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第40章

~出歩いて…落っこちて・第40章~






 カラカラカラ――――



 骨の擦れ合う音が、狭い部屋の中を木霊する。



 カラカラカラ――――



 狭い部屋に広がるのは、かつての兵達(つわものたち)の亡き骸。



 カラカラ・・・カラ―――



 そして兵達の首から落された髑髏が、床の上で止まった。




 ・・・・とか言うとカッコいいけど、実際はスケルトン達とバトルしている最中だった。


「だぁ!もう面倒臭ぇ!」

「これは魔力の供給源やってるキングを先にやらないとイタチゴッコだね」


 部屋に突入し、魔法で押し流してウィンディが斬り、紅が粉砕する。

 それだけで済むと思ってたんだけど、この部屋には厄介なヤツが数体いた。

 その名も“スケルトンキング”大きな骸骨さんである。


 ここのスケルトン達はどうやら魔法で作られたスケルトン達らしく、魔力があれば復活出来るタイプの面倒臭い連中だった様なのだ。

 しかもスケルトンキングはバラバラにされたスケルトンでも、魔法によって再構築させる事が出来るらしく、お陰で倒しても倒しても敵が減らないのである。


 粉砕しても破片さえ残っていれば再生させるとか反則だと思うんだ。

 おまけに複数のスケルトンキングがいるお陰で、どれか一体倒しても瞬時に再生されてしまう。

 何と言う無限ループ、再生用の魔力もこの部屋にひかれた魔法陣から供給されている様だし、どうやら魔力切れを待って殲滅とかは無理っぽい。どうしよう?


「おい!かなめ!ブラストとかでどうにか何ねぇのかよ?!」

「出来なくはないけど、コレ以上出力上げると、最悪この部屋崩壊するかもよ?」

「げ、マジかよ?」


 うん、本当です。さっきからフレイムブラストを撃っても、天井がぱらぱらはがれおちてきてるからね。流石に生き埋めにされたら助からないだろうから遠慮したいよ僕は。

 というか、既にこの部屋の天井自体もろくなってきているみたいだし、下に用事があるからこの部屋を瓦礫で埋める訳にもいかない。さて、本当にどうしてくれよう?


「結局、スケルトンキングは何体居るんだ?」

『他のスケルトン達に紛れ込んでいますが、恐らく7体程かと。大きいのですぐに解ります』


 ひーふーみーっと・・・おお、見えているのは確かに7体か・・・。

 シェルショットで同時撃ち・・・は壁とかまで攻撃するから崩壊の危険ありだしなぁ。

 かと言ってエレメンタル・ミサイルでもソレは同じか。


「純粋に火属性の攻撃でもあれば、灰も残さず焼きつくせるんだが・・・」

『そんなのレパートリーが今だ魔法使い見習いにも負けているかなめ様が覚えている訳無いでしょう?』


 ですよねー、何だか落ち込みたいところだけど、現在戦闘中だから我慢する。

 なら火を使わずに骨を粉砕させる?どうやって?風属性で吹き飛ばすは上記と同じでNG。

 風の起すカマイタチで切り刻んでも再生される。

 倒すには破片も残さないということが必須。


「燃やせる火属性が一番楽なんだけど・・・イヤ待てよ?」


 一応帰りとかの事を考えたら、倒すことが良いって考えてたけど、でも目的はこの下の宝物庫にあるお宝な訳で、別にココに居るスケルトン達を相手にする必要はない訳だ。

 あーあ、全く大きな魔力を持っている癖に、必要な時に使えないんだから・・・。


「紅!下がってITシールドボードへ乗って!」

「おう!わかった!」


 僕はITシールドボードを作ると、紅を招き寄せボードの上に立った。


「ウィンディ、力をかして」

『なにか思い付いたんですね?・・・どうぞ』


 そしてウィンディの精霊としての力をかりて、魔法を編み込んでいく。

 そこらに居る水属性の精霊さん達にも協力して貰い、僕の持つ膨大な魔力を水に変換した。


「いくぞ!マディストリーム!」


 ウィンディの背中の水リングの様に、僕の背後を回る魔法陣から大量の水が放出される。

 ソレらは部屋の中を水浸しにする程の量の水で、どんどん魔法陣が噴き出した。

 その光景はまさにその魔法の名前の通り“濁流”である。


 もっとも、そんな大層な名前が付いているが、只単にドバドバと大量の水を垂れ流す魔法でしか無い・・・が、それは置いておく、せっかく覚えたのになんか悲しくなるから。

 さて、こうしている内に、やがてその水は部屋の床に膝くらいまで貯まる程になった。


「よし!お次は―――」


 僕は更に精霊さんに手伝って貰い、この部屋に散らばった水を少し操り、押し流されて壁の付近で固まっているスケルトン達に、まるでスライムのように巻きつかせた。


「後は――コレ!」


 ここまでくれば、後は仕上げを御覧あれってね!

 僕は瞬時に、別の魔法を準備して展開する。

 その魔法はサバイバルの時にお世話になったあの魔法。


「―――アイシクルブラスト!」


 青いレーザーが床一面に広がった水面にブチ当たり、衝撃で発生した波ごと凍らせていく。

 水に絡み付かれている所為で上手く動けないスケルトン達を、そのまま氷の中に閉じ込めた。


「・・・・よし」


 スケルトン達の脅威は数だが、素体の力は全然強く無い。

 だって筋肉もついて無い訳だし、ソレが魔法の力でなんとか人間並みの筋力を持っているだけなのだ。さて、普通の人間を氷の中に閉じ込めて、自分の筋力だけで氷を破壊して脱出しろと言われて出来るだろうか?


「なんつーか、気味の悪いオブジェの完成って感じだな」


 答えはNO、無理である。

 壁付近に押し流され、大量の水の中に入っていたスケルトン達は、どこぞの猟奇殺人の如く氷の壁の中に閉じ込められていると言う姿になっていた。


 僕はそれを更に凍らせて、溶かされない限りは万が一にも出られないように補強した。

 コレでとりあえず2~3日立たないと、コイツらはこの氷から抜け出すことは叶わないだろう。


『さすがかなめ様、段々精霊の力の制御力も上がっていますね』

「・・・・すごく疲れるけどね」


 がっつり魔力を喰われた挙句、体力的な方もがっちり持って行かれた為身体が重たく感じる。

 しいてこの状態を言い表すなら、シエルさんに毒もられた時の様な感じだろうか?

 ・・・・・その時のことを思い出してちょっと泣きたくなった。


 まぁお茶に毒を盛られるなんて最近じゃよくある事。

 ご本人曰く毒では無く高濃度に濃縮された試作の魔力回復剤や起爆剤らしい。

 ソレを僕にのませてデータを取って居るんだそうで。

 “最近良いモルモットが届いたから実験がらくねー”と言っていたのを聞き、涙で枕を濡らした事もあるけど・・・紅が慰めてくれたから問題無い、ウン。

 

『ですが、詰めが甘いです』

「ほへ?」

『ホラあそこ、下へ続く入口まで塞いでどうするんですか?』

「あ」


 ちょっとトリップしてたけど、すぐさま現実に戻される。

 ウィンディに示されて見た先には、大きな氷塊に包まれている下への扉が見て取れた。

 どうやらそこまで気が回せなかったらしい。

 これでは下の階に降りる事もままらないだろう。


「あぅ・・・・どうしよう?」

『はぁ、仕方ないですね。紅さん?』

「おう、なんだ?」

『剣でココの氷だけ砕いてください・・・・他の所は壊したらダメですよ?』

「任せとけ、俺はそこまでヘマじゃねぇからな」


 そして紅によって氷塊が壊され、下へと続く階段への扉が使えるようになる。

 うう、頑張ったんだけど、なんか空振りした気分(実際その通りだが・・・)

 とにかくココに居ても気味の悪い髑髏達しか居ないので、下に降りることにした。

 部屋毎凍らせたからか、なんか空気が寒かったなぁ。




***


 久々にきたボスの部屋と言うか、以前ドラゴンが居て宝物庫へ続く道があった部屋の前に来ている。 ココは全然変わらないなぁとか思っていたら、中から変な笑い声が聞こえて来た。


 なんか部屋の反響の所為か、風が隙間を通る時の感じの声で気味が悪いのだが、この部屋の奥に用事がある為、今は逃げるワケにも行かない。

 幸い膨大な魔力とウィンディの扱きのお陰で、ある程度のレベルの敵ならば負けることは無いとは思う。


 とりあえず、僕は自分が作った魔力回復薬を服用しておく。

 コイツはシエルさんのと違って、キチンとした臨床データの元に造り出されたモノだ。

 所謂、既製品と同じ製法で作られたヤツである。副作用は無い。

 僕はそれを飲んで、魔力を少し回復させた。

 ちなみにこれ、小さな瓶にはいっているんだが、なんとなく僕の居た世界の栄養ドリンクに見えなくもない。



 さて、少しは魔力も回復したので、そっと音を立てずに部屋の中に入った。



「ぬふふ!この部屋は最高だわさ!これ程高濃度に竜の魔力が残されておるとは!死んだのはごく最近かな?これならばこの魔法も上手く行くはずだ!」


 どうやら中の人物?は有頂天になっているらしい。

 入った事に気が付いた様子もない。でも一体何をしているのだろうか?

 見れば床一面に何かしらの文様が描かれている事は解る。多分魔術文字か何かだろう。

 さっき戦ったスケルトンキング達に魔力を供給していた紋様とも似ている。

 たぶんさっきの魔獣達は今そこでバカ笑い真っ最中の人物によるものだろうな。


 とりあえず気がつかれずに宝物庫の方に進むことにする。

 幸い周辺には天井の一部が崩れて瓦礫が落ちている為隠れて進むことは容易だ。

 なので紅、ウィンディ、僕のフードの中に居るチビに音を立てない様に指示し、僕たちは抜き足差し足でゆっくりと進んでいった。

 所謂、“すにーきんぐみっしょん”ってヤツである。


「ぬ?・・・ああ!?ココの魔力には竜魂石が含まれておらんと!?ま、周りに落ちておらぬか!?」


 なんかさっきからハイテンションだった人物が、更に煩くなった。

 竜魂石?って言うと、エル君にあげちゃったドラゴンから出て来た結晶の事だっけ?

 それなら僕が回収してエル君にあげちゃったから、この場にはもうないだろうなぁ。

 なんかタンタンって音が聞こえるから、地団駄でも踏んでるのかねぇ?


「・・・・ない・・・・ないのか・・・・グスン。勿体無いのぉ。まぁ良い、とりあえず」


 ん?不味いこっちに近づいてくる!紅達ちょっと僕のそばへ来て!早く!

 先の人物が来るのを見て、僕は慌ててITボウル・インビジブルverを発動させる!

 ・・・・・ちょっと前にネタに考えた光学迷彩が役に立つとはね。

 仕掛けは簡単、前も使った事があるITボウルの空間を歪曲させ、中のモノを見えにくくするだけの簡単な魔法である。

 空間歪曲については、時間制御魔法からの派生技みたいなもので、ソレを利用してみた。

 時間と空間と言うのは密接にたらウンちゃらと書かれていたけど、良く解んない。

 まぁ使えるんだから良いんじゃない? 


「ん?なにか物音が聞えた様な?」


少し身動きしたら音が聞こえたらしい。こちらに来たヤツの頭に「!」のマークが見えそうなくらい周りをきょろきょろと見回している。

だがその距離なら、僕等を確認する事は出来ない。

精霊さんに頼んでもっと解りにくくしてるからな!

もっとも近寄られたら一発でバレるんだけど、ここら辺は暗いからバレ無いかも知れない。

 ・・・・・自分でやっておいて、随分と弱きだわさ。まぁ僕らしいけど。


「ひそひそ(おい、これ本当に相手に見えないんだろうな?)」

「ひそひそ(知らない、実際使うの初めてだし)」

「ひそひそ(ちょ!なんでそんなの使ってんの!?)」

「ひそひそ(ウソウソ、冗談。何度か実験して、ある程度以上離れられたら本当に見えないらしいんだ)」

「ひそひそ(なんだ、そうなのか―――)」

「ひそひそ(コレ以上近づかれると、風景に違和感を感じてバレるかも知んないけどね)」

『ひそひそ(それよりも静かにしませんと、相手に気付かれますよ?)』


 おっと失敬、僕たちは慌てて口をつぐむ。

 ちなみに近づいてきた奴さんは、床にしゃがみこみ何かを書いては消している最中だ。

 どうやら魔法陣の紋様を書き換えているようである。


 しかし、随分とまぁ複雑な術式だ事・・・僕には少ししか理解できないや。

 恐らくかなり膨大な魔力を用いた儀式魔法なんだと思うな。

 この部屋自体が元々魔力を逃がさない構造な為か、そこらじゅうに魔力が貯まっている。

 少し淀んで下級精霊さんもえっちらおっちら見られるけど・・・。

 まぁそう言った類の魔法には随分と相性がいい訳で。


「ククク、でもコレだけの魔力さえあれば、例え魔力の塊である竜魂石が無くても、我が長年の野望を成就できる!」


 野望?野望って何だろう?ふと目の前でしゃがみこんで一心不乱に魔法陣の修正を行っている人物の言葉に、好奇心が刺激される。

 どちらにしろ、奴さんが動かない限りこちらも動けないのだから、強制的に聞くしかない。

 早い所やることをやって、この部屋を出て行ってはくれないだろうか?

 まぁあの人物がココに住んでいると言うのなら話は別だが、どうも住む場所は別の部屋っぽいしね。 この部屋は広すぎて落ち着かないのかもしれない。

 しかし、これで“世界征服”的な野望だったら・・・・まぁ別にどうもしないけど―――


「コレで我の身体を大きく出来る!この身体になって数百年!長かったわさ!」

『「「ブッ!」」』

「ッ!?だ、だれ?!だれぞそこにおるのか!?」


 その時、とりあえず目線が魔法陣を向いている今の内に、ゆっくりと音を立てずに動いて、宝物庫の扉の前に向かっていたんだけど、その人物が言った言葉に、僕等は噴き出してしまった


「で、出てこないと我が魔法で薙ぎ払うぞ!」

「・・・・あーまぁ。聞くつもりは無かったんだが」

『まさかココであんな独り言を仰るとは思いませんでしたので』

 

 なんか魔法を使おうとしている感じだったので、どうせ見つかるならと姿を見せることにした。

 姿隠している状態だと、みんな密着しているので、固まって殺られる可能性も考えての事である。

 こうやって姿を表せば、少なくとも三人の内の誰かに意識が行きやすい。

 全員一気に全滅などは防げると言う訳だ。


 しかし、まぁ何と言おうか―――


「うぅぅ・・・そこににゃおりぇ!せいばいしてくれりゅ!・・・噛んじゃった」


 今現在僕達の前に居らっしゃる人物は、ちんちくりんな身体をした子供だったのだから。

 もっとも目の前の子供から感じる魔力の気配はかなり濃厚でそれだけでかなりの熟練者であると言う事がうかがえる。

 だが、見た目はどう見ても子供な上、そんな存在が糞真面目に魔法陣を描きながら、言った野望が背を高くすることである。

 これを笑うな言う方が難しいだろう。


「――ッ!!我が名はグレット!“偉大なる不死の魔法使い、アンデットの王リッチ”なり!我が野望を聞かれたからには生かしては逃がさん!」


 仕切り直しと言ったばかりに、名乗りをするグレットさん?

 とりあえず数百年生きてるらしいし、リッチと言うのも聞いたことがある。

 魔法の研究は良く言われているように数百年や数千年規模の観測が必要な魔法とかも存在する。

 到底人間の寿命では、そこまで生きられない為、魔法使いの中には身体に魔術的な施術を施し、死なない身体に造り変えることがあると言う。

 リッチとはいわば魔法使いが自力でアンデットと化したモノの総称なのだ。


 そうか、さっきのスケルトンもグレットの仕業だな?

 リッチとはネクロマンシーに長けている事が多いらしいから十中八九そうだろう。

 しかし何だ?この威圧感?今までこれ程のを感じたのは・・・クレアさんと初めて会った時位だ。

 って事はこの人物・・・グレットはかなりの強者と言う事か! 


「どうした?動く事も出来ないか?」


 そういって虚空に手をかざすと、グレットの手の中に杖が現れた。

 アポーツ?いや、魔力から具現化させた!?


「ッ!僕は――魔法使いの五十嵐かなめ!」

「俺はかなめの相棒の紅!」

『私はかなめ様と契約した人工精霊のウィンディ!』


 相手の魔力と気迫に負けない為に、僕たちも腹から声を出して気合を入れる。

 あの時笑わなければよかったとか少し思ったけど、今更遅いからね。


「ふん、例え魔法使いあいてでも容赦はせん!死んで我の下僕に加わるがいい!」

「じょーだん。僕はまだ色んなモノが見たいから遠慮する!」

「俺だって色々と美味しいモノをまだ喰いてぇからパスだ!」

『この二人についていくのが私の今の楽しみ。むしろ其方こそ気をつけなさい!』


 グレットの問いかけに、僕等はそう答えた。

 一触即発、どちらかが先に動いたら即戦闘開始だろう。

 そして先に動いたのは――――



「はっ!よくぞ言った!リッチたる我と戦える事を光栄に思え!」



 グレットの方だった。

 僕たちは魔力が渦巻くグレットと対峙し、戦闘を開始した。



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