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世界一偉そうな王妃は地獄の番犬を手懐ける (二)

ティル・ノーグの市についたのは夜明け前のことだった。ミカエルの、宮廷術士の制服と、ヴィクトリアの王室付き兵士の制服が功を奏して、領地を越える際の検問に引っかかることはなかった。王室付きの制服はこういう時に便利である。


まあ、中身は兵士ではなくてこの王国が誇る王妃様のわけだけども。


その王妃、今は座席で豪快に寝ていた。俯きもせず、仰向けで座席に身を預けて爆睡である。超豪快。


寝ている王妃と、ミカエルと御者の焼肉定食を乗せて、馬車は市場へと到着した。

ミカエルは窓から顔をだし、様子を伺う。夜明け前の草原は静かだった。


「夜明け前だと、流石に市場も寝静まってるねえ……」

「そのようっすねえ……本格的に市場が活気を取り戻すには、あと数時間かかりそうな見込みでっす。前方に見えるのがティル・ノーグ市場の本体です、独自の国家や地方独特の染めのテントが連なる様は有名っす!ちなみに四本角の鹿の足焼きがおいしくてイイんすよ、是非食べてみてくださいね!」


観光ガイドか?


「焼肉定食クン詳しいね……」

「ジョージっす!この市場のことは向こう百年間分ぐらいばっちり調べたっす!」


最早研究者じゃん。






さて。

この市、ティル・ノーグは、魔国との境目の平原にて定期開催されている移動市場だ。

年に四回程度開催され、そのたびに王国から、そして様々な地方から多くの商人が集まる。南の海の方、外国からやってくる商人もいる。

普段はだだっぴろいだけで何もない草原に、季節ごとに鮮やかなテントが立ち並ぶ様は、ちょっとした名物にもなっている。


馬車の中から、ミカエルは遠目に市場を見やった。


「今回は仕事だけど、デートでも来たいよね〜。ドレスの店とかあったら買うのに」

「焼肉の店はないっすかねえ〜」


焼肉大好きマッチョマン。

ちょっと夜明けのこの時間に言われるとお腹が減る。


市場は今は人がほとんどおらず、店頭で準備をしている人間などが目立っていた。

服装は商人らしい旅慣れたものもいるが、女性は呼び込みのためか髪に花を飾ったり、美しい織物の帯を締めたりと華やかだ。


かわいい子が多い。やっほう。


「美人いっぱいだし派手でいいなあ〜。ナンパしたいね〜!ねっ、王妃ちゃん?」


王妃にそんな話題を振るな。

さっきから黙ってなにかをごそごそしていたヴィクトリアは、適当な調子で雑談に応じた。


「うん?我の男の方が美しく可愛いが?」

「唐突に王様の自慢するじゃん」


雑な調子でのろけていくスタイル。


夜明けを迎えようとする市場は、朝の光にうっすらと照らされ始めて鮮やかに美しい。赤、青、オレンジ等で染められたそれぞれの店舗の色味が朝日に映える。各店舗が雇った衛兵らしき男たちも市場の周りを巡回している。


まあ巡回してるのムッキムキの亜人とか獣人がめちゃ多いけども。


ただ、あちこちで朝から売っている骨付き肉をご機嫌で食べていたり、甘い林檎飴を嬉しそうにかじっていたりするので威厳は半減である。ちょっとかわいい。


ミカエルはちょっと気が抜けてへらっと笑った。


「ふー。まあ、いきなり亜人族とかに殴られそうにないし安心〜!マリアに土産でも買って帰ろうかな〜?あと、ジュリエットちゃんとかメアリーちゃんとかプリシラちゃんとかナンシーちゃんにも……」

「ミカエルさん、それ全部身内っすか?」

「違うよ〜!ガールフレンド!」


ガールフレンド多すぎ問題である。刺されそう。

しかし肩に焼肉定食のマッチョマンは素直でアホだったので、素直にそれに感心した。


「おモテになるんすねえ!すごいっすねえ!」

「でっしょ〜!」


男が男同士で盛り上がっている間に、ヴィクトリアは足元から巨大なトランクを取り出していた。


「おい、お前たち」

「あ、はい、姐さん!」

「うん、なーに?」


金髪の麗しい王妃は、トランクを開く。中に詰め込まれていたのは

ーー布だった。


「市場に溶け込める衣服を部下に言って用意させた。我らが普通に市場をうろつけば目立ちすぎるであろう?」


肩に焼肉定食の刺青したマッチョマンと美形術士となんか唐突に発光したりしなかったりする王妃。たしかに目立ちすぎる。めちゃ目立つ。ちょっと関わりたくない。

ミカエルは少し考えてから感慨深そうに言った。


「王妃ちゃん一応目立たないようにしようって意識あったんだね……」

「我をなんだと思っておるのだ?」


覇王だけども。






「ねえ聞いた?砂漠からきたイケメンさんの噂!」

「聞いたわ!石油王様、うちの店でも何か買ってくれないかしら〜!」

「買ってくれないかしら、ってあの方まだなにも買われていないって話でしょ!それはもう質の良いものしか買わないのですって!」

「えぇ〜!流石、石油王様はお目が高いわねえ」

「石油王様だものね〜!お嫁さんになりた〜い!」


「…………………」


漏れ聞こえてきた売り子の女の子たちの話を聞いたミカエルは頭を抱えた。


「王妃ちゃん……」

「石油王と呼べ」


応えたヴィクトリアの格好は、まるで砂漠から来た少年であった。

ターバンを巻いて金色の髪をほぼ隠し、ふんわりと広がって裾を締めた白いズボンと先の丸まった靴にも金細工がついていて美しい。

ターバンの下にはさりげなく豪奢な宝石細工、少し動いてその輝きが見えれば、その宝石の価値がとんでもなく高いことに気がつける。


つまり全身が金がなる木である。ぎらぎらしすぎて追い剥ぎすらちょっと敬遠しそうな金持ちオーラ、すごい。

超目立ちすぎる。今回の話って潜入任務じゃなかったっけ。


「あのさあ王妃ちゃん!目立ちすぎでしょこれ!なんで変装したのにすごい目立ってんの!?」

「うるさいぞ。今は石油王ナンデ・モ・カエールだと言っているだろうが」


王妃、ネーミングセンスが最悪すぎる。


「あのさナンデ様!!!なんでこんな設定にしたんだよナンデ!!」

「知らぬ。衣服を用意した者が、この変装ならば絶対に王妃だとバレぬので絶対石油王にしろと言ってきたのだ」

「それ誰の差し金????」

「先代王の公式愛妾だが」


男装王妃様ファンクラブの人じゃん。

ミカエル、ここへ来てツッコミの才能が開花しそうであった。


「とにかくさあ!こんなに目立ちまくったら何もできなくない!?」

「いやそうでもない」


王妃は立ち上がり、颯爽と花を売っているテントへと歩いていった。後ろ姿からしてめっちゃ石油王なので人目をものすごく集める。砂漠の兵士風の格好をした焼肉定食基ジョージは、何となく同伴しながらももじもじして居心地悪そうだ。

店頭で花売りをしている娘に、王妃は尊大に偉そうに声をかけた。


「おい、娘」

「はい?……あら!噂の石油王様……!石油王様じゃない!お声かけてくださるなんて嬉しいわ!運命!?宿命!?玉の輿!?」


一瞬で飛躍する乙女の妄想力すごい。

ヴィクトリアは歩み寄ると、少女に向かって微笑みかける。今は体中にじゃらじゃらにつけたアクセサリーの効果も相まってなんかもう色々オーラがすごかった。

黄金のオーラ物理であった。


「娘、この市場で珍しい生き物を売っている店はないか?」

「え、あら、わたしを貰いにいらしたのではなかったの?」


違う。


「まあいいわ、珍しい生き物ねえ、例えば?」


娘はちょっと首を傾ける。客ではない相手の質問に応じてくれる辺り、石油王ナンデ・モ・カエールがめっちゃ魅力的だったのだろう。名前最悪だけど。


「なんでもいい。一角獣、羽根馬、宝箱に詰まった生き物。そうだな、魔国に生きるような珍しい生き物であれば尚いい」

「うーん、石油王様のお好みに合うもの、わたしにはあんまり思いつかないのだけど……」


花売りの娘はちょっと首を傾けた後で、遠くの方に見える巨大な青と黒の縞のテントを指差した。


「あそこのテントでは、ちょっと珍しい生き物が見られるって噂よ?サーカスを兼ねてて生き物を売ることもあるみたい、本当かどうか知らないけど……」

「ほう?」


石油王……基、ヴィクトリアは興味深そうに唸る。

なんだろう、やっぱり悪魔猫とかがいるのかな。とミカエルは思った。

娘はあっさり言う。


「マンティコアとか、ケルベロスとかが見られるらしいわよ!すごいわよね!」


想像の遥か上をしれっと飛び越えるな。

五分割ぐらいになりそうなので、前の章のタイトルを変更!

読んでいただけて嬉しく思います、石油王ナンデ・モ・カエール様もどうぞよろしくおねがいします!!!

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[一言] またとんでもないキャラ設定ww
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