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「古瀬さん、いますか~?」

誰か来た。


このおじいさん、古瀬さんって言うんだ……。


「役所の者です~!古瀬さ~ん!」

私達がおじいさんの方を見ると、おじいさんは黙って首を振った。


「は~い!」

私が玄関に出ると、役所の人は驚いていた。

「え?あ、お孫さんですか?」

「違います。」


私がキッパリそう答えると、役所の人は困惑していた。そして、何かを諦めて言った。

「一週間後、強制執行します。そう、お伝えください。」


強制執行って…………ここ、綺麗になるんだ!!

「はい!伝えます!」

私の意気揚々な返事に、役所の人は後ずさりながら帰って行った。


「おじいさん!一週間後強制執行だって~!」

我ながらおかしいと思いつつ、もうすぐお祭りあるって~!みたいなノリで伝えた。


「俺はここを離れん。ここにあるもの1つも捨てさせん。」

「これ、宝の山だもんな~!」

「どこが?ゴミじゃん。」

シェロがドテラを身につけて、ゴミの上に寝転んでくつろいでいた。


「そもそも、役所の連中なんて信用ならん。」

「そんな事ないよ。人を信ずることは、遥かに人を疑うことに勝っている。」

「それって……。」

少年が知ってるという顔をした。


「人を信じ過ぎる欠点があったとしても、人を疑い過ぎる欠点はないようにしたい。」

「それ、おばあちゃんが言ってた。」

「おばあちゃん?私の?だって、私もおばあちゃんから聞いたんだもん。」


すると、おじいさんの顔が変わった。

「あんたのばあさんの名前は? 」

「名前…………?里梨、美沙恵ですけど……。」

「そうか……あんた里梨さんの孫か……。」


おじいさん、おばあちゃんの知り合い?

「おばあちゃんの事、知ってるんですか?」

「知ってるも何も…………そりゃ、俺が言った事だよ。里梨さんとは昔、ちょっとしたモメ事があってね。何、里梨さんは何も悪くはない。」


下を向きながら、おじいさんはゆっくり話してくれた。

「死んだ女房がね、まだ結婚して間もない頃だったかな。ねずみ講まがいのもんに手ぇ出しちまって……。里梨さんが女房の誘いを断って、女房と気まずくなっちまった事があって…………俺が吉田松陰の言葉を使って、悪く思わないでくれって頼んだんだ。その時の事を…………里梨さんはまだ覚えてたんだな……。」


「あの、でも、その言葉、悪い感じでは受け取ってないと思います。きっと、祖母はおじいさんの言葉で、前に進めたんだと思います。じゃなきゃ何度も私に言わないと思います。」

おじいさんの様子を見て、急にフォロー入れたくなっちゃって、あからさまにフォロー感が出てしまった。


そっか…………おばあちゃんがまた、人を信じて前へ進めた言葉。


おばあちゃんは、いつもいつも、私に人を信じて、前へ進めって言ってくれてたんだ……。


何だか…………涙が込み上げて来た。


ヒロの事は信じてる。だけど…………


1人で前へ進むのは…………少し怖い。


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