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56「エピローグ」

 磁鉄鉱が見付かるまで20日も掛かってしまった。

 俺はそれに雷を当てて磁石化させる。


 これで電気を起せても確認する方法が無い。

 だから簡易的に炭化させた糸をフィラメントにして白熱させる事にした。

 直ぐに焼き切れるだろうけど、執り合えずエネルギーが流れている事が解れば良い。


 エジソンはフィラメントを長持ちさせる事に苦労したんだよな。

 結果として竹を炭化させたフィラメントが一番良かったとか。

 ガラスの中を真空状態にして、電球の寿命を飛躍的に延ばしたと聞いている。


「では、実験を始めます」


 学者に発電機の取っ手を回してもらった。

 多少中心点がずれているが、磁石はブンブンと回転し始めた。

 繋いだフィラメントは、赤熱し焼き切れる。


「おぉ……」

「……で? これが何か?」


 未だに理解が出来ない学者達。


「コイルに発生した電気というエネルギーが、このフィラメントを焼き切ったのですよ」

「電気エネルギーですか……」

「このエネルギーが其方(そち)の扱う雷と同じだと申すのか?」

「この試作モデルでは、まだ出力が弱すぎるんです」

「強くするにはどうすれば?」

「もっと精密に、もっと大きく作れば良いんです」

「そういう物なのか……」


 この日から学者達が試行錯誤を始める事になった。

 暗闇を明るく照らし、機械の動力を得る事が出来れば、文明は飛躍的に進歩するだろう。

 後は蛍光管の試作と動力になるモーターの試作だ。


 モーターは発電機と同じものを使うが、構造は逆になる。

 磁石の中をコイルが回るようにする、これがモーターの仕組みだ。

 蛍光管は二つのフィラメントの間に水銀ガスで満たす。それをガラス管で囲う。




 一年ほどして3mの発電機が完成した。

 鍛冶師・細工師・学者達が総動員して、失敗を繰り返しながらも頑張った成果だ。


「これだけ大きければ、さぞかし電機を作れよう」

「して、どうやって回すと言うのだ?」


 魔族と謂えども人力で回すには無理が有る。


「やはりタービンを作って蒸気圧で回す火力発電になるか」

「蒸気でタービンを回すだと?」


 これまた図を描きながら説明をしていく事になる。

 タービン・ボイラー・配管を鍛冶師達が造り上げた。

 炎の魔法が使える魔術師たちは、殆どボイラーマンになっちゃったけど。


 熱せられた大量の水が噴出す蒸気圧は、配管を伝い発電機のタービンを回す。

 蒸気は集められ水に戻される還元システムも考えた。

 電気は変電所で家庭用電圧に弱められ、各所に配電していく。

 これ程の行程を人類は百数十年かけて研究・進歩させて来たんだよな。



 発電機から発せられた電気は城内各所にも配電され、蛍光管を輝かせた。


「やっとラーデルの言う文明に追いついたのか」

「お爺様、城内が昼間のように明るくなりました」

「うむ、うむ、この後には原動機の開発と言っていたな」


 原動機があれば、製糸業や機織業等、あらゆる機会を動かせる事になる。

 蒸気機関を飛ばして産業革命が起きる筈だ。

 魔族の国は機械化によって、大量生産が可能になった製品を、人族の国に輸出すれば良いだろうし、電気があれば、エネルギー需要も増えるから、余剰エネルギーを人族の国に売れば良いだろう。


「これが異世界の知識……」

「既に魔族の国が異世界のようになりましたな」



 あちらの世界でも中東は石油というエネルギーを、産出出来る様になってから豊かな国へ変貌した。

 魔族は製品を作ったり電気エネルギーを売って食料を買えば,

お互い利益を得る循環が出来るかも知れない。そうなれば豊かな土地を欲しがって戦争をする事は無くなるだろう。





  ☆





「ラーデルめが魔族に敗け連れ去られて以来、魔族側に動きが有りませぬな」

「ああ、次に攻められれば我等の敗北を覚悟していたが」

「ラーデルは如何に魔族を静かにさせているのでありましょうな」


 訝しがるマクシミリアン国王・魔術師エルムント・騎士団長ルベルタスの三人。

 ドラゴン・ラーデルがいない今、魔族と戦争になれば、かなり苦戦するか、魔族側に二頭のドラゴンが戦力に加われば、人族の敗北は確実になるだろう。

 皆はそうなる可能性を戦々恐々として軍備を増強させていた。

 しかしラーデルが魔族に敗北し連れ去られて以来、魔族側に軍事的動きは鳴りを潜めている。


 数年の間、魔族側の侵攻は一切無かった。

 嵐の前の静けさのように落ち着けない何かがある。

 そんなある日、魔族側から特使がやって来る。

 豊かになりつつある魔族側から、人族側に特使が出され話し合いを行う事が要望された。


「魔族が終戦を宣言したいだと?」

「戦争を終結し、通商条約を結びたいと言って来たそうだ」

「はあ? 魔族が通商条約だってぇ?」


 マクシミリアン国王と重臣達は混乱し、狼狽した。


「もしやラーデルか、ラーデルが何かやらかしたのか?」

「ラーデルは魔族側に寝返ったのか?」

「魔族なぞ殲滅すれば良いのだ!」


 王宮の会議は紛糾した。


「して、魔族は何と申している」

「互いに争わず通商条約を結び、食品と魔族側の商品を互いに売買し合いたいそうです」

「魔族側に何が起こったと言うのだ」

「文明を支えるエネルギーを開発したと聞き及んでおります」

「エネルギーだと?」

「発展次第では余剰エネルギーの売買も有り得ると」

「我等が魔族からエネルギーを買うだと?」

「こちらの陶器産業はどうなっている?」


 マクシミリアン国王は領内各地と魔族領に調査隊を派遣し、情報を集める事にした。


 魔族は亜人達とも通商条約を結んでいるようだ。

 発電所を建設し、そのエネルギーで産業を発達させ始めたとも情報が届けられた。

 今では魔族の国は夜でも明るく光り輝いているらしい。

 魔族からエネルギーを買った亜人側は、生活が向上していると言う。


「夜の明りは蝋燭や篝火の比ではないらしいですぞ」

「織機など人力で動いていなかったと聞きました」

「今度は水道設備工事を始めるとか」

「工作機械が開発され始めたと」


 どうやら魔族側に文明爆発が起こったようだ。

 人族が文明化の波に乗り遅れれば、明らかに魔族より劣勢な立場に置かれるだろう。

 得体の知れない何かに身震いするマクシミリアン国王。


「ラーデルめが、とんでもない物を魔族に与えおった」


 魔族側と通商条約を結び、エネルギーを人族側にも齎さなければならないだろう。

 それは国を富ませる原動力になる事は明らかだ。

 国が富むという事は、経済的にも軍事的にも国力も増大する事を意味している。

 今ここで受け容れなければ、ザーネブルク王国は農作物を輸出するだけの国に成り下がるだろう。


「こうなると判っていれば、魔族にムザムザとラーデルを渡さなかったものを」

「もしかしてラーデル殿を取り戻せれば、こちらがより発展できるかも知れませぬな」

「しかしあちらには親ドラゴンもいるから、戦いは圧倒的に不利になりましょう」

「うぐぐぐ」

「魔族の提唱する共存共栄に従うしかないのか」










《良かったね、この世界が一つに纏まって》

「イルデストか久しぶりだな」

《それで、君はどちらに付くと決めたんだい?》

「何を今更、俺はこの世界そのものを救ったんだよ? この世界に付くに決まってるじゃないか。

ババ抜きしてどちらが負けると言うより、そんなルールを無視すればゲームは成り立たないだろ?」

《それが成り立つんだな。君が付く方に災いは来る。今の決定で惑星がこの世界と軌道が合わさってしまったよ》

「なんだって?」

《そう、10年後にはこの世界は惑星と衝突して消滅する》

「イルデスト~~」

《接近し過ぎた惑星同士は、ロッシュ限界を越えお互いの潮汐力で崩壊し、やがて質量の持つ重力で一つの惑星に纏まって行く》

「じゃあ、この世界は……」

《当然、全生命は死んで、また何処かの世界に転生していくよ》

「イルデスト~~。何て事を」

《君は僕がどういう神なのか忘れてしまったのかな? その日まで後10年、君は楽しく生きれば良いよ》

「神だからって、こんな事をして平気でいっれるなんて考えられないよ」

《神の視点は君には考えられないのは当たり前だね》

「つか、こんな事をして良いのかという事だよ」

《良いんじゃない? 人の理と神の理は違うし、人の理で神を裁こうなんて所詮無理な事。僕が何をしても転生のシステムは変わらない。その間、神は何でも出来る。それだけの事さ》


 今までの災厄は全て裏でイルデストが拡大していたようだ。

 神に逆らい、討ち勝てる者は一人もいない。例えドラゴンでさえ。

 バッドエンドを迎えるしかない運命の主人公の物語はこれで終る。

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