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炭都  作者: 小川藻
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 1200メートルの斜坑の大崩落地点の直前、左側の階段の傍らから延びる古い作りの扉がある。鍵がかかっていたけれど、電力で強化された安全靴で蹴り破る。普段これをやると一発で懲罰だが、幸い坑内は電力が尽きて久しい。



 扉の向こうには、古いコンクリートが湿って続いていた。しばらくコンクリートの回廊を歩くと上り階段があり、先程と同じような扉。蹴破ると、旧幌内炭鉱の七片坑道にでる。旧幌内炭鉱は崩落の危険を減ずるため、2060年代に強化鋼材を支柱とする工事が施されている。あと150年は持つ計算だそうで、こっちのほうが崩落が少ないという皮肉を生んでいた。



 布引第二斜坑という古代の斜坑を上る。たまに、古い機械や看板が打ち捨てられている。筆で描いたような奇妙な文字で書かれており、よく分からない略字体みたいな字も多い。地下720メートルにある三片東向添坑道という狭い通路を西側に移動する。



 100年前の鉱夫たちはこんな狭い場所で採炭していたのだ。それに電磁的ナノマシンの補助なくして、身一つで掘っていた。心理的な圧迫はいかほどだっただだろう。旧炭鉱の中央添斜坑を上る。そして二片ポケットを経由しベルト二斜坑本卸・添卸からベルト一斜坑本卸・添卸へ。



 ほとんど1日程休息を取らず歩き続けていた。〈暗視モード〉で見る斜坑の先に、強い光を認知した。自然光だ。ゴーグルの暗視機能を取る。かけ出すことはしなかった。今までのスピードのまま、地上に到ろうとする。深度計の表示が消える。古い炭鉱の構造物の一角にたどり着く。階段の終着は、斜坑からやや離れて存在する。ドアを蹴破る。蹴破ってばっかりだな、と笑いが出てくる。常盤口という古い坑口の上部構造体に出られた。



 久しぶりに風を感じた。午後6時14分。夕闇の迫る時刻だが、まだ周囲は明るい。まばらな樹木の向こう、遠くに三笠の旧市街の明かりがともりつつあるのが見える。笹やぶの密集地帯だ。夕方の風で笹がそよいで音を立てている。



 笹の草むらに足を踏み入れる。



 6歩歩いたところで自分が草を踏わける音で気がついて、にわかに振り返る。



 誰もいない。

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