第9章
〜出歩いて…落っこちて・第9章〜
ギルドの試験を無事に通過した僕達は、一晩宿屋に泊まったあと、再度ギルドを訪れていた。
建物に入ってすぐ、受付してるお姉さんの所に向かう。
今日は依頼の説明とその後早速依頼を受ける事になっているのだ!
内心ちょっと楽しみだったりする。
「おはようございます♪お姉さん」
「あら〜おはよう〜朝から元気ね〜じゃあ早速〜依頼について説明するわね〜」
―――この後は語尾が長いお陰で時間がかかるので、僕が翻訳させてもらう。
要するにギルドとは、ハローワークを兼ねた町の便利屋さんでもあり、
町の警備を担当していたりと、非常に用途が幅広くある。
そして様々な依頼を受け付け、その情報をギルドに登録した人間に公開し、
掲示板に出されたその依頼を達成できそうな人間が受ける。
依頼主は依頼が達成されれば、報酬を支払うというシステムだ。
ちなみにすべて自己責任であり、仮に依頼中に死亡したとしても、
ソレは能力が無かったという事ですまされる厳しい世界でもあるのだ。
損害賠償も自己責任…世知辛いよね。
最も、依頼が達成できなければギルドの誇厳にかかわる為、ギルドでも対策はしてある。
それが、ギルドランクと呼ばれるシステムだ。
内容は実にシンプル、依頼にはギルドランクが設定され、
その掲示されたギルドランクより己のランクが低い人間は依頼を受注出来ないというモノ。
ランクもギルド規定により、実力テストに合格しないと昇給出来ない為、ごまかす事は出来ない。
まぁ誤魔化したとしても、それは=死に安くなるだけだから誰もしないけどね。
ちなみにギルドランクはSSS、SS、S、A、B、C、D、Eと段階を踏んで存在しており、
上のSランク以上はギルドマスタークラスな為、実質僕達の様な冒険者や傭兵の場合、
ABCの五段階評価となる。
今回僕達は最初の入団審査の段階で第三戦まで勝ち進んでいるので、
DかCになるのだが、僕達は無難にCだった。
出来ればBでも良かったらしいが、途中で棄権したのでコレに落ち付いたんだと…。
まぁCなら可もなく不可もなくで妥当なところだと思う。
―――以上が受付のお姉さんから受けた説明の中身だ。
一応これでも随分解りやすくしたんだけど…
彼女が説明した時はコレの数倍は時間が掛ったんだよね…。
せめて語尾を伸ばすのを止めてくれれば…!
やめとこ…そう言う事を言うもんじゃないよね?
あれも、まぁ個性な訳だし…。
「と、いうわけなの〜。わかった〜?」
「はいわかりました」
「じゃあじゃあ〜あそこの掲示板から出来そうな依頼を見つけてきて〜私に渡してね〜♪」
―――言われたとおり、掲示板の前に立つ。
「かなめ、どんな依頼があるんだ?俺まだあんまりこっちの字読めねぇんだ。」
「えっとね…たとえば…【子守】仕事内容は忙しいから子供の世話をしてくれ、
ギルドランクはE…報酬は1000Gってヤツとか…」
「却下…子守はした事がねぇ…つーかガキは嫌いだ…」
紅が苦虫を100匹噛みつぶした位に顔をしかめている。
嫌な思い出でもあるのかな?
「じゃあ、こっちは?【農作業】芋の収穫」
「却下」
「【猫を探して】」
「却下、猫とは相性が悪い」
…まぁ元犬だしね。
この後、いろんな依頼を読み上げたんだけど、あまり良いのが見つからない。
それにこの依頼ってヤツもほとんどが雑用系が多い。
まぁそりゃそうだ。庶民の依頼がほとんどなんだからね。
地域密着型ギルドでも目指してるのかな?
「…【実験台がほしい】」
「見るからに怪しいから却下」
内容を見ると、魔法の実験台になってくれだって…いや、怖いから無理ッす。
「後は…【ゴブリン討伐】【大ネズミを倒して】【畑を荒らすイノシシをぶっ殺して】とか」
「……真ん中ので良いんじゃないか?最初の依頼だし、俺達戦う方が向いてるだろ?」
何だかろくなのが無くて、いい加減あきてきた紅が、ちょっと投げやりに答えを返してきた。
ちなみに、この3つの依頼…ギルドランクは共にDで、今までのがほとんどEだった事を
考えるとちょっと難易度が高い。
この掲示板にあった僕たちが出来そうな依頼は、とりあえずコレで全部なので
僕は【大ネズミを倒して】の依頼書を掲示板から外した。
「じゃあコレやろう。魔獣倒すのは慣れてるしね。」
「おう」
そう言って、僕は受付のお姉さんの所に戻った。
「お姉さんすいません。これでお願いします」
「はい〜承りました〜コレが依頼人のいるとこの地図だから〜詳しい事は依頼人からきいてね〜」
「解りました。」
「あとあと〜イガラシくんたちなら大丈夫だとおもうけど〜依頼人に失礼が無いようにね〜
それじゃあ初めてのいらい頑張ってね〜♪」
そう言ってホンワカと見送ってくれるお姉さん。
いいね癒し系ってヤツかな?何だか心がいやされるよ。
問題はいまだに名前が解らないってことかな?まぁ追々解るだろうけど…。
「紅、依頼人の所に行くよ。準備良い?」
「もう出来てるから早いとこ行こうぜぇ〜」
ありゃりゃ…あまりに暇すぎて紅がお餅みたいに垂れて〜ら。
とりあえず渡された地図を頼りに、依頼主の元に向かう事になった。
――クノルの町・倉庫区画――
依頼人が居るのは、町の倉庫区画と呼ばれる場所だ。
クノルの町は市場が盛んな為、必然的に品物を補完する倉庫も増える事になる。
その為区画整理を行った際、ソレらを集めた区画が倉庫区画となったらしい。
現に周りにはレンガ造りの倉庫ばっかりが建ち並び、家の様な建物は数えるほどしかなかった。
依頼人が居るところは、その倉庫区画の一角にある、一際大きな倉庫が目印らしい。
それなりに区画整理が行き届いていたので、すぐに目的の場所に来る事が出来た。
「かなめ〜まだ着かねぇ〜のか?俺もう歩くのに飽きたぜ」
彼女はどうやら何もしないというのが苦痛らしい。
コレはさっさと依頼人見つけないと、何かしでかすかもしれん…気をつけよう。
「もうすぐ…というかもう着いたよ?」
「ここか?このどでかい倉庫が依頼人が住んで居る場所なのか?」
「正確には職場何だけどね。ココで倉庫番をしている人が今回の依頼人さ。」
「まぁ…俺は暴れられれば問題はねぇ…早いとこ挨拶しちまおうぜ?」
「だね」
彼女がコレ以上機嫌を崩さない内に、依頼を受けますか。
***
依頼人が居る倉庫に入ったんだけど…中はかなりすごい。
大きなコンテナから、木箱まで所せましと並べられ、その上をガントリーレーンが行き交い、コンテナを運んだび出したりしている。地球の倉庫の中とそんなに変わらない設備だ。
そして何より凄いのが、ガントリーやその他の動力が、全て魔力で賄われている事だ。
一応魔法使いの知識や能力はあるので、場の魔力の流れがわかるんだけど、
ほとんどの機械製品から魔力の反応があるのが解るんだ。
魔力というのは恐ろしく効率が良いエネルギーだ。
何せそこらへんのどんなものにも含まれており、尚且つ害がある事も少ない。
魔法陣とかの術式を書き込むだけで、魔力の流れを操作する事が出来るから、汎用性も高い。
ある意味理想のエネルギーなのだ。
地球で言うところの電力が、こっちでは魔力なのかも知れない。
まぁ魔力の方が利便性・汎用性共に高いけどね。
でも流石異世界。
こう言った魔法の利用法もあるんだねぇ。
ゲームとかだと魔法は主に攻撃とかにしか出ないから、
こう言った庶民の力になってるのは珍しく感じられるんだ。
カルチャーショックってヤツですか?
とりあえず、機械の原理とかは気になったけど、依頼を先に遂行しようと思い、
作業している人たちから依頼主の倉庫番の人が何処に居るのか教えて貰った。
どうやら依頼人は事務室に居るらしい。
僕たちは教えられた通りに事務室の前に行き、扉をノックしてから中に入った。
「すみません。ギルドから依頼を受けたモノですが」
「ああ、すいません。もうちょっと待ってください。この書類にサインするだけですから…っと」
依頼主は20代くらいの線の細いお兄さんだった。
「これで良しっと…ん?ああ、お待たせしてすみません。ギルドの方ですね?」
「はい、今回依頼を受けギルドから派遣される事になった五十嵐かなめと申します。
こちらは相棒の紅です…紅、挨拶して。」
「…どうも」
「はじめまして、私はここの事務と倉庫番を担当しているジョン・コフィーと申します。よろしく」
倉庫番のお兄さんは、見た目通り物腰が柔らかな人だった。
とりあえず、何故依頼を出したのかの理由と、何をすればいいのかを聞く事にする。
***
「……つまり、地下倉庫に巣が?」
「はい、とりあえず封印したんですけど、考えてみるとアソコが使えないと業務に差し支えが…」
――話を要約するとこうだ。
以前から地下倉庫に置いておいた食料品が、ごっそりと消えてしまう事件が起こった事があったらしい…
最初は泥棒かと思っていたが、鍵のかけられた倉庫から出た形跡は無く、どうやら泥棒では無い事が解る。
しかし、いまだに犯人は特定できず、倉庫の持ち主や食料品の持ち主たちは頭を抱えていたらしい。
そんなある時、作業員の一人が地下倉庫にて、何かの生き物が居るのを目撃する。
四本足だったことから魔獣では無いかとの憶測が立ち、
そうならば討伐して貰おうという展開になったんだそうな。
――でもあれ?って事はつまり…実は大ネズミではない?その事をジョンさんに尋ねると…
「便宜上名称が必要でしたので、四本足で倉庫に出そうな生き物と言ったら…
ネズミ位しか思い浮かばずつい…」
だそうで…困るなぁ、ちゃんと相手の情報位把握しといて欲しい…。
でないと余計な手間が増えちゃったりするんだからさ…。
「いや、すいません…。」
謝られてもしょうがないんだけどね。
だがこれもお仕事、ちゃんとやりますからご心配なくという旨を伝えると、
僕は紅をつれ問題の地下倉庫へと案内して貰った。
「ここです」
案内されたのは、大きな搬入口を鎖で雁字搦めに封印を施した扉の前だった。
―――でもなんだろう?このとりあえず塞いどけ的な封印の仕方…。
簡単に言うと、扉の取っ手にグルグルと鎖を巻いただけ…雑なのにも程があるよ!
ちなみにその事をジョンさんに尋ねると…
「急いで塞いだモノで…」
と苦笑しながら答えてくれた。ふーん、そーなのかー(もはや投槍)
――いい加減真面目にやろう…とりあえずは、このこんがらがった鎖をどうにかしないと…。
「それじゃあ…いくよ?」
「おう」
「お気をつけて…無事に戻ってこられる様祈っています」
何気に不安を煽るような事を言って戻って行くジョンさんを尻目に、
僕たちは数十分かけてやっと鎖を解いた扉に手をかける。
……というか、この扉を開けるのに一番手間取った様な気がするのは何故だろう?
「「セーノ!」」
2人で力を込めると、ギギギという金属がこすれるような音を立てて扉が開いて行く。
う〜ん、重い!立て付け悪いのかな?それともコレがデフォルト?
「中…暗いな?」
「とりあえず入り口付近にはいないっと…」
中は薄暗く、いかにも何か出そうな感じだった。
「サーチ…」
魔力波を飛ばすけど……反応は無し、どうやら見える範疇にはいないらしいね。
「奥に行くけど、一応扉は閉めるよ?」
「ああ、逃がしたらまずいからな」
――中に入った僕たちは、また2人あわせて扉を閉める…………やっぱり重いなコレ。
倉庫の中は、かなりの規模で天井が高めで床の面積も広く、軽く一軒家も入りそうな位の広さだ。
扉を閉じてから数日位なので、埃とかはあまりない。
無造作に積まれた木箱、酒瓶酒樽、何かのコンテナ…色んなモノが置いてある。
少しくらい貰ってもばれないだろうか?と頭の片隅で思ってしまったのは僕の中の秘密だ。
「手分けして探そう。ヤバかったらお互いを呼ぶ事…いいね?」
「了解だ」
「……あと解ってるとは思うけど、ココの貨物とか傷つけたらダメだからね?」
「………………努力する」
「努力は……まぁいいか…最悪敵がやった事にすれば良いし。」
少しくらいモノが壊れてもしょうがないよね?あと少し位モノが消えても…え、犯罪?
大丈夫大丈夫、見られてなければ犯罪は成立しないんだよ♪
………ちょっと思考が怪しい所にズレたけど、探索を続行する事にした。
***
しかし、倉庫だけあって色んなものが置いてある。
どうやら、モノによって種分けがされているらしく、現在僕が探索しているところには、武器屋に降ろす為だろうか?沢山の槍や剣等の武器達が
縄でひとまとめにされて、壁に立てかけてある。
ちょっと解析してみたけど…全部大量生産品だった。
しかし、それにしても、置いてある武器の種類は地球の製造年代からしたら見事にバラバラだ。
グラディウスとブロードソードがセットで置いてあったり、サーベルとシャムシールが一緒にしばってあったりとか……いいのかなぁ?
でもまぁ、使えるならいいか…僕にはあまり関係ないしね。
武器にはどれにも長所短所は存在得する訳で、例えば素早い攻撃を出せるエストック等の剣は
斬る事には向いていなかったり、全長が2mを超えたりするトゥ・ハンド・ソードは逆に重すぎで通常の人間には扱えなかったりする。
もっとも、魔法とかの不思議ぱわーがあるこの世界じゃ、そんなこと関係無いかもしれないけどね。
とりあえず武器はもういいや、別のとこにいこう。
***
「今度は雑貨系かな?」
棚に綺麗に陳列されているのは、鍋、大鍋、フライパン、包丁、食器類、その他エトセトラ…
考えてみたら、僕達まだ住むとこ決まってないなぁ…
宿屋暮らしでも良いけど、宿代がもったいないしね…。
最悪あの森のダンジョンの中の宝物庫から金貨を持ってくれば良いんだけど…
正直往復するのがめんどいです。
とりあえず後でギルドのお姉さんに、借家って無いのか聞いておこう。
そんな事考えながら次に行こうとしたその時…
「かなめ!ちょっと来てくれッ!!」
「っどうした!紅!!」
紅が僕をよんだ!
「兎に角早く来てくれ!」
「解った待ってろ!」
僕は紅の声がした方向に向かって急いで走る。
沢山の棚や木箱を飛び越え、豆が入っている袋のわきをすり抜け、筋肉だるまな彫刻を横目に走り抜ける!
――ようやく紅が居る所に来た僕が見たのは…
「見ろかなめ!このお肉達♪うまいぜコレ♪」
「…………おバカ。」
紅はココにあったお肉屋に降ろすであろうベーコン肉の塊や、ソーセージ等に齧り付いていた。
はは…そう言えば別れて探そうって言った時、妙に鼻がぴくぴくしてたけど…コレの所為か…。
「まったく…勝手に食べちゃだめだよ!」
「いいじゃねぇーか少しくらいよぉ?」
「はぁ…あのねぇ?勝手にモノが無くなったらジョンさんにバレちゃうでしょう?依頼中に僕たちが原因で関係ないモノ壊したら、
それの費用僕たち持ち何だから気をつけてよ!」
「わぁったよ…」
全く…目を離した途端コレなんだから…
しかし…本当になんて言い訳しようかな?
――この時の僕は紅が仕出かしたコレをどう良い訳しようか考えていた。
しかし、得てして状況は進むらしい。
コトッ…
「「!!!」」
「聞いた?」
「ああ」
「扉…閉めたよね?」
「ああ、だからココには俺達と敵さんしか…」
――――カリカリカリカリカリカリカリカリ……。
やや暗い倉庫の中に響く謎の音…
そして、僕達はその音の正体をすぐに知る事になった…。
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