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世界一偉そうな王妃は銃弾をドレスで弾く (中)

青年は躊躇ったが、結局は歩み寄って王妃の前に立った。

青空の下、純白のドレスの女に対峙するボロボロの衣服の青年。さながら、この国の縮図のようであった。貴族はどこまでも豊かだが、貧困層は辛い生活をしている。


古びたアンティークの域に入りそうな銃を構えて、青年はそれを王妃に向ける。

王が青くなって、彼女の前に立った。


「ヴィクトリア、下がって!」

「阿呆。下がるのはお前の方だ、フレデリック。王は王妃よりも立場が重要だ、分かるだろう。私がお前の盾になればよい」


オリハルコン装備だし。

ヴィクトリアは王の腕をぐいと引いて後ろに下がらせる。

兵士たちがはっと自我を取り戻して青年を抑えにかかろうとしたが、王妃は片手を軽く振って制止させる。


「皆動くな。この者は、邪魔が入れば本気で陛下を撃とうとしている。我は、王が傷つけられるのをみすみす看過できるような女ではなくてな。傷一つでもつけられれば腹が立つ。」


イケメンじゃん……と平民たちは思ったし、おつきの貴族たちも思ったし、マーチングバンドの人たちも思った。平民たちは、さっき聞いた『寝台の上で王を横に侍らせて微笑んでいた噂』は本当なんじゃないかなともちょっと思った。


青年はブルブルと頭を振った。


「だ、騙されないぞ!いくらイケメンだってお前は貴族!しかも女だ!そのドレスだって何十万ゴルド金がかかってるんだよ!」

「何の話だ?知らぬ」

「国民の金がかかったドレスの値段を、知らぬ、だって!?あんた一体何様だよ!」

「王妃様だが」


その通りではあるが。

彼女は唐突に青年に尋ねた。


「お前は王族がずるいと思うのだな?我が美しく装うのも気に入らないと?」

「そっ、そうだよ!血税で養われて、毎日ぬくぬく暮らしやがって!領主も、貴族も、王族も、俺らよりずっと楽に生きてるじゃねえか!そのドレスだって、俺の何ヶ月分の金なんだ!」

「ふむ。なるほど」


王妃は肯くと、再度青年に尋ねた。


「ではそなた、国のために死ねと言われたときに、即座に頷くことができるか?」


青年は質問の意図がわからずに吠えた。


「でっ、できるわけないだろ!?なんだよそれ、国のためになんて死にたくねえ、俺の命は俺の命だ!」

「だろうな、それが普通の感覚だ。だが王族は、……国のために死ぬのだ。」


彼女は静かに言った。異様な迫力があった。若い娘とも思えない威厳である。まるで覇王であった。


「民に養われ、諸国から民を守るために時には人質にいき、国が傾けば民に殺されて死ぬ!領主たちは国が戦争になれば真先に最前線へ出ていき、そして死ぬ!その覚悟がある者だけが、王族であり、貴族だ。美しく豊かなものほど責任は重い!!この美しき装いは、決意表明なのだ。いつでも民のために、お前たちを守るために死ねる者の証だ!!!!」

「………ッ!!!???」


彼女は朗々と言った。空気がビリビリと震えた。青年は目を見開いて、銃を取り落とした。


フレデリックは、そこまで覚悟と腹が据わってるのはヴィクトリアぐらいじゃないかなあ……とちょっと思ったが、青年の心情を慮って黙っていた。空気の読める王である。


「ーー民を守るためならば、この王妃はいつでもこの命を差し出そう。お前たちを守るために、王族は、貴族は、存在する。……忘れるな、王妃は常に国民を愛している!!憎まれようと、恨まれようと、有事とあらばお前たちのために命を捨てようぞ!」

「姐さん……ッッッ!!!!!」


青年は崩れ落ちた。なんにも自分の生活改善してないのに何故かめちゃくちゃ救われた気持ちになってしまった。なんでだ。

周りの一般市民と貴族と演奏隊はよくわからないままに雰囲気に押されて拍手をした。なんだこれ。

白い指で顎を掴んで青年に上を向かせ、王妃は美しい声で言った。


「生活が苦しければ、生きることが苦しければ、我を訪ねよ。力を尽くそう。我はいつでも、お前たちと共にある」


そう言って、王妃は馬に乗り颯爽と去っていった。

何人かが恋に落ちた音がした。

残された王はちょっと困った後で、崩れ落ちた青年の肩をぽんと叩いた。


「えーと、その……あのね、これから長い間結婚に伴った国全体の宴があるから、王族からのお酒やパンも支給するし……それをいっぱい食べて、元気を出してね」


フレデリック王はちょっとおばかな上にお人好しだったので、かけた言葉に威厳とかへったくれもなかった。この時にかけた飾り気ない言葉で、一時期おばかな婚約破棄で下がりまくった彼の株は結構上がったとか上がらないとか。

そのあと、兵士が彼を引っ立てて牢屋に入れたが、王妃からの便宜もあり三ヶ月ほどで青年は釈放された。


領地に戻ってしばらくしてから城にやってきた青年は領地の税金のきつさを告発した。結果、領地に調査が入り、悪辣な真似をしていた領主は断罪されて何処ぞへ飛ばされた。

青年は志願して城の警備役として取り立てられた。週休二日残業なしのホワイト部所でしっかりと給料をもらい、父親と妹のための薬代にした。


ところで、妹の難病だが、どこかの匿名の人間から高名な医者への紹介状が届き、それでなんとかなったという。

匿名の人物は、『自動塩水生成機ラブラブ永遠愛』と名乗っていたが、どこの誰だかは不明である。

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