第26章
~出歩いて…落っこちて・第26章~
「はぁ…はぁ…はぁ…何んなんだ一体?」
「いきなりどうしたんだよ?かなめ」
『そうですよ、いきなり足元に蹴りを連発して…』
いや、何かが僕の脚を掴んだんだって!驚いてつい蹴りまくっちゃったけど…なんなんだ?
「なんだ?カーテンの布か?」
「それにしては…大きい様な?」
薄暗いのでIT懐中電灯で照らすと、そこにあったのは大きな布。
はて?コレが脚に絡まったんだろうか?
【うぅ…】
『「「!?」」』
「い、いま声が聞こえたよね?!」
「なんだ?かなめ、ビビってんのか?」
「うんビビってるよぉ?お兄さんはとっても怖い」
『というか声はあの布から聞こえませんでした?』
恐る恐る、大きい布を照らせば、なんかフルフル震えていた。
僕は……その布に手をかけ……
「ていッ!」
勢いよく剥ぎ取った!そこにいたのは―――――――
「うぅ…いたい…というか、限界…」
「へぇ?!キ、キースさん!?なんで血塗れなの?!」
「かなめ!そんな事よりも治療してやらネェと死ぬぞコイツ!」
『あらら、大変ですね。あ、心拍が…』
「「わー!!」」
――――――何故か血だまりに沈むキースさんであった。大慌てで治療を施すことにした。
***
「ううん…」
「あ、気が付いた」
「あれ?かなめくん?なんでココに?……というかオレ……あれ?はて?」
頭に?マークを浮かべ、頭を傾けるキースさん…というか――――――
「あの~、なんでキースさんが、この屋敷にいるんですか?」
「えッ?………聞いてくれるかぁぁ??!!」
「うわっ!泣きながら近づかないで!顔の穴という穴から体液が!というか服に着くからヤメい!!」
いきなり泣きながら僕に迫りくるキースさん…気色悪。
「何してんだ…キース?」
『いきなり何してるんですか?あなたは…?』
「あ、紅ちゃんとえーと……どなたですか?」
「ふぅ、とりあえずお互いにおちつきましょうよ、ね?」
何故か黒い瘴気を纏わせた、紅とウィンディに阻まれたキースさん。
でもキースさんはその事に気が付かず、普通にしている……意外と大物?
まぁ、どうしてこの屋敷に居たのか、お互いに情報を交換する事にしよう、ウン。
「じゃあオレから話すよ、アレは一日前のぉ事じゃったぁ~」
「なぁ、何で語り部風なんだ?」
「気分なんじゃ無い?」
『似合ってないですねぇ~』
「そこッ!聞こえてるぞ!……まぁいい、話を戻すけど、オレは昨日から鍛錬に出てただろう?」
そこからの彼の話はこうだった――――――
僕達から離れ、町を出たキースさん、自己鍛錬に選んだのは実戦経験を積める魔獣との戦闘だった。
平原に出た彼は「よし!やるぞぉ!」ってな感じで付近に生息する魔獣を狩り始める。
数刻の間はクノル周辺にも生息するイノシシを狩っていた。
だが、ふと違う魔物も狩ってみたくなったのである。
なので、そのまま森に入り、森に居る魔獣を狩ろうとしたのがいけなかった。
彼は…キースさんは方向音痴なのだ。
しかもダンジョンで迷って1週間出られなかった猛者なのだ。
そんな彼が、町が見えなくなるような森の中に入ったらどうなるか?
当然のことながら「迷った…」と、こうなる訳である。
キースさんは、もう毎度のことなので、とりあえず歩けばどこかに出られるであろうと動いた。
だが、コレは迷った時にはしてはいけない事である。
何か遠くの山だとか、目印を付けて歩くならばともかく。
なんの目印も無しに森を歩きまわるのは、非常に危険だからである。
同じような景色が続く為、何時の間にか同じところをグルグルが有り得るからだ。
キースさんも、その事は冒険者の基礎として知っては居た…というか最初に教わる事だ。
だが、こういう時に限って思い出さないので、そのまま歩き続けてしまったのだ。
その為、彼はかなりの時間森の中をさまよってしまった。
いい加減疲れた彼は、たまたま生えていた大きなキノコに腰かけた。
だが、普通大きなキノコなんて森にあるだろうか?……あるわけがない。
彼が腰かけてしまったのは、別名徘徊キノコとも言われるモスフングスであった。
驚いた彼は、そのまま腰かけていたキノコを剣で一閃。打ち倒す事が出来た。
しかし、ソコはフングスの群生地だったらしく、打ち倒した際に上げた断末魔に導かれ。
多くのフングスが、彼の近くに集まり始めてしまった。
キースさんも流石にコレは分が悪いと、その場を逃げ出す事を決意する。
なぜならフングスはソレ一匹なら、それ程脅威ではない。
だが集団となり、おまけに胞子を放出し始めると、状況は変わる。
フングスの胞子には、個体によっては吸い込んだだけで、麻痺等を起させる事があるからだ。
魔法で炎系が使えるならば、元が植物な為焼き払えるのだが、キースさんは魔法が使えない。
なので、その場から回れ右をして、駆けだしたのである。
だが、どうやらフングス達もおいそれとは逃がしてはくれなかったらしい。
人間というエサを求めたフングスが、森の暗がりという暗がりから、わらわらと這い出て来たのだ。
ソレをみたキースさんは、マジでヤバいと言う事を理解、そのまま全速力で森を駆け抜けた。
なんとか森から脱出したモノの、ずっと走り続けた所為で息も絶え絶えになった。
その為、どこかで休みたかったのだが、草原に休めそうな場所は無い。
おまけに町がどっちの方向にあるのか解らず、途方に暮れかけた。
かと言って町に行く為に、森に戻るのは論外である。
現在森の中は、キノコ祭り開催中だったからだ、流石に仲間入りはしたく無い。
その為、恐らくコッチであろうと歩く事数分、運よくポツンと建つ屋敷を見つけたのだそうだ。
普通ならこんな所に建っている建物で、しかも手入れが為されていないと見れば引き返しただろう。
だが、彼はものすご~く疲れていた、下手したらそのまま平原にねっ転がるくらい。
誰もいないとはいえ、家の中の方が安全だと思った彼は、屋敷に入る事にしたのだ。
しかし、扉があかない、実はソコは勝手口だったのであるが、疲れた彼はそんな事解らない。
表の方に回れば、玄関があるのだが、そこまで頭が回らなかった彼は窓から侵入したのだ。
そして窓から入る際、カーテンが身体に引っ掛かり巻き付けてしまった。
しかし、疲れていたので、むしろカーテンですら暖かい布団のように思えて、そのまま熟睡。
そして現在に至る――――――と、こういう訳なんだそうだ。
「――――とまぁ、オレの話は以上だ」
話しを終えたキースさんであったが、それを聞かされた僕たちの反応はというと――――
「うーん、なんて言うか…自業自得?」
「この場合自滅の方が似合うんじゃないのか?」
『と、言うよりも根本的な問題として、方向音痴の方が一人で森に入るのはどうかと…』
意外と散々に言っていたりする。
僕と紅の場合、この人ならしょうがないという諦めも混じっていたりするけどね。
まぁ、そこら辺は置いておこうウン。
「で、オレは話したから、今度はそっちの番だ。」
「うん、実は―――――」
僕も財布をスラれて、スリの子を探しだし、そのスリの子の弟君の為にこの屋敷に来て、
地下施設に迷い込み、キマイラに襲われて瀕死になりかけ、精霊のウィンディに助けられた。
―――――と、言うような感じで話した。ちなみにウソは言っていない。
精霊と聞いた辺りでキースさんは驚いてはいたけど、怖がったりとか敵意をもったりはしなかった。
むしろ好意的に接してくれる……というか。
「ねぇ君、名前はなんて言うの?」
『ええと、ウィンディーネと申します。愛称はウィンディです』
「へぇ、いい名前だね?あのさ、後でオレと一緒に町の商店街にでも行かないかい?」
『あ、いや…そのう』
どう見ても口説き落そうとしているね。キースさん。
まぁ彼女が嫌がるような事をする人ではないだろうけどね。
ちょっとムカって来たけど…。
『残念ですけど、私はかなめ様のモノですし…』
―――――――はい?
見ればキースさんが、ギギギと擬音が付きそうな感じで振り返って僕を見ている。
あ、あはは…コレはまた…。
「…かなめ?」
「紅、先に言っておくけど、僕は何にもしていない」
頼むからワラって背後に立たないでくれよ…。
「あとウィンディ、なに言ってんの?月並みな言葉で申し訳ないけど、僕は君の事をモノとして見てないよ?」
『そう…ですか。』
「うん、出会ってからまだ時間は経って無いけど、仲間だと思ってるよ?」
ふと思ったんだけど、この台詞って意外と口にするのハズいのね?
はてなぁ?僕はこんなクサい台詞をいうのはキャラじゃないんだけどなぁ。
『モノでは無い…仲間…離れられない二人…つまり』
「あ、あのー、ウィンディ?どったの?」
『つまり、かなめ様と私は一心同体な訳ですよね?』
「何がつまりなのかはわかんないけど、君自身が契約でそういったじゃないか」
なんか様子が変やな?どうしたんやろか?
『つまり私とかなめ様はパートナーという事ですね』
「ちょっと待て!かなめの相棒は俺だ!」
『では私は2号さんでいいです』
「よし!それなら許す」
「あのちょっと二人とも!」
なんか話が変な方向に転がってはいないか?
「ああ、美女と美少女がお前の為にケンカしてるぜ?」
「いや僕としては何が何だか…」
「………どうせそう言うと思ったよ!!ドチクショー!!!!」
「???」
***
とりあえずその場は治まったので、屋敷から出る。
今度は入口じゃなくて、窓から出る事にした、玄関付近はヤバそうだったからね。
そういう訳で、なんとかネテの町に戻ってくる事が出来た。
キースさんとは、町の入口でわかれており、ココにはいない。
それに約束の事もある、ルアリスの弟君のトール君に薬を届けなくてはならない。
なんか探しに行って、危険な目にあったけど、ココまで来たんだからやり遂げたい。
そう…僕は思っていた。
――――――とまぁなんか偉そうなこと言ってるけど、とっとと終わらせたいだけである。
なんせ危うく死に掛けたからなぁ、ウィンディという新たな仲間が出来たという事をプラマイしても、流石にこれ以上厄介事はゴメンである。
流石に背中を何度も引き裂かれたいと思う人間はおるまい?居たら変態だと思うウン。
とりあえずルアリス姉弟たちの家に着いた僕たち。
ウィンディは僕の中に入って待機できるらしいので、中に入って貰った。
正直色々と説明するのが面倒臭いし、弟の世話で大変なルアリスに話したとしても迷惑だろう。
何でココまで遅くなったかを聞かれたら、たまたま地下道があって落っこちたって事にすればいい。
例え僕が危うく死にかけたのだとしても、薬を探しに行くと言ったのは僕達だし(主に紅だが…)
その事で気に病んで貰ったら、僕としては居心地が悪い。
なので、その事を事前に紅とウィンディの二人に説明し、理解して貰った。
僕はドアのノブに手をかけて、ノックもせずに入った。
「おーい、リアいるかー?」
「薬、探してきたよ」
「………ノックくらいしろよ」
どうやら、食事の準備をしていたらしい。
普段着にシンプルなエプロンを付けた少女が、僕達を出迎えてくれた。
「はい、多分この瓶でしょ?」
「ああ、確かにコレだ……その、ありがと」
「いいよ別に(コレで義務は果たしたからね)」
僕達はコレで終わりだとおもい、この場を後にしようとする。
だが―――――
「あ、あのさ!今からメシにするんだけど…お礼に食っていかねぇか?」
―――――その言葉に、僕たちは顔を見合わせ…。
「「お願いします」」
そう答えた。だってずっと地下に居たから腹ペコだったんだよウン。
そういう訳で、ご相伴にありつくことにした。
*気が付けばお気に入り登録が250人になっててビックリしたQOLです。
さて、ちょっと次回の投稿は間を開けます。
多分12月終わるまでには戻ってこれるかと思いますが…。
まぁのんびりと行きましょうハイ。
以上作者からでした。