第36章
~出歩いて…落っこちて・第36章~
いやはや、ようやく授業が終わったよ。え?授業の話はどうなったかって?みんな普通に良い子でしたよ?こちらの言う事には素直に返事してくれたしさ。全然手が掛からなくて、むしろこっちが拍子抜けしちゃったくらいだわさ。
最後に目には見えない下級精霊さん達に頼んで、ビーフシチューを一瞬で作ったら驚かれたけどね。材料入れて瞬間的に沸騰させて水操って出汁滲みこませればもう完成だもん。頑張り過ぎてMPかなり消費したけど、面白かったなぁ。
「――――まぁそう言う訳で、色々あって授業が終わったんですけど」
「何が色々なのかは知らないけど、次の仕事よ」
どうやら休みなしでまた仕事の様です。
残業代が出ないんだよねぇ。
「で、お次は何をすればいいんですか?」
「温室に行って、魔法薬の材料を取って来て頂戴」
「え~、またですか?この間みたいにマンドラゴラひっこ抜かせようとするのはヤですよ」
僕が知らない事をいいことに、この人マンドラゴラ引き抜かせようとすんだもん。ちなみにマンドラゴラは元の世界にも存在するが、こっちのヤツはファンタジーのまんま・・・・・つまり、叫ぶし動きます。
おまけにひっこ抜く時の叫び声を近距離で聞けば、下手すると死ぬ。冗談抜きで・・・ヤバい。どうやら呪いの一種らしいんだけど、即効性が高く、レジスト出来ないとマジでヤバいらしい。偶々気が付いたウィンディのお陰で抜かなかったけど、もし抜いてたらどうなってたか・・・。
で、抜かせようとしたご本人曰く「魔力耐性が見たかったのに・・・」と残念そうでした。
――――ダメだこのヒト。
「じゃ、お願いね~」
「・・・・了解~」
「あ!後、魔法薬の調合の仕方も覚えてもらうわよ?」
「え!魔法薬ですか?」
「そう、かなめくんはかなり繊細な魔力制御が出来るって解ったから、ソレ位出来ると思ったのよ。感謝しなさい。魔法薬については一流のこの私から、手取り足取り教えてもらえるのだから」
どうやら選択肢は無いらしい・・・悪寒を感じるのは気のせいですか先生。
「了解しました。それじゃ帰ってきたらお願いしますね」
「ええ、それじゃ改めて行ってらっしゃい」
まぁ、そう言う訳で、本日の午後のお仕事。
薬用植物温室での薬草採取へ行ってきま~す。
***
「ふんふん~ふふん」
「く~く~!」
天気が良いと、なんとなく歌いたくなるよね?実際は歌わないけど、なんとなく気分が良かったので、鼻歌を歌いながら温室へと向かっていた。
チビも僕の後ろをふわふわ飛びながらついて来ていた。何時もは肩に乗っているんだけど、今日は飛びたい気分らしい。
鼻歌に会わせて声を出すので、一緒に歌おうとしてくれているかのようだ。可愛い奴め。
「おや?カナメではないか。奇遇だな」
「ああクレアさん、こんにちは」
のんびりと温室に向かう途中、ゴー研の部長さんであるクレアさんに話しかけられた。
「今日もまたシエル女史に頼まれた仕事か?」
「ええ、今日は薬用植物温室の方で材料集めです。クレアさんは?」
「私は貸し出している作業用ゴーレムの調整作業だ。ちなみに目的地も同じだ」
そう言って、片手に持った道具箱を掲げて見せるクレアさん。見た目と違い、ゴー研の長をやっているだけあり、魔導機械関係に強いのだろう。今日はあの特徴的な杖は持っていない様である。
「じゃ、一緒に行きますか?目的地も同じことだし」
「そうだな。そうさせて貰おう。後、敬語は必要ないと前も言ったぞ?」
「あっと、ごめん。コレでいい?」
「うむ、ソレでいいぞ」
そういって同じ道を並んで歩く。最初はこのヒトの覇気がきつかったけど、最近は慣れたのでそうでもない。紅とウィンディも慣れて来たので、このヒトとは普通に友人関係を結んでいる。
「ところでどうだった?タロスの方は」
「ふむ、やはり無理が祟ったらしくてな?オーバーホールでも直せないらしい」
あの後、破壊されたタロスも、ゴー研の人達に回収されて色々調べられたらしい。東洋の術式との融合が不完全なのか、試作段階で暴走が起こってしまうタロス。新しい概念を積んでいただけあり、かなり詳しく調べられていたのだ。
「やっぱりね。アレだけひび割れてた所に電撃だもの」
「流石にやり過ぎた。術式を刻むコア自体が破損していたからな」
「成程、それなら修復は出来無い訳だ」
それ程ゴーレムに詳しい訳ではないけど、ソレ位解る。
「元々が新概念術式をブチ込んだだけのモノコックだ。アレだけ動いて壊れない筈が無い」
「自分よりも大きな壁をちぎって投げていたからね。僕その被害者」
何らかの重量軽減術式を組まれていたらしいけど、元が青銅だからどうしても強度が無い。元々試作品な上、動かす事が出来るか証明するのが目的であったのだ。戦闘行為を行うなんて、最初から計算には入っていなかったのである。
「まぁお陰で改善点が沢山見つけられた。後継機には生かせるだろうさ」
そう言ってうんうんと頷くクレアさん。
しかしそうなると、ヴァルさん辺りが大変だろうなぁ。
「でも、戦闘用では無かったにしても、なんか攻撃手段が付いていた様な?」
「そこら辺は私も知らん。元々の設計図には無かったモノだ」
足から車輪を出して高速移動したり、あの腕を飛ばす機構なんか特にね。
あと身体を発熱させるアレも、場合によっては武器になる。
「まぁ見当はついている。ヴァルの悪い癖だ」
「ヴァルさんの悪い癖?」
「あいつは普段はまともだが、いざ研究開発となると歯止めがきかん。気が付けば作業用ゴーレムが、重槍を持った戦闘ゴーレムに改造されていた事もある」
あー、所謂“マッド”さん何ですね?しかもシエルさんとかレンさんとは毛色が違うタイプの。
「それだけならまだ良いんだが、熱中するあまり元々のスペックを度外視する事があってな?」
「総じてバランスが悪いと?」
「その通りだ。先に話した改造作業用ゴーレム何ぞ、槍が重たすぎて腕が外れた」
「・・・・ヴァルさん、どこか抜けてるんだ」
「普段が普段だから、そうは見えんのだがな」
面白い話を聞いた。ヴァルさんの意外な一面って感じ?
「まぁそんな訳で、晴れてタロス2号機の建造が決まった上、予算もおりたがな」
「アレだけの騒ぎが起きたのに、案外普通なんだね?」
「まぁ、作業用だけでは無く国防にも回しているからな。ああっとそこら辺は機密だから、今のはオフレコで頼むぞ?」
「了解、こっちは何も聞いていない」
ゴーレムと言うのは、簡単に兵器に転用が可能だ。旧来の簡単な命令をするだけのゴーレムですら、防衛とかならかなり手ごわい敵となる。何せ死なないし、特殊な技を用いない剣や弓くらい簡単に跳ね返してしまう。おまけにその重量だけでも、人間とかを簡単に踏みつぶす武器になるんだからなぁ。
「さてと、話をしていたら温室が見えて来たな」
「温室ってよりかは、植物園に見るんだけどね」
「確かにな」
見れば行く道の先に、大きな温室ガラスが見えて来た。この中は温度や湿度を調整出来る術式が組まれており季節の植物が植えられている。温室ってよりかは、確かに植物園と言われた方がしっくりくるであろう。
「それじゃ、僕はこっちだから」
「ああ、またなカナメ」
彼女はゴーレムが作業できるほど大きい温室に向かうらしい。僕は僕で薬品の調合に使う方は、別の温室だからココで彼女とお別れだ。とりあえず立ち並ぶドームの中で一番小さな温室へと向かった。
「相変わらずだけど、ホントゴチャゴチャしてるよな。ココ」
既に何度か来て、勝手知ったるなんとやらと言った感じに温室に入る。中は薬草の種類別に仕分けされてはいるが、その種類が雑多な為、ものすごくカラフル。いやむしろカオスと言うべきか・・・。
「すいませ~ん。シエルさんに頼まれて来たんですけど~!」
「話しは聞いています。適当に持っていって良いですよ」
とりあえず温室を管理している人に許可をもらい。取って来いと言われた植物や薬草を籠に入れて行く。流石にマンドラゴラの様な、命にかかわるような物は指定されていないな。
「そう言えば、ついこの間とったのに、何でこんなに成長が早いんだろう?」
以前、かなり大量にココから薬草を抜いていった事があったんだけど。
次の日に来たら普通に元に戻っていたんだよね。
「もしかして、あの魔法とおんなじ奴かな?」
脳裏に浮かぶのは、以前クノルでイノシシが大量に押し寄せた後の事。血や肉変で大変なことになっていた城門を、一気に元の草地に変えたあの魔法。レンさんのところで探そうと思ったけど、どんな分野に入るのか解らず探すのを断念したアレ。
「・・・そう言えば、微弱だけど精霊さんの気配も感じるような?」
最近ウィンディの力で精霊さんの力を借りていた成果と言うか所為なのかな?この目で見ることは出来ないけど、存在を感じることは出来る様になって来たんだよね。手帳にはまだ記載が出ないから、習得しているって訳でも無いみたいだけど・・・。
「???・・・まだ解んないや。っと、早く戻らないとシエルさんの実験台にされてしまう!」
あんまり遅れるとマジでありえたので、僕は急いで研究棟に戻ることにした。
***
「持ってきましたよっと!」
「あらありがと、じゃソコ置いておいて、貴方はこっちに来なさい」
「・・・・・」
「何よ?」
「モ、モルモッ・・・・」
「モルモットじゃないから安心しなさい。ソレと私はそこまで外道じゃないわよ!・・多分」
多分って!?ねぇ多分って何!?
「煩いわねぇ、あんまり煩いと本気でモルモットにするわよ?」
「・・・ッ・・・!!」
「・・・・ゴメン、実験で気が立っていただけだから、本気にしないで頂戴」
「あ、いいえ。こっちこそ失礼な反応を・・・」
とか言いつつ、物陰からシエルさんの反応をうかがっている僕であった。
「時間は有限なのだから早く来なさい!」
「す、すみません。身体が勝手に反応しちゃって」
そう言いつつ物陰から出てくる僕。
気が付かない内に何度か実験されかけて、既にトラウマってるんだ。
まさか出されたお茶に薬入れてるとか有り得ないでしょ?
「・・・全く、もっと役に立って欲しいから色々と教えると言うのに、あなたときたら・・・」
「め、面目無いです」
「まぁいいわ。それよりも、そこの機材を取って頂戴。あなたにも魔法薬作りを手伝って貰うから」
「りょ、了解」
ここは言われた通りにしよう。僕はフラスコなどの機材を集め、シエルさんの隣に立った。
「さて、これから魔法薬の生成を習得して貰うんだけど、準備は出来てるわね?」
「あ、あのシエルさん、魔法薬と普通の薬品とどう違うんですか?」
呆れられた。嫌だってシエルさん、僕魔法薬関係は素人なんですけど?
「まぁ簡単に分類すると、ただ調合するのが薬品、それに魔法も加えるのが魔法薬」
「・・・案外シンプルなんですね」
「そ、難しく考える必要は無いの。AとBを足したら偶に謎の物体Xが出来る程度よ」
そ、ソレはソレで不安なんですが?しかしシエルさんはそんな事お構いなしに、次々と簡単だと言う魔法薬の生成法を説明してくる。僕は内心ヒーヒー言いながら、急いでメモを取っていった。一度しか教えてくれないからメモを取らないと覚えきれない。
「それじゃ、基礎の基礎の基礎のポーション系からやってみて頂戴」
「りょ、了解です」
そして、待ったなしのいきなりの実践。
なんかスパルタだなぁとか思いつつも、僕はフラスコとビーカーと試験管を手に持った。
…………………
……………
………
アレから夕方近くまでかかり、ようやく基礎の基礎にまで到達できた。
「えと・・この混合液に魔力をあてながら、火の属性を加えて・・・」
流石試作品とはいえ、以前エリクサーまで作り上げたシエルさんだ。
でもそう言えば、何であの薬は放置されてたんだろう?
「ねぇシエルさん」
「何かしら?なにか失敗した?」
「いいえ、ただちょっと・・・・以前ネテの町の廃墟で、シエルさんの作ったとみられる試作型エリクサーを見たんですけど、なんでアソコに放置してあるんですか?」
「あら、貴方アレ見たの?やぁね。若気の至りを見られちゃうなんて・・・」
「てことは、偽物ですか?」
「当たり前よ。液体の賢者の石なんて当時の私だと作れないわ」
ふへぇ~、シエルさんでも出来ない事あったんだ。
「あら何よその目、言っておくけど出来ない訳じゃないのよ?」
あ、作れるんだ。やっぱり凄いなぁ。
「精霊が作れそうなくらい凝縮した、世界を構成する地水火風の4大元素を全て制御して、さらに高密度高濃度しなきゃ作れないないのよねぇ。しかも失敗したらヘタすると辺り一面吹き飛ぶし・・・高密度になっても意識が出て来ちゃったら、ただの精霊に分離しちゃうし・・・」
「もはや薬品の域を超えてますね」
「だから奇跡の薬なのよ」
左様で・・・。
「ところで、手元見て無いとダメよ?その魔法薬変化しやすいんだから」
「え?ああ!?」
見れば手元のポーションは、ミドリの煙を出し始めている。失敗だ。ああ、なんてこったい、せっかくの耐熱ポーションがやり直しかぁぁ・・・。複数の薬品を混ぜ合わせた混合薬を更に別の混合薬と混ぜ合わせなきゃいけないのに。
「あうぅぅ」
「ハイ、やり直しね。明日の実験に使いたいから、耐熱ポーションはあと10個作っておいてね?」
「あ~い、解りましたぁぁ・・・」
ちなみに耐熱ポーションとは、飲むとかなりの熱さでも防ぐことが可能な魔法薬である。火属性の魔法に対しても効果があり、これを呑んだ後はしばらく火属性魔法は効果が薄い。鍛冶屋さんに結構人気のポーションでもあり、オレンジ味などが売られている。
「うぐぐ、ストック無しだからまた最初からかぁ」
正直、魔法薬作るの舐めてました。ものすごく繊細な作業です。
目隠してして針の穴に糸を入れるくらいのね。
≪~~♪≫
「あや?手帳が・・・」
コレは、久しぶりに技能習得でもしたのかな?
「かなめく~ん?急いでねぇ?」
「ハ、ハイッ!只今!!!」
手、手帳みてるヒマが無いよぉッ!!
僕はそんな事を心の内で叫びつつ、作業に没頭する事にした。
***
「ただいま~」
「お帰り、かなめ」
『おかえりなさい、かなめ様』
部屋に戻ると、既に紅とウィンディは戻って来ていた。
なんかお帰りと言って貰えるのっていいよね~。
「どうでした?今日のお仕事」
「疲れたよぉ。まさか講義の後、シエルさんから魔法薬調合を教え込まれるなんて思わなかった」
「あー、道理で何時もより薬品臭いんだな」
そう言ってクンクンと僕の匂いを嗅ぐ紅。
「こーら、はしたないからやめなさい」
「へいへい」
「ヘイじゃなくてハイ」
「はいよ」
もう、まぁ良いけどさ。
「さてと、夕飯作ろうかなぁ」
何時ものようにエプロン姿に・・・・随分とこなれたな。僕も。
最近若干家事の分担表でも作ろうかしらとか考えてたりする。
「ふむ、今日はグラタンと行こうかな」
マカロニに芋に玉ねぎチーズとかクリームもあるしね。マッシュルームはお好みで、後は色々とってね。仕込みは終了。オーブンは無い、だけど作ればいいから問題無し。
「IT・・・いや、別の方法を試してみよう」
ふと思いついた方法を試してみる。大分慣れて来たから、恐らくいける筈。
僕は眼をつぶると、辺りに漂う気配を探る感覚で精霊さんを探した。
(いた)
魔力あげるからグラタン作るの手伝って・・・とイメージした。するとどうだろう、目の前のグラタンが一瞬にして火に包まれたでは無いか。ある程度火が通った事を、精霊さんからの報告で聞き、ありがとうとMPを少し分けてあげた。
空気中の魔力を元にしている彼らにとって、人間の持つ魔力もまた食事の様なもの。
分けてあげると喜ぶと言うのは、ココ最近になってから知った。
≪~~♪≫
「ん?また手帳?」
そう言えば、久々に手帳が更新したんだっけ?
僕はグラタンの皿をテーブルに乗せてから、手帳を開いてみた。
New skill
・魔法薬生成
【叩き込まれた匠の技、繊細な魔力制御がいるが、様々な薬が作れる】
・薬草・薬品知識
【覚えた魔法薬関連知識。このスキルにより、薬品の種類などが解りやすくなる】
・触媒体質?
【ウィンディによって生じたスキル。彼女のお陰でドンドン精霊系に好かれるようになる】
New ability
・精霊祈願
【下級精霊のみだが、頼むと色々してくれるようになった。一部の魔法にMP削減効果あり】
・精霊の瞳
【少しずつだが、世界へのピントを変えられる様になった。下級精霊を感じやすくなる】
――――――ふむ、これまた面白いスキルとアビリティだわさ。
そうかぁ、ついに精霊さんも味方になってくれたって感じか。レンさんとこの本によれば、自然界の精霊は自然そのものらしい。異世界に来たけど、自然が味方についてくれる様になったのなら心強い。
そう思いつつ、僕は手帳を閉じて胸ポケットへとしまった。
ああ、この先どんなことがあるんだろう。久々に愉快な気分になった事に気を良くし、食事を行う僕であった。