念願の母になりましたが
勢いで書きました。何でも許せる方向け。
結婚して数年経っても、なかなか子供を授からなかったが、ついに念願叶って無事に可愛い息子を産んだ。
夫も私も嬉しくて、その時は心から神に感謝したものだ。
だが。
息子がおかしいことに気が付いたのは、寝返りができるようになった頃だった。
母乳をあげていると、私の顔をじっと見て確認し、にまっと笑うのだ。にまーっと。我が子ながら気持ち悪い笑顔で。
抱っこすると胸に顔をこすりつけてくるし、子煩悩の父親には嫌そうな顔をする。
若い女性は大好きなくせに、年のいったおばちゃんにあずけると泣き出す。
灯りの魔法を使ったら異常に興奮して、マママ、マヂデ、マホマホ、と喃語を繰り返した。
何この子。まさか。
嫌な予感がして、その日の内に私は教会にいった。
帰ってすぐ、私はびくびくしながらも、念のためにと司祭様に祈祷していただいた聖句を懐から出して、読み唱えてみた。
「ナリアガリユウシャ」
息子はビクッと硬直して、不安げに目だけキョロキョロする。ああ、この反応はやはり。
私は悲しい気持ちで続けた。
「ハーレムダメゼッタイ。オレツエーハシボウフラグ。ナイセイハショブンタイショウ」
息子はぶるぶる震え出した。
「ボッチヒキコモリオタクデブニート。ウッカリジコシデオヤフコウ。コレハマジメニヤリナオスキカイ」
聖句を聞いて、だらだら涙を流している。
「チートナシ。レベルナシ。スキルナシ。ステータスナシ。ミンナオナジスタート。フツウノジンセイ、ダイジニイキロ」
とうとう息子は号泣した。
私もぐずぐず泣いていた。
私の息子は厳密には私の子では無かった。神が下されたやり直しの子であった。
この国に、度々現れる自称転生者なるもの。
彼らは等しく、他の世界の神が厄介払いで我らの神に押しつけた、悔いと未練を宿す者だ。
彼ら自称転生者達は、往々にして病んでいるか拗らせている。時には根拠のない選ばれた人間というプライドを持っていたり、常識外れな言動を堂々と行ったりする問題児だ。
伝承によれば、我らの信奉する男神は異界の女神達と共に、いにしえの遊戯ヤキュウケンなる賭け事勝負をして負け、浄化しきれなかった魂の悔恨を晴らす手伝いをすることになったのだという。
つまり私は、真っ当な人間に成長するよう、この子を育てる仕事を神から課せられたのだ。
初めての息子がコレとは、何という無茶振り。泣けてくる。
せめて、聖句が効いてくれますように。
勇者になるとか冒険者になるとかギルドはどこだとかいずれ俺は世界を支配するだとか、訳のわからないキレかたをしませんように。
……過去にそういうヤツ(母方の祖父)がいたのである。
息子は四歳になった。私は頑張ったと思う。
魔王はいないし、魔獣もいない。だから冒険者なんて仕事もない。当然冒険者ギルドもないということに納得した息子は、大人しく過ごしている。
息子はちょっと魔法に興味があり過ぎるけど、普通の村のやんちゃな男の子に育った。ご近所の糞ガ……坊や達とも仲良くしている。
大丈夫だと踏んだ私は、次の子供を身ごもった。農夫の夫は、大きくなる息子に合わせて少しずつ畑を広げていった。
息子は中身がアレなのかも知れない子だが、その父親は真面目で優しい自慢の夫なのである。
二番目に生まれた子供は娘だった。
びっくりするほど器量よしで、ピンク色の髪の毛だった。
家族でお祝いした。
息子は大喜びし、オレノイモウトマジテンシトウトイ、と唱えた。意味は妹がとても可愛いということらしい。
やんわりと、遠い昔の言葉は災いの元ですよ、とたしなめると、はっとして涙目でうなずいた。よしよし。
息子がやり直しの子だったこともあり、私は不安解消の為にも司祭様にお願いして、念のためもう一度聖句をいただいてみることにした。
聖句は自称転生者にしかわからない言葉で、これを聞くとやり直しの子は皆涙をこぼすという。
それぞれに合わせた異なる文言なので、聖句をいただくには司祭様にいちいち祈祷してもらわねばならず、少なくないお布施が必要だが、私はためらわなかった。
教会から帰ってすぐ、揺りかごの中に寝かせた娘の横で、私は小声で聖句を唱えてみた。
「オトメゲームヒロイン」
娘はピクリと身じろぎした。私は続けた。
「ギャクハーダメゼッタイ。ヒトノカレシハヒトノモノ。ミンナノヒロインハビッチトオナジ。クウキヨマナイハシボウフラグ」
娘は、あうあう、と声をあげた。これはもしかして、そうなのか。
「ゲンジツトウヒダメ。コンドハボッチジャナイ。イジメモナイ。トモダチカゾクダイジニアイセ」
娘がぽろぽろ涙を流している。何と言うこと。泣くのが証拠だ、お前もか。
「セーブデータナシ。コウカンドナシ。サポートキャラナシ。スキップリセットナシ。ミンナオナジスタート。フツウノジンセイ、ダイジニイキロ」
私は娘もやり直しの子であったことに打ちのめされた。娘と一緒においおい泣いた。
司祭様には感謝である。聖句をいただいておいて本当に良かった。
どうか、この子が真っ当な娘に育ちますように。他所のお嬢さんを指差してアクヤクレイジョウなどと叫んだり他所の息子さんに馴れ馴れしくしてでドン引きされたり薄い本が無いと叫んだりしませんように。
……過去にそういう女(父方の従姉妹)がいたのである。
それにしても。
私は真実まっさらな、本当の自分の子供が欲しかったのだが。
三人目の子供を望んでいいものだろうか。二度あることは三度あるというし、非常に悩みます神様。
注意。ヤキュウケンは大変危険な遊戯です。よい子はマネしないでね。
それと、本家野球拳は脱ぎません。