12.暴かれた真実2
その後語られたのは、驚くべき真実だった。
所属するパーティがいつまでも決まらない彼アラン改め彼女は、ギルドの受付嬢に相談。
その受付嬢から「性別を偽り、偽名を名乗る」という提案を受ける。
戦いがつきものの冒険者稼業、それも戦闘に適したスキルを持っていないという条件の場合、やはり女性よりは男性の加入が優先される気風がある。
そして、本来ならきちんと申請しなければいけないが、そこはあの受付嬢がうまいことやる、という話が出来上がっていたらしい。
あのウィンクは、そういうことだったのか⋯⋯。
あとは任せろ! 的な⋯⋯。
「まぁ、でも、うん、それなら俺が気が付かなくても、うん」
「⋯⋯ファランとレナは数か月で気が付いてたけど」
「え、本当か⋯⋯?」
「うん、だから、ちょっと、ショック。数年ならともかく、数百年⋯⋯それに」
アランは左手の甲をこちらに向けた。
「これ⋯⋯」
「手の甲がどうした?」
「もうちょい、視線、上⋯⋯」
もうちょい上?
あっ⋯⋯。
アランの左手薬指。
そこには魔法都市バルハントで買い与えた、ピンクの宝石があしらわれた指輪がはまっていた。
「これなんて、明らかに女物だし、これ欲しがってる姿見て、男だと思っていた、は、さすがに⋯⋯鈍感すぎ、っていうか。だって最初、誰がお前にやると言った? って言われたとき、誰かレナとか、恋人に贈るのかな? って思ったくらいだし⋯⋯魔法はどうこうって、プレゼントしてくれる口実だと思ったし、だから、嬉しかったし⋯⋯ここまで頑張れたし⋯⋯」
めちゃくちゃぶつくさ言ってる。
あれ、これ俺完全にやっちゃいました?
そうか。
そうだったな。
俺はいつからか⋯⋯どうせ別れる運命だ、そう思って、表面だけで、ちゃんとみんなの事を見てなかったのかも知れない。
どこか意識的、無意識にかかわらず距離を置いていたんだろう。
それは追放するとか、しないとかだけじゃない。
どうせ、二十二歳になればお別れ。
仲良くなりすぎれば、次に一からまたやり直すのが辛くなる。
そんな、よそよそしく、達観したような、気取った態度だったのだろう。
まぁ、でも、今それを理由に取り繕ったり、嘘を言ってもしょうがない。
「アラン」
「はーい、なんですか?」
なんだろう。
なんか急に、他人行儀なこの感じ。
だが、そんな空気に負けず、ちゃんと相手の目を見ながら俺は言った。
「これからは、お前の事を⋯⋯これまで以上にちゃんと見るよ」
そう伝えると⋯⋯。
「⋯⋯なら、良し!」
えっ?
何それ、急に偉そうに。
なぜか顔を背け、耳を真っ赤にしながらアランが言った。
偉そうにして恥ずかしかったのか?
しばらくして、恥ずかしさも落ち着いたのか彼女は再び話を始めた。
「あのね、レナなんだけど」
「ああ」
「レナも⋯⋯コホン、レナはエリウスさんの事が好きだった、んだと、思う」
「あいつが? そりゃあないだろう。俺はアイツに殺されたんだぜ」
「だって、それまでも当たりは強かったけど⋯⋯僕が女だって知ってからは、それまで以上に当たりが強くなったもん、エリウスさん色々僕を気にかけてくれてたし、それが気に入らなくて⋯⋯きっと、エリウスさんを独占したかったんだ」
ふむ。
言われてみれば、思い当たる節はある。
彼女のアランに対する態度が目に見えて変化するのは、大体パーティ加入後数か月してからだ。
じゃあなんだ、愛情が爆発しすぎて憎しみに変わったとか、そんな感じか?
いや、まあ、そこまで好きとかじゃないだろう、軽いやつだ、たぶん。
「あとね、ファランだけど」
「ああ」
「何回かね、その、あの、くどー、かれ、たり、したんだ。もちろん、断ったけど」
「は?」
「だからね、まぁ、そういったお誘いをね? 僕が何度も断るもんだから、パーティから追い出そうとしたのかなー、なんて⋯⋯」
何ということだ。
毎回、悲壮な思いを抱えて臨んでた、あの追放の場。
じゃあ何か? 四人目の青字メンバーって、アランが女だと気が付いて口説くような男か、レナと結託してアランを追い出すような女ってこと?
あれ、見方を変えたら、痴話げんかだったのか⋯⋯。
世界の命運を握る、痴話げんか⋯⋯。
そんな神話あったな。
なに、俺たちは神か? 神なのか?
「で、そのレナは今どうしてるんだ?」
「うん⋯⋯エリウスさん殺人容疑で指名手配されて⋯⋯最近まで逃げてたんだけど、捕まって、もうすぐ処刑される、みたい」
「そう、か⋯⋯」
少し重い雰囲気になってしまった。
そんな空気を振り払うように、アランは手を振りながら言った。
「あの、ごめん、話戻すね? さっきちょっと言いかけたんだけど⋯⋯僕、エリウスさんにお願いがあって、さ」
「なんだ?」
俺が聞き返したところ、何故か彼女はしばらく黙った。
そしてようやく、意を決したように言った。
「もう遅い、なんて言ったけどあれ嘘。僕を⋯⋯パーティに戻してください!」
その言葉を受け、俺はしばらく考えたあとで彼女に聞いた。
「俺は⋯⋯パーティメンバーの性別すら間違うようなポンコツだぞ?」
俺の言葉を、彼女は首を振って否定した。
「人の気持ちに鈍感で、要領も悪い。そのせいで何度も遠回りした」
彼女は首を振り続ける。
「お前なんかより、ずっと弱いし、今は所詮剣豪のスキルしかない、それに金もない」
何を言っても彼女は首を振る。
根負けして、最後に聞いた。
「お前のような救国の英雄が、俺のパーティなんかで、良いのか?」
「エリウスさんのパーティが⋯⋯違う、僕が所属するのは、エリウスさんのパーティじゃないとダメなんだ!」
泣きそうな顔で言ってくるアラン。
さすがにこれ以上は、ただしつこいだけだろう。
それくらいは、鈍感な俺でもわかる。
「そうか、わかった」
俺が手を差し出すと、一転、彼女は笑顔で、嬉しそうに手を握ってきた。
数百年で初めて握ったその手は、幾度となく激戦を経てきた割には⋯⋯なんだ、その、まぁ、柔らかかった。
じゃああとは、最後の心残りを晴らしに行こう。




