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炭都  作者: 小川藻
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 西口はたしかについて来ていたはずだった。旧幌内炭鉱の斜坑でも、互いの階段を踏みしめる音を聴いていた、はずだ。最後、私は夢中になって地上へと歩いたから気にしなかったけれど、これまでどおり、ついて来ていた、はずなのだ。



 これまで歩いてきた坑道を見やる。黒いとば口の奥は全く見えない。地上の光があるせいで、今までになく、坑道がことさらに暗い、と感じた。深度9200メートルの闇の中で見た掘削機のケーブルの、その挿し口より闇が濃い。夕方の弱い光であるにも拘わらずだ。

 



 だがそこには間違いなく……。




 私が気付かずそのまま歩いて行ったら西口はどうしただろうか。私には所属する家族があるしヤマがあるしシステムがある。



 西口はどうだろうか。彼女は強い。何をしたってそれなりに何でも見えてしまうんだろう。だから、どこへ行こうと何をしようと仕組みの外にはみ出してしまう。だから、彼女は鉱山から抜け出したところで……なんら変わらない。生きたところで、見えないルールに守られないからどこへいこうとも自分に意味を持てない。自分を規定できない。



 陽の光があるところからは、坑道に居るであろう彼女の姿は全く見えない。すぐそこにいるはずなのに。



 音はない。彼女は黙ってただ立っている。私は戻って、暗闇に手を差し伸べる。



 ゴーグルも作業着も用いないで、多分ここにいるだろう、という予想だけで、西口の肩の広さを思い出しながら手を差し伸べる。本当に光が届かないぎりぎりのところ、だいたい考えた通りの所に西口はいて、肩口を抱くような形になる。



 気のせいでなければ西口は右手で左肩のあたりを掴んでいた。彼女の作業着は予備バッテリーを必要としていた。



「おい、行かないのか」


「……」



 力を込めて引っ張る。初めの2秒だけ抵抗して、西口は外に出てきた。初めて自然光で彼女を見た。



「私の妻は三笠の生まれだ。相談してみよう」


「……」


「上手く行くかもしれないし、行かないかもしれないが」

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