第38章
~出歩いて…落っこちて・第38章~
今日はシエルさんに頼まれた魔法薬の過去の臨床記録を探す為、ガラクトマン魔法学校の図書室に訪れていた。
古今東西とまではいかないらしいが、それでも過去数十年で集められた蔵書の数はかなり多く、古書のように装丁に年季が入っている書物やらスクロールとかもあれば、まるで新書コーナーのように綺麗なグリモワールも置いてあったりもする。
まぁ綺麗な奴ほど年代的には最近の物らしいので、新書と言えなくもなかったりするらしい。
「本当、大きな図書館」
『外部記憶の山ですね』
ちなみに今日はウィンディも一緒だったりする。紅は本読むと頭痛くなるから犬形態になってチビと一緒に平野で遊んでくるだそうだ。
まぁ彼女は本を読むより体を動かす方が性に合っているだろうしね。最近特にからだを動かすような事は無かったし、ちょうどいいんだろう。
「さてと、何処にあるんだろうか」
『何の本を探すんでしたっけ?』
「ん?えーと確か・・・」
一応種類別に種分けされているので、探すのは簡単だった。目録がちゃんと作ってある為、大体の位置は絞り込める。そして何なく目的の書物を探し出すことが出来たのであった。
『見つけましたね。どうします?もう戻りますか?』
「どうしよう」
すぐに見つけた為、まだ制限時間いっぱいに時間が残っている。学園関係者以外は許可をもらわないと図書館には入れないので、すこしだけ勿体無いと僕は思った。
「まだすこしココにいたい。魔道書とか読みたいし」
『では時間になったらお知らせしますね?かなめ様は熱中すると周りが見えなくなりますから』
「うん、頼んだ」
せっかくコレだけのグリモワールが大量にある訳だし、色々と読んでみたい。元の世界では見られないという知的好奇心と知識欲が僕の心を刺激するのである。
そう言う訳で、仕事の途中だが少しだけ寄り道をして、色々と本をあさる事にした。良い子は真似したらダメだよ?とか脳内で言ってみてアホかと思った。
「えーと、それじゃ・・・まずは普段は拝めない様な魔法はっと――――」
一口に魔法と言っても、その種類は結構様々である。個人で使用可能なやつから大規模な儀式がいるモノのあるし、暮らしに役立てられる魔法シリーズなどもある。
もっともあまりに危険な力が込められている様な魔法書の類は、こんな生徒が見れらそうな場所には置いてはいない。当たり前である、好奇心が強い生徒が面白半分で死者降霊術とかをやられたりしたらたまったものでは無い。
故においてある魔法書は、ある程度以上の破壊関連が書かれている場合、許可をもらわないと入れない書庫におかれる訳だ。危険なら破棄すればいいと思うのだが、人間が持つ好奇心や知識欲はダメとわかっていても止められないらしい。
まぁソレはさて置き、久々に読む活字を嬉々として記憶していく僕。殆どがITで代用できる所為で覚える必要は無いのだが、この本を読むという行為にこそ、面白さを感じているので問題無い。
まぁ、魔法書の中に普通に空を飛ぶ魔法があったことに、ちょっとだけ落ち込んだけど、僕の方法の方が早いから良いもんね・・・・一応落下対策の為に覚えておくことにした。高いところは怖いです。
他にも物に術を刻む刻印術とかの本も読んでおいた。そろそろ自前で魔法アイテムを作ってみたいお年頃。まぁ流石に技術的な話なので、実地的な所は詳しそうな人に教わるしかないだろう。
「・・・・・教えてくれそうな人なら約一名知っているけどね」
さて、そうやって色々と読んで回っていると、一つ気になる魔法書を発見したのであった。
どうやらかなり古い魔法書らしく、装丁の所々に傷あとや隅っこが欠けた様子が見られたが、一応読めるようになっている。
その題名は―――
「『時間制御魔法』?こ、これはもしかして『加速』とか『時間停止』とかが出来る魔法!?」
題名から恐らくそう言う魔法だろうと思い、その魔法書を手に取った。どこか欠けた装丁も、表紙についている傷痕も、長い時を過ごしてきたと感じさせてくれる。
時間制御と名のつくからには、例えば物体の時間を加速できるとかだったら嬉しい。それこそ安物のワインを瞬時に熟成出来るとかに使えると思うのだ。
それだけでは無く、漬物もすぐに作れるし、ハムやベーコンのように熟成が必要な食品、大豆があるなら納豆やみそが作れるかもしれない。
それを思うと、この魔法書のページをめくる手が止まらない。一文字一文字忘れない様に読みふけって行く。僕はそのまま、この本の知識を得る作業に没頭したのであった。
理論的には、対象の時間を制御する方法、それを利用した自身の時間を加速させつつも遅くし、周囲の時空の流れから出る方法等が書かれていた。
要は前者の場合例えば酒の熟成を早めたり出来る。対象の時間を操作出来るからだ。後者は簡単に言えば時を止めてその中を動き回る方法だ。コレを使うと周りからは瞬間移動したかのように見える事請け合いである。
なお後者の時間を加速させつつも遅くと言うのは、時間の流れから出た際、ドンドンと己だけは時間が加速して進む為、己の時間を遅くして老化等を防ぐという方法だ。
これによって、あたかも時間が停止したような世界が、己の周りに広がると言う訳である。
それ以外には時間停止における注意事項的な事が書かれていた。なんでも時間停止中に物体を殴ったりすると、その物体は普通に殴られた程度の衝撃を時間停止が解かれた際に受けるらしい。
その際、何度も同じ場所を殴りまくってから時間停止を解除すると、衝撃全てがとある一点の時間に集中して発生する為、物体がそれに耐えきれず崩壊する事があるそうな。
なお、当然ソレは己にも返ってくる諸刃の剣であり、岩をも砕くくらいに殴りつけた後時間停止を解除したら、己の拳にもそれが表れて、大怪我を負う可能性があるらしい。
「・・・ようは遠距離武器とかで一点集中すれば良いんじゃないの?」
それなら別段怪我はしないだろうにな。そう思い僕は魔法書を閉じた。まだ理解には程遠いが、一応一区切りまで読んだのでちょっと休憩する為だ。かなりの概念理論であるから、そこら辺の説明は省いておく。
正直ある程度理解できたとはいえ言葉で何と言えばいいかわかんない。所々に魔法刻印付いてたから、読んだだけでもある程度理解は出来る親切設計なのが地味に嬉しいね。
「う~ん、でもこの本って・・・」
しかし不思議なことに、魔法書の内容としては、許可をもらわないと入れない書庫行きの様な気がする。時間操作とか時間停止出来たら無敵じゃね?
でも、何故か普通の本棚においてあったりする所が、むしろ怪しいかな。
「まぁ、後で実験してみればいいか」
とりあえず内容はそれなりに理解した。時間停止の術式構築ならなんとか扱えそうだ。シエルさんのお使いの後で実験してみれば良い。
そう考えていると、ウィンディがこちらにやってくるのを感じた。そろそろ時間らしい。
『かなめ様、もうそろそろ』
「あ、うん。わかった。呼びに来てくれたありがとうウィンディ」
『いえいえ、それなりに楽しみましたから』
「そうなの?」
はて?何か面白い本でも見つけたのかな?
『ここは魔力を帯びたそれなりに古い文献が多いので、人工精霊が自然発生してまして、彼らと色々とお話していたんですよ』
「?自然発生なんてするの?」
図書室に現れる精霊とか、ファンタジーだね。
『ええ、と言っても私の様に目的があって作られた訳では無いのでとてもその存在は稀薄です。ああ、でもかなめ様ならもしかしたら見えるかも知れませんね』
「そなの?じゃあやってみようかな」
『では目を凝らしてあちらにある魔法書のたなを見てみてください』
「どれ・・・・」
じーっと目を皿のようにして、ウィンディに言われたたなを見つめて見る。う~ん、良く解らないけど、何だか目が痛くなってきた。
「・・・・・だめだ、見えないや」
『どうやらまだ早すぎたようですね。まぁ見えたとしても光の玉のようなものですけどね』
どうやら存在が不確定で形を持っていないのが多いらしい。
それでもちょっと見てみたいっていう好奇心はあったんだけど・・・まぁいいか。
「それじゃ、言われた本を持っていく事にしますか」
『ですね』
既に言われた本は見つけてある。図書室の司書さんにシエルさんから借りろと言われたという旨を話し、目的の本を借りてから、とりあえず図書室を後にした。
***
今日のお仕事を終えて、部屋へと戻った僕。
部屋には紅とチビがクターってしていた。最近戦闘やら身体動かす仕事が無くてつまらないんだそうだ。
まぁあと二カ月と少しだけだから辛抱して欲しい所である。
さて、ソレはソレとして、僕はさっそく図書室で見つけたあの時間制御魔法を使ってみることにする。
やるのは一番簡単な自身の加速、まぁ所謂時間停止と言うヤツである。
コレが基本らしいので、コレが出来れば後のは大抵出来る・・・らしい。
本にはそう書いてあった。
「むむむむむ・・・」
だが、やはり全くやったことが無い魔法と言うのは難しい。
やり方というか勝手が掴めないんだよね。
なので、部屋でしばらくう~んとかぬ~んとかやっていると。
「まーた何やってんだかなめ?」
流石に気になったのか紅が話しかけてきた。
「いや時間を操作をしてみようかなって」
「・・・・頭大丈夫か?どこかぶつけて無いか?」
「・・・・くー」
あ、普通ならそうおもうよね。
「ちがう、そういう魔法の本を見つけたの!」
「ああ、ああ、解ってる。きっとシエルの仕事がきつすぎたんだ。ゆっくり休もう。な?」
「いや、だから―――」
なんかこう言ってる事を信じてもらえなくて、しかも優しくされると凄く凹む。
『かなめ様の仰っている事はほんとうですよ?』
「そーなのか?」
『はい、図書館の子たちに聞きましたから』
図書館の子たち・・・ああ、自然発生した精霊さん達の事ね。
「まぁ僕はいいとして、最近はどうなの紅?気功術の方は上手くいってる?」
「ぼちぼち、って所かね。身体にまとわせるまでは出来た。だが攻撃や防御に回すのがまだ難しい」
『あら、それにしては私の水を弾き返せるレベルの気功を30分も持続させてるじゃないですか?』
おー、ソレはまた凄い。
「ま、日々努力してるからな。少しは成果が出なきゃやってられねぇぜ」
「ふむ、じゃあ僕と模擬戦とかしても大丈夫かな?ブラスト連射でも大丈夫そうだし」
僕がそう冗談をいうと、それを本気にしたのか彼女はブンブンと首を振って、無理だから、かなめの魔法は純粋に強力すぎてまだ無理だから!と叫ばれた。
「いや、冗談だから・・・」
「本当だな?俺はまだあの極太光線あびて死ぬとかは御免だぞオイ!」
『そんなに凄いんですか?かなめ様の魔法?』
「ああ、初級の魔法の癖に、天に穴開くくらいだぞ?」
『・・・・・本当に?』
「こんなウソついてなんになるんだよ?」
「もしもーし、一応使う本人がここにもいますよー?」
仲間はずれは良くないと思うんだ。
『ところで、ブラスト以外だと他にはどんな魔法を覚えてるんですか?』
「えーと、そうだなぁ」
ブラスト以外だと、まずITでしょ?それにサーチにエレメンタル・ミサイルにシェルショット・・・・・・・・・あれ?
「・・・・・・」
『意外と・・・というか、かなりレパートリーは少ないですね』
「ええと、その・・・ITの汎用性が良すぎて覚える必要が無かったって言うか・・・」
そう、イメージと魔力量次第で何でもできちゃうITのお陰で、特に覚える必要が無かった。
な、何だろう?この敗北感と言うか何と言うか・・・。
『10歳の魔法使い見習いでも、もう少し色々覚えてますよ?』
「ぐはっ!」
ウィンディの何気ない言葉が、僕の心にダイレクトヒットする。
うう、だって教えてくれる師匠なんていなかったし・・・覚えなくてもなんとかなったし。
でも何か負けた気がして、部屋の隅でいじけてみた。
『何でしたら、私が色々と教えましょうか?特に精霊魔法とか・・・』
「・・・?精霊魔法?」
『エレメンタルミサイルの様なものです。私から力を借りて使う魔法の事ですよ。何気に基本は出来ているみたいですけど、大技は持っていらっしゃらないみたいですし、私と契約しているのに水系統の魔法が無いなんてどうなんですか?』
「あ、いや・・・なんか面目無い」
そうだよね。一応ウィンディは水系統の人工精霊。
その契約者たる僕が水系統を使えないとか、そんなおかしな話は無いよね。
「じゃ、その・・・教えてくれますか?」
『ええ、勿論お教えいたしますわ。ソレと序でに時間制御魔法の方も見て差し上げます。精霊である私の方がそう言ったのの制御とかには精通してるでしょうから』
なんかトントン拍子に、ウィンディがいろいろと教えてくれる運びとなった。
勿論出来るのは仕事の後か休日程度だけど、それでも教えてくれる先生がいるのはありがたい。
『ふふふ、コレでかなめ様に私の事を“先生”と呼ばせることができるわぁ~』
「あ、またトリップ入った」
「ほっとけかなめ、一度トリップしたらそう簡単に戻って来ないから」
どこか遠い目をしている紅、どうやら何度も見た光景の様だ。
チビをあやしながら、めんどくさそうにこちらを見ている。
「あ、そう言えば、ウィンディの教え方ってどんなんだろ?」
「・・・・・まぁ主に実地だ。“習うより慣れろ”だからな。ソレとかなめ」
「ん?なに紅?」
「死ぬな。俺が言えるのはそれだけだ」
「・・・・・」
ゴメン、君の様子見ていると、どうも冗談じゃないみたいだから笑えない。
ウィンディはウィンディで、いまだ身もだえしている。
う~ん、最初出会った時はもうチョイまともだと思ったんだけど
『ああ!そして!そしてあんなことまで!!きゃ~』
実体化が長く続いている所為で、人間の生気に当てられたのかな?
にしては欲望が半端無い様な気がしないでもないような・・・。
「・・・・で、あれはいつまでかかるの?」
「・・・・知らん。長い時は数時間続くぞ?」
「まじで?」
「マジで」
『うふふふふふ』
僕・・・ちょっと早まったかな?
何かそんな言葉が脳裏をよぎったが、すべては後の祭り。
そして今日もまた何事も無く?終わった。
―――――さて、それから数日が経過した。
実質なにか起きることなく、僕はシエルさんの仕事を手伝う毎日を送り、今日はシエルさんがオフなので、自動的に僕もオフの日となった。
「精霊さん、お願いします」
『―――はい、良いでしょう。大分空気中の水を集められるようになりましたね』
「先生のお陰だよ」
『あら、お上手』
丁度良いので、ウィンディに魔法を習う時間に当てている。
もともと制御は問題無いし、魔力も膨大な為、すぐに身体が覚えてくれるのはありがたい。
もっとも覚えられたのは基本的な水を操る方法くらいだけど。
「さてと、今日の所はこれくらいにして、今日ちょっとヴァルさんに呼ばれてるからそろそろ行こうか?」
『そうですね。行きましょう。紅さん行きますよー!』
「おう!わかったぜ!」
紅は剣の素振りを止めると此方へとよってきた。
そして僕らはヴァルさんのいるゴー研へと足を向けたのであった。