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38「リック達の剣術訓練」

「リック、コスタノをお前達の教官として、しばらくの間雇う事にした。 冒険者として厳しく指導してくれるだろう」

「ありがとう、父さん」


 コスタノ(ラーデル)には半地階の使用人に宛がわれる部屋が用意された。

 粗末なベッドが有るだけの小さな部屋だ、一応風通しの為に窓も有る。

 貴族の屋敷に比べれば粗末極まりないけど、身を隠すには十分と言った所か。




 次の日からリック達の指導が始まる。


「先ずは君等の剣の腕を見極めたいと思う」


 冒険者ギルドでは、剣術を教えることはしない。

 仲間に剣術を使える者がいれば、教わる事も出来るだろう。

 しかし殆どの場合、実戦で身に付けた無手勝流が殆どだ。

 ロザベルやルグリットのように、どこかでちゃんと教わって来た者と組めるのは奇跡に近い。 



 案の定、リック、エル、ユーイの剣術は子供同士の棒遊びの剣術レベルだった。

 木製の模擬剣でチャンバラをしているだけだ。


「コスタノ、どうだ? 俺達の剣術は、十分に通用すると思っているけど」

「あぁ、それじゃぁ全然駄目だ」

「何処が駄目なんだよ」

「本気の斬り合いじゃない」

「だって、本物の剣でやりあったら怪我するだろ」

「それを手加減するのも剣術なんだよ」


 コスタノはリック達を相手に、向き合い稽古をしてみる事にした。

 リック達の打ち込みは、悉く受け流されて目の前に突きが迫る。

 目の前に迫らなくても、次の瞬間首筋に剣を当てられる。

 二打、三打、四打という打ち合いは一切無い。


「すげえ……」

「コスタノの剣って怖ええ」

「反撃に移れないよ」


「剣同士で打ち合うと刃毀(はこぼ)れするし、力で押し切られたら終るだろ?」


 もう少しレベルを上げると、足蹴りで吹っ飛ばされたり、股座(またぐら)に腕を回され倒されると言う。

 場合によっては相手の剣を破壊する技もあると説明された。いずれも騎士団でも通じる実戦技だ。

 それでも乱戦の場や、魔獣相手に必ず基本技が通じるとは言い難い物がある。

 いかにコンビネーションを組み応用していく事が大事な部分でも有る。


「獲物を狩るのは、皆もう少し剣技の腕を上げてからだろうな」


 魔物や野獣によっては、剣の一撃で屠れない奴もいるのだから。

 実際に熊や猪を、剣で倒せる狩人はいないだろう。

 野生の獣は人間では想像も付かない動きだってする。


「わかった、コスタノがそう言うなら」

「コスタノに教わると実力が上がりそうに思えるよ」

「さすが銀ランクの冒険者だ」


 本音はドラゴンや捜索者が来るかも知れないから、冒険者で目立ちたくない。

 家の庭内で面倒を起さないように相手をしているだけなら、そう目立たないだろう。

 座学と称して体験談も語るようにした。







 それからは毎日「ツォルンハウ(Zornhau)」「ボー(Vor)」「ツベルクハウ(Tuberkhow)」「ウンターハウ(Unterhaw)」など基本技の練習ばかりを続けていた。

 リック達の腕前も多少は上達してきた。

 そうなると段々と訓練に退屈をして、実戦で試したくなって来る。

 武道だって自信が付いて来ると、素人相手に喧嘩を買う奴だっているくらいだから無理も無い。


「なあ、コスタノ、お陰で俺達は腕前が上がったと思うんだ」

「ちょっと魔獣も相手をしてみたいなって」

「魔獣討伐に行って見ないか?」


「まだ魔獣討伐には早いと思うんだ」


 何と言っても彼らにはまだ経験が足りないし、知識も無いだろう。

 冒険の危険性は体験談を語ってきた筈なんだけど、


「コスタノは臆病なところが有るからな」

「銀ランクの冒険者だから、きっと慎重なんだよ」

「俺達だって冒険者ギルドのレベルを上げたいし……」

 どう説得しようとも魔獣討伐に行こうとしたがらないコスタノに業を煮やすリック達。


「俺達だけで魔獣討伐をして見返してやるのはどうだ?」

「俺達だって強くなったんだ、きっとやれるって」

「そうだな、手始めにゴブリン退治ってのはどうだ?」

「それ、良いな」


 ゴブリンは割と弱めな魔物だ。

 森から出て来たのを一匹二匹なら、誰でもそれほど苦労はしない。

 しかし弱めのゴブリンでも、集団になると数の暴力で押し切られる危険性もある。

 それなりにも知能は高いから、初心者が侮って良い相手じゃない事も確かだ。

 冒険者たちは必ず道具を揃え、数パーティーで狩りをする事になる。



 リック達はコスタノの留守を狙ってゴブリン狩りに出てしまった。



 ポンペオ(エルムント)との密談の帰り、リックの父親は怒り心頭でコスタノ(ラーデル)に詰め寄った。


「お前はリックの護衛もやるんじゃなかったのか!」


 冒険者ギルドからリック達が、ゴブリン狩りの依頼を受けたと連絡が来たようだ。


「俺の留守を狙われたんですよ、直ぐに護衛に駆けつけます」

「コスタノ、無事に連れ帰れよ、何かがあればお前はクビだ、いや、それだけじゃ済まさんぞ」


 ポンペオが走り去った後、リックの父親は机の上においてあるベルを鳴らす。


「お呼びでしょうか、旦那様」

「うむ、どうにも気になってな、コスタノの身辺調査を頼む」

「承知致しました」


 商工会の使用人は静かに部屋を退室していく。





 俺は急いで冒険者ギルドで、ゴブリンの情報を集めに走った。

 ゴブリンは集団生活をする魔物だ、どこかに巣を作る習性もあるから、冒険者ギルドに情報はある筈だ。

 リック達が森の外にいれば問題は無いが、ゴブリンの巣に近づいたら危険だ。

 場所を確認して、ゴブリンの巣のある場所に急ぐ事にした。


 森の入り口付近にはリック達の姿は無い。

 森の中か、ゴブリンの巣穴にまで行ったら最悪の状態になっているかもしれない。


「あいつら、ムチャしやがって」


 焦る気持ちを抑え、コスタノは森の中に分け入って行く。

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