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33「捜索者」

 街道を歩く二人の女行商人がいた。

 村から村を渡り背に背負えるだけの商品を商(あきな)う行商人だから、裕福な者じゃない事は一目瞭然だ。

 女二人の無防備な旅でも、山賊にしてみれば美味しい獲物だ。


「そこの二人、荷物と金を差し出しな」


 六人の山賊達は武器を手に二人を包囲した。

 二人の女は互いに手を取り合い立ち竦んでいる。


「お頭、良く見れば二人とも上玉じゃねえですかい?」

「そうだな、頂いちまった後始末して埋めちまおうか」


 舌なめずりをして近づく山賊たち。


「ゲマリード、どうする?」

「食事が出来そうで嬉しいわ」

「私が半分殺(や)って良いかしら?」

「私が取り残した分は構わないよ」


 怯えて立ち竦んでいると思えた二人の雰囲気が少々おかしな事に気が付いた。


「俺達に怯えていないのか? なかなか気丈じゃねぇか」

「俺達に取り入って命乞いをしようって魂胆なのかもな」

「そういうのも大歓迎だぜ、ははは」


「ふ、誰が獲物に命乞いをするって?」


「何だと!」


 ジャリン


 女の一人が背負子の陰から剣を抜き放ち、後方から迫る山賊に斬り掛かって行った。

 魔族女騎士ベラルダにとって、人間の山賊など取るに足りない相手だ。

 行商人という見た目と会わない展開に、山賊達の思考が追い付かなかった。


「うらあああぁぁぁーーー」

「ぐわぁ!」


 一薙ぎで一度に二人を倒し、驚くもう一人に向って剣を振りかぶり斃す。



「何?」


 意表を突かれ驚く前方の山賊に、もう一人の女が素手で襲い掛かった。


 ドガガッ!!


 頭と呼ばれた男の両隣にいた子分たちの頭が叩き潰され、吹っ飛ばされる。

 一瞬の出来事に対応の遅れた頭は、胴体を掴れ頭上に持ち上げられた。

 想像も付かない身のこなしと怪力に、こちらも思考が追い付いていない。


「な、何が起こった???」

「汚くて臭くて、不味そうだね」


 臭いをかいで不快そうな顔のゲマリード。


「まあ、道端での拾い喰いじゃ贅沢は言えないけどさ」


 グワッと信じられないほど大きく口を空ける女。

 口の中には鋭い牙が見える。


「な、何者だ、お前は――――」


 ウギャーーーーーーー


 山賊の頭の悲鳴は長くは続かなかった。

 人一人を丸ごと口に入れ、ボリボリと噛み砕き、咀嚼し、飲み込んだ。


「ゲマリード、お食事は済んだ?」

「まだよ、そっちのも頂戴」

「食べ過ぎなんじゃ?」

「擬態の人化を解くと20mはあるから、少ないくらいよ」


 六人の山賊達は皆ゲマリードの胃に収まってしまった。

 二人の女が歩く街道は、既に山賊の痕跡は無い。


「さて、先に進もうか」

「そうね」


「ところでゲマリード、お子さんの特徴は解らないの?」

「住処に帰ったら、既に居なかったからね……」

「近隣の村にもドラゴンの噂が無いって言うのも不自然だよね」

「一体何者の仕業なのか、何かの事故なのかも解らなくてな」

「手掛かりになりそうな情報も無しじゃ、難しい捜索だね」


 情報が少な過ぎて魔王の捜索にも掛からないのだ。


「はあ、一体何が起こったのやら」

「ひょっとして、お子さんは人化が出来るのでは?」

「知らぬ内に産まれた子が、誰に教わるでもなく人化が出来るとは考えられぬ」

「道理ではそうですね、それでも人化して人の世界に紛れていると考えれば辻褄が合うのでは?」

「何者が産まれたばかりの我が子に、人化の法を教えると言うのか」


 ゲマリードは溜息をついて気を落とす。


「捜索に私も協力するのだから、気を落とさないでゲマリード」

「感謝する」


 二人は障害になる魔獣を倒しながら最寄の街へ歩いて行く。






---------------------------------------------





 テポルーノの街に最近実力を上げ注目される冒険者がいる。

 魔術師のポンペオ爺ちゃんと、孫のコスタノの二人。


「ポンペオ爺ちゃん、やっと冒険者ギルドで銀ランクAレベルに追い付いたよ」

「儂らは頑張ったからな」


 二人は常宿の二階で寛いでいる。


「実はなポンペオ爺ちゃんなんて呼ばれるのは、未だにしっくりしなくてな」

「本名名乗っていたら、ザーネブルク王国やヴェルスト領からの追手に見付かり易いって言ったじゃん」

「ラーデ……、いやコスタノ、そうは言ってくれるな、お主も同じであろう?」

「へへへ、まあね」


 逃亡以来偽名を名乗っている二人。

 当然以前の冒険者ギルドの登録タグが使えないから、新たに偽名で登録をし直している。

 以来頑張った二人は、やっと銀ランクAレベルに追い付いたという訳だ。


 魔術師と孫というコンビだけでは、目立ち過ぎるだろうという思惑もあり、他の冒険者の手伝い要員という形で様々なパーティーを渡り歩いている。


「そろそろ儂らの名も広まり始めたから、この街を出て他の街に移る頃合じゃろうな」

「それなりに金も溜まったしね」


 ザーネブルク王国やヴェルスト領からの捜索者がいるだろう事は想像は付く。

 何と言ってもラーデルは領主の国を崩壊させた中心容疑者なのだから。


 魔術師エルムントも同時に姿を消しているから、二人に追手が掛かるだろう。

 そしてあちこちで魔術師と孫の噂も聞かれやすいだろう事も想定の範囲内だ。

 捜索者が噂でも魔術師と孫と聞いて、気に留めないはずは無いだろう。

 追手に追い付かれる前に居場所を変えなければならない。



「大概の魔獣は儂とお前の魔法で対処出来るから気に留めなんだが、ふと思ったが、今までお前は一度も人化を解いた事が無いのう」

「それは凄く目立つからね、噂も広がり易いし、絶対に遭いたくないのに見付かる可能性が高くなるし」

 

「絶対に遭いたくない? それは何じゃ?」


 コスタノは辺りを見回し小声で囁く。


「親……」

「親ドラゴンか、こりゃまた厄介な」


「つか、コスタノ、お前もドラゴンじゃろが!」

「そうかも知れないけど、本物のドラゴンっすよ? 本物のドラゴンが画面越しでもなく、檻の中にいるでもないのが目の前に居たら恐いじゃないですか、誰だって逃げますって」

「このバカモンが、お前の親じゃろ、親!」

「捕まったら何されるか解ったものじゃないでしょ」

「捕まったら養育されるんじゃないか?」


 在り得ない話じゃないけど、ドラゴンの養育なんて想像も付かないよ。

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