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第44話

~出歩いて…落っこちて・第44話~





 さて、手帳の効果は消えた。

 だが、肉体改造された所は結局そのままなので、実質生活は変わらなかった。

 なので、今日もシエルさんと共に薬品研究をしていたのだが―――



「しっかしまぁ・・・随分とご立派になったねチビ」


「ぐる?」



 なんでこうなったんだろうね?と、僕は大きくなってしまったチビを見上げてそう呟いた。



***



 ―――ことの発端は、複数の魔法薬品を調合していた時の事。


 シエルさんの実験(僕自体は彼女がどんな実験をしてるのかは知らない)の為の薬品で、それぞれ強壮薬やそのた様々な効果が付いた魔法薬達。

 僕はソレらの実験に使う薬品の準備を言い渡され、急いで調合している最中だった。



「えーと、こっちの薬は薬品棚に戻してっと・・・こっちは後は熱するだけか」



 この魔法薬を作れるようになるまで、かなり時間掛かったなぁ~とか思いつつ作業を行う。

 だが、所謂魔女の大鍋と呼ばれる丸型鍋で薬品を熱して居る最中にソレは起きた。



「くぅ!」


「おわっと!?」



 ここ最近かまってやれなかったチビが、悪戯序でにじゃれついて来たのである。

 何時もなら、抱きしめて撫でまわして、枝を投げたりして遊んでやればいい。

 だが、その時の僕は、腕一杯に魔法薬を持って運んでいる最中だったのである。



≪ひゅーーーーん・・・・・ぽちゃん≫


「あ」



 当然突然の事にバランスを崩し、魔法薬の幾つかが僕の手から離れて、

 あろうことか大鍋の中に落ちてしまった。



≪・・・シュシュシュシュシュ――ボンッ!!!≫


「うひゃっ!?」



 当然の如く薬液が異常反応を起し、ケミカルな色合いの薬液が鍋から噴きこぼれた。

 そして運の悪い事に、その薬液が飛んだ先には、チビが飛んでいたのである。



≪ばちゃ≫


「・・・・・くぅぅぅぅぅッ!?!?」


「チ、チビッ!?」



 放物線を描く薬液は、そのままチビを直撃した。ちなみに直前まで鍋で熱していた薬液である。

 当然かかれば火傷するくらいに熱い為、チビが熱さで悲鳴を上げて転げ回っていた。

 慌てた僕は近くの机の上に置いてあった水差しの水をチビに慌てて掛けてしまったのだが――



「きゅぅぅぅぅぅ!!!」


「へぁ!?こ、これも薬!?紛らわしい入れ物に入れないでよッ!」



 実はソレも水差しでは無く、薬品が入った瓶で中身も水薬だったのだ。

 一体何の薬なのか、まだラベル張る前だったから効果は不明。


 ただ言えるのは、様々な魔法薬が混ざり合った謎の物体X、まさにそんな液体を被っちゃったんだからさぁ大変。とにかく回復魔法掛けながら、薬品を洗い流す為にチビを抱えて外へと飛び出した。


 だが、この時忘れていたんだけど、この薬って魔法薬だったんだよね。

 だから下手に魔法なんて使おうものなら、どんな変化を起すことか解らない。

 でも慌てていた僕は、そんな事気にせず、魔法を使っていたのだった。


…………………


……………


………



「量を調節して・・・マディストリーム!」


≪ドボボボボボッ!!!≫


「く、くぅ~」


「我慢して!早く薬を落さないと!」



 チビが水で洗われる事を嫌がって身体をよじるが、急いで薬液を落さないと大変な事になる。

 かなりの薬品が混ざり合った、どんな効果があるか解らない薬品。

 下手したら劇薬化しているかもしれない以上、とにかく洗わなければならない。

 

 魔力量を調節して、濁流をホースから出る程度の水量にしてチビを洗う。

 薬品を浴びた場合の対処法は、大抵まずは迅速に付着した薬品を洗い流す事なのだ。


 ああ、白かった毛並みが、ちょっとくすんだ灰色・・・いやコレは銀色?

 とにかく掛った薬品の所為か、チビの毛色が変わってしまった。


 一応一通り薬液は洗い落した物の、チビは全身に薬液が掛かっていた。

 もしかしたら、少し呑みこんでしまっているかもしれないな。



「とにかく、一度シエルさんを呼んできた方が――――」


 

と、ここまで僕が言いかけた時だった。



「くぁう!くぅぅぅ・・・」


「ん?チ、チビッ!?」



 とりあえず目の前で起こった事を、簡単に説明いたしますとですね?

 どうやら薬液の効果は消えていなかったらしく、なんか光を発しながらチビが徐々に大きくなっていくのが見えました。

 感じ的には、某紅白のボールに入ってるモンスターが進化しちゃう姿に似てるかも・・・。



「へ?へぇぇぇッ!?チ、チビが―――」


「・・・グル?」


「チビが・・・大きくなっちゃった」



 ――――そして話は冒頭へと続いたのである。



***



 あの後はビッグになってしまったチビを、シエルさんに診せる事にした。

 いや、一応呪いとかも解呪できるキュアウィンドを使ったんだよ?

 だけどやけどは治ったのに、戻る気配が全然無くってさ・・・・。

 


「どうなってるんでしょう?」


「う~ん、どんな薬品を被ったのか解らないわけ?」


「実は・・・」



 主人公説明中。



「成程、カクテルみたいになった謎の魔法薬Xを被っちゃった訳か」


「せ、先生、この子は治るでしょうか?」


「残念ですが・・・私でも無理でしょう」


「そ、そんな」



 ガクッと打ちひしがれる僕。

 そしてシエルさんが僕の肩に手を置き―――



「はい、おふざけはここまでよ。ちょっと真面目な話にしましょう」


「はい」


 意外とシエルさんはノリが良い事が判明した。

 さて、ここからは真面目に行こう。


「実際大丈夫なんでしょうか?」


「一応聞いた感じだと、どの薬品も混ざった程度ではこんな反応起さないわ。貴方ここに来るまで何かしなかった?」


「ええと、チビが火傷してたので回復魔法を―――」


「原因はソレね。ただでさえ不安定な魔法薬に魔力を当てたら変化もするわよ」



 魔法薬とは、色んな属性の魔法や魔力を混ぜ合わせ、媒体に固定させるモノだ。

 それ故、魔力とかを浴びると、品質が変化してしまいやすい。

 どうやら今回は僕が原因で、チビがデカくなってしまったようである。


 

「というか、ハニーヴァイスって大きくなっても2mが限度じゃありませんでしたっけ?今のチビ軽く7m越えてますよ?」


「背中に乗れるんじゃないかしら?」


「ええ、乗れると思います・・・・じゃなくて」


「聞かれても解らないわ。私は魔法薬の権威ではあるけど、ドラゴン種についてはある程度までしか知らないモノ」


 ソレもそうだった。シエルさんの専門って魔法薬だった。

 流石にドラゴンの生態については知らない筈。


「でも、とりあえずハニーヴァイスはこんな成長の仕方はしないわ。やっぱり薬品の所為ね。多分大気中の魔力を集めて、大きくなったんだと思うけど・・・」


「あ、やっぱりですか?」


 

 薬の影響で変化が起きると、どうも魔法では直せないらしいね。

 う~ん、やっぱり生命体だからかな?そこら辺の線引きが良く解らない。

 どちらにしても、すぐ戻すことは無理っぽいし・・・え?何故かって?


 薬液は残ってるけど、呑んでこうなったのか被ってこうなったのか解らないんだ。

 あるいはその両方かも知れないし、治癒魔法の魔力の影響もあるかもしれない。

 そうなるともうお手上げ、魔法じゃ手が出せないし、下手に治療薬は使えないし・・・。



「どうしよう・・・」


「あら、ただ大きいだけで、特に問題は無いんじゃないの?」


「う~ん、普通はそうなんですが、食費が・・・」


「・・・・所帯じみてるとは思ってたけどそこまでとはね。あんましコマコマ気にしてると、モテないわよ?」



 ズガン、シエルさんの言葉により、ハートに60%のダメージ!

 うう、いいもん別に・・・家事が得意な男の子だって別にいいじゃないですか。

 一応、他の二人も掃除とかは手伝ってくれるけどさ。

 紅とかまだ料理作れないし、安くあげるには自分で作るしかないし・・・。

 ああ、所帯じみてると言う事に実感がわいてきた。



「ちょ、ちょっとかなめくん!?」


「・・・・・何でしょうか?ちょっと自覚したらこうなっただけですから大丈夫ですよ」


「・・・いきなり暗いオーラ出さないで欲しいわね。なんなら精神薬でも処方しようか?」


「いや、遠慮しておきます」



 それだけはきっぱりと断った。だってまだ怖いモン。

 昨日だって、また僕のお茶のカップの淵に何か得体のしれない薬塗ろうとしてたし・・・。

 僕、なんで今まで平気何だろうか?



「ふぅ、一応解毒剤みたいなのは作ってみるけど、期待はしないでね?」


「この大きささえ戻してもらえるなら、僕は全然かまいませんとも」


「その代わり、今回の実験は違う日に持ち越しだからね」


「了解です。・・・・すみません、迷惑かけて」


「別に良いわ。これも広義的にとれば実験になるし、かなめ君は何時もちゃんと手伝ってくれてるしね。――ねぇ、何ならちゃんとした助手やらない?かなめ君がその気なら、席は空けておくわよ?」


 

 助手か~、案外良いかもしれないな。

 何気に薬品とかって結構需要あるから、食いっぱぐれは少ないだろうしね。

 別にギルド入ったのは、手っ取り早くお金が欲しかったからだし、そのお金が居る目的である家を手に入れると言うのも、今やっている助手の仕事を終えれば報酬で貰えるからなんとかなる。

 

「う~ん、考えておきます。今はそれよりも・・・」


「そうね。チビちゃんなんとかしないと、色々と不味いわ」

 

 別に大きいだけなら、自前でエサを採って来いって言うから良いんだけど。

 (まぁ、チビが採って来られるかは別にしてだけどね)

 問題は今僕らが住んでいるココが、一応国立の教育機関だって言う事だ。

 

 流石にココまで大きいと目立つからねぇ。

 下手すると授業の妨害になるかもって事で、退去させられちゃうかも知れないんだよ。

 そうなったら、依頼の遂行にかなりの影響が出てしまう・・・可能性が高い。


 それに7m近くもあったら、好き勝手に放置おく訳にもいかない。

 誰かが付いて居ないと、下手したら警備の人とかが来てしまうかもしれないのだ。


 

「それじゃ、ちょっと急いで色々と調合してくるわ」


「お願いします。僕が魔法でココの場所を誤魔化して置いた方が良いでしょうか?」


「その方が良いかもしれないわね。でもココから動かないこと。いいわね?」


「はい、よろしくお願いします」



 シエルさんが研究室に戻るのを見送りつつ、僕はチビの方を見上げた。

 ああ、大きくなっても、モフモフ感は健在なのね。



「ぐぅ?」


「うんにゃ、なんでもない」



 でも、目立つ事この上ないので、僕はITボウル・インビジブルverを発動させチビを覆い隠した。

 コレでよっぽど近づかれなければ、バレる事はないとは思う。多分。



***



「スゲェカッコいいなチビッ!」


「ぐる!」


『・・・・・あれ、本当にチビなんですか?』


「チビだよ。薬浴びた所為でああなってるけどね」



 さて、チビと二人で大人しくシエルさんが帰ってくるのを待っていた僕。

 しばらくして紅とウィンディも、外から帰ってきたので合流した。

 ちなみに、紅は匂いでこの場所に僕が居たのが解ったんだと、流石は元犬、嗅覚が鋭いね。



「むむ!背中に乗ると高いとこまで見えるぞ!?」


「紅、あんまりチビが嫌がる様な事は―――」


「嫌がる?嫌かチビ?」


「ぐぁう(ブンブン)」


「嫌じゃねってよ」


「・・・・首振ると随分と迫力あるね」


『全くですね』



 今まで肩に乗れるサイズだったのが、いきなり人が背中に乗れそうなくらいの大きさである。

 その迫力は押して測るべきだろう。

 


「よくよく見ると、ハニーヴァイスの面影がある―――」


『別の竜に見えるでしょうね』



 まっ白い毛並みはそのままに、少しばかり2本角が大きくなっている。

 四肢の爪の大分伸びており、攻撃力も高そうだ。

 顔つきも、今までの可愛らしいから、どちらかと言えばカッコいいになった。

 しかも性格はおとなしいまま、なんとまぁ・・・。



「チビをここに放置なんてしたら最後。研究されちゃうんじゃないかな?」


『魔法学校ですしねぇ~。案外否定できないかも・・・』


「ほれほれ、こちょこちょこちょ」


「ヴァウ!グル―――」



 って紅!チビの鼻を尻尾でくすぐらないの!

 なに悪戯してるかな君は!―――と僕が注意しかけたその時。



「ヴァ、ヴァ・・・・ヴァックシュゥゥゥン!!!」


≪シュボッ!≫


「ひゃう!?あ、あっちぃぃぃぃぃぃ!!!!」



 チビがくしゃみして、その口から火を吹いていた。

 ・・・・・・OK、落ちつこう。ハニーヴァイスはブレスを吐けたかな?

 少なくても、一瞬だけ1m大の火球を口から出したように見えたんだけど?

 しかもそれが命中した地面が、ちょっとした穴があいてるし・・・


『か、かなめ様ぁ?』


 僕が考えていると、ウィンディが声を掛けて来た。

 なんだろう?僕は考え事をしていると言うのにね?


『出来れば現実逃避は止めて、紅さんを助けた方がよろしいのでは?』


「・・・・そう言えばそうだね」


「あっつぅぅぅぅぅ!!!」



 火球が掠った所為で、少しばかり尻尾が燃えた紅。

 熱さで脚り回る彼女にエレメンタルミサイルの水属性。

 威力落したバージョンを当てて火を消化してやり、キュアウィンドで治療した。


 そしてこのヤロウ!ってな感じでチビに突進しようとした紅を宥めつつ。

 紅に火傷させちゃったので、ショボーンっとなったチビを撫でて慰めた。

 何だかものすごく疲れた様な気がするけど、気の所為だと思う事にしたのだった。



***



 さて、それから更に時間が立ち、お昼も過ぎてちょうどおやつ時と言ったところ。

 僕自身はこのITボウル・インビジブルverの維持の為に動けない為、ご飯は紅達に買って来てもらった。チビの分は・・・購買地区で適当に沢山買ってきてもらった。

 こういう時雑食性なのはありがたいと思う。何でも食べてくれるしね。



 そして、食後は静かにシエルさんを待っていた筈・・・なのだが―――



「ほう、これがハニーヴァイスだというのか?」


「ふーん、確かに面影はあるねぇ。でもこんなデカイヤツは見たことが無いな」


「ソレは僕も同じです。はい」


「・・・いや、何で居るんですかお三方?」



 紅とウィンディは、お菓子を買いに購買にまた出かけている。

 少しばかりヒマなので、チビに寄りかかり本を読んでいた所、聞き覚えのある声がした。

 チビの影から首だけ出して覗いてみると、これまた見たことがある三人。


 ゴー研の長クレアさんと、それを支えるヴァルさん。

 僕より若いが優秀な魔法使いのエルダー君が、チビを見上げていたのだ。

 何で?この場所は隠してある筈なのに居るの?



「何故って、これだけ目立つ様な隠し方をすればばれるぞ?」


「え?!そんなに解る?」



 だとしたら不味いぞ。せっかく隠してあると言うのに。

 だが、クレアさんの後ろに立っていたヴァルさんとエル君は、

 クレアさんのその言葉に少々あきれたように溜息を吐いた。



「いや、普通は気が付かないと俺は思うぞ?勘で見つけるなんて会長くらいだ」


「僕もそう思うです。かなり近づかないと、ここに何かあるなんて解らなかったくらです。ハイ」


「む、ソレでは私が変みたいではないか。お前たちとて感じたことだろう?」


「「いえ、全然」」



 あー、まぁなんて言いましょうか?

 彼女もまた規格外な人間ってヤツなんでしょうねぇ。

 ソレはさて置き、勝手に来ちゃったお三方に、この竜がチビであると言う事を説明する羽目になった僕。ここに至る経緯を話し、現在シエルさん待ちである言う事を伝えた。

 

 そしたら何故かクレアさんからおしかりを受けた。

 何でも、友なのだから相談してくれても良いだろうにとの事。

 そう言って貰えたのは嬉しいんだけど、僕はチビを隠す為に動けなかったし、クレアさん達はゴーレムを研究してるんだから、相談しても・・・ねぇ?


 尚、その時エル君も全く同じ事を考えていたのか、うんうんと首を縦に振っていたのを見た。

 クレアさんがソレもそうかと、少し残念そうにしていたので、そう言ってくれるだけで十分だと言う事は伝えておいたのだった。



――――とりあえず、はやくシエルさん戻って来てくれないかなぁ。


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