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「数字の支配者」が覚醒したアランは、難攻不落と言われた魔王軍の城の一つを陥し、一躍有名冒険者になった。
そんなアランを追放した俺は無能扱いされ、冒険者ギルドでも腫れ物扱い。
依頼を受けようとしても
「え、あのアランを追放した無能でしょ? そんな人に任せられませんよ」
と依頼主に断られるのだ。
冒険者なのに、あまり依頼を受けられない。
つまり収入は激減する。
そんなパーティーに愛想を尽かし、ファランは抜けていく。
レナは厚顔無恥とも言える提案をして来る。
「ねぇ、アランを呼び戻しましょう」
毎回なので、もしやこれも必須なのかと思った。
面会は頑なに断られるので、何度か人伝、それも伝言する人を代えながらアランにパーティー復帰の打診してみたが、その都度
「もう遅い」
と同じく人伝に断られる。
それに、この打診が赤文字で記される事もないため、ただレナが図々しいだけだ、と結論付けた。
ただ、レナが「戻せ戻せ」としつこい上にやかましく騒ぐ。
そこで諦めさせる為に仕方なく、無駄だと知りつつも、毎回面会および、復帰の打診だけはしているが⋯⋯。
そして⋯⋯俺は毎回、いつもの同じに日に死ぬ。
アランを追い出すようにしてからは、毎回同じ死因。
口にするのもおぞましい死に方だ。
死後、復活した俺は「導」を開く。
アランが「数字の支配者」に覚醒した場合、そこには黒字でこう書かれていた。
「アラン、魔王に挑むも勝てず」
そして、謎の数字がその下に記される。
ちなみにアランが初めて「数字の支配者」に目覚めた周期では
(41269/65535)
といった具合だった。
最初、何を表してる数字なのか、まったくピンと来なかった。
だがきっと、何かの手がかりの筈だ、と考え、注視する事にした。
それからは、俺は青字で記される『因果』の積み重ねを重視した。
パーティを結成するのが、成人の儀式を終えた二年後。
これは二年間の冒険者活動がなければ、パーティ立ち上げの許可が下りないためだ。
もちろん立ち上げ前にも色々試したが、パーティ立ち上げ前には赤字はおろか青字すら追加されない。
その期間は重要ではない、ということだろう。
とはいえ、俺は少しでも金を溜めるなど、その後の青字の因果をこなす上で少しでも有益になるように、と準備期間に関しては動いた。
そしてパーティを結成し、実際に青字で示される因果の積み重ねを始めると、少しでも効率的に動けるように、一つ一つの項目を整理した。
その中には、どう逆立ちしても同時にはこなせないものもある。
例えばパーティメンバーの選定もそうだ。
四人の枠のうち、俺を含めた三人は固定。
となると、残り一人はどうしても、複数存在する、青字で記される人物から選ばなければならない。
そして悩ましいことに、青字の人物はそれぞれに、固有の「因果」がある。
詳細は省くが、例えば槍使いのファランの場合、代表的な独自の青字の因果として「マレー山の竜討伐」がある。
弓使いのニックなら「メリル村の橋渡し」などだ。
だが、九十回目からは四人目はファランに固定した。
マレー山の竜討伐の場合、その準備として立ち寄る魔法都市バルハントで、アランがアクセサリーを入手する、というこれまた青字の因果がある。
そしてこの因果は、メリル村の橋渡しとは重複できない。
メリル村に向かった場合、その後バルハントに向かってもアクセサリーは売り切れてしまっているのだ。
つまり、バルハントでアランがアクセサリーを入手する、というのは時限的な因果なのだ。
もしかしたら、メリル村の橋渡しと同時進行できる、他の因果があるのかも知れないが、俺は発見できなかった。
その間も、毎回の結果発表。
38926/65535
36497/65535
31283/65535
24637/65535
27294/65535
右の数字は固定、左のみ変動する。
これらと、アランの「数字の支配者」というスキルから立てた俺の仮説は。
「これは⋯⋯魔王の生命力、それを数値として見えるようにしたものなんじゃないか?」
ということだ。
俺の仮説が正しければ、左の数値0になるときが、魔王の死、つまりアランが勝つ、ということになる。
その仮説を立てたあとは、左の数値ができるだけ減算する青字の因果を選ぶ。
バルハントでのアクセサリー入手は500の減算。
65535から見れば微々たる数値だが、他の因果と比較すればかなりの数値。
ファランが固定メンバーとなった一因でもある。
同様に、どちらか一方しか選べない因果、というのは結構存在する。
同時期に行われる東の街での祭り、西の街で武闘大会、といった具合だ。
俺はそれらを取捨選択しながら、その中でも、一つでも多くの因果と重複可能な物を選んでいった。
だが、青の字の因果には罠があった。
折角追放しても、アランのスキル「数字の支配者」が覚醒しないケースがあったのだ。
その場合、アランはあっさりと死ぬ。
どうやら組み合わせに条件があるらしく、ただ闇雲に数をこなしてもダメ。
青字の因果で、重複させる総数だけで言えばスルーした方がいい「東の祭」などは、スキル覚醒の観点からいえばむしろ効率的、などということもあったのだ。
なんで祭りが? などと思うが、結局俺のスキルではないし、考えても仕方ない、とそこは割り切った。
大幅に減れば喜び、むしろ増えてがっかりすることもあれば、手応えを感じていたのにアランのスキルが覚醒しなかったり。
七年に一度発表される数字に、一喜一憂する。
そして、百八回目。
(4234/65535)
まだ何か足りないようだ。
だが、もう少し。
もう少し⋯⋯のはずだ。
何が、どれだけ数値を減算するのか仮説を立て、それを因果の起こる時期と照らし合わせて考えていきつつ、未発見の青字の因果を平行して探す。
黒字を避けつつ、やれることは試す、という感じだ。
そして迎えた百十五回目。
スタートしてすぐに「導」を立ち上げた俺の目に映ったのは、百十四回目の結果。
相変わらずの黒字だが、希望が見えてきた。
「アラン、魔王に挑むも勝てず」
(84/65535)。
それは百十三回目の(1050/65535)からの、大幅更新だった。
ついに、見えてきた。