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世界一偉そうな王妃は魔法市場を札束と愛でぶん殴る(終)

「さて──」


サンティアの城の庭で、穏やかに紅茶の湯気が漂っていた。薔薇園の真ん中、麗しの庭園の中心のガゼボには本日は人影は一つしかない。

我らがヴィクトリア王妃である。すっかりスパダリらしい扮装を解いて、王妃らしい美しいドレスを身に纏い、ゆるりと巻かれた髪は黄金色である。まさしくこの宮廷の黄金の薔薇。


その向かいに普段王が座っているはずの場所には──誰も居なかった。


その代わり、王妃の手前にはゆらゆらゆれる異国情緒あふれるランプが置かれていた。黄金色のランプの口から、パーティーの際の洋服そのままの格好でフレデリックが幽霊のごとくふわふわと漂い出ている。


うーん、シュール。


「何はともあれ、こうしてそなたを取り戻せた。我は満足だ」


ヴィクトリアはふっと微笑んでそっと唇に香り高い茶を運んだ。


「一件落着みたいな顔して優雅に紅茶飲んでるけどヴィクトリア待って待って……!まだ僕人の体に戻れてないし……!」

「そなたが我の傍にある。それだけで充分だが」

「そ、れは……僕もだけど…………君がいてくれるだけで……」


王、王妃の直球ラブラブストレートに弱い。


「──どんなお前も愛いぞ。透けていようが、足がなかろうが、人でなかろうが構わぬ。お前がお前であるならば」


多分王妃、王がねずみになろうが生ゴミの袋になろうがそう言ってくれる。愛が深すぎる。


(か、かっこいい……好き……!!!!!!)


でもそうじゃない。


「ゔぃ、ヴィクトリア……でも、ほら……僕このままだと君に触れないんだよ?それは……僕的には、こう……」

「ふむ、それもそうか」


王妃はスカスカとフレデリックの体に手刀を通した。おいやめろ。


「大きさはある程度変えられるんだけどね……」


そのタイミングで王がぶわっと等身大の人間レベルに巨大化したのでめっちゃ変なところに王妃の手刀が貫通してしまった。大惨事。

フレデリックは見なかったことにした。

ヴィクトリアは素直だった。


「ん、すまぬ。今我の手刀がそなたの金──」

「言わなくていいから!!!僕大丈夫だよ!!!なかったことにしたから!!!!」

「そうか。ならいい」


王の方が頬を染め王妃が平然としている様子、いつもどおりである。


それにしても、と王は眉を下げた。

王宮に戻れたので公務には支障はないだろうが、これは──さびしい。ヴィクトリアに、触れられないのだ。手を握ることもできない。

等身大の大きさになってそっと手を伸ばしても、その黄金の髪や頬に触れたい手はすり抜けるばかりで、体温の一つだって伝わってきやしない。

こんなに近くにいるのに、こんなにも遠い。


フレデリックが肩を落として静かにしょぼんとしていると、ヴィクトリアはフレデリックにそっと顔を寄せた。目線が近い。ほぼゼロ距離で見つめ合う。


「フレッド」

「……うん……」

「そんな顔をするな」

「……でも、僕は、……君に触れたいんだ……君と手をつなぎたいし、抱きしめたりもしたい。今回頑張ってくれた君を抱きしめて、僕はここにいるよって、したいのに」


さらわれた自分を助けに自ら乗り込んできてくれて、札束と光る新聞で闇市場をぶん殴りまくって無双してくれて助けてくれた彼女。

その彼女に、報いたいのに。


そう思ってしょんぼりしているフレデリックの顔に、ヴィクトリアが顔を寄せ切る。唇の距離がゼロになる。何の感触もない、何も感じられない、キスだった。

触れられないキスだ。

それでもそれは確かに、口付けだった。


「……フレッド。──そなたがそう望むなら、我は望みを叶えるために動こう。」

「え、」

「今のそなたは魔法のランプだが、……我はそなたの王妃だ。我の王よ」


魔法のランプなのに尽くしてくれる人間がいる異例の事態。

フレデリックは一瞬感動し、そして何もできない自分を恥じてから──そうだ、とはたと思いついた。

思い切り力を込める。枷をかけられた魔力で、今、できることを。


ぽん、と赤い薔薇の花が、中空に現れて、テーブルの上へ落ちる。それをヴィクトリアの、髪へ。そっとふわふわと浮かせて、さす。


たった一輪の薔薇の意味。

その意味は。


「……ありがとう、僕の王妃。僕も精一杯、自分のできることをしたい。また君に触れたいから」


王は眉を下げて微笑んだ。王妃は王が指してくれた赤いバラにそっと指を触れさせて──それから、少女のように、子供のように笑う。

小さい頃と、それはなんら変わらない笑顔だった。


「ああ、我もだ。──伝手をなんでも使って、情報を集めている。今、既に」


はっやいな。


フレデリックがそう思ったときだった。

そらからぱたぱたと羽根うさぎが飛んできた。

最近魔国やラビアンで流行している、耳で飛ぶかわいいうさぎである。なにげに魔国法律愛護法で飛び猫の次に許可が通った生き物だったりする。


羽根うさぎはぶーぶー鳴いた。

声が全然可愛くない。

なんで魔国の生き物ってこんな感じなの?


ぽとり、と二匹のうさぎの顔がかわいく書かれている封書を落とす。


ヴィクトリア・ウィナー・オーストウェンはそれを拾い上げて──開いた。


「……ふむ」

「ヴィクトリア……?」

「ラビィ族の娘たちにも、この間伝手を作っていてな。面白い情報が手に入った」


彼女はひらひらと手紙を揺らす。

そこに描かれていたのは──簡潔な文字と、葡萄の家紋であった。


魔法のランプを人間に戻す魔法はとても古い。

それを使えるものは遥か長い魔法使いの血族の家系のみ伝わっている可能性が高い。サンティアにも幸いその血統の一族……の、従姉妹が存在している。


カタリア家。


2つに別れたカタリアの血統。一つは魔法使いに、もう一つは商家になった。


「──つまり……?」


フレデリックは小さく尋ねる。

ヴィクトリアは机の上にある黄金のベルを手にとって、鳴らした。


それは、宮廷魔道士呼び出し専用ベルであった。


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