第19章
〜出歩いて…落っこちて・第19章〜
クノルの町を出て二日目。
相変わらずのんびりとした旅を続けていた。
「暇だなぁ」
「うん」
魔獣が出無いのは良いんだけど……かなり暇である。
「まぁまぁ、平和で良いじゃないかお二人さん」
「あ、キースさん」
ちなみに僕たちの目的地は隣国のドラニ公国領にあるクノルの町と同じく国境沿いにある町だそうな。
そこについて帰りも護衛する訳なんだけど…こうまで暇だと眠い。
「平和なのは良いんですけど…」
「ああ、気がゆるんじまいそうで怖いぜ」
「はは、只の荷運びにそこまで緊張してたら疲れちゃうよ?」
「まぁそうなんですけどねぇ」
魔物の一つでも出てくれないと護衛の意味あるのかなぁって思えちゃうんだよね。
あれ?もしかして僕結構バトルジャンキーっぽい?………ああ!平和って良いなぁ!!
「でも町の外なのに全然魔獣を見かけないんだな?」
「そりゃそうだろ?けもの道ならいざ知らずだけど、ココは町と町をつなぐ街道だぞ?
魔獣避けくらいしてあるさ」
「魔獣避けですか?」
「そう、魔獣避け。あんまし一般には知られて無いけど、
そうった効果のある結界発生機っていう魔法道具があるんだ。ほらソコの石塔もそうだよ」
キースさん指さした所にあったのは、高さが膝くらいまでの大きさの石で出来た石塔だった。
そう言えばコレ町を出てからずっと道沿いに1km間隔で並んでた様な気がする。
「魔獣避けの石塔はガラクトマン魔法学校で20年ほど前に開発された技術でさ?
大抵の街道には必ずと言っていいほど設置してあるだって――――」
「正確には22年前よ…」
キースさんの説明に呟くような声で訂正を入れたシエルさん。
それに気が付いていないキースさんは話を続けた。
「――――という訳で魔獣避けのお陰で昔よりかは安全に旅出来るようになった。
けど太陽の光を触媒にしてるもんだから暗くなると効果が落ちちゃって、
夜は平原で寝るよりかは安全だけど、魔獣が現れる様になるんだ」
「本当は夜でも効果が落ちないヤツもあるけど…学校が開発費ケチったのよ…」
これまたキースさんのうんちくに独り言のように訂正を入れるシエルさん。
というか何か裏側知ってるっぽい発言が入ってたような?――気のせいか?
「でもよぉ、おかげで俺達暇だぜ?」
「いや、なにも襲ってくるのは魔獣だけじゃないさ。例えば――――――」
≪ドス≫
キースさんの肩から矢が生えた?!いけないッ!
「IT大盾」
≪ヒュッ!カカカカカンッ!!≫
矢を受けたキースさんを横目に、咄嗟にITシールドを馬車が覆える位で展開した。
二台分の馬車を覆える程の盾に矢が辺り跳ね返る。
ふー、反射的にやったけど間に合ってよかった。
後少しでも遅れてれば全員矢達磨にされてたよ。
警戒のスキルを切ってたのがあだになったな。
「ちきしょう!盗賊か!」
「どうします親方さん?」
「どうしたもこうしたも迎え撃つしかねぇだろ?かなめは矢の防御で動けねぇだろうから…」
―――――――親方さんは僕たちを見まわす。
「シエルとロアル、お前らが弓使ってるヤツをやれ」
「はいはい、了解。」
「チッ、しかたねぇな」
「残りの野郎どもは矢が来なくなったら好きなだけ暴れろよ?
コレで積み荷に被害でも出したらテメェらぶっ潰すからな!!」
「「「了解!」」」
「あとルーズ!テメェは隠れてろ?戦えねぇんだからな?」
「もうすでに馬車の下にいますから平気です」
………あはは、親方さんという最終防衛ラインを突破できる人って少ないと思うけどなぁ。
まぁ連中を突破させる気はもちろん無いけどね。
「さてと、そいじゃあお仕事すっかね?――ハッ!」
ヒュンという音を立てて、ロアルさんが放った矢が相手の方にまっすぐ飛んでいった。
そしてトスって感じで、弓を使っていた盗賊の額に突き刺さる。
「へっ!ビンゴッ!!」
そう言いつつ次々と矢をつがえるロアルさんの横では、
シエルさんが詠唱を終えて魔法を放とうとしていた。
「“来たれ風神の投げ斧、目の前の敵を打ち砕け!”エアリアル・ファラリカッ!」
風で出来た巨斧が、シエルさんの横に浮かび上がる。
かなりの魔力を込めているらしく、以前見た他の人の奴よりも二周り大きい。
「いけっ!」
放たれた巨斧は針路上の盗賊達を簡単に薙ぎ払った。
うわっ…すご…上と下で泣き別れの遺体がそこいらに転がってら。
あんまし凝視すると気持ち悪くなりそうなので、僕は盾を維持する事に専念することにした。
「では…いく」
「俺も掃除してくるぜ」
シエルさんの魔法で相手が動揺している間に、紅とルードが駆けていき盗賊達を次々と屠って行く。
弓使いが全滅したので僕は盾を消し、今だ矢が突き刺さっているキースさんの元に向かった。
「キースさん、大丈夫ですか?いま回復かけますから」
「君は回復魔法も使えるのか?……解った頼む」
「それじゃあ…矢抜きますから…ヨッ!」
「ウギャっ!」
返事を返す前に不意打ちで矢を引き抜き、回復魔法キュアウィンドをかけて傷を塞いで上げた。
「………はい、コレで良いです。とりあえず応急処置ですから、あまり動かさない方が良いですよ?」
「イタタ…出来れば一声欲しかったけど、すまない助かった」
「どういたしまして」
僕はキースさんの傷が塞がったのを見て問題無いと判断。
そのまま盗賊達がどうなっているのかを見に行った。
―――――――さて、見に行った先ではもうすでに盗賊達は詰みの状態になっていた。
どうやらそれほどの規模の盗賊団では無かったらしい。
精々多くて30〜40人程度だったのだろう。
弓隊はロアルさんの狙撃とシエルさんの魔法で全滅。
他の盗賊もルードさんと紅が倒している最中だった。
「でりゃあああッ!!!」
「ぐがっ!」
紅がポールアックスを振い相手を打ち倒したが、
長柄武器故の打ち降ろした所為で出来てしまう隙をついて、盗賊が襲いかかる。
「隙あり!」
「ハッ!隙なんてねぇ!!」
だが、彼女はポールアックスの柄を蹴りあげ、そのまま近づいてきた盗賊を斬り捨てた。
「ぎゃッ!」
「おしっ一丁あがりってな?」
残り数人…後少しで終わるとおもったその時だった。
≪ドゴンッ!≫
「ぐぅッ…!」
「ルードのおっさん!!」
剣士のルードさんが吹き飛ばされた。
現れたのは身長3mはありそうな巨体の持ち主。
「仲間殺した…オメェら!オデ許さなイ!!」
―――――そして吹き飛ばした張本人、身体が異常に大きな盗賊が、棍棒を手に襲いかかって来た。
「ギガース(巨人)じゃない!!なんでこんなところにッ?!」
「コロ、殺スぅぅぅ!!!」
「ガッ――!!」
「紅ッ!!」
シエルさんにギガースと呼ばれていた盗賊が紅を棍棒で殴りつけた。
ダメージはあまりなかったみたいだけど、あのウェイト差はキツイ。
ギガースは倒れた2人を標的にしたのか、棍棒を振り回しながら2人に詰め寄ってきた。
「ちくしょう!なんて堅い皮膚してやがんだ!矢が通らねぇ!!」
「普通の矢じゃ無理よ!ヒュドラの毒矢でも無い限り効果は無いわ!!」
ロアルさんの矢も当っているのだが、どの矢も身体に弾かれてしまう。
「ブラストッ!」
「グギャッ!イでぇ!イでぇよ!!」
僕もブラストを撃ったけど、足止め程度にしかならない。
それどころか、痛がってはいたが、全然傷を負っていないのだ。
一体全体、何がどうなってるんだろう???
「ギガースは強靭な肉体の中に高い魔力を持つ種族よ?魔法も効果は薄いわ!!」
そうなの?!というか魔法使いの天敵じゃないソレ?!
あ、でも痛がっているから効いて無い訳じゃないんだ……。
「イダイことしやがっで!オメェから潰す!」
「え、ちょっ!コッチくんな!!」
標的を僕に切り替えた?!つーか怖ッ!
戦車みたいに突進してくるってどうなのよ!?
「逃げなさい!」
「逃げろボーズ!」
シエルさんとロアルさんに言われなくてもすでに逃げてます!
「までー!!」
「ええい!IT大盾」
「なっ?――≪ガンっ!≫――イッデぇ!!!!」
目の前にIT大盾だして頭ぶつけてやったぜ!!
よし、この間に――――
「IT巨大剣!!」
莫大な魔力にモノ言わせ、僕の身長の5倍の巨剣を造り出した!!
「只身体が大きいだけの巨人なんて、この剣で倒す!!ハァッ―――」
僕は大きな剣を、ギガース向けて振り下ろした。
ギガースは動かない、コレで勝ったと思った……だけど―――
「フンッ!≪パシンッ!≫」
「「「白刃取りぃぃ?!!!」」」
「……ウソん」
――――真剣白刃取りですかぁぁ!!??ツワモノや…ココにツワモノがおるで…。
「ふんぎがぁぁぁっ!!」
「うわったッ!!」
とまぁ、ふざけた事考えてたら、ギガースに掴んだ剣を強引に跳ね除けられる。
剣を持っていた僕も、その力で引きずられ体勢を崩してしまった。
「ええいコナクソ!!」
僕は巨剣を縮め、空いている左腕でIT大盾を展開し、咄嗟に防御行動に出た。
ギガースが隙の出来た僕に何をするのかは解っていたからだ。
≪ドゴッ!!≫
「ぐぐぐ…」
案の定ギガースは棍棒を僕に振り上げ、大盾に激突させていた。
お、大盾にしといてよかったぁ、空中に展開できるから力比べしなくて済むわ。
ギガースの丸太みたいな腕をみたら、直に力比べなんてしたか無いですハイ。
さて、ギガースをIT大盾で一瞬だけ止める事が出来た。
だがまだギガースは無傷…なので――――――
「シェルショット!」
――――――至近距離で魔法の散弾を浴びせかけた。
ギガースは視界が散弾に覆い尽くされ、生き物が取る反射的防衛として目を隠す動作を起こった。
当然ソレはかなりの隙が出来る事を意味している。
「ITパイク!ヤァッ!!」
僕はその隙にITにてパイクと呼ばれる突き刺すための槍を造り出し、ギガースに向けて投摘した。
紅程では無いけど、僕もそれなりに力が強い。
おまけに今回投げた槍は先端を僕が出来る限界まで尖らせてある。
「がぁぁぁぁッ!!!」
投的した槍は太ももに当り、矢以上の質量がある4m級の槍が、
ギガースの岩みたいな皮膚を食い破る事に成功した!
「もう一発!!」
同じように反対側の脚にもパイクを突き立て、動きを制限させる事に成功……後は。
「紅!!」
「あいよ!!」
≪ザンッ!―――ドサ≫
戦闘に復帰した紅が右腕を斬りおとす!痛みと怒りで野獣の様な咆哮をあげるギガース。
だけどまだ攻撃は終わってはいない。
「先ほどの痛み…返してやる」
≪バシッ!――ドス≫
シエルさんに回復魔法をかけて貰ったルードさんが、今度は左腕を斬りおとした。
コレでもう棍棒を持つ事は出来ない、だがその巨体に宿るパワーは残っているので安心は出来ない。
「チッ…とっておきなんだがよ」
ロアルさんはそう言うと懐から黒い玉を取り出し、それから伸びている紐に火を付けた。
「吹き飛んじまいなッ!」
≪ドゴ―――ンッ!!!!≫
彼が投げた玉――レトロチックな爆弾――がギガースの足もとで炸裂!
轟音と炎の中にギガースが包まれる!!
「“破滅と勝利をもたらす魔剣 今ここによみがえれ”ティルフィングッ!!」
そして止めに、詠唱を終えたシエルさんの上級魔法がギガースに襲いかかった!
魔力量からして、恐らくは奥義とか秘術とか呼ばれそうな攻撃魔法だと思う。
そして、その高魔力で出来た幾本もの闇の魔剣が、
高い魔法耐性を持つ筈のギガースの胴体に次々と突き刺さっていく…。
「ぐぎぎ…」
「最後は…コレでッ!ハイブラスト!!」
最後の締めに、僕は普段よりも多めの魔力をつぎ込んだブラストを撃ちこんだ!
あ、ちなみにハイブラストとか言っているけど、実際は只叫んだだけです。
その方がなんとなく気分が出る様な気がしたから……まぁソレは置いといて!
僕の強大な魔力をつぎ込んだブラストが極太のレーザーとなってギガースを包み込んだ。
ギガースは断末魔をあげる暇もなくレーザーに飲み込まれし、全身が焼け焦げていく。
ブラストが終わると、全身からプスプスという音を立てて、巨体は地面とキスをした。
確認の為にITで造った杖の先っちょでツンツンしてみたけど反応が無い。
どうやら倒す事が出来たようだった。
――――――ふぅ、何とか倒せたなぁ…それにしても手強い敵だった。
しかし、とっさの事とはいえ、みんなで連携が出来るとは思わなかったけどね。
「ふぅ、こいつで終わりってな。そっちはどうだいルードのおっさん?」
「………もういない」
怪我しただけで済んだ盗賊が逃げだし、積み荷に被害は出て無い…どうやら守ることは出来た様だ。
「なんとか終わったみてぇだな?」
「おつかれ紅」
「あ、かなめ、親方。」
とりあえず戦闘が終わった事に胸を撫でおろしながら、僕は紅に近づいた。
しっかし、初めて人の斬り捨てられた死体を見たんだが…あんまり動揺とかしないなぁ?
コレも自称神の改造の所為……なのかな?
――――――でも……だとしたらなんか最悪。
だって人の精神までひっかきまわしてくれたって事だもの…。
まぁこのくらいの事で驚いてたら、生きてはいられなかっただろうから、良いんだろうけど…さ。
なんだか自分が酷く冷酷な怪物になっちゃったみたいで……いやな気分だ。
「とりあえず被害もねぇし、キースの方もかなめが直したらしいから、
周囲を警戒しつつこのまま進むぞ?」
「「「了解」」」
まぁ気にしても仕方ないか、僕はまだ死にたくないし?
むしろこれくらいでも動揺しないのはプラスになる…うん。
そう、プラスに考えるんだ。落ち込んでても良い事無いからねぇ。
「お〜いかなめッ!置いてくぞッ!!」
「あ、すいません親方ッ!!」
馬車が再び歩を進め、街道を進んでゆく……。
本当は殺してしまった盗賊達にお墓の一つでも立ててやりたいとこだが、
この世界じゃ何時襲われるか解らない以上、出来ない相談だ。
まぁ何と言うか自己満足に過ぎない事だしね?
それでも、死んでしまったら関係ないと思える僕は偽善者何だろうか?
「――――まっ、どうでもいっか…」
考えてもしょうがないし、何より大事なのは自分自身……うん、この世界に来てタフになったなぁ。
そんな事を思いつつ、足早に進む馬車の横を走る僕であった。
ちなみに、盗賊達はどうやら賞金首だったようで、
後にソレを倒したと言う事でボーナスが入ることになるとは思いもよらなかった。