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世界一偉そうな王妃は地獄の番犬を手懐ける (一)

「で、この猫をどうしろっていうわけぇ〜?」


王の部屋に呼び出されたミカエルは、トビネコを押し付けられて顔をしかめていた。

ミカエルの腕の中に抱き留められたもふもふは不服そうだ。ブニャアアアアと低い声で鳴き、ミカエルの腕の中を嫌がってフレデリックのところに戻ろうとする。


足をけりけりされた。腕噛まれた。


「いってぇ!歯鋭っ!」


めっちゃ嫌われてんじゃん。

対してトビネコに肩の上に乗られてめっちゃくちゃぐりぐり頭を擦り付けられているフレデリックは、頑張って王の威厳を保とうとしていた。


「ミカエル、よければこの一件に関して『ブニャアアアア』調べて『ごろごろごろ』くれない『ぶにゃにゃにゃにゃ……』か。一番君が適任だと思う。この猫は本来、うちの国にはいないものだ。『にゃーーーご』魔国から密輸されている可能性が高い、だから調査を頼みたいんだ」


猫がめっちゃ会話に入ってくる。ミカエルは笑えばいいのかどういう顔をしたらいいのかわからなくなった。笑えばいいと思うよ。


「そりゃあ王様直々のお願い『にゃにゃにゃにゃ』だったら、単なる護衛術士のオレには『シャーーー!!!』拒否権なんてないけどねえ。でもなんでオレ?『ギエエェーーーッ!!』」


最後祈祷師混ざってない?


王は黙って、少し深刻そうに息を吐いた。


「なに、深刻な話?」

「まあ、すこし……」


ミカエルは嫌な予感を察知する。この天才、ビビリなのでこういった危険な空気というものに異常に鼻が効いた。なんか今回の話やばそうな匂いする。でもここで引いたら天才の名が廃る。いいとこ見せたいし。


「えーっと?何、なんか言いづらい感じ?オレと王様の仲じゃん!一緒に王妃ちゃんのハーレムで励まし合ってお局さまの苛めも潜り抜けて生き抜いて二人で明日を明るく生きて行こうねって裸の付き合いで約束した仲っしょ〜?」


その記憶はちょっとない。

王はミカエルの軽口をしれっと無視した。フレデリック、段々変な人たちと関わりすぎて耐性ができつつあった。


「実は。君には、闇市周辺を調べてきて欲しいと思っていて」

「闇市」

「闇市」

「めっちゃ盗品とかやべえ薬とか売ってるとこ?」

「そうだよ」

「人身売買で平和バイバイなあそこのこと?」

「そうだ。きみは魔力も高いし、魔法も上手だ。ああ言った場所でも身を守れるだろう?」

「やだよ怖いじゃん!!!」


天才、一瞬で格好をつけるのをやめた。


「オレがいくら天才術士でもさあ〜、術士なんだから下手にがつんと物理でこられたらダメじゃん?」


彼は割と己のできることとできないことを理解していた。

王は机の上で指を絡めて精一杯威厳のあるポーズをする。肩には猫が乗っかって頭を擦り付けていたが。


「調査してほしい場所は、全体が裏取引の巣窟と化していると言われている定期市、ティル・ノーグ。通称黄金市としても有名だ。表向きは普通の市場だよ」

「いや話聞けよ王様オレ嫌だって言ったじゃん!表向きはってナニ?あの市場が定期開催されるとこ魔国と近いしめっちゃ亜人とか獣人とかいるでしょ、暴力沙汰多そうでやだよ!」

「だからこそ、だ。獣人や亜人族は魔法の耐性が低い。きみならきっと、絡まれても逃げられる」


遠まわしに魔眼を使えと言われているのか。

ミカエルは大仰に仕草で肩を竦めた。


「それって、いざ屈強なのに絡まれたらオレの魔眼で敵を魅了して恋させて逃げろってこと〜?」

「その通りだ、きみならきっとできるだろう?」


マジかよ。

ムキムキ男らしい獣人とか、ツルッピカちょび髭系の男性とかにはちょっと魔眼は使いたくない。

あれ、魅了された側が熱烈に口説いてくるオプションついてるし。


ミカエルは思わず敬語になった。


「あの、オレ、屈強な殿方相手だと流石に魔眼も難しいと思うんですよぉ。うまくできるかどうかー……」

「大丈夫だ、きみは顔が綺麗だし、安全にいける」

「いや無理」

「きみの魔眼は透き通った碧の湖面のように色が綺麗だと思う。相手が男でもいけるよ!」


王様、サムズアップ。


「いけねえしそういう台詞は王妃ちゃんに言えよ!」


突然口説いてくるんじゃねえ。






まあ、なんだかんだで王命には逆らえないのでミカエルは大人しく荷をまとめた。その三日後、月の静かな晩のことであった。星々もない、月だけがひかる夜。朝方に黄金市入りしても構わないが、やはりこういう潜入は夜の方が都合がいい。


ミカエルは三つのトランクを持って、城の入り口で迎えの馬車を待っていた。古びた革トランクの中身は、数日分の着替え、制服、おしゃれ着、寝巻き、アクセサリ、化粧品などである。女子か?


暫くぼんやりしていると、馬車が走ってくる。黒塗りの目立たない馬車は貴族の家ではありふれた馬車だ。王家の紋章もないし、特に家紋もない。全く目立たない。


乗っている御者はがたいのいい男だ。暗闇で顔はよく見えないが、ムキムキマッチョマンである、馬が逃げ出してもこの人が馬車引いて走ってくれそう。


「ミカエル・カタリア様ですね。陛下より任務先への同伴を仰せつかりました、よろしくお願いいたしまっす!」


元気だな。


「うんうん、こちらこそどうぞよろしくお願いしまっす!」


口調が移った。

軽く会釈してからミカエルは馬車に乗り込む。


さて意外なことに、中にはすでに先客がいた。

格好からして軍から来た前衛の兵か。きっちりとした濃黒の軍服を身に纏い、旅用の灰色のフード付きローブで頭から腰辺りまでを覆っている。腰には太めの剣を帯びて、すらりとした体つき。


ミカエルは術士なので本格的に戦闘となればどうしても詠唱や、術の準備が必要になる。それ故手配されたサポートか。

愛想よく微笑みを見せて、ミカエルは先客にウインクした。


「今回の任務ではどうぞよろしく、兵士さん。普段は王妃様付き親衛隊のミカエル・カタリアっていうんだ〜。今回はオレがあんまりに天才だから現地調査に回されたんだけど〜!」


この男、初対面にもガンガンにナルシストを発揮していく。ぶれない。

彼は身軽な仕草で皮張りの座席に座った。扉をしめると、馬車が揺れ始める。グローリア領のさらに向こう、ティル・ノーグへと向かうのだ。蹄の音が心地いい。寝そう。


だが、遠出前に目が冴えるタイプのミカエルは全く眠くなかった。

ゆえに暇を持て余していた天才は隣に座る無口な兵士に絡んだ。からみまくった。


「ねえ聞いてよ兵士さぁん、暇なんだけどオレ。ちょっと雑談しよ!」

「………」

「オレさあ、天才なわけ。相手を一瞬骨抜きでメロメロにできちゃう妖精の魔眼と、ちょー強い魔力とイケメン顔を持った人生チート!でも今もさ〜、相変わらず王妃ちゃんのヒモになれてないんだよね〜!どうしたらヒモになれますか?」


突然の人生相談。


「お前はヒモになっているよりも働かせた方がいい。有能な人材を我は無為にしたくはない」

「へぇ〜」


……うん。うん?


ミカエルはばっと隣を見る。隣にいた軍人がフードを外すと、そこからきりりと結い上げた蜂蜜色の髪がこぼれたーー。

うわっ、まぶし。フード取っただけで眩しい、もはや魔導LED。超まぶしい。この人の放つ光で町一つ魔導太陽光発電できそう。


うつくしい唇、燃えるような瞳。


「いや、待って。なんで?????ちょっと待って、王様に許可とった????????」


天才術士、普通に慌てた。

軍服を身に纏ったヴィクトリア・ウィナー・オーストウェン王妃は傲岸不遜に顎を上げる。


「取っておらぬが」

「だめじゃんか!今すぐ王宮に戻ってってば」

「とても気になる噂を聞いたのでな。我が直々に調査したいのだ」

「噂より今この状況が気になりすぎるでしょなんで王妃様が無断で城を出てきてるわけぇ!?御者さぁん、お城戻って〜!」


ミカエルは普通に御者に声をかけたが、野太い声がそれに応えた。


「いやあ、それが……無理でして」

「はい?」


ミカエルはぱちりと目を瞬かせる。振り向いた御者の顔を見て彼は普通に驚いた。ムキムキマッチョマン、こいつの顔知ってるぞ!


「あれ!?きみさあ、数ヶ月前に捕まった盗賊一味の……えーっとだれだっけ」

「元・焼肉定食のジョージと申しまっす!今では姐さん専属の御者として働く所存!」


彼は腕をまくり上げて焼肉定食の刺青を見せてくれた。

いやダッサ。


「うむ。よい、存分に働くがいい。このままティル・ノーグへと向かえ」

「へい姐さん!」

「いや待って王妃ちゃん!?オレが怒られるでしょ!?この件の責任者はオレ!!」

「構わん、やれ焼肉定食」

「へい姐さん!!!元焼肉定食のジョージ、走りまっす!」


馬車は土煙を上げて夜の街道を爆進して行く。

宮廷術士のあわれな悲鳴だけが夜の街道へ響きわたった。

天才イケメン術士、完全に巻き込まれ事故である。


合掌。

元焼肉定食ジョージと王妃と行く闇市ツアーなのでっす!

読んでいただけて嬉しく思います、続きもよろしくおねがいいたします〜!

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― 新着の感想 ―
[一言] まさかの焼肉定食ジョージが手元に残ったのか!(笑)
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