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炭都  作者: 小川藻
8/15

7

 野球の話はすぐに終わってしまった。西口はこの街に来て10カ月という。だからあまり三笠高校に思い入れはないのだそうだ。



「故郷はどこなんだ?」


「新潟です」


「お米が美味しい?」そんな程度の知識しか私にはない。


「そうです」


「……」



 7分くらい黙った後、西口が話しかけてきた。



「新潟での父の事業がうまくいかなくて」


「話したくなければ話さなくていい」


「いえ……別に。佃煮とかの会社だったんですけれど、色々あって。新潟にはいられなくなった」


「家族は……」


「もう連絡が取れる人は皆死にました。兄は大陸で傭兵をしています」



 西口が身を屈めるような絹ずれの音を出した。



 そして私にまた、ぽつり、ぽつりと、話しかけて来る。



「石井さんは家族は?」


「妻がいるよ。子供は二人。兄が小学6年生で、妹は4年生。上は来年中学生だ」


「はは、いいですね。あ、私のことは気にしないで。写真ありますか?」



 私はゴーグルを操作して、写真データのフォルダを開く。家族のところを出して、西口のゴーグルと共有する。福知山や諏訪湖に行った写真や、運動会や学習発表会、お祭りなどの写真。西口はほほ笑むような顔つきでじっと見ていた。



「懐かしい。昔、家族がまだそろって楽しかった時期を思い出しました」


「あまり見せない方が良かったと感じている」


「そんなこと、ないですよ。……全然」



 西口に対して色々尋ねてもよさそうだとだんだんわかってきたため、話を加えていく。とにかく暇を潰れせばよい。



「いつまで三笠にいる予定だったんだ?」


「未定です。とにかく生活しなきゃらなかった。夜のお仕事でも良かったんですけれど、前、ちょっとつらいことがあって。同じようなお給料なら新しいことやってもいいかなって」


「結構厳しいだろ」


「まぁ、どこもこんな感じだと思います。ただ……やはり慣れませんね」


「10か月もいればそうでもないだろ」


「仕事はまぁ、慣れました。けれど、ここは電力で心身を固定するから……」


「労働を楽にするためのシステムだ」


「そうですが、これ、慣れません」



 雌伏1日目が過ぎた。



 ケアマシンなしでも次第に闇に慣れてきた。暗闇の中、初めて電力の補助なしで眠りに就いた。

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