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どうして逃げるんだよ!!隼人!!
隼人を追いかけようと走り出したら、ばあちゃんの持っていた大福をひっくり返してしまった。ごめん!でも、今ここで隼人を追わないと、二度とチャンスは来ない。そんな気がした。
人間になったら全然鼻が効かない。世界は広いし、人は多い。絶対に隼人を見失っちゃいけない!
「隼人!!」
隼人は、建物の中に入って行った。
ここ、知ってる!強烈な匂いのする所!!トイレだ!!
「隼人~!俺だよ~!シェロだよ~!」
「シェロ?!」
俺はそう言ってドアを何度も叩いた。
「俺だよ!俺!シェロだよ!」
しばらくすると、入っててがドアを少し開けて訊いて来た。
「本当に?本物のシェロなの?」
「本当に本当の本物だよ!!何に見えるんだよ!」
「変質者……。」
変身車?なんだそれ。トラ◯スフォーマーか?
「俺変身しないよ。あ、したけど、できないよ!」
言いたい事が伝わらない!せっかく人間の言葉が話せるのに、上手く話せない!!
「俺、人間になったんだ!」
「シェロ、人間になったの?」
「そうだよ!」
あ、何だか…………おしっこしたい。
「どうしたの?」
「トイレマットどこ?どこにおしっこしていいの?ここの壁?」
「ダメだよ!こっち!便器!」
俺が片足をあげてしようとすると、隼人に止められた。
「ダメだよ!ズボン脱がないと!ってあれ?ズボン後ろ前逆だよ?」
「どうしよう……。俺、これできないんだよ~!」
「じゃあ、どうやってこれやったの?」
「あ~!もうダメだ!我慢できない!!」
「と、とにかくこっち座って!」
そう言って隼人に便器に座らされた。
「あ…………。」
ズボンが濡れた。そうゆう事か!!それでズボン脱がなきゃいけないのか!!
「あ~あ、お漏らししちゃった……。」
隼人が俺を見てドン引いていた。そっか……俺、失敗したんだ……。
「…………。」
俺が黙ってヘコんでいたら、隼人が言った。
「ズボン脱いで。洗ってあげるよ。その間、トイレ入って座ってて。」
そう言って隼人は俺のズボンを持って行って水道でじゃぶじゃぶ洗ってくれた。
人間って大変だ……。やらなきゃいけない事、やっちゃいけない事、沢山あって…………
俺は人間に向いて無い。
せっかく人間になったのに……全然隼人を守れて無い。守るどころか、迷惑をかけてる。
コンコン、とドアを叩く音がした。
「できたよ。とりあえず、これ、履いて。よく絞ったけど……」
ズボンからは水が滴り落ちていた。
「これ、冷たい。履かなきゃダメ?」
途中まで履いたら、鳥肌が立った。
「履かなきゃダメだよ。絶対。」
絶対!?
そこまで言うなら……。すげ~冷たい!!
「これ、できない。」
「チャックとボタンできないの?」
隼人は驚いていた。隼人がやり方を教えてくれた。
やり方を教わっても、なかなか難しかった。
「何でもお願いを叶えてくれる龍なのに、人間になるとこんな事もできないんだね。」
何でもお願いを叶えてくれる…………?なんだそれ。
「だって……初めてなんだよ。人間になったのは初めてなんだよ!できない事があったって当たり前だろ?それなのに、それを馬鹿にするなよ!」
「…………。」
俺の一言に、隼人は黙って下を向いてしまった。
「あ、いや、ごめん。ちょっと、言い過ぎた。俺が悪い。俺が失敗したから……。」
「うんん。シェロは悪くないよ。ごめん……。」
そう言って、隼人はトイレを出て行ってしまった。
その後を、俺はまた追った。