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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第十章 王子でも民でも譲れないもの
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馬脚を現すのはどちらが先?

横道に逸れていると感じられるかもしれませんが、全て繋がっていく(予定)です。


 先程手紙を訳した通詞が立ち上がった。

「海峡の向こうの言葉に通じている者として意見させていただきます。本書状には無視できない文言が綴られております。残念ながらフランキ語訳からでは誰も気付きません。しかしながら、ル・クロワジック伯爵におかれましては、すぐにご同意いただけるかと存じます」


「何だ?」

「何が出てくる?」

「わからん」

 三人は首を傾げた。


「外務大臣がこの書は『事を起こせと扇動している』と()られるのもごもっとも。問題の部分とは、『失地回復まで一心不乱、気を砕いて事にあたれ』です。向こうの言葉では、句読点の位置で文の意味が変わります。『失地回復まで一心、不乱気を砕いて、事にあたれ』とすれば、『フランキを砕いて』と読めるのです。また、『気を砕いて』より『心を砕いて』と云うほうが一般的です。筆者は、わざわざ語呂合わせのために、余り使われない『気を砕いて』のほうを採用しているとしか思えません」


「すごい……」ラドローが感嘆した。

 前に立たされているマチルダは繋がれた両手を口に当て、「違う、違う」と首を横に振っている。

 ジャンの手は震えていた。気持ちに余裕のあった筈のサリウの顔が急速に青ざめる。

「ヤバイ、追い込まれた……」


「いや、まだだな。決闘早まってもいいか?」

 ラドローがのんびりサリウに確認をとる。サリウの声はとがっている。

「構わん、いずれ時間の問題だ」


「失礼ですが、伯爵夫人様はネイティブではないのではありませんか?」

 ラドローは聖燭台標準語で柔らかく話した。

「外国語として勉強されたのでしょう、このくらいのミスはあって当然ですよ」


「誰だ、あれ?」「外国人らしいな」「騎士に病痕か、珍しい」などのコメントが聞こえた。ラドローの発言を通詞がフランキ語に訳している。

「ミスで済むかよ、『フランキを砕け』だぞ? スパイどころか謀反じゃないか」


 外務大臣がラドローに問いかける。

「お見かけしない顔だが、あなたはもしかしてサリクトラ人か?」

 ラドローはふっと笑った。

「海峡の向こうにはたくさんの国があるのに何故サリクトラ限定で?」

 大臣はしまったという顔をした。

「問題の書状はサリクトラ王宛との情報があるからだ」


「それを知る者は私の妻と使いに出た召使だけだ。召使はまだ屋敷に戻っていない。大臣が書状を奪い、召使を拷問し、届け先を聞き出したのではないのか?」

 ジャンがすかさず問い質した。

「何をおっしゃる? とんだ濡れ衣だ!」

 外務大臣の焦りが、まんざら間違った憶測でもないことを物語っている。

「私がお宅の召使を殺めたとでもいうのか、証拠もないのに!」

「伯爵夫人の書状がサリクトラ王宛だとでもおっしゃるのですか、証拠もないのに」

 サリウがフランキ語で冷たく云い返した。


「大国フランキの大裁判だから後学のためにと列席してみれば、とんだおそまつですな。これでは裁判にならない。原告も被告も両者証拠不十分でお開きでしょう?」

 ラドローは退屈気に頭を掻いた。

「証拠ならある。こちらには証人がいるんだ!」

 外務大臣が叫んだところで、後ろの二階席から声がした。

「閉廷。二時再開」

 それを聞いて審議官が同じ言葉を繰り返した。


「今のは?」ラドローが訊くとジャンは「陛下……」と口籠った。



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