第27章
~出歩いて…落っこちて・第27章~
さて、ようやくクノルの町に戻ってまいりました。
帰りは敵さん出て来んかったので、楽なモンだったわ。
しっかし9日も町に居なかったから、なんか懐かしいなぁ。
「今回の旅もコレで終わりかぁ」
「コレで終わりかと思うと、なんか寂しいモノがあるね」
「キースさんもそう思うんだ?」
「そりゃね。短い間だったけど、同じ釜の飯を食べた者同士だし」
「いえてる」
まぁ同じ釜の飯を食べて倒れた者同士、仲間意識の一つ芽生えるわなぁ。
キースさんと談笑していると、今度はシエルさんが寄ってきた。
「あら、二人して内緒話?」
「おろ、シエルさん。まぁ内緒話ってほどでも無いんだが…」
「うん…もうすぐ旅が終わると思うと…ね?」
「ああ、成程。でも案外別の仕事で一緒になったりしてね」
「確かにありそうだ」
ギルドは色んな仕事を請け負っているからねぇ~、確かに有り得ない話じゃ無いね。
「もしそうなった時は、またよろしくな!かなめくん、紅ちゃん、ウィンディ!」
「おう、任しとけ!」
「こちらこそ」
まぁ一緒に仕事する事になったら、キースさんはよ~く見張っておかないとね。
只でさえ道に迷いやすいんだから、フラフラされたら敵わないよウン。
「ねぇ、ウィンディって誰?」
「ああ、かなめくんの精r「仲間の名前です」モガモガ…!」
危なかったぁ、キースさんに口止めしとくの忘れてた。
人工精霊なんて珍しい存在なんだからあんまり知られない様に――――。
「ねぇ紅ちゃん、ウィンディってだぁれ?」
「うん?俺達の仲間で精霊だ」
ちょっ!紅ぃぃぃぃ!!!!!何いきなりバラしちゃってるんですかぁぁぁぁ!!!!
「かなめくん」
「は、はい…」
「説明して…くれるわよね♪」
「…………はい」
う、恨むぞ紅…。
結局、色々と全部説明する羽目になった僕。
でも不思議な事に、彼女はあんまり興味を示さなかった。
どうしてなのか聞いたところ、彼女曰く―――――
『あら、人工精霊だったら、私だって持ってるわよ。もっとも自我は無いけどね』
――――――だそうで、そりゃ自分も持ってたら興味は無いわなぁ。
ちなみに今欲しいのは天然モノの高位精霊で、自我持ちだったら尚良しなんだそうで…。
自我持ち…助手にでもするのかんね?シエルさんなら有り得そうだけどな。
***
さて、倉庫街に着いた辺りで、僕らは解散する事と相成った。
護衛期間の給金は、大金になるだろうからギルドの保管庫に直接支払われるそうだ。
そして皆と別れ、なじみの宿で一休み…………とは問屋が下さなかった。
「かなめ君」
「あ、シエルさん。どうしたんですか?忘れ物でも?」
「あら、忘れものと言えば忘れものね、ラジャニの件よ。お店の場所、知ってるんでしょ?」
「え、ええ…良くお世話になってますし…」
そう言えばこのヒト、ラジャニさんの事知ってたなぁ。
只ならぬ仲……と言う訳でもなさそうだし、と言うかラジャニさんは女?男?
どうにも年齢不詳で性別わかんないんだよなぁ…このヒトも結構年齢不詳だけどね。
でも意外と年食ってそうだよな。
「かなめ君、今なにか良からぬこと考えなかった?私の歳とか…」
「い、いいえ、滅相も無いです!ハイ」
す、するどい…女性って言うのは、どうしてまぁこういう事に関しては勘が鋭いのだろうか?
というか、そういった事を気にするって事はやっぱり…
「…かなめ君?」
「さぁラジャニさんの所に行きましょう。急ぎましょう」
あぶなかった、コレ以上変な事を考えたら、彼女の魔法を喰らわされそうだ。
と言うか既に魔力が腕に集まってたし……怖。
「く~?」
「ああ、チビ…慰めてくれるのかい?ありがとう」
「くぅくぅ」
今までフードの中に居たチビが、慰めてくれるかの様に僕の頬をチロチロと舐める。
…………そう言えば、この子もオスメスどっちなんだっけ?
「さぁ、キリキリ案内しなさい!」
「か、かなめ!急いだ方がよさそうだぜ?」
「う、うん」
背中に当たるチリチリとした魔力を感じつつ、僕はシエルさんを路地裏の道へと案内していく。
ちなみに、商店街の人達は危機管理能力が、かなりしっかりしているらしい。
人込みでいっぱいの通りが、僕たちが近づいただけで、モーセの海を割ったアレみたくなった。
そのお陰で簡単に、ラジャニさんの店にたどりつくことが出来たけど…。
何故かすれ違う人達が、若干同情の視線を向けてきた……キニシタラ負ケだよね?
「ラジャニさん、いますかー?」
「―――ん?これまた随分と久しいの?お主、何時かえって来た?」
僕が先頭になって、店の中に入る。
ラジャニさんは書棚の整理をしていたらしく、その手には沢山の本を抱えていた。
「ついさっきです。おとなりのネテまで行って来たので、大変でした」
「そうかそうか、まぁお主が無事で何よりじゃのう」
「心配してくれたんですか?嬉しいなぁ」
「お主に死なれたら、今まで立ち読みされた分がもったいないからの♪」
「あ、そっちスか?」
こんな風にほんわかとした空気を作っていた僕たちだったけど……。
「久しいわね?ラジャニ…いいえ、ラジエル・レン・ディモール?」
「――ッ!!??お、お前はッ!!シ、シエルなのか??!!」
僕の後ろに居るシエルさんの言葉に、ラジャニさんは固まった。
ドサドサドサと、手に持っていた本が、床に散らばっていく。
あはは、やっぱり知り合いなんだ?と言うか――――
「―――ラジエル?ラジャニじゃないの?」
「ガラクトマン魔法学校をまた抜けだしたと思ったら、今回はこんな近くに居たなんてね?」
「私がどこでどうしようが、私の勝手じゃろうが!」
どうやらラジャニ…いやラジエルさんか?このヒトは魔法学校の関係者らしい。
シエルさんも、やっぱり魔法学校の人間だったのね。
「そういう訳にもいかないのよ、レン。あなたが居なくてどんだけ研究が滞ってる事か…」
「ふん、どうせ頭でっかちな役人どもからの催促じゃろう?そんなもの放っておいて構わん!」
「そういう訳にもいかないの!あなた自分の立場解って言っているんでしょうねッ!」
「しらん!私は好きな様にやるのじゃ!」
なんかヒートアップしてるけど、この場合止めようとしたら、こっちに被害が出そうだなぁ。
かと言って逃げたくても、ラジエルさんとシエルさんに挟まれて逃げられないし…どうしよ?
あ、紅の奴自分だけ逃げやがった!しかも良く見たらチビまで!!う、恨むぞぉお前ら…。
「というかお主じゃお主!何故シエル何ぞ連れて気おった!?」
「い、いや、なんか今回の仕事でたまたま一緒になっちゃって…」
「単なるお小遣い稼ぎのつもりだったんだけどねぇ、情報ってのは意外なところにあるものね」
「くぅ、流石にこんな所から私の居場所が特定されるなんて、予想出来んかった!」
悔しそうに地団駄を踏むラジエルさん。
「しかし、シエルに見つかったからにはこんな所には居られない!」
「あら、既に結界を張ってあるから転移は出来ないわよ?」
「な、なんじゃと!キシャマーッ!」
「以前それで逃げられたからね、何度も同じ手は通じないわよ?」
あ、さっきからへんな感じがしたのはその所為なんだ?成程なるほど。
「いい加減諦めて、私の実験台……ゲフン、研究の為に戻って居らっしゃい」
「い、いやじゃ!まだ私は自由を楽しむんじゃっ!」
「あのぉ、僕関係なさそう何で、帰っても良いですか?」
この何とも言えない痴話喧嘩の間に挟まれているのは結構疲れるんで…。
「お主!…いや待てよ…じゃが、いや逝けるか?」
「ちょっとー、ラジャ…ラジエルさん?なんかニュアンスが怪しい言葉が聞こえたのですが?」
「レンで良い、親しいモノは皆そう呼ぶ…おいシエル!」
「あら?覚悟は出来たのかしら?」
僕の言っている事の後半は無視してくれた、ラジャニことラジエルことレンさん。
何故かこのヒト、シエルさんを近くに呼び、ゴショゴショと内緒話をし始めた。
「……――なら……逝ける―――…?」
「問題…無い…――…それに独学……―――柔軟性…――」
…………漏れ出ている言葉を聞くと、若干嫌な予感がする。
「それなら…指名って事なら…」
「ギルドじゃし、逝けるじゃろ?それじゃ、そういう事で」
「解ったわレン。でもあなたもたまには顔見せないさいよ?」
「わかっておるわい」
「わかっているなら良いわ。それじゃまたねレン」
シエルさんはそう言うと、さっさと店を出て行ってしまった。
なんか内緒話をしていたけど、何を話していたんだろうか?
***
この後は特に何も無く、解散となった。
薄情にも僕を置いて逃げた一人と一匹には、ぐりぐりをかましておいた。
「全く、紅もチビも酷いよ。僕だけ置き去りにしてさ」
「う、面目ねぇ」
「くぅ…」
『全くです。私なんて外に出るに出られなくて、なんかすごく疲れました』
逃げたくなるのも解らんでも無いけど、少しは空気読もうよ…。
いや、読んだから逃げたのか?……まぁ良いけどね。
「とりあえず、ギルドにでも顔だそっか?」
「そうだな、今回の仕事の報酬の確認もしてぇしな」
『私はどうしましょうか?』
「う~ん、背中の水のリングさえ気にしなければ、普通の人間と変わらないから、そのままでいいんじゃない?」
『じゃあ、背中のリングだけ、消しておきますね』
そう言って彼女は背中の水で出来たリングを消した。
後で聞いたんだけど、背中のリングは自在に収納可能なんだって。
序でに、より人間に近くなるように、姿を変える事にした彼女。
と言っても、髪の毛の色を水色から紺色に変えた程度だけどね。
「……――それじゃあ行きますか?」
「おう」
『ええ、行きましょう』
ギルドに着いた僕たちは、迷わずカウンターのお姉さんに話しかける。
そう言えばこのヒトの本名、今だ聞いて無いんだよね。
普段からお姉さんで通してるから、コミュニケーション困らないしなぁ。
ま、何時か聞けば良いや、とりあえず仕事の報酬報酬。
「お姉さん、お久しぶりです」
「あら~ベニちゃんと~イガラシ君じゃな~い?ひさしぶり~。元気~?」
ああ、久々に聞くなぁ、この間延びした感じの声。
「ええ、元気ですよ。お姉さんは?」
「私は~いつも元気よ~。ああ、そうそう~仕事のお給金が~保管庫に振り込まれてるわ~」
「へぇ、どれどれ?」
僕は現在の残高が載っている本を覗き込む。
「ええと…お、ようやく10万G突破したんだ」
「一気に増えたわね~。……ところでイガラシ君~」
「ん?なんですか?」
「あなたの~、後ろに居る女の人は~一体どこのどなたなのかしら~?」
あ、ウィンディのこと紹介すんの忘れてた。コリャうっかりだ。
「彼女は、今回の旅で色々あって仲間になったウィンディーネです」
『ご紹介にあずかりました、ウィンディーネと申します。よろしく』
「あらあら、ご丁寧にどうも~。私はこのギルドで受付をしている~」
お、今まで全く不明だったお姉さんの名前が、ついに解るのか!?
…………そう思った瞬間。
≪ドシャッ!ガラガラドドン!!≫
「~と、言います~。よろしく~」
なんかものすごいタイミングで、大きな音が外から聞こえ、お姉さんの名前だけが聞こえない。
…………と言うか、外で一体何があった?
「おいおい、酒樽積んだ馬車が事故ったみたいだぜ?」
「本当かッ?」
「おお、しかも酒が垂れ流しみたいになってやがる」
「ソレは大変だな。良し、片付けるのを手伝ってやることにしよう」
「やれやれ、商人も可哀そうに。片付けと称して酒の半分はお前の胃に消えるんだろう?」
「当然。」
―――――――ああ、そう…成程。事故ならしょうがないねぇ。
「――――……コレで良し、一応このギルドでは~、あなたはイガラシ君のパーティに認定されたわ~」
『ええ、解りました』
…って、そぉイッ!?何僕抜きで話を進め取るんですか?!
「あ、イガラシ君~、彼女を~あなたをリーダーにしたパーティのメンバーにしておいたから~」
「いやいやいや…何なのか説明をお願いしますよお姉さん。と言うか名前教えてください」
「私の名前~?私はじゃあね~―――――」
…とりあえず、彼女の説明は長ったらしくて、すごく時間が掛かる為、僕が要訳させてもらう。
書類1枚ハイ仲間―――とまぁ、長々話したけど内容は実に簡単な事であった。
ええと、まぁコレじゃわかんないだろうからもうチョイ深く言うとね?
ギルドのメンバーになるには、ギルドの試験を受けてギルドランクをつけなきゃならない。
だけどパーティに関しては、ギルドメンバーでなくても良いから、この制限が無いんだそうだ。
その代わり、ギルドメンバーじゃ無い奴をパーティに入れた際は、
仕事を受けても、そいつの給料は自分の懐から出さないといけない。
要するに、強かろうが弱かろうが、責任は仲間に入れたリーダーにあるんだってさ。
で、一応規則として、パーティを組んだ場合はギルドに申請を出さないといけないんだって。
パーティ登録が出来るのは、人数が3人になってからなんだそうな。
ちなみにパーティを組むと、若干報酬に色付けてもらえるらしい。
―――――まぁ大体こんな感じの内容だった。
「…―――と言う訳なの~、解ったイガラシ君~?」
「ええ、まぁ解りました」
「あと、私の名前はね~?」
「はい」
おお、ようやく解るのか!
「かなめ~、いい加減帰ろうぜぇ~」
「あら~?そう言えばかなり長い事話してたのね~?じゃあ話はまた今度という事で~」
「え?ココまで伸ばしといてソレ?」
『かなめ様、世界には時としてどうしても解らない事もあります』
「いや、ここで使う言葉じゃないからソレ」
僕は待ちくたびれた紅に腕をひっつかまれて、そのままギルドの外に出てしまった。
ああ、また名前聞けなかった…もう謎のお姉さんでいいや。
そしてこの時、僕は知らなかった。
僕がギルドを出た少し後に、何かの書類を持ったシエルさんが来ていたのを…。
久々に何とか時間が出来て書けたので投稿。
だけど、最近スランプなので、また遅れるかもしれない。
以上作者からでした。