいて倒れてたから、うちに住んでもらってるんだ」
「おいおい、そういう冗談はいいから」
「あぁ、やっぱりばれたか。実は道端でお腹すいて座り込んでいた…」
「ちょっと待て。その冗談はいいって言ったよな」
「冗談じゃないわよ」
お茶を飲みながら、葵がそう言った。光春の表情はみるみる目の前の状況を理解できていない、困り果てた顔へとなっていった。
「どっ、どういうことなんだ…」
「だから、さっきから話している通り…」
「冬樹がしゃべることって全部嘘っぽく聞こえるよな」
「確かに」
「いや、二人ともひどくない⁈」
「じゃあ、あたしがしゃべるわ」
「葵がうそいうわけないし…。分かった、俺が学校をずる……、大変やむを得ない事情で休んでいた間にいったい何があったのか教えてくれ」
「分かったわ。じゃあ…」
そこから葵は、これまで3人が体験してきた日々をゆっくりと語り始めた。
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「と、ここまでがあたしたちが体験した嘘のようなホントの話よ」
「そんなことが…。ってなるかっ!って思いっきり突っ込みたいところなんだが、葵がそこまで真剣な顔してしゃべったんだ、嘘じゃないことくらい想像つくぜ。じゃあ紅葉さんとの出会いも冬樹が言ってたことは嘘じゃなかったんだな」
「だから最初からそう言っただろ。ほら、間違えたら何ていうんだ、ほらほら」
「いや、謝らねぇぞ。冬樹の日ごろの行いのせいだからな」
「それは冬樹が悪いわね」
「いや、二人ともひどくない⁈」
「まぁ、これはどうでもいいとして。俺は二人のいうことを信じるよ、渋谷のこと、紅葉さんの事含めだ」
「光春…」
「ただ…」
「ただ?」
「今の葵の話を聞く限り渋谷でたくさんの人が無くなって、少なからず建物にも被害が出てる。じゃあどうして、大事にならないんだ?こんな出来事がニュースにならないわけないだろう」
「…」
冬樹は、苦い顔をしながらうつむく。紅葉はそんな冬樹が心の中で何を思っているのかを察し、冬樹の方をじっと見つめている。
「なぁ、もしもみんながいいなら、渋谷に行ってみないか?」
「えっ…」
光春から渋谷に行こうという言葉を向けられた冬樹と葵は困惑を隠せなかった。あの地獄を経験した二人にとって、渋谷はそれを思い出す場所であり、あの日から今日まで行くのを避けてきたいわば『タブー』である場所だったから…。
冬樹と葵は顔をうつむついたままピクリとも動かない。光春も自分が軽はずみで言ってしまった誘いが、リビングをこんな空気にしてしまい、どうすればいいか若干戸惑っている様子だ。一方の紅葉はこの空気などお構いなしに、お茶請けのお菓子を探しにキッチンへと向かう。
「やめとこう」
この重い雰囲気を打破するかのように冬樹が、小さい声でそうつぶやいた。自然と葵と光春の視線は冬樹に集まる。
「そうだな…、変なこといって悪かった」
「待って!」
話が『行かない』という決断に固まりかけたその時、ひときわ大きな葵の声がリビングに響いた。冬樹と光春は葵が突然大きな声を出したので、目を丸くして驚いた様子で葵の方を凝視している。
「ごっ、ごめん。いきなり大きな声出して」
「いや、いいんだけど。で、どうして急に行こうだなんて…。さっきの話を聞く限り渋谷に行ったらつらいことを思い出しちゃうんじゃ…」
「うん…。確かに渋谷に行ったらあの日の事を思い出しちゃうと思う」
ずっとうつむいていた葵は、覚悟を決めたかのように顔を勢いよく上げ、冬樹と光春の顔を交互に見ながら続ける。
「でも…、でもそれ以上に何が起こってるか知りたいの。渋谷に行ったからって何か見つかるかわかんないけど…。でも、何もしないと何も分からないから」
「葵…」
「あたしのわがままかもしれないけど、でもあたしは渋谷に行きたい」
「だってさ、冬樹」
光春はそう言いながら冬樹にいたずらな笑みを向ける。
「わ、分かった。行こう、渋谷に」
「ありがとう、冬樹」
「どこかにお出かけですか~?」
そう言いながら、キッチンから持ってきた大量のお茶請けを両手いっぱいに抱え、口にもせんべいを加えているモミジが尋ねた。
「紅葉さんは本当に自由奔放ね」
「あはは…」
さっきまでの重い空気が嘘かの様に、リビングには楽し気な笑い声でいっぱいだった。
「………………ところで冬樹」
「ん?」
「どっちが本命なんだ⁇」
「ばっ!そんなんじゃねぇよ!」
次の更新は8月6日以降になりそうです。しばしお待ちを!
8月に入れば一旦落ち着くので、一気にかきあげて、一週間連続投稿とかもしてみようかなと考えてたり...
続報を待たれよ!!(偉そうでごめんね)