表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/61

第34話

~出歩いて…落っこちて・第34章~








クレアさんの覇気にあてられて気絶したエル君を放っておくわけにもいかず、

仕方が無いので、部屋の隅を借りて彼を寝かせておいてもらう事にした。

この子も力はあるんだけど、こういったプレッシャーには弱かったのね。


さて、ただ待つだけではアレだろうって事で気を利かせてくれたクレアさんが、

お茶のお代わりとお茶菓子を出してくれたので、そのままお茶会になってしまった。

タロスの事についてのお詫びは先ほど終わったので、コレは純粋な好意だと言う訳だ。


「すいません。なんだか居座るような形になってしまって・・・」

「はっは、気にするな。その程度で目くじら立てるほど、ワタシは狭義では無いさ」


なんとまぁ、懐の広いお方だなぁ~。


「しかし、このお菓子美味しいですねぇ。どこのお店のヤツかな?」

「ん?そのクッキーを作ったのはソコの男だぞ?」


クレアさんはヴァルさんを指さして、そう言った。


「嘘!?こんなにおいしいのを!?」

「マジかっ!?」


隣でクッキーを口いっぱいにほうばっていた紅も驚きの声をあげる。


「いやまぁ・・適当に粉混ぜて、形作って焼いただけなんだがなぁ」

「コイツはワタシよりも家事が得意だからな。特に菓子は我がゴー研内でも人気がある」


何故か得意そうに笑うクレアさん。


「なんで会長が得意げなのかは問いませんがね。ま、昔から器用だっただけって事ですな」

「照れるな照れるな、誇っても良いぞ?ワタシが認めているのだからな」


言葉だけ聞いたなら、かなり偉そうな言葉なのに、彼女が言うと妙に様になってるなぁ。


「おい、かなめ。是非ともヴァルからコレの作り方を教えてもらえ。いやむしろ習え!」

「ちょっと、首つかんで揺らさないでよ!」

『あらあら、紅さんったら』


どうやら紅はこの味が気に行ったらしい。

後で秘かに教えてもらおう。


……………………


………………


…………


「そう言えば、なんだっけココはあの・・・ゴー、なんだっけ?」

「ゴー研だよ紅、ゴー研。自動魔導人形、ゴーレムを主に研究している」

「そうそう、そいつだ。ゴーレムだっけか?俺達を襲ってきたあいつもそうなのか?」

「・・・・まさか、知らなかった?」

「うぐ、いやだってよぉ。俺ゴーレムなんて見たことないしさ」


どうやら、今まで受け答えしてたのは、ただ周りに合わせていただけらしい。

・・・・やっぱり、ある程度勉強をさせるべきかしら?


「ふむ、ベニは今までゴーレムを見たことが無かったのか?」

「お、おお。何で金属なのに動けるんだ?それが解んなくてよう」


まぁ確かに、全金属製の人形が人と変わらぬ動作で動き周り、おまけに喋るんだもんな。

前にいた世界でも、ロボットとかこっちで言うゴーレムに近いヤツはあったけど。

アレだけ動けて、おまけにパワーがあるロボットはいなかったなぁ。


「なるほど。心配するなベニ。ワタシとてゴー研の長。解りやすくゴーレムについて教えてやろう」

「え?あ、ああ。頼むぜ」


お、どうやらゴーレムについて語ってくれるらしい。


「ではヴァル。頼んだ」

「・・・いや、会長自身が教えるのでは無かったんですかい?」

「はっは、何を隠そう。ワタシは説明べたなのだぞ?」

「はぁ~、解りましたよ。まぁ簡単に言うとだな―――――」


ご本人ではなく、ヴァルさんがゴーレムについて語ってくれました。

普通この流れだと、ご本人からの高説が流れると思っていただけに、

ちょっとだけずっこけそうになったのは秘密だ。


「ゴーレムって言うのはだな魔法刻印や術式を幾柄にも組み合わせて作られる人形の事だ」


彼はそう言いながらも懐を何故かゴソゴソと探っている。


「お前さん達が相手したウチのタロスは勿論のこと、泥人形に術式を込めたマッドゴーレム、岩石を材料にしたストーンゴーレム等がある」

「タロスは、金属で出来ていたぞ?」

「ああ、タロスを含め金属製のもそのまんまメタルゴーレムに分類される。もっともタロスの場合は自律思考が可能なタイプだから、純正のゴーレムとはまた違うんだがな」

「え?動く人形はゴーレムと違うのか?」

「ゴーレムって言うのは、大抵自我の様なものは持たせない。命令された事をただひたすら実行するのが普通なのさ。だから、そう言った意味では、タロスは従来のゴーレムと異なるって訳」


そう言えば、やけに言葉を喋ってたよなぁタロスのヤツ。

自我はともかく、アレは明らかに状況判断が出来る程度の知能を持っていた。


「あと特殊な例で、遺跡とかに置いてある雨水の排水溝として作られた石造に魔力が宿り、長年放置された事で出来た傷が偶然にも魔法刻印を刻んじまって動き出す、ガーゴイルってヤツもある。」

「へー」

「ちなみにガーゴイルの場合は、憑依とかで動き出す事があるから、その場合リビングスタチューって名称になるけどな」

「「そーなのかー」」


ヴァルさんからの解りやすい説明を聞いて、思わず僕も納得してしまう。


「後な?ウチのタロスは東洋からの技術を一部流用している。自我があるのもそのせいだろう」

「東洋の技術?」

「ああ、こっちでは珍しい紙を使ったペーパーゴーレムなんだが、確か何て言ったかな?」


ああ・・・やっぱり、東の国はジパング的なんだ。


「まぁ見た方が速い。ホレ」

「何だコレ?」


先ほどからゴソゴソやっていたヴァルさんは、紅に一枚の紙を投げ渡した。


「お前さんは、気を扱えるんだろう?それを持って気を出してみな?」

「お、おう・・・ハッ!」


彼女は言われた通りに、気を発現させ身体に纏わせた。

その瞬間―――――


「!!なんだ?!力が吸われる?!」

「あー心配すんな。そのままでいい」


気がまるでスポンジが水を吸うかの如く、彼女が持っている紙の中に吸い込まれていく。

紙が光を放ち、良く見れば長方形だった紙が、少しづつ形を変えて行くのが見えた。

やがて光が徐々におさまっていき、不確定だった形がドンドン解りやすい形へと変化する。


「まぁコイツがタロスの機構の一部に流用されている、ここらでは珍しい――――」


≪ぽんっ!≫


「ペーパーゴーレム・・・シキガミだ」


軽い音と共に、小さな人型が現れた。

それは――――


「え?!これって」

「お、俺の姿・・なのか?」

『・・・・』


そこに居たのは、紅そのものよりもどこか幼い感じだが、

まるで生きているかのように動いている、紅の姿をした式神であった。

耳としっぽをパタパタと動かし、あたりをキョロキョロと見まわしている。


「ほう、なかなか愛らしい姿をしているな?」


クレアさんの言う通り、シキガミ紅ちゃんは、どこか幼子の様な感じがして庇護欲を誘う。

ニコニコと無邪気に笑う姿は、まさに幼子のソレであり、

とてとてと、よろめつきながら歩くその姿に、どこか小動物的な魅力を感じさせてくれる。


「これはまた、本当に可愛いね」

「か、かなめ、可愛いって・・うう」


すると、どうだろう。キョロキョロと周りを見ていたシキガミ紅ちゃんは、

僕の顔を見た途端満面の笑みを浮かべた。そして――――


「かなめぇ~」

≪ぽふ≫


舌足らずな口調で、僕に抱きついてきたのだ!

後ずさりながらも、僕は胸に飛び込んできてしまったこの子を受けとめる。


「え?!しゃ、喋るんですか?」

「ああ、だから言ったろ?タロスの機構に一部流用してるって」


僕の驚きとは関係無しに、シキガミ紅ちゃんは頭をぐりぐりとさせて気持ちよさそうにしている。

尻尾なんか、そりゃもうフィーバーしちゃって、ブンブンと音が出るくらいに振られている。


思わずこの子の頭を撫でてやると、これまた気持ちよさそうに目を細めた。

・・・・・暖かい。コレが式神だなんて、ちょっと信じられないなぁ。


「随分とよく動くんですね?」

「まぁ、向うじゃ身代わりを任せたりするらしいから、結構本物っぽく出来てるんだよ」

「へぇそうなんだ・・よしよし」

「・・・・(うらやましい)」


撫でてもらう事が気に行ったのか大人しくしているシキガミ・・シキ紅ちゃん。

そして、何故か羨ましそうな目でシキ紅ちゃんを見ている紅本人。


「ココまで愛らしいと、ぜひ一匹欲しいと思ってしまうな」

「ええ、確かに・・・」

「わう?」


クレアさんの言葉に反応して、頭をクイッと傾げる仕草をするシキ紅ちゃん。

な、なんだろう、ほわわわ~んとした気分になって来た。


「ぬぅ、なかなかの威力だ」


クレアさんも、どうやらおんなじことを感じたらしい。


「まぁこういった風に、知能があるゴーレムもある・・・ところで後ろの人、大丈夫かい?」


相変わらず、飄々とした態度を崩さないヴァルさんに関心しつつ、後ろを見やる。

後ろの人っていったら、ウィンディしかいないんだが・・・。

見ればウィンディの視線は、ずっとシキ紅ちゃんに固定されたままだ。


「えーと、ウィンディ?」

『・・・・・』


うわ、微動だにしないよ。よし。


「この子、だっこしてみる?」

『!!』


思いっきりブンブンと首を縦に振るウィンディ。


「じゃ、落さない様にね?」

『コクコク』


もはや喋る事も忘れたかの様に、シキ紅ちゃんをそうっとだっこするウィンディ。

キョトンとしていたシキ紅ちゃんは、相手が見知った相手だと解ると途端笑顔になった。

そして――――


「うぃんり~!(ぐりぐり)」

『!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!グハッ!!』

「吐血ッ?!ちょっ!ウィンディ!?」


舌足らずな口調で名前を呼び、彼女に抱きつくシキ紅ちゃん。

そして、スリスリ攻撃を受けたウィンディは吐血した。


一瞬倒れるかと思ったが、手の中にシキ紅ちゃんがいるのを思い出したのか、

ハッとした表情になり、そのままソファーの方にポスンと腰を下ろしたウィンディ。

シキ紅ちゃんは、その動きが面白かったのかキャッキャと笑っている。



『・・・わっ・・・・』

「「「わ?」」」

『我が生涯にッ!!一片の悔い無しぃぃぃぃぃッ!!!―――ガハッ!!』

「ウ、ウィンディィィィィィ!!」


彼女は叫び終えると、再度吐血。そのままソファーへと轟沈した。


………


……………


…………………


「ウィンディ!!ダメだ、気絶してる」

「それでも、コイツから手を離さないのは流石だぜ・・・なんか複雑だけどな」


ちなみにシキ紅ちゃんは何が起きたのか解らず、相変わらずキョロキョロしてたりする。

あ、吐血とは言ったけど、彼女の場合は赤い水であった事をココに述べておく。


……………………


………………


…………



「――――――あー、まぁゴーレムに関する事は以上だが・・・あんた大丈夫なのか?」

『全然平気です♪』


先ほど思いっきり吐血してぶっ倒れたばかりだと言うのに、

満面の笑みを浮かべて膝の上にシキ紅ちゃんを乗せている彼女。

正直、引く。


「ま、まぁ本人が平気って言うのなら、別に良いんだが、いい加減返し」

『なんですか?何か言いました?』

「・・・いや」


どうやらまだモフモフしていたいらしい。

・・・後でちゃんと返すように言っておかないと。


「―――――ん?ここは・・・?」

「お、かなめ、エル坊が気が付いたみたいだぜ?」


おお、ようやく目を覚ました。

しかし、アレだけ騒いでいたのに、なかなか起きなかったねエル君?


「む?気が付いたか。エルダー」

「・・・あ、クレアさん、コレはご迷惑をおかけしましたです」

「ふむ、気にするな。ワタシの覇気を受けて、耐えていられる者はそうはいないからな」

「でもかなめさんとかヴァルさんは、気絶していなかったのに・・・」

「まぁコイツは慣れってヤツだ。気にしたら負けだぞ?エルダー君」


若干悟った様な顔で語るヴァルさん。

ああ、このヒトもかなりの苦労人なんだなぁ・・とか思った。




***




「さて、エルダーも気が付いた事だ。そろそろお開きとしようか」


しばらくして、

ヴァルさんにあのクッキーの作り方を伝授して貰っていると、クレアさんがそう切り出した。

そう言えば、気が付けば外は既に茜色に染まっている。


「そうですね。今日のところは帰らせてもらいます。お茶とお菓子ありがとうございました」

「ごちそうさまです」

「お、帰るのか?それじゃヴァル、クレア、またな」

『ごちそうさまでした♪(ふふふ、術式は理解したわ・・・)』


帰る準備をして、部屋から準に出て行く。

パタンと扉を閉めて、僕たちはゴー研を後にした。



帰り道の途中で、疲れた顔をしたエル君と解れ、僕たちは自分たちの部屋へと帰っていく。

しかし、魔法学校に来て二日目でコレか・・・死にはしないだろうけど大丈夫だろうか?

なんとなくココでの生活に、不安を覚えた1日であった。








*おまけ:かなめ達が帰った後。


「・・・ふむ、しかし彼らはなかなかの人材であったな」


「ですな。この学園の生徒で無いのが悔やまれますわ」


「ふふ、確かにな。特にかなめと言ったか?彼ならばワタシの右腕にふさわしい」


「・・・以前エルダーにしたみたいに、いきなり入部届け持って突撃はしないでくださいよ?」


「む、失礼な。幾らワタシでもそこまでの事は―――」


「文字通り物理的に突撃して、針路上の建物を崩壊させた人に言われたくはありませんな?」


「ぐ・・」


「おまけにソレの修繕費は、我が研究会からの出費でしたしね」


「・・・解った。彼らには手を出さんさ」


「(出す気はあったのか・・・ああ、でも研究材料としても申し分なかったな彼は。おしいな)」


「だが、ワタシ個人として気にいった!それならば懇意にしても問題はあるまい?」


「会長がなさりたいようにすればいいのでは?個人的になら俺もですがね(研究対象として)」




――――かなめくん、何故かトラブルの芽は尽きない様だ。彼の明日はどっちだ!







ウィンディが・・・。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ