第4章
〜出歩いて…落っこちて・第4章〜
バキン…!!
朝靄が漂う森の中……突然金属が折れる音が響く。
そして…
「ナ、ナイフが折れたぁぁぁ!!」
…一人の男の叫ぶ声も響いた。
――なんて、小説の冒頭みたいに言ってみたけど、別にそうたいした問題じゃないです。あ、でも案外死活問題かな?
自称神に異世界に渡らされて、ココに住みついて早一週間…。
これまで騙し騙しに使い、料理や肉の解体等に大活躍してくれていた十得ナイフ君が、いきなり根元からポッキリと逝っちゃいました。
――多分金属疲労ってヤツです。
――そう…僕があの河原で炎の魔法を覚えてから、すでに一週間が経過しました。
ココでの生活にもすっかり慣れ、最近はもっぱら魔法と素手で魔獣を捕まえたりして食料を確保し、地道にレベルを上げています。
現在の所、すでにLV28になっていて、もう森の魔獣は素手で倒せるくらいに成長していました。
この服に付いていた経験知UPのアビリティも習得し終え、オークスタッフ(仮)だった棒も、
以前、今回寿命を迎えてしまったナイフで削り出して、オークスタッフへとジョブチェンジを果たしている。
――こうして結構順調に進んでたと思ったところで、ナイフが壊れるって言う新しい問題が現れたんだよねぇ。
「どうしよう…」
「(おいかなめ!どうした!叫び声が聞こえたけど?)」
僕の声を聞きつけて、今や相棒になってくれた紅が心配して駆け付けてくれました。
「ああ、紅…ナイフが折れちゃったんだよ…」
「(なんだよ。そんなことかぁ〜。てっきり魔獣にでも襲われちまったんじゃねぇかって思っちまったぜ。まぁ、ここの魔獣で俺達を倒せる奴はもういないけどな!)」
「はは、そんなことかぁ〜か。案外僕にとっては結構死活問題だったりするんだけどなぁ…」
「(ん?なんでだ?)」
不思議そうに首をかしげる仕草をする紅……可愛いな。
「このナイフは、料理に捕まえた魔獣の解体、細工やその他いろいろに使っていたんだよ?とくに獲物の肉が解体出来無くなるのは問題だ。
僕は紅みたいに獲物にそのまま齧り付く訳にもいかないからね。」
本当にどうしようか?こんなナイフでも有ると無いのとでは、生活が全然変わってしまう。
幸い、欲し肉や果物が沢山あるからしばらくは持つだろうけど…
「石でもナイフにするかなぁ?」
――問題はあまりカタイ石が無いってことかな?……黒曜石でも落ちて無いかな?
「(なぁかなめ、魔法で飯を出せばいいんじゃないか?イメージすれば魔法造れるんだろう?)」
「ははは、それが出来たら苦労しないよ。」
僕が覚える魔法は、恐らくあの自称神の言い草からしてゲームに出てきそうな魔法…
つまり、回復魔法や攻撃魔法、白魔法や黒魔法みたいな分類の魔法と補助系の魔法くらいしか覚えられないと思う。
出来たとしても、魔法で剣を強化するとか、魔力で剣を作るくらいかな……っお!?
「紅!ありがとう!君は天才だ!」
「(な、何なんだよ!いきなり////)」
「そうだよね。無いなら造ればいいんだ。刃物を魔力で造れるようにすればいいんだ。
なんて簡単なことだったんだろう。」
――答えとは意外とすぐ近くにあるものである。Byかなめ
「(問題、解決したのか?)」
「ああ、ありがとう紅♪とりあえず答えも得たし、今日の修業と行きますか?」
「(おう、解った!)」
そう言う訳で、獲物兼経験値を得る為に森に向かう事にした。
***
――しばらく進むと目の前にウサギが6匹現れた。
この森の動物はほとんど魔獣らしく、此方を見ると襲いかかってくるという物騒な連中ばかりだ。
僕と紅は身構える。ウサギとはいえ魔獣は魔獣、外見よりも力はずっと強い。
僕は以前、あのウサギの体当たりを受けて転倒し、鋭い前歯で噛みつかれそうになった時は流石に肝をつぶされた。
だってさ…元は草食獣なのに…僕が避けた所にあった木の根っこが抉れるくらいの力があるなんて…。
しかも見た目ちょっとデカイ茶色いウサギさんなんだよ?
ギャップ萌えは有りません。
まぁしかし、彼らは凄い力を持つものの、実は最近それらはもう僕らには通用しなかったりする。
LVが上がるごとに、僕らの肉体はどんどん強靭なモノへと変わるので、もはや当たっても最早4〜10程度のダメージだ。
それ以前にAVD…回避力の上昇による、動体視力と反射神経の向上で攻撃自体簡単に避けられる為、ココ最近はノーダメージ勝利がほとんどだ。
要するにだ。
敵が弱い為、安心して闘いに専念できるって訳。
「いくよ紅」
「(おう!)」
短い掛け声とともに、僕らはウサギに突っ込んだ。
まずは目の前の一匹に鋭く蹴りを入れる。
最初の頃は避けられたりしたけど、身体が力に慣れ始めた今では外さない自信がある。
型もなにも無い汚いフォームの蹴りではあるけれど、実戦の中で鍛えた無駄の無い蹴りだと思う。
ちなみに、すでにこの身体は垂直で5mの高さに跳び上がれるほどの脚力がある。
当然そんな力で蹴れば…
「ピギィ!」
ちょっとデカイだけのウサギなんて軽く吹き飛ばせる訳で…
「まずは一匹!」
――その後も似た様な感じで倒していく。
僕は今ではもうこのくらいの敵には、魔法を使う事はない。
武器であるオークスタッフも元が枝な為、コレでウサギ叩くと折れてしまう可能性がある為、肉弾戦には用いない。
だからウサギ相手には基本素手なんだけど……コレじゃまるでモンクだよ……。
正直に言うと僕は基本的に剣士が好きなのだ。
同じ前衛でも、モンクと剣士では全く異なる。
見事な剣技で相手を圧倒する剣士、そう言うのが好みなのである。
まぁ重戦士よりも侍や軽戦士が好きって話なんだけどね。
――そう言う訳で、好きなジョブに似せる為にも、僕は今日にも魔法で刃物を作り出す事を決意した。…………安直かな?まぁ良いけど…。
そうそうこの後は、まぁ当然僕らの勝利な訳で、倒した内3匹程を昼飯にする為に持ち帰る。
う〜ん、ココに来てから随分逞しくなった気がするよ。
その後もしばらく狩りを続け、太陽が真上に来るころ、僕はレベルを1上げ、獲物や果物も手に入れたので、一度住処の洞窟に帰還した。
僕は河原から拾って来た石を組み上げただけの簡素なカマドに、拾って来た木の枝を積み重ねる。
「フレイムブラスト(弱)」
そして、魔力を減らした魔法で火をつける。
魔法は実に便利だ。たとえ湿った木でも一瞬にして燃やす事が出来るからね。
ライターの油の節約になる。
そして僕はいつも通りにウサギを捌こうとして、ナイフが折れていた事を思い出してOTLだった。
仕方無いので、保存食である干し肉に手を付けることにし、腹をくちくする。
本当は焼いた肉の方が好きなんだけど、この際文句は言えない。
結局血抜きはしたけど捌けなかったウサギは、氷属性のアイシクルブラストで凍らせて保存する事にした。
洞穴の奥に竪穴を掘ってあり、そこに凍らせた獲物を入れ、
更にアイシクルブラストで氷を造り蓋をする―――所謂氷室ってヤツだね。
こうしておけば腐る事も無いし何より長期間保存がきく。
定期的に魔法をかけ直せば良いから、冷蔵庫いらずで便利だわ。
――こうして食事と後片付けも終わり、僕はいつも通り河原に行く事にした。
「さて、魔法で刃物を造るって言ってっもな〜…やり方どうしよ?」
考えてみたら今覚えている呪文に、刃物を作り出せそうな単語が無い。
という事は、呪文を弄くっての魔法構築は出来ないって事なのだ。
「とりあえず、瞑想してから考えるかな…」
僕は、もうすでに日課となった瞑想を始める。
珍しく着いて来た紅は僕のすぐ近くで寝転び、昼寝を始めた。
僕も精神集中に精を出す事にする…。
――1時間後―――
あまり瞑想している訳にもいかないので、ここいらで切り上げる。
紅はまだ寝るらしく寝息を立てていた。
「う〜ん、魔法で刃物かぁ〜」
要するに魔力をもちいて剣とかの形にするんだよね?
「魔力を手に…」
とりあえず魔力を手に集中させてみた。
ボゥっとした感じの緑色の光を放つ僕の拳…う〜んシュールだ。
ココまではいつも通り、この先が問題。魔力を刃物の形状にしないといけないのだ。
つまり拳の先から魔力を伸ばさないといけない訳で…放出すれば伸びるだろうけどすぐ霧散しちゃうし…
「むむむ、イメージだ…剣をイメージしてみるんだ…」
魔力を放出!集中!収束!そしてイメージ!!……………………む、むずかしい。
放出は良い、簡単だから。問題は魔力を収束させ、それを維持する事だ。
魔力ってのは身体から離すと、途端に制御が難しくなる。
ブラストみたいに魔力を撃つのなら問題は無いが、
今回みたいに魔力を制御してみようって言うのは、僕にとっては初めての試みだ。
難しいのは当たり前だから、コレは中々良い訓練になるかもしれない…
そう思い、兎に角魔力を放出しつづけ、それを収束させる事を目指してみた。
そして、今日はこの後2時間程やったが、結局のところ習得にまでは至らなかった。
なので、その日は訓練を打ち切った。
――次の日も同じように魔力の制御と収束を行う…
少しだけチロチロとしたモノを出す事には成功した。
ただ、どうしてもそれを維持する事が出来ない。
おまけに太さも毛糸程度でしか無く、何ともよわよわしい。
コレを鋼線だとかいう様な武器にしてしまうのも悪くは無いだろうけど、そう言うのには特殊な技術がいるし、
それなら普通に刃物の形の方が扱いやすい。
―――その後も頑張ったが、結局その日もあまり成果は出せず訓練を打ち切った。
そして、魔力で刃物を造るのを目指して二日目…
僕は漸く魔力を伸ばす事に成功した。
だけど…
「き、斬れない…」
葉っぱを切ろうとしたが、クニャンとと曲がってしまう。
考えてみれば当然だ。
今の今までただ伸ばす事を念頭に魔力操作をしていたのだから。
幸い魔力の形状を変えるというのは、魔力を一定量放出し収束させるのよりも簡単だった。
だが、やはりまだ刃物の形状を安定して維持させるのが難しい。
おまけに収束が甘いので、何かに当たると分解してしまう。
それに刃物の様に鋭利という訳ではないので、これでモノを斬る事は出来なかった。
それから更に二日経ち、ナイフが無くなって4日が経過した。
そろそろ、ウサギの肉のストックが切れそうなので、兎に角僕はイメージを形にしようと頑張り続けた。
そして、漸く斬れるナイフ状にする事に成功した。
――だけど手帳には魔法を覚えた事が表示されない。
その事を不思議に思いつつ、とりあえず刃物を手に入れた事を喜びながら河原を後にした。
――それで、マイホーム(洞穴)に戻り、早速氷室からウサギを取りだして、いざ調理しようと思ったんだけど…。
「いい加減…串焼き以外が食べたいかも…」
そう、調理器具が無いお陰で、お肉のほとんどは串焼きしかなかったのだ。
調味料も近くで見つけた岩塩と天然ハーブ類しかない。
「まぁぼやいても仕方無いか…」
そう思い、ウサギを解体しようと魔力の刃を入れると…ジューという音と共に肉が焼き切れて行く…Why?
どうやら魔力を込めすぎて、炎熱効果が発生したらしく刃物から熱を感じた。
だけど炎熱効果付きかぁ…今はナイフの形状だけど、もう少し込める魔力を大きくすれば、フレイムタンみたいに炎属性の武器になりそう…。
「あぁぁぁ!!そうか!!」
「(ど、どうしたんだ!?)」
突然大声を出した僕に驚いた紅。
ふっふっふ、僕は凄い事を発見してしまったのですよ♪
「ふっふっふ、紅、君はスープやポトフはすきかい?」
「(……スープは解るけど、ぽとふって何?)」
「簡単に言うと、鍋にお肉といろんな具材を入れて煮込んだモノだよ。結構おいしいよ?」
「(食べてみたいけど…鍋が無いんじゃないか?)」
「いや、あるんだなぁ〜これが。見ててくれ!」
僕はそう言うと意識を集中させる。
思い出せ…あの形…あの形状…機能性…頭にかぶり易いアレ…イメージ通りならこれでうまくいく!
僕が手に持っていたナイフは形状を変えて大きくなっていく。
その形は大きなお椀に見えたが徐々に深みを増し、その姿が何であるのかが見えてきた。
そう、それは…
「じゃーん!お鍋の出来あがり!」
「(うぉ!?すげぇー!魔力で調理器具だなんて…何でも有りだなこりゃ!)」
うんうん、ホント何でも有りだよね♪
でもそのお陰で、煮込み料理が出来る!
こうして思いつきで、魔力で出来た魔法の鍋が完成したんだけど…突然、手帳からあの音が聞こえた。
そう、魔法を習得した際には必ず流れる音が手帳から聞こえたんだ!
僕は手帳を開き、魔法の所に目をやると、新しい魔法が追加されnewの文字が表示されていた。
魔法
・イマジンツール
【魔力を用いる事で武器から料理器具、大工道具まで様々な道具を作り出せる。】
中級魔法 射程無し 基本消費魔力40(一度使用すると30分ごとに20消費) CP20
はー中級魔法なんだ。通りで習得が難しい訳だ。
「さて、とりあえずご飯にしよっか!」
「(賛成!)」
その日の夕食は、久しぶりにスープを食べた。
魔法を解除すると、鍋が消えてしまうので、常に魔法を使用していたけど、元々MPが多い僕には、大して気にならない。
塩と、骨から取ったスープに果物や食べれる草やハーブを入れただけの簡単な料理だったけど、久々に人間らしい食事だったと思う。
紅も意外と気に行ったらしく、がつがつ食べてくれた。
おいしいって食べてくれる人が居ると嬉しいよね!
そんな訳で素敵魔法を習得した僕、その魔法はすでにショートカットの装備枠で装備してある。
色々試している内に、ついに自分で武器を造り出せる位に成長した。
これである程度危険な所にもいけるだろう。
――はてさて、これから一体どうなる事やら。
現在のステータス
HP(体力)………………………3010/3010
MP(精神力)……………………6130/6240
LV(現在のレベル) ……………LV29
EXP(現在の経験値)……………470/5556
STR(力の強さ)…………………96
INT(知性)………………………8560
DEX(器用さ)……………………73
AGL(素早さ)……………………135
CON(耐久力)……………………69
ATK(物理攻撃力)………………108
MAG(魔力)………………………8580
HIT(命中率)……………………76
AVD(回避力)……………………162
RDM(物理防御力)………………94
RST(魔法防御力)………………865
LUC(幸運)………………………9
AP(アビリティの装備容量)…113/120
CP(技及び魔法の装備容量)…53/130
後書き。
う〜ん、魔法…いいなぁ。
どうも作者のQOLです。
さて、今回も新しい魔法な訳ですが…チートですね(笑)
コレがあれば一人サバイバルも楽勝です。光熱費0円も夢ではない!
あ〜いいなぁ…俺も欲しいぜ等と思っている作者はある意味ヤバいのかもしれません。
――それではまた次回に会いましょう。