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シェロが、僕を押して…………僕の代わりに、車にひかれた。ひかれた?思いきり、車にぶつかった。
「シェロ…………?」
車を運転していたおじさんが、降りて来て言った。
「だ、大丈夫ですか?きゅ、救急車……救急車呼ばないと!」
シェロと約束した。ずっと一緒にいるって。大丈夫。シェロは約束を破ったりしない。
街灯に照らされて…………シェロの下に、どんどん水溜まりができるのを、僕はただ、黙って見つめていた。
大丈夫。大丈夫。シェロは約束を破ったりしない。そう、自分に言い聞かせた。それでも、少しも動かないシェロが……怖かった。怖くてたまらなかった。
このままずっと、動かなかったらどうしよう……。不安で不安でたまらなかった。
お願い…………お願いだよ!無事でいてよ!!もう一度、シェロと遊びたい!その頭を撫でたいよ!靴だって、いくらでも噛ませてあげる!!だから…………だから…………
「その願い聞き入れた。」
そう、聞こえた気がした。
「え?」
頭をあげて、もう一度シェロの方を見ると、シェロの姿は消えていた。
「あれ?おかしいな?さっきの人…………どこ行ったんだ?」
電話をしていたおじさんが驚いて、車の下や後ろ、あちこちシェロの事を探していた。
それでも、結局シェロは見つからなかった。
その後、僕は警察のパトカーに乗って、近くの警察まで送ってもらえる事になった。
「少年!元気でね!」
お姉さんとおばさんに見送られて、パトカーは走り出した。
シェロはどこへ行ったんだろう…………。あんなに血が出て、大丈夫だったのかな?もう二度と会えないなんて事…………ないよね?
夜のネオンや、車の赤いランプで車の外は、何だか騒がしかった。郊外に来ると、街灯の光が窓の外で飛び交っていた。
お母さん…………なんて言うかな?怒られるよね……。僕はずっと手に握りしめていたベーゴマを見た。ゴミ屋敷のおじいさんからもらった物だった。
「親に話を聞いて貰えなかったくらい何だ?話を聞いてもらえて当たり前だと思うな?親子だからって何でもかんでも当たり前になっちゃ、そりゃ人間じゃないだろ。人間なら相手を思いやって、ちゃんと話をするんだな。」
僕はもう一度、ベーゴマを握りしめた。
車を降りると、すぐに名前を呼ばれた。聞き覚えのある声だった。
「隼人!!」
お母さんは、大事な携帯を落としたのも気にせず、全力で走って来た。
僕の前に来ると、何も言わず突然僕を抱きしめた。
「お母さん……。」
少し苦しかった。
苦しかったけど、暖かかった。柔らかくて、温かくて、お母さんの匂いがした。その匂いに、何だか胸がふわっとして、涙が出た。
「無事で良かった!隼人!」
お父さんが後からお母さんの携帯を拾って僕の方に来た。その携帯の画面は割れていた。
お母さんは何も言わなかった。言わなかったけど…………大事な大事な携帯より、僕が大事だって言われてるみたいで…………何だか、安心した。
「ごめんなさい…………。うわぁああああん!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい…………!!」
沢山泣いて、お母さんも泣いて、お母さんは涙を拭いて言った。
「なんか臭い……。」
「そういえば、シェロも汚かったな。帰ったらすぐ二人で風呂だな。」
「シェロ!?帰ってたの!?」
後で聞いたら、その日はうちに泥棒が入ったらしい。盗まれた物は、お父さんの黒いスーツと革靴、それだけ。シェロは汚れまみれでゲージの中にいたんだって。
僕はゲージの中でしっぽを振っていたシェロに言った。
「シェロ、ただいま。お願い叶えてくれてありがとう。」
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
前回の失敗を生かして、前半のほとんどを計画通りにと慎重に書き進めたら、少しも頭が回らず……。書いてる自分でさえつまらなくなる始末……。本当に申し訳ありません。やっぱり自由に物語を書くって難しい!!
この度、根気よく読んで頂いた方の、仏様のようなお心に感謝致します。




