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世界一偉そうな王妃は盗賊団にもてなされる (上)

時に、ものすごく運が悪い人間というのは、まあ存在する。



星のない夜。


サンティア王国の王都、ラ・ルーヌの側。グローリア公爵が統治する、グローリア領との領境の洞窟の中に、何人もの厳つい男たちが座っていた。


「親分!もう俺たち限界っす!」

「腹が減って死にそうっす……もう雑草とか毟って食べてるのに……」

「俺は木の枝食いました」

「石鹸とかも食べました!」


それは食い物じゃない。


そこにいたのは三日ぐらい前から巣食っていた盗賊団であった。南の方の海の近くで暴れていた彼らは、海賊取り締まりに準じて陸の賊も取り締まる法のきつさを掻い潜って、遥々この王都付近まで逃げ延びてきたところだったのである。


つまり、まあ普通に金がなかった。超貧乏。

履き古した下着に替えがないせいで穴が空いてるし、靴下はとりあえず全員穴が空いてるぐらいには貧乏だった。可哀想。


盗賊団の財政は逼迫していた。子分たちは腹が減ってそのあたりにある雑草まで食い始めている。盗賊の誇りが、このままだと保てない!盗賊は美しい女とか金銀財宝とか持って洞窟でウハウハするのが仕事なのに!


故にボスは決断した。


「よーっし、お前ら。今夜狩りに出るぞ、早急にだ!」


ここは王都の付近だ、兵士は多いが、金持ちの馬車が通ることもある。それを襲えばいい。そして金品を奪うのだ。そうしないとみんなして飢え死にだ。大体の金はここまで逃げてくる時に穏当に移動するために使ってしまったし、食料はみんな干からびてカビが生えたので捨てた。


背水の陣。やるしかない。


親分は立ち上がり、洞窟から出た。星のない夜だ、狩りには絶好の日。

彼らはそこで一時間ほど待った。待ってる間、ずっとぐうぐう誰かの腹が常に鳴っていたが、全員涙を呑んで我慢した。かわいそう。


「おやぶーん……葉っぱ食ってもいいっすかね……」

「腹減りました、木の根食います……」


おやつ感覚でその辺りの植物を食うんじゃねえ。


「てめえら!盗賊の誇りはどうした!!金品かっぱらって肉を食うことを考えるんだよっ、分厚いステーキをなあっ!」


その時、馬車の走ってくる音がした。親分は耳をすませてそちらを見た。

向こうから、お誂え向きに馬車がやってくる。しかも、豪奢な金色の馬車が。光り輝く馬車が。あの馬車バラして売るだけでも一億ゴルドぐらいになりそう。


きんぴかの煌めきに目が眩む。

盗賊団は気付いていなかったが、このきんぴか、多分関わっちゃいけないやつ。



しかし だれも きづかない!



盗賊団はまた一つ死亡フラグを立てた。


ぴぃーーーーっ、と、指笛が鳴り響く。

盗賊団は馬車に殺到した。馬が驚いて前足を振り上げ、馬車が止まる。御者が目を剥く。

ついていた護衛の兵士たちが剣を抜くも、多勢に無勢だ。盗賊の数の方が圧倒的に多い上に、実戦慣れしていた。

というか、盗賊団たちがここ数日風呂に入ってなくて臭いので、兵士たちはちょっと臭いで感覚麻痺していた。くっっっっさ。


「な、なんだお前たちは!?臭いぞ!?」

「臭いのは関係ねえだろうが!」

「うるせえぞ王都の柔軟剤野郎が!」

「どうせ家で母ちゃんに服手洗いしてもらってんだろ!!」


盗賊たちは普通に心が傷ついたので、臭いと言った兵士に徹底攻撃した。

大人気ねえ!


「この賊があ!退け、散れ!」

「散るのはそっちだ兵士共!俺らはこの辺りにちょいとお邪魔してる盗賊団、金と乗せてる荷物全部置いてけば命まではとらねえぞ!」

「にっ、荷物だと!?そんなものはない!」

「じゃあその荷台には何が入ってんだよぉー!」

「こ、これは……ええい、触るな!臭いぞ今すぐ風呂に入れ!」


無茶言うな。


やせぎすで上品そうな御者がわめく。馬に振るう鞭をふるって、盗賊を追い払おうとする。

それにいらついた盗賊が、御者をとっ捕まえて締めてしまった。御者は縛られて亀甲縛りにされる。なんで。


「くっ、この私がこんな辱めを……!殺せ!」


お上品なご老人のくっころは、ちょっと盗賊団の性癖には刺さらなかった。

盗賊の首魁は、勢い良く扉を開ける。



そこに、ーー女が座っていた。



赤いドレスの女だ。蜂蜜色の髪をした美しい女。すらりと背が高く。組んだ足は白く美しい。見た目だけなら凄烈なまでに美しい、ただの女であった。

我らがヴィクトリア・ウィナー・オーストウェン王妃であった。彼女は婚姻してちょうど一月、赤の月から白の月へ移り変わる節目に、里帰りをする途中であった。


「女じゃねえか!おい爺さん、このお姫さん俺らが貰ってくぜぇ?」

「美人でいいねえ、可愛がってやるからなあ」


この盗賊たち、自分たちが何を目の前にしているか知らない。


ヴィクトリア・ウィナー・オーストウェンは目を上げて盗賊たちを一瞥した。ビリっ、と、一部の盗賊たちは命の危機を感じ取った。なんか、サバンナでライオンに目をつけられたみたいな。海でサメがこっちに泳いできてるみたいな。カオスサメ映画的な。


「可愛がってやる、だと?」


王妃は重低音で言った。びりびり空気が震えたしみんながやべえと思った。

この目の前の女に、覇王オーラを感じ取った。ゆらり、立ち上がるだけで背中に見えるなんかよくわかんないオーラ。溢れ出る何か。やっべえ輝いてる。燃えてる。光ってる。


しかし盗賊が一人の兵士を引っ掴み、その首筋にナイフを押し当てたので彼女は動きを止める。動きを止められなかったら全員心臓パンチで死んでたかもしれない。間一髪。


盗賊はわめいた。


「て、抵抗したらこいつを殺すからなあ!」

「王妃様!自分には構わずお逃げくださいそれにしてもくっさいな風呂入れよ!」


このモブ兵士、地味にメンタル鉄。

ヴィクトリア王妃は少しだけ黙っていたが、自分からゆっくりと馬車から降りる。盗賊たちの真ん中に進み出る。

堂々としすぎていて、自分を出迎える観衆の前に出て行くかのような威風堂々具合であった。女帝。


「よいぞ。我を連れて行くが良い。金品も持てばよい、代わりに護衛は皆解放しろ」


してくれ、じゃない。しろ。


「こ、この女、自分の立場をわかって……」

「立場?」


もちろん分かっているとも。ヴィクトリアは帝王のごときオーラを背負い、ゆっくりと盗賊の首魁の前に進み出る。


「この国の王妃である。丁重にもてなすがよい!」


盗賊にもてなしを要求するのって新しいな。







「お、王様、大変です!!!!」


兵士の一人がボロボロになって王宮にたどり着いたのは、三時間後であった。空は白んでいるが、王は眠りに落ちており、唐突に駆け込んできた兵士に驚いて飛び起きた。


「どうした?」

「王妃様が盗賊団に攫われました!!!」

「えっ」


あのヴィクトリアが。

フレデリックはすごく心配になったし青くなった。ヴィクトリアがさらった相手に何かされていたらそれはもう、腑が煮える。うっかり雷とか落とす、物理的に。ぱちぱち、と王の髪の間に魔力が散って、兵士はひぇっとびびった。あの王様がここまで、魔力の制御ができていないのは珍しい。


(ヴィクトリアが酷い目に遭っていたらどうしよう、何かされてたらどうしよう。僕だってまだあれこれより先はそこまで積極的にしたことないのに!!あああヴィクトリアどうしよう、助けなきゃ……!やっぱりお隣の領地だからって簡単に城から出すんじゃなかった……!)


フレデリック、ヴィクトリアがさらわれるとかいうお姫様ムーヴをしたせいで、彼女が本来覇王系女子であることが頭から飛んでいた。


「王妃はどのあたりで消えた!?」

「は!グローリア領との間の森辺りです!陛下……軍を動かすご指示を……!」

「……護衛術士の軍隊を動かせ、王妃付きの待機していた術士も全て。僕も出る、彼女を迎えに行く」

「陛下ご自身でですか!?」

「妻が危機なんだぞ、王の僕が黙っていられるか!」


うーん、ヴィクトリアが大事なあまり現実が見えてない!


王は立ち上がる。暗がりの中、優しげな顔は引き締まって見えた。

ヴィクトリア、どうか、無事で。


フレデリックは闇夜の中、身支度を整えて外套を翻す。

白馬に飛び乗る。愛馬はフレデリックに応えて鼻を鳴らす。

白馬に剣、ガチ王子様である。いや、実際は王様だけど。


彼は手配した部隊と合流すべく闇夜を駆け抜けていった。

覇王系王妃をさらってしまった盗賊団の明日はどっちだ!

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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