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46「ザーネブルク王国首都へ」

 困った時の神頼みという(ことわざ)がある。


「イルデスト、俺はこの先どうしたら良いんだろう」


 俺を引上げてくれようとした恩人であるルベルタス騎士団長と、その上司エルコッベ伯爵様に連れられザーネブルク王国マクシミリアン国王様の下に行けば、人族の最強兵士として勇者に祭り上げられるかもしれないけどヴェルストの民から憎悪を向けられる可能性は高いだろう。


 はたまたドラゴンの親の元に帰れば、魔王に組さる可能性がある。

 その場合二度の戦争で魔族側は絶対に良い顔をしないだろう。

 魔族側からも憎悪される可能性は高いだろう。


《僕に相談に来るのは久しぶりだね》

「ああ、本当に困ってるんだ」

《君はこの先如何すれば良いのかで悩んでいるという訳なんだ》

「最初からそう言ってるだろ」

《君は僕を誰なのか忘れてしまったのかな?》

「忘れるものか、【厄病神】イルデストだろ」

《疫病神はどんな神様だったっけ?》

「酷い災厄を振り撒いてくれたよな」

《解ったかい?》

「何がだよ」

《君は人族と魔族、どちらを滅ぼしたい? 君が付く方の種族が何かしらの災厄で滅ぶとしたら?》

「つまり災厄を齎す俺は、滅ぼしたい側に付けば、その国が滅ぶのか」

《ご名答! 君はどちらを選ぶのかな?》

「俺はトランプのババかいな?」


 俺が付くほうに災厄が起こり、最悪国が滅ぶ可能性が高い。

 ならば、俺はどちらの陣営に付けばいいのか。

 それぞれの陣営をイメージしてみた。


 ●専制君主制度の国王様がいる人族か

  こちらは冷厳なエゴイストなイメージがするな、腹黒や冷酷、陰謀や謀略の頂点とか。


 ●人族と敵対する魔族の王、魔王か

  こちらは暴虐や血、世界征服とか悪や残酷なイメージがあるな。

  美少女魔王って考え難いか。


 う~ん……どちらも碌な者じゃない気がして来たぞ。




「ラーデルよ、先ずはマクシミリアン国王様に謁見してみてはどうじゃ?」

「そ、そうだな、あのドラゴンに連れられてラーデルが魔族側に付かれると困るぞ」


 魔術師エルムントと元騎士団長ルベルタスが、頼むような不安そうな目で俺を見る。


 ……俺の本質を解っていないから、こうなるんだろうな。


 ババ抜きではババを引いた方が負けになる。

 しかしラーデルの正体がドラゴンであり、その力と魔法、前世の知識は失いたくない魅力に見えるのが人を惑わす要因になっている。

 その設定って、疫病神イルデストの策略かもしれないな。


「マクシミリアン国王様の下へ謁見に行ったら、ヴェルストの人達の怒りから護られるんですか?」

「う、それは……」

「例えばだ、復興事業の先陣に立って以前の街より素晴らしい街を再建すれば、人々の怒りも収まるのではないか?」

「マクシミリアン国王様もその様に考えてくれるのかな」

「儂らも精一杯ラーデルの後押しをするぞ、ラーデルを魔族側に奪われたり、殺されたりされたくないのだ」

「そうじゃ、どちらにせよ一度マクシミリアン国王様と会って話をしてみるもの良いと思うのじゃ」


 二人の必死の説得で、俺はマクシミリアン国王様と会ってみる事にした。

 実際に会って人となりを知らないで判断をするは浅慮じゃないだろうか。


 伝令としてエルコッベ元伯爵様がマクシミリアン国王様の下に向ったから、いずれ迎えが来るだろう。

 国王側の戦力として迎えたいなら、酷い扱いにはならない筈だ。

 先ずはどういう形で迎えに来るのかを見極めれば良いかも知れない。






 三日ほどして国王様からの迎えの馬車がマンデーヌの街にやって来た。

 国王様からの御達しはトップダウンに伝わるようで、最初に街長、次に商工会長へと伝えられ、使者が俺達の宿泊する宿にやって来て呼び出しが伝えられた。


「ラーデル君、参ろうではないか」


 商工会長の下へ挨拶に向かい、次に街長に挨拶に向う。

 街長の館の前に止められている馬車にラーデル、ルベルタス、エルムントの三人が乗り込み王都に向う手筈になっている。


「コスタノ君、ポンペオ様、私共の息子達に魔術と剣術を教えて頂き有難う御座いました、陶器の普及と街の復興はこれから始まりますので、またお立ち寄り色々伝授頂ければ有り難いのですが」

「機会があれば、また寄らせて頂きます」


 商工会長は抜け目の無い男のようで、ポルダ村のようにはならないだろうと思えた。

 元いた世界で聞いた事のある、王室御用達陶器で有名なマイセンのような街になるかも知れない。


「ご配慮有難う存じます」

「いやはや、二頭のドラゴンが暴れて街が半壊した時にはどうなるかと思いましたが、不幸中の幸いと申しますか、天使を呼び出した金色のドラゴンは我が街を護ってくれた様ですな、そればかりか国王様に呼ばれるほどの方がこの街に居られたとは存じませなんだ、これらの栄誉は街の復興に力を与えてくれると確信しておりますぞ」


 街長は俺がドラゴンだという事を知らないようだ。

 街破壊の苦情を言われなくて良かったよ。


 国王様からの迎えの馬車は六頭立ての貴族用馬車で、十名の騎士が随伴護衛してくれると言う。

 後ろに執事やメイドなど接待要員の馬車が、もう一台着いて来る。

 そちらには野営の準備や食事の為の食材等が積まれているらしい。


「VIP待遇の出迎え馬車とは、かなり厚遇されておるな」


 貴族用馬車には俺、ルベルタス元騎士団長と魔術師エルムントが対面に乗る。

 乗り降りする際にメイド達が昇降台を用意し、執事がドアを開ける。

 四人乗りキャビンだろうけど、大分ゆったり気味で座り心地が良い。

 自動車ほど早くはないけど、信号機が無いってのは快適だね。

 マクシミリアン国王様の御座(おわ)す、ザーネブルク王国首都まで三日の道程だ。


「それにしても何故逃げた、ラーデル」

「ルベルタス殿、そうは言ってくれるな、暴動で攻撃の的にされたら命が危ないじゃろが」

「む、それはそうだな」

「捕まれば怒りに燃えるヴェルストの民に何をされる事やら、だからこそ名を隠し逃亡者となったのじゃ」

「まあ、その心情も解らぬでも無いが、我等の方も大変だったのだ」


 エルコッベ伯爵様は領地を失ったからとマクシミリアン国王様に廃爵されたと言う。

 当然エルコッベ伯爵様の臣下であるルベルタス様も騎士団長の任を解かれた事になる。


 ……貴族の地位を一存で剥奪したマクシミリアン国王様って、冷厳というか恐そう。




 やがてザーネブルク王国首都の城郭が遠目にも見える様になってきた。

 首都の街壁は5mの高さの石壁で延々十数キロに渡って街を囲っている。

 街壁の外にヴェルスト領からやって来た難民が集まり無数のテントが集まっていた。

 難民による巨大なスラム街が街壁の外に在るような有様だ。


「うわ、悲惨と言うか、申し訳無いと言うか」

「だがな、領民は皆命が助かったとも言えるのだがな」


 生活基盤まで無くなってしまった事に今でも複雑な心境らしい。


 護衛に護られた貴族馬車は、ザーネブルク王国首都の街門を潜り王城に向う。

 大門は閉じられたが、住民や商人が行き来する通用門だけは開けられている。

 但し、難民が雪崩込まないように、多くの衛兵に厳しく護られている。


 ザーネブルク街中の大通りを北進し、王城の通用口に馬車は進む。

 正面にある大きく立派な造りの城門は、儀典時に他国の貴族や王族など来賓の為の物だから、平時には閉められている。

 国王でも儀典の時以外で、正面城門を潜る事は無いらしい。


 城の通用口といっても正面の門程じゃないけど、それなりに飾り付けられ立派な物だった。

 やがて馬車は止められ、執事によってドアが開かれる。

 通用口内にはまた別な案内がいて、客間に通される。

 謁見の間に呼ばれるまで、この客間で待機しなければいけないと言う。


「物々しいですね」

「国王に対する儀礼だからな」


 領主の場合、国王の儀礼の簡略版らしい。

 思い起こしてみれば、零細企業の社長と経団連に連なる会長くらい開きがあるのかも。


 やがて客室のドアが開けられ、案内の者が呼びに来た。


「皆様、お待たせしました、マクシミリアン国王様の下へご案内します」


 三人は案内に連れられ城内の長い廊下を歩く事になった。

 城内は複雑な造りのようで一筋縄に辿り着ける物じゃない。

 やがて重厚な扉の前で一息待たされる。

 観音開きの扉の両端に立つ護衛騎士が、案内の鳴らす鈴の音を合図に扉を開ける。


 いよいよマクシミリアン国王様との謁見が始まる。

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