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40「正体バレ」

「リックを助けてくれて有難う、先ずは礼を言わせてくれ」


 商工会長も助けられた子供たちを見て、やっと安堵出来たようだ。

 人払いされた豪華な会長室で、二人だけで話し合っている。


「リックから話を聞いたよ、君は本当に冒険者ギルドで上位実力の者だったんだな」


 商工会長は礼金を用意してくれると言う。

 そして次の話題に移るために、身を寄せ小声で話す。


「話は変わるが、実は失礼とは思ったが、極秘で身辺調査をさせてもらったよ、君の本名は『ラーデル』と言わないか?」


「ひっ!」


 その一言で心臓が凍りつく思いがした。

 正体がバレてしまったという事は、追跡者にも情報が流れるだろう事は想像に難しくは無い。


「息子の恩人だ、コスタノ君の秘密は守る事を約束しよう」


 商工会長は得体の知れない俺の身辺調査を行ったと言う。

 今使っているギルドタグは、ルセイヤンの街登録前の経歴が不明で登録されているオルレット出身らしい以外の情報がまったく掴めなかったらしい。そこで益々不信感を抱いて様々な情報を精査したと言う。


 コスタノは何者かから逃げている事を聞いていた。

 隣の国ザーネブルク王国で最近、エルコッベ伯爵領地ヴェルストが消滅したと言う情報は広まっている。

 消滅に際し、重要参考人のラーデルとエルムントの消息が不明だという情報も得た。

 ならば、コスタノの本名は『ラーデル』ではないだろうかと考えが結び付く。

 当然の予想として『魔術師エルムント』も、この街のどこかにいる可能性が考えられると語った。


 ……当ってるよ、商工会長の情報網恐るべし。


「更に『ラーデル』の事を調べさせた。そしたら実に面白い情報も見付かってな」


 俺はゴクリと思わず固唾を呑む。


「ラーデルは陶器で有名だったポルダ村出身だという情報も見付かったじゃないか。ならば君は陶器の事を知っているかもしれないと思いが到ったのだ」


 今は無きポルダ村の陶器は、その希少性から益々高値が付き、王侯貴族たちが捜し求めているという。

 その陶器を再現出来れば、マンデーヌの街が栄える事が出来るだろう。

 商工会の会長が一手に利権を握れるチャンスでも有る。

 利に聡い商工会の会長が、そのチャンスをみすみす見逃す事は無い。


「どうだ? コスタノ君、君の事は絶対に秘密にしよう、今後も息子達の事も頼むし、ある程度の利権も譲渡しよう、職人や道具、材料がいるなら用意も出来る。 だから陶器の製法だけでも教えてくれんか、悪いようにはしない」


 いくら隠すと言われても、証拠がダダモレじゃないか。

 絶対に捜索者が嗅ぎつけるって。

 益々良くない奴に目を付けられた気がする。

 エルムントとも相談しなくちゃならないし。

 ある程度事が進んだら、この街ともオサラバだな。


「直ぐに良い返事が出来ないと言う顔だな、良いとも、決断がつくまでこの館に居ると良い」


 商工会長は時間をくれるようだ。




 ☆




「なんと! この街の商工会長が、我等の正体を暴いたと言うのか」


 もっと上手い隠れ方は無かった物かと考え込むエルムント。


「商売上、利益の関係で匿ってくれるって言ってるんだけどね」

「そうなると、この街での潜伏期間は陶器が有名になり始めるまでという事になるのぅ」

「少なくともそれまでは商工会長の屋敷に潜伏出来ると思う」

「判った、儂も宿を引き払い屋敷に潜伏出来る様、交渉をしてくれんかの?」


 エルムントはラーデルと共にヴェルストの街から姿を消している。

 捕まれば逃亡幇助として、碌な目に合わない事は想像するに難しくない。

 エルムント自身は元々ラーデルの魔法に惹かれ、師事を受けるつもりで逃亡を助けている。

 出来れば一緒にいる方が好ましい。


 商工会長の屋敷内でコスタノ(ラーデル)が息子達に剣を教えているなら、ポンペオ(エルムント)も魔法を教えるという名目で一緒に潜伏出来れば、一緒に護られる事になるだろうと計算をした。

 宿を引き払う事も痕跡を消すのに都合が良い。




 ☆




 俺とポンペオ(エルムント)は商工会長の館の会議室に集合している。


「おお、教えてくれるのか、有り難い、約束通り君とポンペオ(エルムント)をこの街で匿(かくま)ってやるぞ」


 コスタノ(ラーデル)は陶器の製法を教える代わりに自分達の保護を取り付けた。


「この男が君の身代わりになる。 細かい設定があるなら覚えさせれば良い」

「皆様、宜しくお願いします」


 コスタノ(ラーデル)とは似ても似つかない、ホルスカという使用人が紹介された。

 この館で働くホルスカという使用人がコスタノ(ラーデル)の身代わりとして、ポルダ村出身という設定にした。

 コスタノがホルスカに進行具合を聞きながら、陰から順次製法を教えていく事になる。

 この工房の責任者は、ポルダ村出身のホルスカという事にして、表向きすべてに対応してもらう。


「コスタノ(ラーデル)君には純利の一割をロイヤリティとして払う事にする」

「じゃあ必要になったら商工会長から受け取れば良いんですね?」

「ああ、そうしてくれ。 先ずは何から始めるのだ?」

「こんな風な木箱を作って粘土をつめてレンガを作っていきます」


 俺と商工会長、ホルスカとポンペオ(エルムント)の目の前で図を書きながら説明をしていった。


 ①箱につめた粘土は、箱から出して日干し煉瓦にする。

 ②日干し煉瓦が完成したら、焚き火で焼いて焼き固める。

 ③丘の斜面にレンガを積んで、トンネル(登り窯)を作る。

 ④トンネルの中程に薪を集めて炭を作る。


「中々手の掛かる物なんですね」

「この時出来る炭が良い燃料になるんですよ」

「ふむ、では炭専用の登り窯も作った方が良さそうだな」


 ⑤轆轤(ろくろ)(ターンテーブル)を作成する。


「なぜ、こんなテーブルを?」

「回転させながら、上に乗せた粘土を成型するんですよ」

「この回転テーブルは食卓用に作っても面白そうだな」


 ⑦形成した器を乾燥させ、水に灰を溶いた釉薬に潜らせる。

 ⑧出来た器を登り窯で焼く。


「一応これで完成になります。 失敗作は平民の間で使っても良いと思います」

「成る程なぁ」

「もっと高級品にするなら、ラピスラズリのような鉱石を粉にして、水で溶いて絵を描けば本当に高級品になるでしょう、それをまた焼いて焼き付けるんです」

「おい、ラピスラズリは宝石だぞ」

「うむ、それでも王侯貴族には売れるでしょうなぁ」

「そうか、商品価値を高められるな」


 商工会長の目は輝いている。

 頭の中はどれほどの金勘定をしているんだろう。

 全ての行程は工房として人を雇う事になると言う。

 ホルスカは工房長として、現場監督をする事になるらしい。

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