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なぁ、隼人、その気持ちよくわかるよ。俺だってよく母ちゃんに叱られてるもん。


気にする事ないって。友達と喧嘩したくらい何だよ!喧嘩くらいするだろ?男なんだから!女でもするよ!


父ちゃんと母ちゃんなんて、しょっちゅう喧嘩してんじゃん!


あ!おい!慰めてるのに俺の事置いて行くなよ!


隼人は俺をゲージに入れると言った。

「シェロ……僕、本物のシェロを探しに行くよ。見つけてお願いを叶えてもらうんだ。」

誰だよ!本物のシェロって!なぁ、シェロは俺だけだろ?なぁ?


おーい!どこ行くんだよ!隼人!もうすぐ母ちゃん帰って来るぞ?


俺がめちゃくちゃ声をかけたのに、隼人は俺を無視して家を出て行ってしまった。


待ってくれよ!!本物のシェロを見つけたら偽物のシェロはお払い箱か?俺はもういいのかよ!おい!!


最低の気分だ…………。


あの気の弱い隼人が喧嘩するなんて……珍しい。隼人は優しい奴だ。俺の事、ちゃんと世話してくれるし、いつも遊んでくれるし、散歩にも連れて行ってくれる。


俺が…………人間になって、隼人を守れたらいいんだけどな……。


「その願い聞き入れた!」


どこからか声が聞こえた。確かに、そう聞こえた。


すると、俺の目線がぐんぐん高くなって、いつものように後ろ脚で立つと、簡単にゲージを越えられた。自分の前脚を見て驚いた!!まるで、人間の手だ!!


「俺、人間になってる!」


すげ~!!これで俺、隼人を追いかけられる!!俺はすぐに家を出ようと玄関に行くと、玄関にある鏡に気がついた。鏡に映った人間と目が合った。これ、俺?これが…………人間の俺か!


あ、何だか頭痒い。これ、頭どうやって掻くんだ?前脚を床について頭を下げて、後ろ脚で頭をかこうとしたけど、全然できなかった。


よくよく見ていると、自分の姿に何だか違和感を感じた。まずは、人間は前脚をつかない。待てよ?人間ってもっと…………服を着てる。

靴を履いてる。服なら知ってる!隼人が着替える所をいつも見てる!


隼人の服を引っ張り出して、着ようとしたら、腕の途中までしか入らなかった。これ以上入らない。俺、隼人より大きくなったんだ!


隼人より大きい服…………母ちゃんか父ちゃんの服を着よう!!


これは……確か脚に履いてた。あれ?何か違う。これ腕だっけ?あ、これ、母ちゃんのよく肩にかかってるやつだ。


俺はあちこち突っ込んで、なんとか服が着られたけど…………母ちゃんの服は、隼人の服よりはマシだけれど、やっぱりまだ窮屈な気がする。今度は一番大きい父ちゃんの服を試すか。父ちゃんは確か…………


俺はクローゼットの中にある、なんだか硬い服を着た。


父ちゃんの服は……動きづらいけど、ピッタリだった。


じゃあ、きっと靴もピッタリなハズだ……。父ちゃんの靴…………相変わらず臭い。クセになる臭いだ。


これ…………噛みたい。噛んじゃいけないっていつも言われてるけど、噛むと怒られるけど…………噛みたい。噛んじゃいけないって言われると余計噛みたくなるよなぁ……。

噛んでもいいかな?今、誰もいないし……。


俺は鏡に映った自分に背を向けて、こっそり…………靴の先をゆっくり噛んだ。


…………。


噛んでも、意外と…………それほど喜びは感じなかった。俺、なんであんなにこれ噛みたかったんだろう?


いや、これ以上こうしていられない。隼人を追いかける方が先だ。これ以上は我慢しよう。もう隼人の匂いが全然しない。追い付けるか心配だった。でも、隼人より大きい人間になったんだ。自信を持とう!


こうして俺は、誰かに願いを叶えてもらって、人間になった。人間になって、隼人を追いかけた。


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