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第43章

~出歩いて…落っこちて・第43章~





「コレが古のドールだ」

「こ、これって・・・」

「おいおい、マジかよ・・・」

『・・・良い趣味してますね』


 リッチのグレットに着いていくと、何故かあの像の前にやってきた。

 そして上の会話である・・・・えと、まさかコレが・・・・。



「どこを見ている?幾らなんでも我はそんな気色の悪い人形を研究しようとは思わんぞ?」



 あ、ですよねー。

 流石にアレが最古のドールだったら、持ち帰る気も失せるところだった。

 なにせ金ぴかのマッチョの男の像「確かこの中だ」ってえぇぇぇぇ!?


≪ゴトン≫

「開いた。さぁ中にあるモノを持って行け」


 グレットは脚で像の腹を蹴った。

 するとナニカのスイッチが入ったのか、像の腹が開いてそこに空洞が出来る。

 その中には、小さな布袋が掛けられた何かが安置されていた。


『「「・・・・」」』

「な、なんだ?」

「・・・安置場所が悪い」

「う、煩い!とっとと持って出ていけ!」


 気持ち悪いけど、考えてみれば中々理にかなった保管場所だ。

 だってまさか金の彫像の中が空洞で、モノを保管出来るとか普通は解らない。

 もっとも、この場合宝物庫に金銀財宝が一緒にあった場合の話である。

 何も無い部屋に、この像だけあるのはどこか不気味だ。


「とりあえず現物を確認させてもらうよ?」

「・・・・はん、勝手にしろ」


 フンといった感じに、顔をそむけたグレット。

 それを横目に、僕は掛けられた布を外した。


「へぇ~、なんかゴテゴテとした飾りが着いてやがる」

「・・・・・うそん」

『面白い服を着た人形ですね。ひらひらとしてて、動きずらそう・・・』


 そこにあったのは、織物で作られた服飾に飾られた人形。

 非常にリアルな造形だが、僕はこの人形の服飾を見たことがある気がした。

 確か、そう数年前に・・・。


「えーと、そうだ思い出した。日本史の教科書!」

「ん?知ってるのか?かなめ」

「あー、うん。昔よんだ本に出ていた資料とそっくりでさ」


 その人形の服飾は、昔やった日本史の教科書に乗っていた、当時の女性の衣服そっくりだった。

 一つ思い出すと記憶がまるで数珠つなぎの様に次々と思いだせる。

 歴史的には飛鳥や古墳時代系の、和服だけど和服っぽくない感じの服。


 聖徳太子の着ていた服とかに似ているとでも言った方が解りやすいだろうか?

 しかし、本当に精巧に作られている。こう言った人形はあまり見たことが無い。

 和製人形はひな人形しか見たことが無かったけど、異世界でちょっと趣向は違うけど、

 こう言った人形を拝めるとは思わなかった。


「・・・ん?袖の部分に何か縫ってある」

『これは、文字みたいですね』

「お、本当だ。金色の糸で小せぇけどキチンと書いてあるな」

≪ピク≫


 何気なく人形を見ていると、ふと袖口に何か文字が塗ってあるのを見つけた。

 どうやらこの地域の文字では無く、ここからだと東洋と呼ばれる辺りの文字だ。

 その文字がどことなく漢字に似ているのはお約束。


「えっと、これは“哭”か?んで“沢”と“女”そんで“神”―――う~ん、人形の感じからして昔っぽく『ナキサワメノカミ』と読めばいいのかな?」

「ナキサワメノカミだと!?」

『あれ?どうかしましたか?グレットさん?』

「・・・・なんでもない」


 何故か名前を読んだら、グレットが反応した。

 でもぶすーっとしてるから、聞いても教えてはくれないだろうなぁ。

 ・・・・一応僕達敵だしね。


 でも本当に不思議な人形である。どこか水の気配を感じるのだ。

 それに見た目からは想像も出来ないような力を秘めていた。

 しかしながら、どこか優しさを持ち合わせているのである。

 でも、それに加えて正反対の様な悲しい感じも感じた。何でだろう?


『名前からすると、どこかの女神さまをモチーフにした人形でしょうか?』

「多分、東洋の方から流れたモノじゃないかな?」

「ほう」


 僕がそう推測したことを言うと、グレットは少し驚いた顔をしていた。

 多分、僕のような人間がそんなことを知っているとは思わなかったんじゃないかな。

 まぁこの世界で、こんな姿かたちをしてる物がありそうなのは、東洋位だしね。


「俺にも持たせてくれ」

「ん、どうぞ紅」

「あんがと、おおう、本当に良く出来てやがる」


 そう言うと彼女は人形をひっくり返し・・・あー、なんて言うのかな。

 服の中を覗き込んでいます。


「紅、やめなさい。ソレは幾らなんでも可哀そうだ」

『そうですよ。貴女は女の子なんですから、そんなはしたないことをしてはダメです』

「お、おう。すまねぇ」


 僕は紅から人形を貰うと、最初に包んであった布に包み直した。

 ソレを脇に抱えて、グレットの方を向く。


「それじゃ、グレット。騒がして悪かったね。僕たちはもう目的を果たしたから帰るね」

「・・・・とっとと消えろ御同輩。我の気が変わらない内にな」

「はん、負けた癖によ・・」

「紅!・・・それじゃ、さようなら不死の魔法使いさん」


 そして僕等は宝物庫から出て、来た道を戻り外に出た。

 グレットを拘束していた縄は、念の為外に出てから解除すると約束した。

 既に戦意が無いことはわかってはいるが、一応敵同士である。

 警戒するに越したことは無い。

 

 僕に負けたと言う事もあり、彼女は睨みつけては来た。

 だが、それ以上は魔力すら練ろうとしなかった為、特に問題無く外に出る事が出来た。

 僕はウィンディに頼み、約束通りに拘束を解除した後、ITシールドボードを展開。

 そのまま空を飛んで、ガラクトマン魔法学校へと帰還したのであった。



この時、僕にとっては重大な事が起きていた事に、僕はまだ気が付いていなかった。



***


――――ガラクトマン魔法学校・研究棟――――


 学校へと帰還した僕たちは、門番の人に身分証代わりのチョーカーを確認して貰う。

 このチョーカーには魔法刻印が施され、これ自体が魔法学校における身分証と成るのだ。

 シエルさんが用意してくれたモノなので、別に特に問題無く学校の中に入った。


「御苦労さまです」

「ん」


 もっとも、門番の人とは既に顔見知りではあるので、多少は融通が利く。

 一々手続きが面倒なので、ちょっとした外出なら目をつぶって貰えるのだ。

 紅が修業で外に出る時も大体そうしている。暗黙の了解というヤツである。

 ・・・・・まぁ蛇足です。


 そのまま、ヴァルさん達がいると思うゴー研のある研究棟へと足を運ぶ。

 ゴー研が使っている研究棟は、遠くからでもすぐに解るほど特徴的だ。

 何せ研究している物が物な為、どちらかと言えばハンガーに近い。

 

 ゴー研に所属する学生も、普段は汚れても良い様な作業着姿なのだ。

 遠くからでも、この学校の中では異彩を放つ為、良く解るのである。

 とりあえず、ヴァルさんを探す為に、近くで作業していたゴー研の学生に話しかけた。


「こんにちはー」

「うん?かなめくんと紅さんか?いらっしゃい。今日は何か御用?」

「あ、ミルドさん。ヴァルさん来てますか?」


 恐らくは次のタロスに使われるであろう部品を、チェックしていた女の子が振り向いた。

 髪をおさげにし丸眼鏡を掛けて、作業着姿が似合う彼女は、ミルド・バチェックさん。

 ゴーレムが大好きな女性で、ゴー研におけるゴーレムの整備の殆どを請け負っている人である。

 ここには何度か来てるので、それなりに顔見知りだ。


「彼なら研究室にこもりっぱなしよ。そろそろ気分転換に出て来ないと、死んじゃうかもね~」

「あの人ならソレで本望だとか良いそうですよね。普通に真顔で」

「言うわねぇ~きっと。あ、ヴァルに何か様があったんでしょ?早く行っておあげなさいな」

「了解です。それじゃ」

「じゃあな~」

「はいはい、それじゃあね」


 適当に会話を返した後、研究室に足を向けた。

 あの人は結構常識人だから、トップ二人が実質アレだし、案外苦労人かもねぇ。

 そんな事考えつつも、ヴァルさんがいる研究室にそっと入る。


 この研究室に入る時は、扉はそっとあけなければならない。

 何故なら、普通に開けようとすると、テンプレの様に試作品パーツが降って来るからだ。

 ヴァルさんは何度もパーツ雪崩に埋まった経験があるので、もう慣れたらしい。

 ・・・片づければ良いんじゃないかと突っ込みたいな。


「こんにちは、ヴァルさんいる?」

「おーい、ヴァルよう。どこにいるか返事しろよ」

「お、お前ら帰ってきたか。首尾はどうだった?」

「ばっちり、ヴァルさんに頼まれてた最古の魔導人形(ドール)探して来たよ」


 僕は小脇に抱えていた布を、彼にかかげて見せた。


「おお、見せてくれ!」

「ここ置いときます。僕は魔導人形とかは詳しくは解らないですけど、結構な力持ってますよコレ」

「そりゃ楽しみだ。研究意欲湧いてくる」


 なんか既にドールに夢中なヴァルさん。

 研究者モードとでも呼べばいいかな?もう周りが見えていない。

 人形の構成素材をしらべ、分解の前に解析魔法をかけて内部構造まで調べようとしていた。

 

「・・・帰るか?」

「うん、なんか疲れたしね。ヴァルさん、僕等帰りますね」

「ここの素材は絹?いや、絹は絹でも魔蚕の絹か。道理で耐久性が――ん?帰るのか?それじゃな」


 僕等はもう用事がすんだので、彼をその場に残して、自分たちの部屋へと帰る事にした。

 もうヴァルさんは目の前の研究対象に夢中である。

 どこか子供っぽいそれに苦笑しながら、僕たちは研究室を後にしたのだった。


***


 さて、無事に何時も使ってる部屋に戻ってきた。

 結構長い間帰って無かった様に感じられるなぁ。

 そう言えばもう治まったけど、グレット戦の後に感じた身体から抜ける感じはなんだったんだろう?


「くぅくぅ」

「ん?どうしたのチビ?」

「く」


 

 ん?僕の胸のあたりを見てる?・・・ってああそういや。


「ああ、そう言えば戦闘でここに穴開いてたんだ。教えてくれてありがとうね」

「くぅ」


 チビは尻尾を振ってそう答えると、

 既にベッドにダイブしてウィンディに窘められている紅の元に飛んで行った。


「・・・はぁ、裁縫かぁ。面倒臭いなぁ」


 裁縫は出来無くは無い。家庭科の授業で可も無く不可も無く程度には出来る。

 針はI(イマジン)T(ツール)で作れるし、糸の方は買って有るから問題無い。

 まぁそう言うのと面倒臭さとは別物なんだけどね。


「そう言えば、胸ポケットに手帳入れてあったんだっけ」


 このステータスが現れる手帳、一応何か魔法的な守りが付いてる手帳らしい。

 以前うっかり焚火に落とし、燃やしそうになった時も燃えなかったんだよね。

 なので、特に心配はしてなかった・・・のだが。


「・・・・・うそ、そんな」

「ん?どうしたかなめ?」

『かなめさま?』


 この世界に来て何カ月も経っている。

 それなりに経験を積んでいるので、もうあまり驚かないと思っていたが・・・。


「て、手帳に・・・・大きな穴があいちゃってる」


 流石にこれには驚いた。そして僕等に流れる沈黙。

 

「そういやそんなん持ってたなぁ」

『ソレって何か意味あるんですか?』

「う~ん、一応ステータスを数値化してくれて、覚えたアビリティが表示されてたんだけど・・・」


 ソレと魔法のセットの設定とか色々。

 でも最近操作しなくても、無詠唱とかのやり方解ってきたから、

 あんまり手帳で操作しなくなって来たんだったっけ。


「なんで壊れたんだろう?というか何時だ?」

「アレじゃねぇか?グレットとの戦闘の最中」

『そう言えば、その胸の部分は、グレットの魔法が少し掠ったからでしたよね?』

「そういや、あの魔法。魔法の無効化が付いてたみたいだったし・・・」

『原因はソレですね。いやはや私それに当たらなくて良かったです』


 そういや人工精霊だもんねウィンディはさ。

 そんな魔法使われたら消滅しちゃうか。

 しかし、う~ん、身体自体には特に何も影響は出て無いみたいだけど・・・。


「う~ん、困った。なんか抜けたような気がする」

「自称神のご加護でも消えたか?」

「うわ、どうなんだろう?」

『サーチとかで調べられないんですか?』

「やってみるよ・・・・あれ?ステータスが表示されない?!」


 うーむ、今まで表示されていたステータス系統が表示されなくなった。

 一応解析結果はキチンと出るから、使用に問題は無いけど何だかなぁ。

 ためしに紅に向けてみたけど、ステータスはやはり表示されなくなっていた。


 そう言えば、帰りに魔獣見ても、緑のバーが表示されて無かったっけな。

 結構遠かったから、効果範囲外なのかと思ってたんだけど・・・。


「どうやら自称神様からの、手帳のサービスは無くなったらしいね」

「身体に施された方は、身体が残っているから大丈夫って訳なのか」

『確かに魔力も相変わらず大量に供給されてますね』

「でも大変だ。この先何か覚えたとしても、ソレを知る機会が無くなっちゃった」


 今まで何か習得出来た時は手帳を見ていたのだ。

 ソレが出来なくなったのは結構痛手だなぁ。一応指標にしてた訳だし。

 だけど、ウィンディは僕のソレを聞いて―――


『え?でも覚えることは出来るじゃないですか。手帳とか関係無しに』

「・・・・そういやそうだった」


 あくまで手帳の機能はステータスが見られると言う事だったしね。

 日常生活や戦闘にはあまり影響があるとは思えない。

 しいて言うならアビリティの確認が取れなくなった程度だろう。

 それとMPの消費・・・まぁコレは疲労度とかで大体解るから問題無いか。


 でもコレで本当に異世界に来たって言う事になるんだろうな。

 だってそうでしょう?今まではゲームみたいなシステムがおまけで着いていた。

 だけどこれからはそう言ったのが無くなり、自分の力で歩いていく事になるんだ。


 まぁ、大魔力は残して貰ってるし、身体能力も引き上げて貰って有るけど。

 ソコはスルーという事で・・・だめ?


 しかし、ステータスがサーチでも表示されなくなったんだよね?

 これはレベルアップの機能が消えたって事になるんだろうか?

 それとも確認出来なくなっただけなのかな?


 手帳と共に失われた感覚もある事だし、その感覚の原因はコレかも知れない。

 うーん、考えても仕方ないとはいえ、もしレベルアップ機能が消えていたとしたら・・・。

 これから先、力は自分の力で研磨してかなきゃいけないって事だろう。

 

 ビギナー期間の終了ですって事になってしまったのか・・・。

 もっとレベル上げておけばよかったと思っても後の祭りだなぁ。


「ま、身体には特に影響は出てないし、大丈夫だろう」

「ならいい、かなめが無事ならさ」

『でも何かあったら、とにかく報告してくださいよ?あなたには死んで欲しくない』


 ウィンディの言葉の後半は、いつもよりもトーンを落した真面目な声だった。

 僕は彼女の方を向き、その目を見返しながら返事をする。


「・・・うん、何か変な具合になったら教えるよ」

『絶対ですよ?私はまだこの世界を見ていたいんですから』

「解ってる・・・大丈夫だよ。僕は悪運は強いからそう簡単には死なないさ」

『ええ―――だと良いのですけど』


 解らない事を考えても仕方が無い。

 こればっかりは調べ方も解らないから、調べようも無い。

 それなら現状を常に意識して生活するしか方法は無い。

 でも、いざそう思うと・・・なんか不安かな。


「かなめ」

「・・・・ん、まぁ何か良く解らない事になったけど、これからもよろしく」

「おう!」

『はい!』


 僕がそう言うと、彼女たちも応えてくれた。


「くぅ!」

「あはは、そういえばお前も居たねチビ」

「くぅ」


 チビもちゃんと返事を返してくれた。 

 まぁ不安だけど、それでも仲間がいる。

 それだけでも、十分心強い事じゃないか。


「・・・・さて、とりあえず――――休まない?」

「ああ、賛成だぜ。なんかもうくたくただ」

『私かなめ様の中に戻っても良いですか?』

「うん、いいよ」


 色々と不安な事はある。だけど考えてみたら前の世界でも日々不安に生きていた。

 そう考えたら、只普段の世界に戻っただけなんだ。


 ファンタジーな世界に居る所為で忘れかけたけど、ここは夢じゃ無くて現実。

 なら、そこに生きる人間も、僕の世界と同じく日々不安に過ごしていたりする。

 当然、その世界の住人となった僕だって・・・。


「そんじゃ、おつかれ」

「ふぁ~、おう・・・おつかれかなめ」


 でも、悲観してもいられない。

 僕はまだ生きているんだ。それに魔法の事も良く知りたい。

 家だって欲しい。だから今は立ち止まらずに頑張るさ。


――――そう思いつつ、身体を休める為にベッドに入った僕たちだった。





*手帳が壊れてしまった主人公、こうして彼はファンタジーからリアルへと完全に移行したのであった。

・・・・まぁ、生活は全然変わんないと言う罠w

それではまた次回に。

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