4.数字の支配者
「アランの加入」という必須事項を発見し、俺は再びやる気を取り戻していた。
希望が見えてきた気がしたのだ。
というか⋯⋯アランの加入が必須なら、黒字で「アランを加入させなかった」と出すべきだろう。
まあ、それなら「パーティーを立ち上げなかった」とかもそうか。
つまり「しなかった」は反映されにくい、ってことか。
肝心な所で役に立たないスキルだ。
そのせいで百年も⋯⋯。
まあ、そんな愚痴を言っても仕方ないのだが⋯⋯。
こうして、魔王討伐においては加入が必須だと判明したアランだったが、数周期に渡って俺のことを悩ませた。
やっぱり、最初のクエストで死ぬのだ。
俺も手を変え品を変え、クエストの難易度を下げてみたり、それなりの装備を与えてみた。
が、ダメ。
クエストに向かえば、アランは死ぬ。
解決策が見つかったのは、アラン加入が必須と知ってから十回目の周期だった。
ごちゃごちゃ考えず、最初の一カ月を「訓練および、アランの会計スキルを審査する」という名目の期間にしたのだ。
実際問題すぐ死ぬせいで、ここまでの九回で会計のスキルなんてほとんど出番がなかったので、ちゃんと見てみたい、というのもあった。
これが大当たり。
その時のアランは、二年ほど生き延びた。
そこから周期をまたぎつつ、色々確認したところ、どうやら「初クエストの時期」というのが、アランを死に導く因果のようだった。
そして、それは加入してすぐと、一年周期に、特に危険な時期がくる、とわかってきた。
そして、加入してすぐと、そこから一年周期に関しては、もう完全に対策が完了した。
まあ、五年後に関してはだいたい俺も一緒に死ぬので、致し方なし、という感じだったのだが。
それ以外の時期も戦闘中に、普通にあっさりと死んでしまう事もあるので、危なっかしすぎて目を離せないのはあまり変わらないが⋯⋯。
その後、パーティーメンバーを槍使いファランから変えてみたりした。
青字で記載される人物は他にもいたが、俺の戦闘スタイルと、相棒が槍というのは相性がよく、何より話しやすいファランが最適に思えた。
もう一人パーティーメンバーを増やそうとした事もあったが、仮に青字の人物であっても、五人目になると黒字で記されてしまう。
その事から、俺はパーティーメンバーの上限は四人だと判断した。
一度だけ、過去に存在した魔王を封印したとされる、スキル『聖女』の持ち主を加入させた事もある。
たが、彼女は黒字だった。
その理由はすぐにわかった。
彼女は、レナととことん相性が悪い。
彼女がいると、レナはパーティーを抜けてしまうのだ。
まあ、彼女だけでなく、レナはアランとも相性が悪い。
彼女は、こちらの気も知らず、すぐにアランを追い出そうとするのだ。
何とか彼女を宥めながら、パーティーを運営していた。
八十回目。
この頃になると、俺は悟り始めていた。
恐らく魔王を殺すのは⋯⋯俺じゃない、と。
なんせ、何度も魔王どころか、その手下に殺されているのだ。
魔王の前に、たどり着く事さえままならない。
その中には、数百年、一度も勝てない相手がゴロゴロいる。
どれだけ鍛えても、勝負にすらならない。
そして、俺がどれだけ自分を鍛えようと、それが赤文字で記される事がないのだ。
アランの加入、そして生き延びさせる方法が見えてきたことで生まれた希望も、またくすみ始めていた。
そして⋯⋯。
「ねぇ、あんな役立たず、追放しちゃいましょうよ!」
レナにとっては初めて口にするセリフ。
だが、それは毎回俺をウンザリさせる。
なんせアランが加入以降、毎回言われるセリフなのだ。
どんなに二人の仲を取り持とうとしたり、レナのご機嫌を取ろうが、毎回このやりとりがある。
二人の加入はアランが先とはいえ、ほぼ同時期。
最初こそお互い遠慮があるものの、数ヶ月するとレナはアランに対して当たりが強くなり、数年経つと毎回このセリフを言う。
七年おきに聞かされる、くだらないセリフ。
全く⋯⋯二人の相性の悪さときたら。
毎回必ず⋯⋯。
ん?
俺はそこで閃くものがあった。
アランは、俺がどんなタイミングでパーティーを立ち上げても、必ずその場に居合わせる。
必ずだ。
そして、毎回レナが彼を追放しようと俺をけしかける。
必ずだ。
必ず⋯⋯つまり、必須、ということなんじゃないか?
そんな思い付きから、レナへと意思表示をした。
「わかった。今晩お前の希望を伝える」
「本当に!? さっすがエリウスならそう言ってくれると思ってたわ!」
レナは満面の笑みを浮かべた。
そんなレナとは対照的に。
追放する旨を伝えると、アランは目に見えて動揺し、悲しそうに振る舞った。
心が痛い。
だが俺は自分の心を鬼にして、パーティー残留を希望するアランを追い出した。
もしこれが必須ではなかったら。
レナが何と言おうと、もう二度と同じ事はしない。
そう思わせるのに十分なほど、俺の前から立ち去るアランの背中は、寂しさを感じさせた。
部屋に戻り、「導」を立ち上げた俺の目に飛び込んできた、赤い文字。
「会計、アランの追放」
それを見た瞬間、俺の心に渦巻く黒い感情。
これまでと違い、一切喜びはなかった。
抑えることができない衝動から、ドアを殴りつけてしまった。
結構大きな音がしたが⋯⋯誰も様子を見に来ることもなかった。
アランが加入して以降、確かに戦闘面でいえば、多少負担は増えた。
だが、精神面で言えば、俺はかなり楽をさせて貰った部分がある。
彼は公平で、会計という立場であれば幾らでも誤魔化せるだろうに、金をちょろまかしたりしない。
しかも努力家だ。
報われる事はこれまでなかったが、クエストの合間には有り金はたいて訓練所に通い、少しでもパーティーの足を引っ張るまいと努力する。
その姿を、俺は繰り返す中で、何回も、何百年も見てきたのだ。
そして何より。
俺はこのくだらないループの中、たった一つだけ、楽しみができていた。
アランの加入、その時のやりとりだ。
毎回すこし変えてみる。
初回みたいにあっさり加入させてみたり、変に焦らせてみたり。
その度に見せる彼のリアクション、そして加入が決まった時の、彼の笑顔。
そして毎回、その場に居合わせるギルドの受付嬢が、彼に祝福の言葉とともに、ウインクを送る。
恐らく受付嬢は、少し線が細いとはいえ、端正な顔をしたアランに惚れているのだろう。
それが、この何度も同じ事を繰り返す⋯⋯繰り返さざるをえない、くだらない人生の、たった一つの楽しみとなっていたのだ。
そんな彼を⋯⋯俺はこれから先、追放し続けないといけないのだ。
何度も、何度も。
アランを追放してしばらくしたある日。
特に何かした、という覚えもなかったが、新たな赤文字が記された。
「アラン覚醒、スキル名『数字の支配者』」
そうか。
そうだったのか。
魔王を殺すのは、アラン。
俺のパーティーに加入しなければ。
そして特定の時期に、それ以外でもちょっと目を離せば。
虚弱で、頼りない、すぐに死ぬ運命にある──あの男なのだ。




