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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第十章 王子でも民でも譲れないもの
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決闘の形式は


 一同の前に立ち、サリウに話しかけるフランキ王が醸し出す威厳は、外で会った時と格段に違う。


「さて私は決闘を申し込まれたわけだ。騎士のトップとして受けないわけにはいかない。過去の戦争で貴国王女の処遇に不備があったと云われるのだな。その点はまず仔細を確認させてほしい。

が、それを理由に、王女は我が国を怨んでいるはずだからスパイを働くだろうという外務大臣側の主張は、根拠が薄い。朝から傍聴してみたが、書状というものは何通りにでも読めるものだ。これだけでスパイだとも決め難い。

それを踏まえたうえで、サリクトラ王女・現マチルダ・デュ・クロワジック伯爵夫人の有罪を求める者は何名いる?」


 フランキ王は若いが整然とした頭を持つ、侮れないヤツだとラドローは横顔を見つめた。

外務大臣、通詞、軍人、その他の貴族十二名ほどが有罪を支持した。

「ラドローアンス王子は剣の名手、サリクトラ王も負けぬ腕前と聞いている。それでも果たし合いを望むか?」

 貴族二人が脱落した。


「無罪を主張して剣を取る者は?」

 サリウ、ジャン、ラドローの三人が起立した。

「恐れながら陛下、今回の件、妻の落ち度というよりも私への反感が渦巻いているように思われます」ジャンが発言した。

「私が現職を退けば収まる話なら、決闘の必要はないかと存じます」


 フランキ王は思案顔を見せた。

「確かに、外務大臣がいながら海峡問題諮問官という特別職をそなたに与えている点はイレギュラーなことではある……。伯爵が引退するのなら剣をひく者は?」

 通詞と貴族一人が手を上げた。

「これで十一対三か。両者、これ以上は引かぬか?」


「あ、陛下」ラドローが声をかけた。

「私は貴国のスパイに対する刑罰を知りません。有罪の場合は?」

「火炙りだな」

 場がどよっとした。

「王女に対する過去の償いもせずに?」

「それとこれとは話が別だ。フランキ軍の所業が明らかになれば、スパイ容疑で有罪になっても刑の執行までに償うこととしよう」

「火炙りの前に賠償金やらもらっても、意味ないよな」

 とラドローは、肩をすくめて呟いた。


「では一時間後、ギムナジウムで決闘を行う。最後に立っていた者の主張が判決だ。いいな。判決が出る前に被告を逃亡させないと約束するなら、身柄を家族に預ける」

 王はそう云い捨てて礼拝堂を去った。


 ジャンの馬車に四人で戻った。マチルダには水や食料を与え、男三人は剣の手入れをする。ぽつぽつと会話した。やはりマチルダはうちに残してきた子どもたちのことが一番気にかかるようだ。

「どっちの形式になると思う?」ラドローがジャンに訊いた。

「一騎打ちを順繰りにやっていくのか、乱取りか」

「どうも陛下は結果を急いでいる。今日決着をつけさせるとは。この時間からなら乱取りがあり得る」

「十一対三、燃えるな」


 隣でサリウがガクッと肩を落とした。

「少しは焦ってみせろよ」

「だから焦っても仕方ないだろう? これをしに来てこうなったんだから順当だ。早く結果が出るなら早く帰れる。ラッキーじゃないか」

「たまにほんとにおまえが殴りたくなる」

「今はよしてくれ。後だ、あと。そっちこそ、王様との決闘どうするんだよ?」

「今考えても仕方あるまい?」

「まあ、そうだな、仕方ないことばかりだ」


 ラドローは少し真面目な顔をした。

「ジャン、小さな怪我をたくさんしてくれ。心臓だけは守れ。戦線離脱していいから生き残れ」

「そうはいかない。マチルダが火炙りでは生きる意味がない」

「子ども達がいるわ」

「オレもそろそろ父親になるはずだ。だから何があっても立ち上がる。火炙りにはさせない」


 ギムナジウムまで連れだって歩いた。自分の服に着替え、髪を整えたマチルダは美しく照り映えた。夫婦の左右を護衛するようにサリウとラドローは従った。


 会場は床の平らな大きな建物で、二階の高さぐるりにバルコニーが巡らせてある。桟敷席として観客はそこから眺めるのだろう。上座と思われる方向に王の観覧席らしい天蓋付きの玉座があり、その横に椅子がいくつか並んでいる。マチルダはそこに連れて行かれた。


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