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「お母さんどこ?」
私は母に電話をかけながら、おばあちゃんの家から駅に向かって歩いていた。
東京にはおばあちゃん家が2つあって、昨日は母方の祖母の家に泊まった。今日は父方の祖母に会う予定なんだけど…………祖母は何とも自由な人で、お母さんはよく振り回されてる。
「何?結局、美術館1人で行ったの?」
「だって、おばあちゃんやっぱり行かないって言うから。」
「じゃあ、連絡してくれればいいのに~!言ってくれれば私一緒に行ったのに。」
「でも、凜は美術館とかすぐ飽きちゃって苦手でしょ?」
母はこうゆうとき、いつもの口癖が出る。
「いいよ、いいよ。」
「それでもいいよ。って言うんでしょ?それ、良くないよ!お人好しって言うの!だからおばあちゃんが我が儘になるんじゃない!」
「あ、はいはい。もう改札通るから切るね~!」
あ、ちょっと…………!都合が悪くなるとすぐ一方的に切るんだから!!
で、結局私はどこに行けばいいの?日暮里?巣鴨?とりあえず池袋方面の電車に乗ればいいのかな?
そう思って、ICカードを出していると、改札の前でうろうろしている変な男の人がいた。
その人は真っ黒なスーツに、革靴で、道ゆく人みんなに尋ね続けている。
「隼人、どこ行ったか知りませんか?」
誰かを探してるみたい。
「あの、隼人、知らない?」
「さ、さぁ?」
「隼人の匂いが全然しないんだ。」
匂い?匂いで探してるの?
よく見たら、この人裸にスーツ着てる……。ズボン、前と後ろ逆じゃない!?
「あーもう!どうやって探せばいいんだ?!」
そう言って後ろを向いてしゃがむと、頭を掻いていた。
「あ、前足で掻くと楽だな。」
え…………ちょ、ちょっと…………!
しゃがむと、後ろのチャックが全開で、スーツの裾から臀部の割れ目が見え隠れしていた。
この人…………変態?東京は変な人が沢山いるって聞いてたけど…………よりによって1人の時に遭遇するなんて…………どうしよう……。
「あの、後ろ…………。」
「後ろ?何かついてる?」
私が後ろのチャックが開いている事を伝えると、お尻の後ろの方を見てクルクル回っていた。
「これ、後ろ、やってくんない?」
「えぇえっ!?」
「俺、これ、やった事無いから、どうしていいかわからないないんだ!」
チャックとボタン…………やった事ない!?まさかのボンボン!?自分で服着た事ないとかどんだけ金持ち!?こんな人実際にいるんだ……。親切に教えてあげればお礼とかもらえたりするかな?
「あの、そもそもズボンが前と後ろが逆ですよ?」
「え?そうなの?じゃ、脱ぐ。」
「ちょ、ちょっと待って!」
男の人はその場でズボンを脱ごうとした。
「ここではダメだよ!!」
「時間が無いんだ。やってくれんの?くれないの?」
私は一瞬悩んだけど、駅の端の方の柱の影に誘導した。
「…………やります。ちょっと、こっちに来て下さい。」
柱の影に移動して、後ろのチャックとボタンを着けた。この人…………パンツ履いてない…………?
何で私、知らない人のズボンのチャックあげてるの?素肌見えてるし…………最悪…………。
「できた?これで大丈夫?ありがとう!助かったよ!!」
その笑顔は、私の胸に見えない矢を刺した。うわっ凄く好きなタイプの顔……。ヤバい。変だけどイケメンで金持ちなら、今までの事が相殺される!!
「じゃ、俺、あっちに隼人探して来る!」
そう言って改札を通ろうとすると、改札の扉が閉まって通れないでいた。
あの人、もしかして…………電車に乗れない…………?
電車に乗った事ないってどんだけセレブよ?イケメンでセレブって最高じゃん!!助けてあげよう!!