第49章
※忘れられてしまったかもしれませんが、ものすごい久しぶりに投稿します。久々にこっちを書いたのでちょっと感じ変わったかも知れませんがお許しを。
~出歩いて…落っこちて・第49章~
キースさんはどうやら病魔に侵された村を救いたいと思い、治療の為の薬を手に入れる為に村を出たという。彼の知り合いで今現在、病気に効く薬を扱っているのは、ギルドお抱えのお医者さんかガラクトマンか自前で薬を生成出来る僕くらいである。
そしてギルドの方には向かっていなかった。道すがらに浮遊していた精霊さんたちから教えてもらったので見間違いがなければ信用できる情報だ。あれらには嘘という概念がない。だから下級精霊たちの情報は確かなのだ。
しかしそうなると彼が行きそうなのは僕のところかガラクトマン魔法学校くらいのものだろう。ちょっと他に薬を扱ってそうなところは僕には判らない。彼が今なにを考えて何処に行くつもりなのかも、ソレは本人にしか解らないから今の僕はただ彼に追い付けるように空を飛んでいた。
そしてITを使い、盾を変形させて飛行する事数十分。
時折のんびりと浮遊している意思疎通がなんとか取れる下級精霊さんたちにキースさんの特徴を教え、此方に来ていないかを聞いて回っていた。下級精霊は人間のように言葉を発する訳ではないので何を言っているのかを理解するのに時間が掛った。
理解してみれば話すことなんかないよとケタケタ笑っているヤツだけだったりとかいたしね。それはともかく、思った通りキースさんは僕の家を目指そうとしていたらしい。
だが彼の性質を考えるとそれが上手くいく訳もなく、途中で何故かクノルとも魔法学校とも勿論僕の家とも違う方角へ針路が変わっていた。下級精霊さんらはそっから先は見てないという風に身振り手振り言って来ているので、本当に何処に行ったのか解らなくなってしまった。
仕方なしに、更に数十分周囲を捜索する。この近くに居ることは精霊さんたちの情報で判っていた。だから、もしかしたらまたこの近辺に居るかもしれないと思い探した。でもあの人の事だし、やっぱり道に迷ってるのだろうか?
そして探すこと十数分、見事キースさんを見つけはしたのだが―――
「ぬぉぉぉぉぉおおおおぉおおおぉおお!!!!!!!!」
【ぶむーーーーーーーーーーーー!!!!!!!】
――――キースさんは巨大な緑と黄色の原色で彩られた何かに追われていた。
目を細めてよく見ると、ソレは体長2,5m程の巨大な芋虫であった。確か以前読んだ魔獣図鑑にはキャリオンクローラーと紹介されていたと思う。ちなみにその巨体を維持する為か雑食、最終的には象並にデカく成長するバケモノ芋虫である。
当然、人間も捕食対象に入っていて、一人で山を練り歩いたり、今まさに襲われているキースさんの様な冒険者がよく被害に会うのだという・・・見た目芋虫と言ってもそのスピードは並の人間の素早さを軽く超える。
足が沢山ある生き物の底力とでも言えばいいのかな?とにかくバイク程度に早かった。砂煙をあげながら走るその様は圧巻の一言。一般人というか僕でも目の前にいきなり現れたら驚いて身体がすくんでしまいそうな迫力があった。
「いやーーーーー!!!くわれたくなーーーーい!!!頭からカプリはいやーーー!!!」
って冷静に解説してるんじゃなかった!!
「エレメンタルミサイル!!」
詠唱は圧縮。精霊さん、ちからを貸して―――
意思が通じたのか色んな色の魔力で出来た球が僕の周りに浮かび、それらが今まさにかじられかけているキースさんを襲う魔獣へと向かって行き、そのまま特に抵抗もなくズバンとキャリオンクローラーの頭部を貫いた。
パーンという音と共に・・・・あ~、正直とてもお食事中だったら見せられない様な光景が広がってしまった。スプラッタ状態になってしまったが、コレでキースさんがなんとか助かったから問題無いだろう。良い子は真似しないでね?おにーさんとの約束だ。
「――おおおおぉぉぉ・・・齧られ・・・てない?あれ?クローラーが・・・って、クサッ!?なんかネッチャリした液体がががが―――ってかなめくん!?」
巨大芋虫の体液を全身に浴びたキースさんはその中でのたうち回っていた。原色丸出しの芋虫の血液は何と言うか青い。地味な色合いだが、それがまた芋虫の原色丸出しなお肌をより気持ち悪く引き立たせていた。
というか、こんな気持ちの悪い生き物の体液を浴びてしまってキースさんは大丈夫なのだろうか?正直自分はこうなるのはお断りしたいところ。もっともこの光景は僕が魔法を使ってキースさんを助けたからなのだが・・・気にしてはいけない。
「キースさん、驚くか混乱するかどれかにしましょうよ」
異臭が漂うキースさんに周囲の水系の下級精霊さんたちにお願いして水をぶっかけてもらった。・・・消防車の放水みたいになって吹き飛んだけど僕は気にしない。
「ひ、酷いよかなめくん・・・」
「やっと見つけましたよキースさん。ギルドから捜索依頼が来てたので探しに来ました」
「うい!?・・・あっちゃ~、あとで受付の姐御に怒られるぜ・・・ってそれよりもかなめくん!一緒に来てくれ!君の力がいるんだっ」
「村で起きた病気の治療薬が居るんですね?持てるだけ持ってきてますよ」
「それは都合が良い!とにかく行こう!」
まぁそう言うとは思っていた。なので彼とあの村まで飛んで戻った。俺の苦労って一体・・・とかキースさんが呟いているけど仕方ないですよ。今の今まで何処にも連絡を入れないで単独で行動していたのはキースさん何ですから・・・。
まぁ急いでいたっていう理由もあったんでろうし、僕が強く言うこともできないけど・・・それでも、心配はしたんだと、心の中で思った。
さて村に到着した後、僕はすぐに持ちこんだ薬を病気の人に分け与えた。村の人達が掛っていた病気は僕の知識程度では判らない病気だったけど、対症療法と魔法の薬という反則的な効果を持つ薬で治療にあたった。
勿論僕は医者では無いし、あくまで病気などに効く薬や体力を上げる薬を持ってきているだけである。だがそれでも病気の人達には効果的だったらしく、そのお陰か死者をこれ以上出すことなく終息した。
伊達に魔法学校の教授の助手をしていた訳ではない。とはいえそこでならっていた薬が効いてなんとかなったことに陰で胸を撫でおろしたりしたりはした。病気に効く薬とかでも細かく分かれているのかと思えばそうでもないらしい。
でも、ほぼすべての病気に効果があるのとかまで元居た世界だったらノーベル賞レベルだろう薬や普通に風邪薬と同じ効能だったりとピンキリだったりする。そんな薬さえあれば大抵はなんとかなるんだそうな。もっとも作るのに時間が掛るからあまり出回らないらしいけどね。
まぁそんな事はいい。大事なのはキースさんを無事発見して村の病気をなんとかできたという事だろう。とりあえずギルドに報告に戻る前に、村にありったけの薬を届けた後、僕はキースさんを伴って村をあとにした。
本当は飛んで帰れれば良かったんだけど、受付のおねーさんを怖がったキースさんが牛歩戦法とか言って僕を引きとめたので帰りは歩きだった。そんなことしたら余計に怒りを買うだけだと思うけど・・・。
「いやはや、かなめくんが来てくれてたすかったよ」
「たすかったよじゃないですよ。危うく森の肥やしになっちゃうところだったじゃないですか。もう少し遅かったらどうなってた事か」
「まま、良いじゃないか。俺は無事、村も助かり、帰路につく。うん、問題無い」
「あ、あなたは・・・まあいいです。僕が怒らなくてもギルドの人が怒るでしょうしね」
若干、僕怒ってますという感じで彼にそう言ってやった。するとキースさんは面白いくらいにうろたえてみせる。うろたえるくらいなら最初から連絡の一つでも入れてくれれば良いのに・・・でも何でこんなことをしたのかふと聞いてみたくなった僕は、彼に尋ねてみた。
「え?なんで村を助けようとしたかって?・・・なんでだろうなぁ」
「なんでって、何か目的があったとかじゃないんですか?」
キースさんは首を傾げながら言うが、ギルドに所属している人が報酬もなにも考えずに行動するとは僕には思えなかった。無償で慈善をするなんて僕みたいなもの好きくらいだろうと・・・だがキースさんは若干はにかみながらこう答えた。
「困っている人を助けるのに、立場や目的は関係ないよ」
自分がそうしたかったからそうしたと、彼は何の気負いもなく述べた。清々しさを感じさせるような即答ぶりに、呆れを通り越して感心してしまった。だが同時にこの人はギルドとかは似合わないんじゃないかと、そうも感じた。
ギルドというのは、言っては悪いけどお金目当ての人間が多い。かくいう僕も最初はこの世界での生活基盤としてお金が欲しかったからギルドの戸を叩いていた。だからてっきりキースさんも同じ穴のむじなだと考えていた。
「もちろん報酬が出たことに越したことはないけどさ。ああいう村見るとどうも生れ故郷思いだしちまってさ」
帰り道を歩きながら彼はそう話を続け、僕も話のタネにはなるだろうと続きを促した。何てことはない。彼の故郷はクノルから山を二つ越えたところにあったという名前もない様な集落だったらしい。
あった。過去形なのは、つまりそう言う事なのだろう。この世界には病に効く薬は確かにある。どんな病気も治せる治療師も存在する。だがそれが全ての人々に行き渡るかは別の話。彼の故郷は、あの村のとは違うが流行り病で人が消え去った。
だからだろう、たまたま立ち寄った村が病魔に侵されているのを見て手を貸したのは・・・。人は良くある話だと言うかもしれないが、彼にとっては見過ごせる話では無かったということ。ただそれだけだ。
「・・・でもせめて何処かに連絡入れてからにして下さいよ」
「いやー、すまんすまん。でもさ、そうしたらかなめくんが助けてくれるだろ?」
友達だし、と彼はそう呟いた。
「まったく、ハタ迷惑な友達もいたものですね」
口ではそう言ったが、なぜか不思議と嫌では無かった。
この人は良くも悪くもギルドの仕事には向いていない。自分の身を顧みないというか、そんなこと考えもせずに行動していたあたり、それが素なのだろう。周囲に迷惑をかけてしまうという迷惑な人。
だけど、それが良い。
人が人に迷惑をかけるのは当たり前。そして困った人に手を差し伸べるのも不自然なことじゃない。こういう人が1人くらい居た方が、殺伐とした世の中にも救いがあると言うものだろう。
とはいえ、そうなるとこの人が何かする度に僕がなんとかしなきゃならないのかという考えにいたるが、まぁいいかと思ったのはここだけの話。
***
キースさんを般若と化した受付のおねーさんの元へと送り届け、僕はそのまま家へと帰って来ていた。ギルドから出る際に誰かが奥の部屋へと引き摺られていく音を聞いたけど、別に興味はわかなかったのでその場を後にしている。とばっちりは嫌なのだ。
家ではチビと犬形態の紅が庭に寝そべり、水の人工精霊ウィンディが洗濯物を干していた。尚このウィンディは僕の中に居るウィンディが造り出した分身である。脆いから戦闘等には使えないが家事などには有効活用できるのが強みだ。
それにしても、この家の周辺は平和そのものである。空気が違うとはこの事だろう。この家には魔獣避けの対策が施されているので敵が近寄る事は殆ど無いのだし、平穏が流れるのもわかる。
「ただいまー」
「あら、おかえりなさい。キースさん見つかりました?」
「ん」
「あら・・・はい握手っと」
分身ウィンディが成果を聞いてきたので、口で説明するよりも早いだろうと彼女と握手した。これにより分身は僕の中にいた本体から記憶を見ることになる。口では長々説明せねばならない事もこの方法なら一瞬だった。
本体の記憶を見た彼女はあらあらといった風に頬を緩ませただけで、とくになにか言うこともなく仕事へと戻っていった。おもったよりも興味をひかなかったのかもしれないし、キースさんという存在は彼女にとってはその程度の認識なのかもしれない。
自分から聞いておいて実はそれ程興味がなかったというのも、またなんとも言えないと腹の内でぼやくが僕の中の本体が優先順位が家事の方に傾いていただけですと述べた。ウチではキースさんの扱いは家事以下だと判明した。ある意味可哀そうだった。
その後、僕の気配に気づいて起きた紅とチビを伴い家の戸を潜り中へ入る。今日は一日大変だったが、知り合いの面白い一面が見れたので特に不満はない。強いてあるとするなら腹が減ったーと紅がじゃれつきながら噛みついてくることくらいだろう。
適当な材料でホットケーキもどきを作り、蜂蜜をかけて出してやればチビ共々紅は目を輝かせながらおやつへと齧り付く。もともと犬なのにアレルギーがどうたらとか消化できないのではという考えが一瞬よぎったけど、まぁ摩訶不思議世界なのだし摩訶不思議な原理が働くのだろうと随分と前に納得していたので気にはしなかった。
僕の中にいたウィンディを実体化して別れ、僕は僕でまた地下研究室へと戻り、薬品の製造を行う。何せ沢山あった薬をありったけ持って行った上に、病気の村人処方して残った分を全部あげてしまった為、ストックが全てそこをついていたのだ。また一から作り直しかと考えると少し気が滅入るが、一度作ったものなのでできないこともない。
作業机にポツンと置かれたシエルさんから贈られた基礎魔法薬のグリモワールからこれまで作った薬のページを開き、必要なモノを集めレッツ調合。丸い形状をしたいかにも魔女が使いそうという釜に薬草や鉱石をブチマケて何故かある蒸留用の装置にかけたりして薬の生産を進めたのだった。
***
それから数日後、いそいそと魔法薬作りに専念していると来客があった。誰が来るのかは勘だが判っていたので、ストックで作った薬を幾つか持ちだして持って行く。若干冷える地下室から地上に上がった僕はゆっくりとした歩調で客間へと向かった。
客間に行けば見慣れた金髪が見えた。まぁ誰だかは言わなくてもわかるだろう。
「やぁかなめくん、ひさしぶり」
「そろそろ来るんじゃないかと思ってましたよ。はいこれ」
「おお、ありがとう。じゃあこっちもこの間迷惑かけたお詫び」
「・・・(菓子折りってこの世界にもあったんだ。中身は違うっぽいけど)」
言わずもがなキースさんである。どうやら今日は前回迷惑かけた謝罪も兼ねてウチに寄ったらしい。薬も欲しがるだろうと思っていたので持ってきたら案の定受け取ってすぐに彼は自分の懐に収めていた。まぁそれだけ重宝されていると思えば悪い気はしない。
「でもギルドをクビにされなくてよかったですね」
「あはは、その代わりこってり絞られてしばらくは謹慎だよ。それが解けてもしばらくは報酬は半分に減らされちまうんだぜ。戦士系はお金が掛るってのにさ」
「ははは・・・ところで謹慎中はどうするんです?」
「ん~、しばらく休んでなかったし良い機会だから、ちょっと故郷まで戻ってみるよ」
「え、でもそれって・・・」
彼の故郷はかつてあった・・・今はもうないと聞いたけど、墓参りみたいなものなのだろうか。
「ときどきは顔見せてやらないと心配されるからな!じっちゃんばっちゃんに」
「・・・ああ、そういうこと」
どうやらちょっと僕はすこしばかり勘違いをしていた様だ。彼の故郷は完全には無くなってはいない。ただ人はいるけどもう村とは呼べる規模では無くなったということ・・・僕が思っていたことが顔に出たのか、キースさんはんだんだと頷いた。
「てなわけで少し帰って来れないから、まぁ今回はその挨拶」
「そうですか。ん~、ちょっと待っててください」
キースさんを客間に残し僕は地下の保管庫へ。たしか幾つか試しに作ったのがあった筈・・・あったこれこれ。幾つか薬瓶をもって客間へと戻った。
「これ、試作なんですけど、僕が作った薬草酒なんでもってって上げてください」
あげたのは半ば趣味で作ったお酒に薬草を漬け込んだ薬酒だった。シエルさんが魔法薬を研究してた上、そこで助手として働いていた僕は必然的に薬草と触れあう機会が多く、どういう効果の薬草やハーブがあるか知っていた。
今回持ってきたのは身体の血行を良くし鎮静作用のあるハーブを、街で買ったジャガイモから作られたって言うお酒を自前で蒸留して漬け込んだものだ。ちょっとキツイけど薄めれば身体が中から温まるお酒・・・もといお薬である。
「え?いいの?お酒もらっちゃって?」
「さりげなく結構沢山作ってあるので大丈夫ですよ」
「わ、わるいなぁ。なんか」
「いいえ、気にしないでくださいな。今度請求しますから」
「タダじゃないのっ!?」
「冗談ですよ」
請求するの言葉に本気でハネ上がった彼の姿を見て思わず頬が緩む。
それを見たキースさんも恥ずかしそうに頭を掻きながら、今日はこれで帰ると言って薬と薬酒を片手に玄関へと向かおうとしたので、僕も彼の後に続いてお見送りをしに玄関へと向かった。
「それじゃ、道中気をつけて」
「薬と酒ありがとな。じっちゃんとかに良い土産できたわ」
またいずれと言葉を返し、キースさんが見えなくなるまで見送った後、僕は家に戻った。彼にはまだ帰れるところに故郷がある。羨ましい限りだ。僕とか紅は戻れないらしいから余計にそう思ってしまう。ホームシックではないので羨ましくおもっても恨めしいとかは思わないけどね。
彼が無事に故郷に着けることを祈りつつ、無くなった分の薬をまた作ろうと裏の薬草畑へと足を向けたのだった。
どうも、かなり長いこと放置していた作者のQOLです。
次回は・・・書けるか未定ですのでまた間があいたらゴメンナサイ。
ソレでは失礼ノシ