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世界一偉そうな王妃と三人の魔女と覆面強盗の砂漠の夜(1)

カタリア家。とは。

サンティアとラビアンに別れた名家であり、片方はサンティアまで遠征した結果男爵の地位を得た努力の商家。

もう片方はラビアン国有数の魔力を持つ家系である。魔法使いが極めて多く、特異な才能を持つものを排出する家柄であり、現在では女系家族の気から──魔女たちの家、とも呼ばれている。


──ラビアン国・名家大辞典、より。




そこまで読んで、ふわふわと漂っていたランプの精フレデリックは目を上げた。目の前でその当のカタリア家の血統の男子ミカエル・カタリアと、我らが黄金の獅子、ヴィクトリア王妃が向かい合っているのをちらっと見る。


王妃は静かに紅茶を飲み、すっと目を上げた。


「実家にご挨拶に伺いたいのだが」

「王妃ちゃんプロポーズみたいな言い方すんじゃん嫌だよ!」


対するミカエルは即答である。

なんなら彼はここ二時間ぐらい永遠に実家に来ようとする王妃を嫌がっているのである。


「ふむ。ではそなたの家に遊びに行きたい、菓子とボードゲームを持参しよう」

「学校の友達みたいな言い方しても嫌だよ!!!」

「今日家に親がいないのなら行っても構わないか」

「彼氏みたいな言い方でも嫌だよ!!!!!」


さっきからこれである。

ミカエル・カタリアは去年諸々あってから、宮廷魔道士となった黒髪の美青年だ。今は隊長格にまで一応地位が引き上げられ、時給制から月給制になってちょっと最近裕福である。定期的に美味しいものを食べられているらしい。いいことだ。

まあそれもこれも、フレデリックやヴィクトリアと親しくしているゆえ、なのだが──。


その彼がここまで拒むのも珍しい。

と思いながらフレデリックは事を眺めた。大体のことならお願いしたらいつも押し切られてくれるのに。


「ちょっと王サマさあ!王妃ちゃんになんか言ってよ!急に人の実家に行きたいとか!せめて二週間待って、俺が実家片付けるからさあ!」

「えっと……見られたくないものとかあるの?実家に?」

「めっちゃあるよ!!!!」

「なんだ、ベッドの下にいかがわしい本を隠しているのか?」

「王妃ちゃんはそういう庶民知識どっから仕入れてくるの???」

「ミカエル、君が嫌なら無理にとは言わないし……」


フレデリックが眉を下げて言うと、ミカエルはもにょもにょした。


「いやでも、うちに来たいのって王サマのそのランプの精霊化の呪いを解除する方法を調べたいからなんでしょ?だめとは言わないけどさあ……もうちょい時間を……」


宮廷魔道士、なんだかんだで友達みたいに思っているらしい王様に弱い。

彼は、すうはあ、と息を吐いた。


「とにかく、俺の実家は──……何ていうの、そう、社交的じゃないから!だから、俺から連絡入れて、俺が直に行って、ちょっと家とね、話をつけてからじゃないと〜〜〜……」


ぐだぐだ。

普段は軽口と冗談とナルシストムーブとツッコミばかりのこの男が、ここまで嫌がる。王はすごく珍しいなあと思ったし、王妃は少し眉を上げた。


「ふむ、そうか。社交的ではないなら──ある程度の段階を踏むのも必要だな」

「そう!分かってくれた王妃ちゃん!?」

「最近錬金塔が、映像送信型魔導水晶を開発してな、そのテストも兼ねて我が直に通信をしよう」

「なんで?」

「カタリア家ほどの家なら近くに魔力の地脈もあるだろう、充分通信が通る」

「やめて!!???」


家に同級生が来るのを拒んだら同級生が親にビデオチャットで突撃しようとしてる感じである。怖いよ。

必死で嫌がるミカエルの表情にちょっとかわいそうになったフレデリックは、するっと半透明の体を二人の間に割り込ませてミカエルをかばうことにした。


「ヴィッキー、ヴィクトリア。強引なのはあんまりよくないよ、ほら、ミカエルが困ってるだろう?事情も汲んであげないと……」


王サマ好き!とミカエルは思った。半透明でも好きだ。

この王、困っている人間を基本放置できないお人好しなのだが、こういうときも本当に優しい。王妃ちゃんのヒモにはなりたいが、王サマは普通に結婚したいタイプの男。


「──ふむ」


ヴィクトリアはふよふよと浮遊するフレデリックをじっと見てから、手を伸ばして触れない頬を撫でる。


「そなたがそう言うのならそうしよう、愛い」

「えっ、今の僕の何が可愛かったの……?」


至極真っ当な疑問。


「存在だ」


愛情爆弾。

ヴィクトリア・ウィナー・オーストウェン王妃、こう見えて夫がめちゃくちゃ大好きであった。


「あ、ありがとう……ヴィクトリア……」

「フレッド、半透明でも構わん、我の隣に英遠にいるがよい」


二人が二人きりの世界に入りそうだったのでミカエルはめっちゃ咳払いをした。


「ちょっと!オレもいるから!オレも!」

「あっ、ご、ごめんね」


王、実に素直。フレデリックは少しだけ考え込んだ。


「それこそ、必要があるなら僕から命じてカタリア家に伝書鳩だけでも事前に飛ばしておこう。事情の説明もあるしね。勿論訪れる数日前に……今日にでも。ミカエル、それなら大丈夫かい?」

「あー、うんうん、それならまあ……」

「あ、でも……できれば僕も、早く体を半透明じゃなくしたいし……一週間後ぐらいに行っても構わないかな………?」


ぴしっ。とミカエルの表情が一瞬固まった。


「だめかな……?」


へにょ、と王の眉が下がっている。

こ、断りづらい。


「あーーー!わかった!分かりました!」


ふわっとしたフレデリックの優しいお願い口調にミカエルは抗いきれなかった。2週間のところをさり気なく一週間に値切られた形になったが、王がここまで柔らかに譲歩してくれているのだ。


ミカエル・カタリアはなんだかんだで友達(広義)に甘かった。

本当は上司なんだけども。


「もう!わかった!いいよ!なるべく早く実家に話回しとくね、王妃ちゃんも王サマもサンティアとラビアンの国境超える準備しといてよ!!」


そういうことになった。



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