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炭都  作者: 小川藻
4/15

3

「驚いた……怪我はないのにここにとどまっていたのか?」


「はい……」


「ここで何をしている」


「あなたが何をしているのか気になって」


「なぜ逃げない」


「あの、救助が来ると思って止まっていたのです」


「他の者は上へ逃れただろう」


「はい」



 どうも話がかみ合わないので、もっと一般的な話をすることにした。管理棟の木とスチールでできた丸椅子に座る。椅子に座るのは、かなり久しぶりだ。



 彼女は西口という名前で、炭鉱の下請けである三洋興業で勤務していると述べた。この掘進鉱区の下請けなのだろう。聴いたことのない会社で、孫請けなのかもしれない。



 なぜ働いているかはもちろん聴かない。こんな最下層で肉体労働する若い女にはそれなりの理由がある。なぜ市街の商店街で働かないのか。なぜ数ある炭鉱関連企業で働かないのか。あるいは炭鉱上層の運搬や管理や充填でないのか? なぜ繁華街で働かないのか。キャバクラじゃだめなのか。ちょんの間じゃダメなのか。理由があるのだ。炭都ではそれは聴いてはいけないことになっている。



「4日間、どう過ごしていた」


「黙って座って待っていました。電力も切れてしまいましたし」


「この暗い中でか」


「はい」


「食事は……」


「あちらに。食べますか?」


「……」



 予備バッテリーと同じく、下請けの管理棟には業者が持ち込んだ簡易的な食品が置いてある。バッテリーを探した部屋の隣は畳敷きになっていて、宿直の人間が居座ることができる部屋になっている。



 安いサバの缶詰やカップめんや干物の類。電子レンジで温める飯。すぐ温まるカレー。直雇の購買ではあまり見ない、廉売れんばいという業者が一括で何10箱と売るタイプの食品が、畳の上に乱雑に置かれている。



 サバの缶詰を開ける。西口がどこからともなく割り箸を持ってきた。暗いので私に渡せずにいた。



 ゴーグル越しに彼女を感知して、手を伸ばして割り箸を受取る。何千本と一度につくられる劣悪な割箸で、ちゃんと割れないことがほとんどだ。地下で湿っているからさらに割りにくいだろう。



 どうでもいいので何も考えずに割る。存外に上手く割れた。サバ缶を胃に放り込む。飯もかきこむ。西口がテーブルにペットボトルのお茶を置く。やや強めに差し出すように、音を立てて置く。私は暗視があるので彼女の気遣いは空を切ったことになるが、心は受取らねばならない。



「ありがとう」


「いえいえ、……上から来たのですか? 様子は」



 食べながら私はいまだ助けが来ないこと、集団から離れてバッテリーを取りに来たところで、斜坑を上っての脱出を予定していることを伝える。応えてから、他人に余計なことを話してしまったことに気が付いた。



 大勢の人間が極限の状態になったときに起こる狂騒。立坑直下では、必ず起こるだろう。いろいろ可能性は言えるが、大きな理由として直雇と下請けという身分差があるから。



 これを避けて、さらに生き残るためにここまでやってきた。



 西口には食事の恩がある。それに西口の持つ性質がそうさせたとも感じる。覇気がないというか自我が薄いというか消極的というか。西口に話しても大勢に影響はないと無自覚に判断していた。食べ終わるころ、西口がぽつりと言った。



「私、バッテリーの在り処を知ってますよ」


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