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出歩いて、落っこちて、どこだろう?

改訂版と銘打って作ったはいいものの・・・ここらへんは旧版と殆どかわりません。



 僕の名前は五十嵐 かなめ、ちょっと女の子ッポイ名前だけどこれでもれっきとした男である。こう見えても成績は可もなく不可もなく運動神経も並、顔は三枚目という残念さを兼ね備えた自分で言っていて悲しくなる男だ。特技はどこででも寝られること……蒼狸と親友のメガネ君みたいだね。


 そんな平凡な人生を向かえそうな僕が、平凡とは無縁な奇異な事態に陥るなんて予想すら出来なかった。言ってしまえば、その日の僕はホントに運気が無かったのだろう。朝起きれば冷蔵庫の中は空だったことを忘れていて朝食抜き、慌てて出かけようとしたら転びそうになり手をついた先の本棚が雪崩を起す。

泣きそうだった。


 おまけに良く見たら時計が止まっており、携帯電話を見たら寝坊していたのだからさぁ大変。大慌てで鞄を準備して我が母校へ急ごうとして家から飛び出し、通学路を駆けだした矢先、野良イヌの尻尾を踏み抜いて怒り狂う結構デカイ犬に追いかけまわされた。その挙句、気分的に命からがら学校に逃げ込んだ。



――だが嗚呼無常、全ては時遅く、すでに僕は遅刻していた。



 当然ながら遅刻してきた僕を担任教師は叱りつけ同級生の前で恥をかいたという意識と遅刻した事に対する罪悪感が容赦なく精神をボディブローする。その後の授業では苦手な物理の抜き打ちでテストがあり、平凡な成績の予習と復習をするような勤勉な少年では無い僕が良い点を取ることは、競馬で100円を10万円にするくらいムリがあった。

 

 つまり、非常に散々な結果だったってワケだ。 朝のニュースでやっていた血液型占いじゃ、それなりにいい運勢だったのに…所詮占いは占いか…そんな憂鬱な気持ちであれよあれよという間に下校時刻となる。部活動をしていない僕は青春の一ページを刻んでいる連中を横目に学校を出たのだ。


 しかし運が悪い日というのはトコトン、それこそドミノ倒しのようになるらしい。


≪―――ムギュ≫「ギャワン!?」

「(ん?なんかやわらかい感…触?)」


 あえて言うなら、絨毯を踏んだ時の感触に近かったかもしれない。同時に聞こえた悲鳴のような鳴き声に身を竦ませた僕は首だけを声がした方に向けた。


「グルルルル……」

「あ、はは、あはは…」


 何という事でしょう、そこには今まさに怒りをあらわにする朝の野良犬の姿が…。どうも僕は再び尻尾を踏んだのだ。それも朝と同じ野良犬のしっぽである。匂いを覚えられていたのか単に踏みつけられた事に怒り狂ったのか、目の前のワンコの目は“もう許さんぞワレェー!クイコロス!”と言っているように見えて恐怖を覚えた。


 思わず苦笑いを浮かべ、口から乾いた声を出しながらゆっくり一歩後退する僕。それに合わせる様に一歩踏み出す野良犬。一進一退の攻防ではなく、主に僕が逃げ腰なだけであるが怖いモノは怖かった。見つめ合う瞬間に好きだと気付くような奇跡は早々起こらないんだなぁ。


「ぐるぉぉぉ!!」

「ひぃぃぃぃぃ!!!」


 んで、変な事を考えて一瞬視線を外したのがいけなかった。睨みあいの均衡が崩れた事でその野良犬が駆けだしたのだ。それを見た僕は後ろに向かって全速前進した。流石に犬歯剥き出しで“がおー!”と吠えながら迫る犬はまさしく獣である。コンクリートジャングルの中で小さな野生を垣間見た僕は、ちょっと大量の汗を下半身にかきそうだった。


 とにかく恐怖の根源から遠ざかる為に、僕はただただ必死で逃げ回って運良く野良犬を巻き、何とか愛しい我が家に転がり込む事に成功した。本当に怖かった。ありがとうスーパーの自動ドア、ありがとう名も知らぬ青いゴミ箱。俺にかまわず先に行けと言ってくれた君たちの犠牲で僕は生きて帰れたよ。


 しかしやっとこさ家に帰ってきた僕であったが、実は安心する暇もなく、口をすっぱくして述べるが、とことん運命の女神に見放されていた。なにせ夕方にはバイトが入っていたのだ。あくまで運が悪いってだけで、肉体的にはすこぶる健康体であるから休むのはズル休みになってしまう。前に風邪をひいて寝込んでしまったから、今日は休む訳にはいかなかった。


 嫌な予感がしてしょうがない。今日一日ろくな目に会っていない僕は、このまま家を出ればまた何かトラブル(主に犬関係)に巻き込まれそうな気がした。でも流石に一日三度もあんなピンポイントでトラブルは起きないだろうと考えた僕は、あの犬に出会わないことを願い恐る恐る愛おしい我が家を後にした。



 そして2度ある事は3度ある、仏の顔も3度まで……これはちょっと違うかな。途中まではなんの問題も無かった。バイト先に着いて、バイトをこなして、顔見知りの人達と挨拶して、通いなれた道を帰ろうと足を動かして、家路にある十字路を曲がろうとした。その時である。


「―――わふ」

「あ、ああ…」


 曲がり角からヤツが…あの犬が現れた。全身見事に赤毛のミックス、間違いなく朝と下校の時にうっかりとしっぽを踏みつけて怒らせてしまったあの犬だった。見つめ合う僕らの状況はまさに下校の時のあの状況のまま。 


 “おこってるかな、かな?”

 “モチ、ロン――ゲハハ!”


 何を考えたかニッコリと笑みを作った僕と、まるで笑っているかの様にゴムパッキンのような口を歪ませる野良犬との、こんな感じのアイコンタクトが成立した。何か犬なのに妙に表情豊かというか邪悪と言いますか…ともかくその瞬間、僕達は再び駆けだして某ネズミと猫の追いかけっこよろしく壮絶なチェイスを始めたのだった。


「いやぁぁぁあああ!誰かぁぁぁぁ!!」

「ガウガウガウ―――――!!」


 今日何度目か解らない全力疾走の僕。

 後ろからは素敵な歯並びをした“テメェ!ク・イ・コ・ロ・ス!”全開なワンちゃん…これは不幸すぎる。


「こ、この路地を抜ければ!」

「グルァァァァっ!!」


 僕は路地を抜ければ表通りに出られる。

 そうすれば誰かが助けてくれる。そう願って速度を上げた―――だけど。


「うわぁぁぁぁ!!」

「ガウゥゥゥ?!」


 そのまま物陰に隠れて見えていなかった謎の穴に落下した。あの犬と一緒に。



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