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世界一偉そうな王妃は偽物王妃の自由を買収する(2)

蓋を閉めた偽物王妃は思った。


(──やった!)


王妃に扮装し、演技していた──美しい少年は笑った。

美少女にしか見えない美少年というやつである。そういう人種である。

何はともあれ、男の娘は喜んでいた。


(やった。ついにやったよボク!これで依頼は完遂……♡ ボクってば天才♡)


ついに、王の入ったランプを手に入れたのだ。

これは、スラム街出身の彼に、依頼されたことであった。

元々場末のいかがわしい店で、演技とメイクの技術を売りに金を稼いでいた。

スラムの外で国は少しずつ良くなっていったようだけれど、自分が前に担当した客の一人はスラムから王宮づとめになったらしいと聞いたけれど。

自分はずっとそんな奇跡に恵まれず、このまま朽ちていくのだろうと思っていた。


そんなある日に。


『人生を変える気はないか?』


急に現れた男が言った。

顔も見せない、妙な男だった。

王を手に入れ、連れてくれば他国での保証と安全を授けると。そして自分は多額の金を手に入れられる。


『ヨム。……いや、本名はギヨームだったか。化粧や、演技の勉強をしたいと、そう言っていたな。この汚い街から出たいと。その支援をしよう。──前金も……ほら。50万ゴルド、本物だ。この金はあくまで前金。終わった後は十倍の金を用意する』


夢見た未来を手に入れられる。その、差し出された即物的な光に、ヨム──いや、少年ギヨームは目がくらんだ。

首尾よくランプを手に入れるだけでいいのだ。そして今、それは達成された。


手の中でめっちゃがったがた動いてるけども。


「助けて〜〜〜!!!!!助けて〜〜〜!!!!!誰か〜〜〜〜!!!うっ、うっ……」


な、なさけな。

仮にも王たるものがこんなでかい声で叫んで涙ぐんでバイブレーションするな。


「雑魚、ざぁこ♡ 王様、さあもうあなたはボクのものだよ、一緒にいこ?」

「いや君誰だい!?ここから出し……」


ギヨームはランプの口をテーピングした。

ウィッグをしっかり止められるタイプのやつ。


息を吸って吐く。


興奮に頬が火照っていた。

けれど、あくまで王妃らしくしずしずと、歩く。

本当の王妃は正直もっと大股でがっつんがっつん歩くのだが少年はそれを知らなかった。王妃サマって綺麗に違いない!みたいな幻想に支配されていた。

そういうとこは普通に愚かである。





彼は暗い中、広間の外に出る。

立っていた哨戒の兵士がこちらを見たが、すっと頭を下げる。それに鷹揚に頷いて傍を抜けた。ああ、やっぱりボクの化粧や、演技は通用する!


彼はウインクしそうになったが耐えた。ちょっとだけにこっと微笑んで見せる。

兵士は王妃があまりにかわいい顔をしたので動揺した。か、かわいい。なんかいつもよりも威厳とかない。


まあ別人なので普通に威厳とかない。


(え?え?なに……?)

(今日の王妃様なんか可憐じゃね?にこってなに……幻覚……?)

(こわ…………)


覇王じゃないヴィクトリア・ウィナー・オーストウェンに耐性がない輩共はちょっと恐怖を覚えた。映える角度で笑顔を振りまくタイプの女の子に耐性とかない。


「あ、あの、王妃様、どちらへ……」

「外の空気を吸いに」

「それでは我々もお供いたします!」

「……一人がよくて」


ヨムはなんとか言葉を紡いだ。


「──だめか?」


必殺上目遣い。角度完璧、多分写真で撮られてたら物凄く売れてた。

もうこの時点で完全に別人だったのだが、兵士たちはアホだった。


「いえ!!!王妃様がそうおっしゃるなら!!!!!!」


二人共絶対彼女が前髪を3cm切った事に気が付かないタイプの男。


(ばかでよかったぁ〜……♡ 楽勝♡)


無事に警備を抜けて、中庭に出た彼は薄暗いスラム街を思う。日々のパン代を削って得た化粧品で美しくメイクをして、いかがわしい店の真ん中でだって歌い踊れば拍手がもらえたしお金だってもらえた。

自分にもっとお金があれば。化粧や演技を学べるだけの環境があれば。もっと、いい人生を歩めた。生まれた場所を恨んで死ぬことだけは嫌だ。だって、ずるいじゃないか。去年王妃を撃ったあの男のように、幸運に恵まれた人だけが、いい人生を歩めるなんて。


危ない橋を渡りきったら、明るい未来が手招いている。

多分LEDぐらい明るいやつ。


(──上手くやらなくっちゃ。大丈夫、ボクならできる、王宮の兵士なんてちょっろい)


暗闇の中で──ウィッグを止めた細いピンの位置をもう一度確かめる。顔を吊り上げた透明テープの位置も確認する

食事の代金を犠牲にして手に入れた100ゴルドコスメで上手く王妃のように化粧したこの顔、そしてこのやっばい手間かかる変装を活かして!


自分は、未来を、手に入れる。


彼はぎゅっと拳を握る。


そして、こつんと足を踏み出した。

硝子の靴が足元で光る。依頼人がくれた、魔法の靴。


これがある間、自分は王妃。


自分こそが、ヴィクトリア・ウィナー・オーストウェンだ。




そうして彼は暗闇の中、足早に中庭の外へと出ようとした──のだが。

そこで、ふっと足を止めた。


王妃の像が、そこにあった。否応なく、足を止めてしまった。

薔薇にいどろられた庭園の片隅に建てられた、黄金の像。

まばゆく美しい。月の光にきらめく像。


「……こんなきらきらしちゃってさ、ずるいよ」


ギヨームはひとりごちた。

偽物には絶対出せない輝き。安物のドレスと、安物のメイク。スラム上がりのドブネズミは、生まれながらにして負けているのだ。


「──はん、……これでも喰らえ!」


足元にあった石を拾って、投げつけた。

それは硬い音をたてて像に当た──…………


弾かれた。


横合いから伸びてきた剣が、無造作に石を叩き落とした。




いつの間にか中庭には、一人の歩哨が立っていた。



「──、……お前……」


痩せぎすの男だ。目つきが悪い。

彼は青年を知っていた。スラムで何度か会った、この国を憂えて酒をよくかっくらっていた。病気の妹のためにプレゼントを選んでいたことを知っている、あと親父が禿頭なのも知ってる。

その情報は別にいらなかったけども。


「……。」


ティーガ・ラグー。

王妃を撃ち殺そうとした結果、宮廷づとめに召し上げられた幸運に恵まれた男。

今、王妃に向かって投げられた石をその剣の一振りで防いだ男。


スラム生まれの少年は微かに息を吸って吐いて、彼と対峙した。


「──あのよ……」


彼は、言う。

なんだ、何を言おうと言うんだ。


「……。王妃サマ、アンタ。なんか、今日服の生地くそペラペラじゃね?」


そこで違和感覚えられるのは流石にちょっと予想してなかったな。

庶民感覚の勝利感があった。








同時刻。偽物の王妃が王を攫って既に王宮を脱出しかけていた頃。

ようやく消えた明かりが復活した。

次に周りが明るくなった時、何事かと辺りを見回した人々は息を呑んだ。


サンティアの宰相や兵士と共に大広間に戻った王妃もまた、静かに僅かに瞠目する。


──王が。

──王と、傍にあった金色のランプが、魔法のように会場から消えていた。

王はともかくランプはなんでだ。オリハルコンで絶対壊れない食器を作ろう!とかいうアホな試みをした錬金塔の実験作だったのだが、めっちゃオリハルコン好きな犯人だったのだろうか。


ヴィクトリアは、誰もいない玉座を見る。確かにそこには数分前、フレデリックがいたのに。霞のように消え失せている。争った痕跡も見られない。


王妃は会場の中に目を向けた。


ラビアン国の宰相は辺りを見回し、瞠目して言葉を失っているように見えた。宰相とはいえ未だ若い青年である、美しすぎる顔はわかりやすい戸惑いを受けべていた。

しかしこの国の貴族、彼に比べて普通に落ち着きが無いのでみんな大騒ぎであった。爪の垢を煎じて飲め。


「い、一体何が起こったの!?」

「おい誰だ暗いからって私の服に葡萄酒をかけたやつは!」

「私怨では……?」

「私怨じゃない?」

「……いや、陛下は……!!??」

「陛下はどうなさったのだ!?」

「やたらとものが割れた音がしたけどどんなアホメイド雇ってるんだよ王宮!」

「おいメイドさんを馬鹿にするなメイドさんは存在だけで最高だぞ!!」

「いつもありがとう!!!」

「それより、本当に陛下は……」


呑気がすぎるのか混乱しているのか。

その中で、黄金のドレスのヴィクトリア王妃がすっと広間の中央に歩み出たので、混乱デバフにやられていた貴族たちは黙った。

彼女は堂々と歩く。踊り子の波を分け、出口付近へと。

そして……しゃがみ込んだ。


彼女の手元には…………なぜか、ばりんばりんに割れた茶器の、破片があった。

微かにまとわりついた魔力の痕跡をミカエルは見て取った。


王の魔力だ。間違いない。光属性にやたら偏ったあの王の魔力の痕跡を、ミカエルが見間違えるはずもなかった。


「あちゃあ……王様、これは攫われたねえ。魔法でどっかに押し込められて連れて行かれたかな」


サンティアでは、魔法というものは日常使用されることがそこまでない。魔法を使えるものは多いが、使わなくても魔導機械があるせいで日常は回る。故に、こういった魔法を使った犯行への対処は少々不慣れであった。

ぶっちゃけセキュリティが甘かった。


王妃は立ち上がる。彼女は兵士たちを静かに見回した。

一切の感情を廃した声だった。


「──我の王を探せ。手がかりがあそこにある」


王妃がすっと指をさす。


は、と頭を下げた衛兵たちは床を見る。そして全員が、王妃が指をさした方へ、つつーっと目線を向けた。


…………なんか。

ばりばり割られた国際色豊かな茶器がヘンゼルとグレーテルのパンくずのように、出口に向かって落ちまくっていた。

ポットとか。ビールジョッキとかがめっちゃ割れて直線状に散らばっている。



ほんと何があったんだよ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 美少年よ、相手が悪かったな。 ヴィクトリア様の覇王ムーブは一朝一夕では身に付かないからね。
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