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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第十章 王子でも民でも譲れないもの
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敵陣営の見解は


 ジャンが着席すると、敵陣営の中心人物らしい外務大臣が毒づいた。

「ご自分が向こうの言葉を得意としているからといって、冗談も休み休みにしていただきたいですな、ル・クロワジック伯爵。つまらぬ誤魔化しをしたり顔で発言されると法廷侮辱罪に問いたくなる」

 そして辺りを見廻してからマチルダの手紙の解説を始めた。


「これは海峡向こうの情勢を述べ、行動を起こせと扇動する書状です。東国の出方がわからないからこちら、フランキからはいくさ船を出すことは難しい。陸の民、これは我々のことでしょう、船に乗るより農業が似合うとバカにされているようだ。海賊とは東国、海の民とは通常サリクトラを意味します。となると、サリクトラに財宝を回収して失地回復、四十年前に我々が奪ったガンゼ島を取り戻せと云っているように解釈できます」


 ジャンは「バカな」と云って頭を抱えた。

 サリウは「読解が甘い」と呟いた。

 ラドローは「うちは無視かよ?」と笑った。

 

 ジャンがサリウの向こうから顔を向けた。「うち、とは?」

 サリウが「レーニア」と即座に答え、ラドローは「うちのが姫でして」とテレた。

 ジャンはすぐには理解できないようで、「だが……」と口ごもった。


「今さらガンゼを取り戻したがってると思われるとはね」

 サリウが冷笑する。

「でも宝石箱ってのは何だ?」

 ラドローが訊いた。

「はあ?」

 サリウが生まれて初めて見せる間抜け面だった。


「おまえ、自分の妻の本名知らないのか?」

「レーニアのピオニア姫、それ以上にまだあるのか?」

 サリウは隣でどさっと祈祷台に突っ伏した。

 力を失った右腕と横顔の間に声が籠る。

「ピオニア・ローズ、ブリンセス・オブ・マリン・ジューエル・オブ・レーニア」

「長っ」

「長さが問題じゃない」


「海の宝石レーニア国が正式名称です」

 うつ伏せたままのサリウの上半身の向こうでジャンが笑っていた。

「だからマリノスとジュエリーだったんでしょうに。海の民はサリクトラじゃないですよ」

「そのようで……。となるとそれほどマリティアに、マチルダさまに心配かけ応援してもらっているわけだ。やはりオレがこの問題も引き起こしたんだな」

 今度はラドローが頭を抱えた。


「いや、悪い、牢屋で会った後嬉しくてな。誰かに云いたかったんだ、おまえが生きてるって」

 上体を起こしながらサリウが非を認めたのが何とも可愛らしかった。


 法廷中がまた、スパイ容疑支持ムードに変わった。

 審議官は私語を制して、ジャンに尋ねた。

「ル・クロワジック伯、奥様は海峡向こうの方ですか?」

「私はアーブル港で知り合った」

「やはりスパイだ」

 場が騒然とする。それをマチルダの声が遮った。

「私はスパイです。早く処刑してください」


 今度は法廷中が沈黙した。ジャンが静かに発言する。

「過去に何があろうが今は私の妻、妻がスパイなら私もそうであろう」

 マチルダは驚愕の表情で夫を見返した。

 

 これは三人の作戦だ。まずマチルダに、助かろうとの意志を持たせること。過去の事件も夫の政治生命も、弟の国の行方も問題じゃない。自分の命の大切さを認識してもらう。

 生きる意欲を持って牢生活に堪えてもらいたい。その間、男三人は決闘に備えることができる。ジャンはもともと剣が得意でもなく、他の二人ほど若くもない。サリウとラドローは、余裕があるなら身体中の筋肉を鍛え上げたいところだ。


「スパイは死刑だ、夫婦そろって」

 また声が上がる。

「いや、まだ早い。皆の前でもっとル・クロワジックの顔に泥を塗ってやらねば」

 野次を聞いていると敵陣営の思惑も知れる。マチルダもそれがわかっていて、「早く殺せ」と云ったのだろう。


 ――マリティ、それはオレが許さないよ。大事な女が待っているんだ。守るものができたオレがどれ程強いか、見せてやるから――

 ラドローは決意を新たにした。


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