【SSコン:明後日】遥か遠くに行った幸せ
「明後日は俺の後輩の中学校の文化祭らしいな。」
突然、アイツからのLINEの通知が来た。おかしい。そんなどうでもいいことを俺に呟くことなんてこれまで無かったじゃないか。
「その時間帯は大学にいる。夕方は家庭教師のバイト。会いに行くなら夜中になる。」
そうなのか?違うのか?あれは誘っていたのか?中学3年生の教え子に英語を教えていても、頭の中はそのことしか無かった。
「モロさん、早く採点して下さい。俺明後日の準備で急いでるんです。」
俊秀が俺に英語ドリルを向ける。
「お前も文化祭に向けて張り切ってるのか。でもそんなこと言ったって、お前の場合は時間内にどれだけ教えられるかが目的だからなぁ。」
「別に張り切ってない。ハント部員アイツらがヘマをこくから俺がしっかりしないといけないんだ。」
「そっか。」
俊秀はまだ知らない。俺が彼らの部活動と同じことをしていることを。
世間を混乱に陥れる、あのバケモノらを処刑していることを。
そして彼らの先輩が、俺の元タッグであることを。
「ハント部での打ち上げは校則上ないらしい。明日の夜、暇になった。」
そのメッセージで俺は明日の為のご馳走や映画のDVDを考えていた。
「後輩たちが困っているから、先に飯食って寝ててくれ。」
「なにがあった?」
「文化祭で出す展示品を壊しちゃって、それで喧嘩になったそう。」
文化祭前日のことだった。教え子の家で待っていた時にLINEが届いた。「了解」スタンプを返して、でもなんだか心配になって、「今どこなんだ迎えに行く」と伝えた。
「商店街近くにある元ダンススタジオ」
「パニッカーと戦う」
「後輩たちをどうしても救いたい」
そのメッセージを受け取り、保護者さんの反対を無視して目的地に着いた。
「変身!」
がらあきの元ダンス教室周辺は人気もなく、窓はダンボールでも貼っていったのだろうか。何が起きているのかは外から見えない。
特撮に出てくるような『ハンター』になった俺はそのスタジオのドアを開いた。
「幸雄!大丈夫か!」
「中出先輩!中出先輩!」
「そんな…、後輩の前では格好良く見せると言ってたではないですか…!」
「う、嘘でしょ…?折角みんなで協力して捕獲できたのに…。」
最初に入った情報はそれだけだった。
次に入ったのは、酸性の刺激臭と新鮮な血の臭い。
そして、胸の辺りに大きな穴の空いた、「元タッグ」。マスクが邪魔でよく見えないが、もう息はしていないと見た。
「先生。」
混乱と絶望で顧問に訊くのもやっとだった。
「何があったんですか。」
「見ての通りです。」
そう答えた先生も声が震えていた。
聞かなくても分かってた、パニッカーに殺されたことぐらい。
ハンターから元の姿に戻った俊秀の同級生たちは先輩を囲んで咽び泣いた。
もう一度LINEを見る。
「後輩たちをどうしても救いたい」。
スマホが手から離れた。
ちくしょう。馬鹿野郎。なんで一番身近な俺に最期まで助けを求めなかったんだよ。同じハンターとして俺が役立たずって言うのかよ。ずっと共に戦ってきたじゃないか。なんだよ、俺よりも後輩のことが大事だって前から薄々気づいてたけど、こんな終わり方は無いよ。誕生日前日に、しかも俺の本音も聞かずに死ぬなんて最低じゃねえか‼︎
今すぐにでも打ちたいのを我慢してその頰に、接吻すら出来なかった。
代わりに自らの脳漿をぶちまけたかった。だがやめた。
天気予報が外れてゲリラ並みの大雨が降り注いでる。