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炭都  作者: 小川藻
6/15

5

 西口は立坑に避難していた仲間が暴走して潰れるのを待つべきという。



「なんてことを……」


「ですが、暴走を避けてここまで来て、一人で登るためにバッテリーを集めたのですよね。そして上ろうとしている。それだったら……」



 集団の暴走を予期して避けたのだから、本当は集団が暴走の果てに死滅することにも想いを巡らせる必要があった。私はそこまで考えを至らせていなかった。



 まさか呑気な西口にそれを突きつけられるとは。



 西口がゴーグルを外す。外したことで自然に電源オフになる。作業着のスイッチも切る。音や臭いのナノフィルターも切れると言うのに気にしない。私は寝る間も付けっぱなしにして、また掘削機から充電しようと思っていたのに。真っ暗闇になった西口が語りかける。



「5日くらい、やりすごせばよろしいでしょう。幸いにここには食料はあります。上にもあるでしょうけど150人もの人間が食べる分は無い。5日間で、人はだいぶ減る。それならより安全」


「……」


「あー。もしかしたら、5日の間に立坑に救助来るかも知れませんよ? それにちゃんと秩序が保たれているかも? だけれど、今すぐ上ったときに暴徒に遭う可能性も、あります」



 立坑に集った知り合いの顔を思い出す。



 私は彼らを見捨ててここまでやってきたのだ。西口はいきなり現れて、そしていきなり私を暴いた。



 〈ケアマシン〉が作用し始めた感覚を得た。ストレスを軽減している。冷静になって、あのまま集団にいたのでは生き長らえなかった理由を再確認して心を落ち着かせる。思わず右手で左の肩を強く握りしめる格好をとっていた。



「あ、それと」


「……何だ」


「多分、上の人たちはここに食料があることを知っているでしょう。150人分は無いけど。それにバッテリーがあることも。もう誰かが向かって来ているかも知れませんね」



 〈ケアマシン〉の作用が増幅する知覚を得た。グッと押し込まれるような、そんな感覚。



「5日間やりすごすなら、誰も来ないようなところでじっとしているのがいいのかも。第35片西向第2坑道なんかが良いのかも。あそこは奥まで坑道を作った割に採掘がまだだから、皆何もないのを知っている。そこに食料を持って隠れたら」


「……君はどうするんだ」


「別に……私はここでずっといてもいいですし、人が来たらその人に従いますし……」


「それでいいのか? いきり立った男が来るかもしれないんだぞ」


「はい。でも来ないかもしれませんよ? もう立坑に救助が来てるかも知れませんよ? それにちゃんと秩序が保たれているかも? 食料は一人分なら全然まだ充分ある。それに石井さんに電力の取り方教わったので」



 〈ケアマシン〉が働き過ぎて、だんだんボーっとしてくる。これは 〈ケアマシン〉の副作用で、鉱夫たちに〈ケアしびれ〉と呼ばれる現象だ。気の弱い鉱夫が罹る、周囲の笑いものになる症状。



 冷静で正しい判断を下すための装置なのに、酒に酔った時のような狭隘さが立ち現れる。何も考えられなくなってくる。だからもう何も考えずに私はこう言っていた。



「一緒に来てくれないか」



 西口はすぐに「いいですよ」と答えた。

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