第2章
やっと少し戦闘…+大幅増量&改訂しました。
~出歩いて…落っこちて・第2章~
――さて、突然ですが皆さん。人が森で遭難する原因をご存じですか?
ある一説によると、森の景色は同じなため、本人がまっすぐ歩いているつもりであっても徐々にずれている事があるそうです。その所為で同じところをぐるぐるぐるぐる廻り、そのまま力尽きるという事が起こるらしいです。
で、何故今になってそんなことを話題に出したのかというと・・・・。
「ねぇ紅、道解ってる?」
「(へ?かなめが知ってたんじゃないのか?)」
「いや、僕は紅が前を歩いているから、それに付いて来ただけだけど?」
「(俺はかなめが行きそうな方向に歩いて来ただけだし、それにココは異世界だから道なんて知らないぞ?)」
どうやらお互いにお互いの進行方向へと自然に足を向けていたらしい。
何と言う無計画、先の動揺がいまだ抜けきっていなかったようだ。
そして同時に、とある事実に気が付き、途端顔が青ざめる僕。
「――落ち着こう、こういう時は慌てたらいけない。死んだ爺ちゃんも言っていた」
「(お前の爺さん何モンだ?つーかよぉかなめ、)」
「・・・・・なぁに?」
「(迷ったのか?)」
「・・・・・そうなんです」
もう、いきなり異世界で初遭難ですか?!と、地団太を踏んだところでどうにもならない。
遭難した時に一番してはいけない事は慌てることだ。
慌てたヤツから、深刻な事態に突入してしまう。状況を整理しなければ・・・。
とにかくやることは一つ、しんこきゅーしんこきゅー、スーハー。
しばらくして落ちついたは良いが、どちらにしろ事態は好転して無い訳で――
「―――むぅ、暗くならない内に森を出たかったけど、もうすぐ日が暮れちゃうよ」
「(俺は暗くても平気だけど、かなめは人間だからそうもいかないよなぁ)」
「・・・・とりあえず、もう少しだけ進もう。暗くなる前に森を抜けられなかったら木の枝でも集めて焚き火でもするさ」
「(焚火ね・・・・どうやらもっと早くに気が付いた方が良かったみたいだぜ)」
まぁ、この後どうするかも決まり、いざ行こうとした時だった。
突然紅が辺りを警戒し始めたのである。一体何なのかこの時の僕には解らなかった。
だがソレもすぐに訳を知ることとなった。
≪ガサガサ…≫
「「!」」
何かが動く気配、いままで全く生き物には合わなかったからこれが初遭遇だ。
しかし、薄暗い森の中で聞く、木々が擦れる音と言うのは、どこか凄まじく薄ら寒い物がある。
これは原初の恐怖とでも言えばいいのか、とにかく恐ろしく感じられる。
【グルルル…】
――しかも、どう考えても友好的な感じもしない・・・。
むしろ対面したら頭からマルカジリなイメージが脳内を駆け巡るという不吉な感じしかしない。
これはもうこの後の行動は決定されたね。
「ま、まさか猛獣?それとも魔獣?!――どっちにしても良い事なーい!」
「(どうするかなめ、戦うのか?逃げるのか?)」
「そんなの決まってるでしょ!」
僕は音のする方を確認し、両足脚に力を込める。いつでも動ける様に足を軽く開き、今この場でどうすべきかを考え、それをすぐさま実行できるようにした。・・・・そして。
「戦術的撤退だぁぁぁ!!!」
「(お、おい!・・・たくしゃーねぇな)」
思いっきり反対方向へと逃げだした。だって怖いんだもん。
人気の無い暗い森の中で何かが近寄ってくるだけでも怖すぎるんだよ。
紅も後から僕を追いかける様にして駆けだし、僕らは音の下方の反対へと逃亡したのだった。
***
さて、あの場から離れる為に走り始めてから気が付いたんだけど、やっぱり自称神が言っていた、僕の身体に手を加えたというのは本当らしい。さっきからかなりのスピードで、かれこれ40分も走ってるのだが、体力の限界はおろか全然息切れが来ないのだ。感じ的にまだまだ走り続けられそう。
紅もどうやら同じらしく、自分の肉体の変化にちょっと戸惑っている。
そう言っている僕も信じられないくらいの身体能力の上昇に戸惑っている。
今まで水中の中で錘付きの手枷をつけられて生活していたのを、唐突に外したらこんな感じじゃないだろうかと思ったくらいだ。
それと、どうやら身体能力の向上にあわせて反射神経とかも能力が向上しているらしく、木と木の間をすり抜ける際、スピードを落とさずそのまま走りぬけることが出来る。これが元々居た世界なら“すっごい!僕忍者!?”と歓喜して喜んだところだろうが、残念ながらココは異世界。
そう思うと・・・なんかちょっと落ち込む。
とりあえず、さっきの場所からかなり離れたので、もういいだろうと思いスピードを落とす。辺りはもう暗くなり始めていたが、あれだけは知っても森を抜ける気配が無かったので、どうやらココは相当大きな森らしい事が解った。
森の開けた所を歩いて行くと、足元が砂利のようになり近くから水の流れる音が聞こえてきた。音の感じからすると川らしい。やみくもに歩きまわっていても、埒が明かない為、飲み水が確保できるかも知れないと思い、水の流れる音が聞こえるほうへと足を向けた。
しばらく進むと、小川へとたどり着いた。どうやら豊富な水源から湧水溢れてが川を作っているらしく、川底から水がボコボコ湧いて出てきており、とても澄んだ水だった。喉が渇いており、若干生水を飲むことに抵抗があったが、ええいままよ!と言う感じで、湧水を飲んだ。
息切れはして無かったとはいえ、それなりに運動した程度の疲労感があった僕の身体に、冷たい湧水は滲みこむように感じられた。もっとも、紅はそんな事お構いなしにがぶがぶ飲んでいたんだけどね。
とりあえず、一息付けたって感じで、近くにあった岩の上に腰かけた。
むぅ、しかし日が暮れて来た。暗い森の中を動き回るのは危険かな?
幸いライターはある。火を起すことくらいは出来る。
くらいと不安だがある程度灯りがあれば、それも少しは安らぐかな?
「―――紅、今日はココでキャンプしようか?」
「(さんせい、もうクタクタだぜ)」
無謀な事にキャンプ用品も無しでキャンプ宣言。こういった場合は野宿が正しいと思うんだけど、なんとなく気分的にキャンプと言いたかったのでキャンプと言う事にした。別につらい現実から目を逸らしたいと言う訳では無い。断じて違うと・・・思いたい。
―――だが皆さん知っているだろうか?
―――水飲み場というモノは得てして生き物が集まりやすい。
―――そしてその生き物は草食獣だけでなく・・・
≪ガサ・・・ガサ・・・ブホブホ・・・≫
「「!」」
草食獣を狙う―――肉食獣も多いと言う事を・・・
草が擦れる音が聞こえ慌てて森のほうへ振り向くと、藪から巨大な牙を持つイノシシの様な生き物が、にゅっと顔を出した。だが、普通のイノシシより4倍は大きく、目が紅く光っており、恐らく魔獣だと思う。そいつは鼻をフゴフゴと動かし辺りの匂いを嗅いでいたのだが、風向き的にこちらの匂いを感じ取ってしまったのだろう。
【・・・ブギャァァァァァァァ!!!!!】
唐突に辺りの草木が震えて、木の葉が舞うほどの大声で雄たけびを上げたのだ。
あまりの声のでかさに、耳がキーンとして体がガクガクと震えてくる。
今まで生きて来て感じたことが無い感覚。逃げなければと本能が叫び声をあげていた。
だが問題は・・・後ろは川で前には魔獣のお陰で逃げられないというこの現実。
文字通りの背水の陣なのだ。
川を越えて逃げたいところであるが、小川とは言え湧水が湧きでている為それなりに深い。
おまけに辺りが暗いので、流石に飛び込むのは自殺行為だ。おまけに気温的に絶対寒い。
今の時間帯に体が濡れることは体力の低下が著しい・・・ってなことを考えている余裕なんてない。
只単に寒いからいやといまだ考えていたからだった。
命の危険が伴っていた為変な風に思考がずれていたのである。
【ブゴォォォ・・・・】
イノシシは足をカッカと地面に突き立て、途端此方へ向けて突進してくる。
そのスピードは車と同じくらいかそれ以上で恐ろしく早い。
僕はヒッ!と声を上げてかたまる事しかできなかった。
「ワン!(かなめ!このバカ!)」
ドンと押しのけられる感覚と共に、僕は横に吹き飛ばされた。
紅がタックルをしてくれたらしい。その直後―――
≪ドンガラガッシャーン!!!≫
突進してきたイノシシが、今まで僕が乗っていた岩をモノの見事に小石へと変換してくれた。
あと数秒遅ければ僕もあの岩同様に、潰されていたかもしれない。
腰が抜けていないだけマシだが、恐怖に縛られて身体が震える・・・怖い。
「がうぅ!!ぐるるるるる――――!!」
牙をむき出しにした紅がイノシシを威嚇する。
だがイノシシはそれに全く動じず、再び蹄を鳴らしてこちらへと突進してきた。
今度は自分で横に避けるが、砂利に足を取られてスライディングしてしまった。
お腹が擦れて地味に痛くて涙が出る。
「(余所見すんな!来るぞ!)」
だが、イノシシは待ってはくれない。
見ればすでにまた突進しようと身構えている最中だった。
「そ、そうだ魔法!!」
ふと自分は魔法が使えたことを思い出す。木々を貫通する威力があるのだ。
当てればあのイノシシですら殺せる筈だ。そう思った僕は拳を前に突き出し、「ブラスト」と魔法を唱える―――だが魔法が発動しない。
「あ、あれ?ブラスト、ブラストォ!」
何度やっても発動しない。おかしい、あのときは確かに発動したのに!
そう思いつつも手をかざして声を荒げるが、その手から魔法が放たれる事は無かった。
突進してくるイノシシを前に、怖くて声が震えてくる。
気が付けばもう避けられない程近くにイノシシが迫って来るのが見えた。
イノシシは恐怖ですくんで動けない僕目がけて、まるで暴走特急の如く突進し・・・。
「(ッ!かなめ!)」
「へ?」
いきなり紅に突き飛ばされた。驚いて紅の方を振り向くと―――
「ぎゃいん!」
赤いモノが飛び散るのを見た。イノシシの牙の先から紅との間に赤いモノが線を引いている。
今まで僕がいた場所をイノシシが通り過ぎ、そこから逃がす為に紅が僕を突き飛ばしたのだ。
その赤いモノの正体は・・・紅の血液。
「え?べ、べに?」
「(――バカ野郎・・・ぼうっとしてねぇで、逃げ、ろ)」
息も絶え絶え、血が沢山流れている。
に、逃げろって言われても、紅を置いて逃げるなんて・・・できないよう。
「(いいって、逃げろ・・俺ぁこう言ったのに、なれ、てるからよ!)」
「だって、でも!」
「(どうせ、今日会ったモン同士、じゃねーか。別にそれ程の間柄じゃ、ねぇだろ?)」
その時、僕には紅が何処か笑っている様に見えた。
犬の顔が笑っている様に見えるというのもおかしいのかもしれない。
だけどその時は確かに笑っている様に見えたんだ。
【ブゴォ、ブギュルルル――!!】
「(ほれ、奴さん、も殺る気まんまんだ・・・お前だけでも逃げ、とけ)」
そういうと紅は僕をかばうかのように、震えながらその身を起した。
なんで?なんでさ?口ではそう言っておいて、なんで僕を“守る”かのように立つのさ。
紅に読心が出来るとは思わない、だけど僕が思っていることが解るかのように紅が笑う。
「(・・・ま、袖触れ合うも、何かの縁さ・・・見ればわかるだろ?俺の傷結構深い)」
ハッとなって紅の傷口を直視する。
イノシシの牙によって、まるで刃物で切られたかのように一文字に傷跡が見える。
そしてそこから止まることなく赤い液体が流れ落ちているのも見えてしまう。
もしも、あの時に紅がかばってくれなかったら?
そうなれば血まみれで倒れていたのは僕かもしれない。
いま、逃げることは簡単だ。イノシシの意識は手負いの紅に向いている。
イノシシを刺激しない様にゆっくりと下がって森の中に逃げ込めば・・・
少なくてもあの突進は木々が邪魔するから出来なくなるから逃げられる。
「―――ッ」
今僕は一人で逃げようと思った?
このたった一匹で、敵に立ち向かっている紅を見捨てて?
心の奥からソレで良いのかと疑問が浮かぶ。
・・・・だけど、怖い。獣でしか無い筈のイノシシがたまらなく怖い。
掌は汗で濡れてるし、脚がかくかく震えている。
い、命の危機を感じているって事なの?
【―――ブギ、ブギ・・・・ブギィィィィィ!!!】
唐突に突進を再開したイノシシ。
土埃を上げて走るソレはまるで戦車のようだ。
「(・・・はやく、にげろって)」
「・・・・・・」
紅が僕に逃げろという。
僕の中の本能も逃げろとわめく。
そして、そんな中で僕は――――
【ヴギィィィィィ!!!!!】
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「(ば、か。捨てて、にげろよ)」
―――――僕は、あったばかりの僕を守ってくれた紅を抱え、森の中に逃げ込んだ。
…………………………
……………………
………………
「ハァ・・・ハァ・・・・」
森の中に飛びこんだ僕は、息を整えながら茂みに隠れ、イノシシが追いかけて来ないか様子をうかがう。強化された肉体だったけど、周りは既に夜。流石に暗い森を駆け抜けられる程じゃ無かった。
そして僕の横には苦しそうにしている紅が居る。上に来ていた服を脱いで、包帯代わりに傷口に巻きつけてあるけど、医者じゃない僕はコレしかできなかった。
元々黒い服だったから余り目立たないが、血で湿り気を帯びていた。
「ハァ・・・ハァ・・・(落ちつけ、落ちつくんだ僕・・・あの時、どうやって魔法を使った?)」
茂みに隠れながら、僕は魔法を使った時のことを思い出そうと必死だった。
焦り、と言っても良いのかもしれない。
こちらにゆっくりとだが確実に近づく何かを感じていたからである。
ソレが気配を察知するという事であったのだが、まだこの肉体に慣れていない僕が知る由も無い。
「魔法は・・・ビームみたいだった。んで最初は・・・上手く出来無くて・・・」
そう、手帳に、手帳に書かれたことを実践したんだ。
その事を思い出し手帳は何処かと思ったんだが、手帳は何と紅に巻き付けた服の中だった。
あれでは取り出せないだろう、そうなるとやった事を思い出すしかない。
やった事は、そうイメージだ。魔力という何かを集めるイメージ。
僕はとにかく願った。魔力よ集まってくれ!思わず右手を凝視する。
するとどうだろう、覚えがある感覚を感じた。
集まれ集まれと、ただ集めるイメージを強く思い描く。
最初は小さいソレは大きくなる。やがて手は見覚えのある光りで覆われた。
ソレは漠然と解る、腕に宿るセントエルモの火の様な光、それが魔力・・・。
【――――ヴギィィィィィ!!】
「不味い!見つかった!」
すぐ近くで響く鳴き声、僕は紅を抱き寄せようとするが、その時に気がついた。
血が流れ過ぎている、服を当てた程度の止血じゃ間に合わない。
そして気がついた、イノシシはこの血の匂いを辿って来たのだと・・・。
――――たかが犬だ。捨ててけばいいじゃん。
紅は命の恩人、ソレを捨てて行くなんて―――――
―――――死ぬのとどっちが良いんだ?ただ置いて行くだけさ
・・・・見捨てて逃げるなんて出来ない―――――
一瞬の葛藤、相変わらず僕は臆病だ。
イノシシという敵を相手にして、逃げることばかり考えている。
本当に怖いのだ、こちらに向かって来るイノシシが向ける牙。
ソレを見ただけで紅がやられた瞬間が脳裏に浮かぶ。
そして次は自分もそうなるのではと、思い浮かべてしまう。
「・・・・でも、逃げない」
ココまで連れて来たのだ。逃げているなら最初から逃げてるさ。
大体この暗い森の中、何処に逃げるって言うのさ。
暗い夜道を走って逃げ回ることは、今の僕には出来ない。
死にたくないなら、戦うしか無い。
僕は河原で拾っていた木の棒を思わず握りしめる。
あの巨体相手に木の棒一本で挑むなんてバカみたい。
だけど無いよりはましな筈。
僕は逸らしたくなる目を逸らさず、キッとイノシシを見据えた。
奴が、イノシシが走って来るのが解る。森だからか、突進程の速さでは無い。
以前なら見えなかっただろうソレも、今の僕には見ることが出来る。
怖いけど、身体が震えるけど、止めなきゃ。
【バォォォォォォォ!!!】
「・・・・そ、そこ!」
イノシシは真っ直ぐ僕へと走って来る。牙を叩きつける気なのだろう。
鋭利な刃物の様に鋭い牙が叩きつけられれば、僕の身体を簡単に切り裂く。
牙が迫った時、震える身体をなんとか動かし、僕は横に跳んだ。
恐怖ですくんでいたからか、思ったよりも避けられない。
≪――ドンッ!≫
足に走る衝撃、イノシシ牙が足に触れたのだ。
そして足から液体が出ている感じがしたが、無理矢理思考から追い出した。
認識すれば、余計に身体が委縮してしまうと無意識で感じたからだ。
イノシシはそのまま木々へと頭をぶつけて木々をなぎ倒した。
突進と言う訳では無いので、木々が粉砕されてるといった事は無く、そのまま真っ二つに折れる。
だけどその一瞬、間違いなくイノシシは停止していた。
「い、けぇっ!ブラスト!!」
解放のイメージ、途端僕の腕から光りが伸びてイノシシへと迫る。
魔力を集めることをイメージすると、ソレを吐きださないと何時までも堪り続ける。
攻撃を受けている間も、僕は魔力を手に込め続けていた。
そして腕から出た魔力は拡散しつつもイノシシへと直進し―――
≪ドーンッ!!!≫
―――腕の太さ程度の光りの棒がイノシシの腹をつきぬけていった。
***
「紅!大丈夫か!起きて!寝たらダメだって!」
イノシシは倒したけど、紅が結構な重傷だ。
血も結構流れているし、かなり苦しそうなのが見てわかる。
「(うるせぇな・・・クソ、ところどころイテェ。というか魔法使うなら最初から使え阿呆)」
「うぅ、ゴメン・・・」
早いとこ治療を施さないと、このままじゃ紅が危険だ。
その時、胸からまたあの軽い音が聞こえた。手帳を見ると、どうやらレベルが上がったらしい。
ただし一気にレベル6になっていた。あのイノシシを倒したからだと思う。
「なに?スキル?・・・も覚えたのか?」
・スキル魔力操作 A
【このスキルはイメージによる魔力の操作を容易にする。今まで以上の威力の魔法が使用可能】
――コレは間違いない。僕は魔法使いへの道を進んでいる。
しかしなぁ、思いつきとかイメージで魔法を作り上げるのか?
明確にイメージすればもしかしたら幾つか覚えられるかもしれない。
「(うぐぅ、イテェ)」
「は!そうだ紅!」
どうしよう。怪我の治療の仕方なんて僕は知らない。
こういう時に魔法が使えたら・・・。
「・・・・試してみよう」
ダメ元で試すことにする。そう言えば魔法を使った時にはイメージが大切だった。
もしかしたら強いイメージをすれば、回復魔法くらい使えるかも知れない。
必要なのは回復魔法!何でもいい、兎に角傷を癒せる力を意識するんだ。
僕はそう思いつつ、紅の傷に手をかざした。イメージはこうゲームで良くある感じで・・・・。
腕を対象に近づけてそこから緑もしくは白い光を出して、傷を治す。
呪文を入れてもいい「癒しの風よ、癒せ。」みたいな感じで・・・。
ただ死なせたくない一心で、イメージを強めたのだった。
「(・・・おい、何したんだ?傷がどんどん治っていくんだけど?)」
「へ?」
見れば傷口が動いて・・・うぷ。ちょっとグロテスクである。
でも、どうやらイメージはアレで良かったらしい。
僕の手から光が溢れ紅の傷を覆い、徐々に傷を癒していくのが感覚でわかった。
「(有り難いな。正直動くのも痛かったんだ。ありがとうかなめ)」
「あ、いやそれ程でも無いけど。」
そしてまた手帳から、あの独特の音が聞こえた。
手帳を見れば魔法の欄に新しく魔法が追加されている。
・回復魔法キュアウィンド 消費MP 60 必要CP30
【癒しの力のある風を対象に向けて放ち傷を治療する】
やっぱり直感やイメージで魔法を構築する事が出来るらしい。
そして一度構築した魔法の術式やらが脳内に叩きこまれていくのが解る。
コレは実に良い発見だ。これで色々な問題が解決できるとおもう。
「(おーい、考えてないで出来れば治療を続けてくれ~)」
「あ、うん。解った」
この後しばらくキュアウィンドを使い、とりあえず紅の治療を終えた。
なんとか紅を助けられて人汗ぬぐったり、服が大変なことになって泣きそうな僕だった。
しかし、安心したのも束の間、とても大切で大変な問題にブチあったった。
「お、おなか減った・・・」
「(俺もだ。血が足りねぇ・・・)」
現在僕は猛烈な空腹に襲われています。
「ま、魔法使った副作用かな?」
兎に角お腹が空いてくる。まるで錐で腹を突かれているみたいである。
背中とお腹がくっ付いたという歌って、案外的を得ていると感じたほどだ。
しかし、残念なことに今僕は食べるモノを持っていない。
おまけに既に周りは夜である。食べ物を探しに行ける状況でも無かった。
「(・・・・なぁかなめ、あのイノシシ食えないのか?)」
「え´・・・アレを?」
どうしようか悩んでいると、紅がそう提案してきた。
いや確かに見た目は動物だけど・・・あれって魔獣だよ?
僕だって動物はさばいたこと無いし・・・でも物凄い飢餓感・・・。
背に腹は代えられないか。
「ええい、ままよ!」
懐から十得ナイフと取り出した僕は、イノシシの死体に突き刺した。
新品であった事もあり、何度か突き付けてなんとか分厚い毛皮を切る事に成功した。
少しずつ肉を削り、股関節と思われる部分の筋を切り、脚を切り落とす。
イノシシの血液が僕に降りかかり、非常に気持ち悪かった。
だけどそれよりも食べたいという欲求が強かった。
なんとか切り落とした4本の脚を持って、その場を後にした。
そしてあの河原にまで戻って来た僕は、そこらの枯れ木を集めた。
乾燥して軽くなっていた大きな木の下に、これまた乾燥した枝を敷き、ライターで火をつける。
≪―――パチ、パチパチ・・・≫
よ~く乾燥していたお陰か、簡単に火がついた。
そして火がついたのを見て、僕はどこか安堵感を得た。
火と言うのは使い様に寄っては便利だし、動物が近寄って来ない事を知っている。
だから安堵出来たのかもしれない。
ある程度火が大きくなったら、適当に拾ってきた枝に、川の水で洗った肉をブチ刺す。
血抜きの仕方なんて知らないから、ただ洗っただけだ。
血が付いて不快だった服も上とかを川で一応洗い、現在火の近くに置いて乾燥中である。
ある意味元祖ステーキを造りつつ、しばらく火の前で待った。
良く火を通さないと危険な気がした為、表面が焦げるくらいにまであぶった。
しばらくして表面が完全に焦げた焼き肉が完成した。
「(かなめ、食べねぇのか?)」
「・・・う~んと、なんて言うか」
飢餓感に耐えかねてココまでやってしまったが、考えてみれば塩とか調味料無しである。
只焼いただけの肉なんて食べたことが無い・・・た、食べれるんだろうかコレ?
「(腹減ってんだったら食えばいいだろうが、食い物があるならとりあえず食ってから考えろ)」
そう言って紅は肉をそげ落したイノシシの骨にくらいついていた。
そのワイルドさ、少し分けて欲しいよホント。
紅に言われて、手にした串焼き肉の焦げた部分をナイフで削り取った。
中には脂が乗り、よく火が通った肉がたき火に照らされて見えている。
見た目だけならば、かなり美味しそうだ。
「・・・・南無さん!」
意を決した僕は、そのまま肉にくらいついた。
あふれ出る肉汁が口いっぱいに広がっていくが、血抜きがされていないので臭い。
だが、我慢すれば食べれない程でもなかった。
この時本当にお腹が減っていたんだと思う。
とにかく口に頬張った肉を咀嚼し、胃の中に送りこむだけしか考えなかったのだ。
そして、最後の串焼き肉を平らげて、川の水を飲んで一息入れた。
「・・・・ごちそうさまでした」
「(な?食ってから考えりゃいいんだ。そうすりゃ大抵上手くいく)」
「うん、まぁね。思ってたほど不味くは無かったかな」
魔獣の肉は普通に食べれることが判明した。
確かに見た目動物だし、案外味も似たり寄ったりなのかもしれない。
しかし、やはり味には不満があるので、なんとかしたいところである。
さて食事を終えて一休みしている時、僕は紅にある提案をしてみることにした。
「ねぇ紅」
「(ん、なんだ?)」
「僕、今日の事で思ったんだけど・・・しばらくココを拠点に活動した方がいいと思うんだ」
「(そいつは野宿とかそう言うのをするって事か?俺は良いけどかなめは人間だろ?大丈夫なのか?)」
う~ん、実を言えば野宿なんてしたことは無いんだけど・・・。
「思ったんだけどさ。例え森から出ても、何処に行けばいいのか解らないんだ。もし人の町があるとしても、何処にあるか分からないなら行きようが無い。それに、さっきみたいな魔獣が同宙現れたら今度こそ死んじゃうと思う」
イノシシは群を作ることがある生き物だったと思う。
もし、森の外であのイノシシ並に強力な魔獣が群を作ってたら確実に食われる。
流石にソレだけは遠慮したいのだ。
森の中なら隠れ場所もあるし、あの厄介な突進とかはして来れないと思うしね。
「今の僕達のLVじゃあこの先何があるか解らないし、もし、何かあったら対処できないと思う」
「(まぁ確かになぁ・・・あのイノシシ並みの奴が沢山いたら、この先苦労するかもなぁ)」
「広い草原みたいなところで、あんなイノシシに集団で襲われたら、今の僕たちなら簡単に殺されるだろうしね。」
「(様するにかなめはココでLVを上げようってんだな?)」
「うん、ココなら身を隠せる所もいっぱいあるし、森の中ならあの突進もあまり使えないと思うんだ。もしかしたらもうチョイ弱いヤツもいるかもしれないし、LVを上げといて損はないと思う。」
レベルアップのシステムがあるのはさっきの戦闘で確認してある。
その恩恵からか、レベルアップ前よりも感覚が鋭くなった気がするのだ。
今ならイノシシを倒す前よりも早くイノシシを倒せると思う。
そう伝えると、紅は少し考えている仕草をする(多分だけどね)
そしてすぐに答えを出してくれた。
「(いいぜ、別にどこか行かなきゃならないって訳じゃねぇしな。それに俺も、あのイノシシにはふっ飛ばされた恨みがある。その礼をアレの同族に帰してやりてぇからな。)」
そう言うと紅は動猛な笑みを浮かべた。
さ、流石はもと野良犬さん・・・ちょっと怖い・・・。
「話が早くて助かるよ」
結構、紅は恨みもつタイプだと理解した・・・注意しとこ。
「(で、ココでLV上げするのはイイとして、これからどうするんだ?)」
うーん、そうだな。
「とりあえず雨風防げる場所を探そうと思う。今日はいいけど雨とかに濡れるのは身体に悪いしね」
「(賛成だ、いつまでも寝床無しじゃ辛いからな)」
「じゃあ、明日する事は住処探しで決まりだね!」
「(そうだな・・・ところで今日はもう休まないか?俺もう眠いんだ)」
「じゃあしばらく僕が火の番をするから、しばらく経ったら交代ね?」
「(ふわぁ~・・・りょうか~い)」
とりあえず明日に備えて、交代で火の番をしながら休むことにした。
幸い河原には沢山の枯れ枝が乾燥した状態で落ちている。
その中でも丸太の様に太い木の枝を探し出し、火の勢いが強い内に焚火にくべた。
消えないか心配だったが、乾燥していたお陰で丸太にも火が燃え移った。
コレでしばらくの間、枝をくべる必要が無いから安心だろう。
紅が寝息を立てているすぐ横に座った僕は、日本ではそうそう見られないであろう星空を眺めながら、今日の事を思い返していた。異世界に来て最初の夜、今日だけでかなりいろんなことがあった。正直、生き残れるかは微妙だけどこの世界に魔王でもいなければ問題は無いと思う。
そんな存在はいない事を願いつつ、火の番に徹する事にしたのであった。
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