表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/44

1-3 地下室でのお宝カオス

第一章 辺境都市『ムサシノハラ』



 「ギジェはお金持ってないんでしょ? とりあえず換金しないと始まらないわね」


 四人で朝食に作った干し肉と芋のポトフを囲んでいた。さり気なく争奪戦が起きていて、食べるスピードが結構はやい。


「ああ、あとで何が売れるか一緒に見てくれるか? あとそんなに焦らなくても、肉なら大量にあるから、足りなかったら言ってくれ… あ、もう無くなるのね、今焼くから」


 彼は苦笑しながら追加の肉を刻み始めた。



 

「じゃ僕らは仕事いってくるから、ギジェまたねー」 


 食事の後に兄妹がそう言って外に出ていった。どんな仕事をしているのだろう?


「ライシャ売れそうなものを、全部出していくから選んでくれるかな?」


「うん、結構あるの?」


 ギジェは、とりあえず収納空間の、お宝エリアのアイテムを引っ張り出していく。


 金塊(インゴット)の大が34個、1/5サイズが118個、銀塊が大きさ不揃いで140個、各種小判と金銀のコイン1200枚、金剛石(ダイヤモンド)紅柱石(ルビー)蒼玉色(サファイア)等の大粒小粒の宝石120個、原石…山程。


 心なしかライシャの意識が飛びかけて見える。アイテムを引き出す度にキツネ耳がひくっと跳ねる。


 大粒紅柱石(ルビー)の髪留め、金剛石(ダイヤモンド)が沢山あしらわれた女王のティアラ、蒼玉色(サファイア)黒蛋白石(ブラックオパール)の王冠、各種宝石を散りばめた黄金の剣、巨大な金剛石(ダイヤモンド)の首輪、その他大量のネックレス、腕輪、指輪などなど…。


「ちょっとまって… まって、はぁはぁはぁはぁ、ど、動悸(どうき)が止まらないわ」


 ライシャは肩で息をしている。


「というかおかしいよね? ギジェは歩く宝物庫なの? どうするのこれ? もう一生働かないでいいじゃない… いや、もう街ごと買えそうよ」


「え? そうなの? まだ半分も出してないんだけど」


 妖狐の美少女は、瞳を真ん丸に開いて絶句している。


「ちょっとわたし、この黄金の海に身を投げて、ぐりぐりと財宝を抱きながら眠りについていい?」


 ちょっと壊れ気味だった。


「奈落のエリア守護者(ガーディアン)を倒したときに拾ったんだよ。それで二匹分かな。その他は、旅の合間に遺跡とか滅んだ街とかで回収したりしたかな」


「集めるって… こんなお宝がゴロゴロ落ちているものなの?」


 ライシャが紅柱石(ルビー)の髪留めを指で摘んで、差し込んでいる日の光にかざしてみる。透過した赤い光が部屋中に広がって美しい。


「ああ。奈落の近くって人が誰も居ないからね、まったくの手付かずで、地下神殿とかの通路に装飾品とか転がってるよ? (ほこり)は被ってたけど」


「なんだとー 何そのお宝パラダイスは!」


 魔道士の腕に抱きついて「いつか連れていけー」とグイグイと揺らしている。


「ま、まぁとりあえず気に入ったのあれば、好きに持っていっていいよ。このティアラとか似合うんじゃないか?」


 ギジェがキラキラに輝く金剛石(ダイヤモンド)が散りばめられたティアラを、少女の金髪にほいっと乗せる。細い綺麗な金髪と黄金色(こがねいろ)のキツネ耳に、とても良く似合っている。まるで妖狐の王女様(プリンセス)のようだ。


「え? これ私が着けて歩くの? 私は街の全てを敵に回すの? 殺す気なの? 死ねばいいの?」


 ライシャが変なテンションでまくしたてた。


「それとも王族にでも嫁げばいいの? 誰かもらってくれるの? あなたもらってよ」


「に、似合ってるけど? ご、ご、ごめん、なんかまた、やっちゃってる?」


「はー もう良いわよ。とにかくここにある装飾品系は、この街で売るのは無理だからね。これ王都『フレイアム』でも換金できないかも、国宝とかになりそう…」


 ライシャは頭のティアラを丁寧に床に降ろした。


「とりあえず、少しずつ売りましょう。そこらの金塊関連は、いつか溶かして金貨に作り直してしまえばいいわ。これだけでひと財産だけどね」


「そうなのか? 通貨(バース)って自分で作ってもいいの?」


「そうね、まぁ一番上の通貨の白金貨は、古代の特殊な製法らしくて制作はできないけど… というか流通してる数も少ないけど。金貨や銀貨は重さと大きささえ規格に合っていれば、どんなデザインでもいいのよ。そのもの自体に価値があるわけだし」


「そうなんだ、じゃ自分の名前を入れた、オリジナル金貨とかも作っていいのか?」


「そんな(はずかし)めをうけた上に、命を狙われるのが好きならどうぞ」


「なんとなく分かってきた… 目立ったら駄目なんだな」


「そうよ、この街では目立ったら襲われるだからね」


 ライシャが首に指を当てて真横に引くジェスチャーをする。キツネ耳の少女がやると、可愛い仕草にしか見えないけれど…。


「もっと普通に剣とか盾とか、魔道具(マジックアイテム)とかはないの?」


「ああ、そのへんも沢山… 大量にあるかも」


 ギジェは地下室の空いている側に、どんどん武器を並べ始める。


 再びライシャが放心状態になっていく…。


「あっ、その長弓(ロングボウ)を見ていい?」


 すっかり武器庫のような有様になった部屋から、大きな弓を引っ張り出した。使い込んだ艶のある木目の芯に、特殊な黒鋼材を鋏みこんである。


 ライシャはその弓を手にすると、真剣な表情になり美しい構えで引いて見せた。


「エリスの硬木と黒鋼の長弓(ロングボウ)だね、凄く良い弓だわ。ねぇギジェこれ使っていい? 私の弓は売り払ってしまったの」


 少女は視線と同じ高さで弓を横に見てみる。歪みのない美しいフォルムだった。


「もちろん良いよ、その弓とお(そろ)いの矢筒もあったよ。あと短剣はこれとかどう? これも黒鋼の短剣だけど麻痺(パラライズ)の魔法効果付きだぞ」


「それは魔剣っていうんだよギジェさん… 麻痺(パラライズ)の黒刀(ブラック ナイフ) 買ったらたぶん25金貨(250万バース)以上します」


「なぜにさん付けに… え?価値がわからないけど? そのぐらいの魔剣なら俺でも打てそうだけどなぁ」


 ライシャが(さや)からすらりと短剣を引き抜いた。黒鋼の刀身が鏡のように少女の横顔を映している。


「他にも使えそうな装備を選んでおいてくれ、この影法師の革靴(シェイド ブーツ)とかもお勧めだぞ? 俺のとお揃いだけど、不可視効果(インビジブル)無音効果(サイレンス)が付いていて隠蔽率(hide +28%)が高くなるんだ。サイズはある程度は詰めれるし、俺も直しができるから」


「でも、こんな高級品ばかり貰えないわ」


「これから一緒に財宝探求者(トレジャーハント)するんだろ? こんなの持ってるだけじゃ意味ないし、()()が使って初めて価値がでるってもんだ」


 少女はギジェの顔を真っ直ぐ見てから「うん」と笑顔で頷いた。



 

 そうして今度は魔導具を並べ始めたとたんに、ライシャが食いつくようにその一つを手にとった。


「ちょっとまって… これって… まさか、まさかの金属探知魔道具(メタルデフェクター)じゃないの!!! うそうそ! こんなところで出会えるなんて」


 見た目は大きな腕輪のような魔道具で、手首にはめて使うらしい。


「知らないの? これは財宝探求者(トレジャーハンター)達の憧れの魔道具なのよ!これもし売りに出されてたら35金貨(350万バース)以上はする一品よ」


「さっき魔剣も25金貨とか言っていたけど、価値が今ひとつ把握できないんだけど」


「この魔道具とミスリルの長剣が同じぐらい?」


「ますます分からなくなった…」


 少女は自分の細腕に魔道具を装着すると、手を伸ばしてくるくると踊るように回ってみせる。


「私はこの子に出会うためにギジェの手を引いたのね!」


「なんかそれ俺が()()()みたいで、すごい嫌だな」


 彼は拗ねた表情で口を尖らせた。


「これはね、この中央部を開いて金属素材のサンプルを挟み込むと、注いだ魔力(マナ)に応じて、周辺にある同じ素材の反応を示すのよ」


 ライシャはそれに、一番小さいゴールドコインを挟んでみせる。


「見ててね」


 そういって魔道具に集中して魔力(マナ)を注ぐと、目前に赤い大量の点が重なって浮かび上がった。それはこの部屋にある金に反応を示しているらしい。


「ほら ちゃんと反応してる。これを遺跡とかで使えば、お宝の場所が分かるってことよ。お宝って大抵金を使ってるしね」


「凄いね、ちょっと使わせて」


 ギジェが金属探知魔道具(メタルデフェクター)を手にして、よっと魔法(マナ)を送り込むと、まるで夜空の天の川のような紅点が、地下室いっぱいに浮かび上がった。


「えー、ちょっとギジェって、どれだけ魔力(マナ)持ってるの? この反応って『ムサシノハラ』ほぼ全域をカバーしてるわ」


「それって凄いのか?」


「凄いていうか、探索範囲は広いに越したことないもの。ギジェは魔導具係ね!なんか夢が広がるわー」


 ライシャが金塊の夢に目を細めて浸っている。もう完全に瞳が黄金色に輝いてみえる…。


「そういえば、ミスリルの素材って売れるのかな?」


「えっ、あ、もちろん、重さ単価は金の数十倍よ。ミスリルは軽いからね」


 少女が黄金の夢見から引き戻された。


「ちょっと細かいんだけど、ミスリル素材も持ってるんだ」


「それは良いかも。鍛冶屋ならどんな少量でも買い取ってくれるものよ。そうやって少しずつミスリルを集めて、材料が貯まったら制作するそうよ」


「じゃ、こんな破片とかどう?」


 ギジェは廃品魔導人形(ジャンクゴーレム)の砕けたコアと、その破片を床に並べた。実は奈落の縁(アビス ブリンク)守護者(ガーディアン)を、殴りまくった成れの果てなのだが…。


「良いじゃないの、こういう素材のほうがこの街なら売りやすいわ。この大きいのはちょっと高額すぎるけど… この壊れた樽みたいな部分で、ミスリル大剣二本は作れそうだものね。それだけで金貨80枚(800万バース)とかよ」


金貨80枚(800万バース)か、凄そうだけどやっぱりわからん」


「そうね… この街の第4層ぐらいに中古の家が買えるぐらい?」


 人差し指を頬に当てて考えてからそう答えた。その仕草がアーリィを思い出させて、すこしだけドキッと胸が高鳴った。


「売るなら、こっちの細かい破片のほうが良いとおもう。量を売りたいのなら、やっぱり王都まで行かないと駄目だとおもうし」


「王都って もっと沢山の人が住んでるんだろ?」


「そうねこの世界では一番大きな王政の国だから、王立騎士団とかもあって、治安もちゃんとしてるのよ。素材の買い取り所とか、オークションとかもあるわ」


 ギジェがミスリルの塊をお手玉のように扱って遊んでいる。さすがに紙のように軽いらしい。


「入国するのはちょっと手間だけどね。最初は通行書作らないとだし」


「でも行ってみたいな。ライシャも一緒に行こう」


 キツネ耳がぴくっと反応してこちら側を向いている。


「そうね一緒にいきましょう」


 少女は頬を赤らめると、柔らかい笑顔でそう答えた。




 そんな次元倉庫(インベントリ)の大整理みたいになったが、なんとか売れそうな品々を小分けにして、収納空間の『販売』エリアに収納した。


「あ… そういえば。この金貨って使えるかな?」


 ギジェはその昔に、義兄(デニール)に貰った古いコインを取り出した。


「うん? なんだ普通に金貨(10万バース)をもっていたのね。それで買い物は出来るわよ」


「子供のころに貰ったんだ… デニールよ、約束通りに、これで腹いっぱいになるからな」


 ギジェは天に誓うように、金貨を高く掲げている。


「その人はギジェの家族なの?」


「デニール? そうだね、彼はこっちの国、ドーンラングから間違って転送されてきた盗賊(シーフ)だったんだ。彼がお宝や装備を集めて街で売ればお金になるって、教えてくれたんだよ。盗賊(シーフ)技術(スキル)の師匠でもあるんだ。そう、まるで兄のように…」


 最後は少し寂しそうに言葉を濁した。


「ゴメンね… 悲しい事を思い出させたんだね」


 少女は自分の軽率さを恥じて、そっと彼の腕に手を添える。


「大丈夫だよ。良い思い出だから」


「そう… じゃ今日は、鍛冶屋でミスリルの端材、宝飾品屋に小さい宝石と原石少々、目玉にこの金剛石(ダイヤモンド)の指輪一個だけっと。あとは薬屋でギジェ自作の回復薬が売れるかを聞いてみて、武器屋に鉄の大剣と短剣… と、これぐらいでいいかな?」


「ありがとう、ライシャ。初めてのお買い物だ」


「ああ!あとギジェはその次元倉庫(インベントリ)を、人前で使ったら駄目よ。そんな魔法使えるなんて()()()()()()聞いたことないし、そんなのバレたらお店に出入り禁止になるわよ。商品盗んでも証拠がないとか最悪の万引き犯だもの」


「なるほど… 確かにそうか。万引きってなに?」


 そこでライシャはちょっと困った顔をする。


「まぁ、それはいいや… そう、その謎収納を使う時は、必ず鞄の出し入れとかを演じたほうが良いとおもうの」


「じゃ少し大きめのバックも買わないとかな… 自分で作ると時間かかるし」


「革細工もできるんだ?」


「何でも自分たちで作らないとだったからね、あの黒革コートも俺のお手製です。そして鍛冶仕事が趣味かな? 魔法剣だって打てるんだぞ」


 ギジェは小分けした宝石の袋を、ローブの内側に押し込んだ。


「凄いわね… 職人としてもやっていけそう」


 少女は素直に尊敬の眼差しで魔道士を見詰めた。


「そうだライシャ、これを君に付けていて貰いたい」


 魔道士は唐突に彼女の手に、少し厚めのシンプルな指輪を握らせた。以前にアーリィのために作った指輪のひとつだった。


 『黒魔道士の守りの指輪』 防御力増加(DP +17%)自動防御結界(オートDFオーラ)


「え? ま、まさかの出逢って次の日プロポーズとか?」


 妖狐の少女が驚きと嬉しさで、真ん丸に瞳を開いて指輪を見詰めている。


「プロポーズってなんだろ? それはお守りだから、ずっと付けていて欲しい。いつか君を守ってくれるから」


 残念ながら婚約指輪ではなかったらしい。しかしライシャは感動に頬を染めて「うん」と小さく頷いた。


「じゃ、買い物に出発しよう! まずは屋台で腹いっぱいだ!」


「えー 最初にカバンを買うんじゃないんだね」


 ライシャは苦笑しながら、うしろ手で指輪を薬指に通すと、大事そうに握りしめた。

 





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ