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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第十章 王子でも民でも譲れないもの
94/120

手紙の中身は

少しばかりボーイズラブ発言が出てきますが、単なるキャラの性指向です。本篇で語る予定はありません。


 審議官が証拠品として問題の書状を読み上げる。聖燭台諸国の標準語を使っているようだ。


―――


 大好きな方


 お手紙拝読いたしました。どんなニュースであれ、あなたさまの筆跡を辿ることは喜びの限りです。

 

 東風がどの様に吹くか分からぬ折、船を出しこちらからお訪ねするのは難しいと思われます。

 陸の民が船で過ごすのは思いの他つらいものですから。

 農民は畑へ、海賊は東へ、そして海の民は宝石箱へ早急に戻られることを祈っています。


 失地回復まで一心不乱、気を砕いて事にあたれとあの方にお伝え下さい。

 もし(いま)だ、私のことを憶えていて下さるとしてですが。


 いつお会いできるかお約束はできませんが、私は夫と子どもたちに囲まれて幸せに暮らしております。

 あなたさまもどうか……お幸せに……。


                 マチルダ・デュ・クロワジック

―――


「あの方」というところでマチルダはそっとラドローに目線をくれた。ラドローは「忘れるはずがない」と口パクし、人差し指で小さな投げキスを作り贈った。

 舞踏会のダンスの合間、バルコニーでだだをこねるようにしてもらったファーストキスを思い出していた。

「式までダメ」と云ったひとを前にして、十代の興味と悪戯、落ち着いて見える相手を困らせたい一心だった。自分も大人の振りがしたかっただけなのに。


「何だ、たいしたことじゃない」

 サリウは呟くとさらさらと、用意していた紙にペンを走らせた。

 審議官は通詞にフランキの言葉に訳させている。敵陣営は「裏切り者」と騒ぎ始める。

 ジャンの顔色は鉛色に変わっていった。

 宛先を問われて「海の向こうの友人宛」とマチルダが答えると、野次が上がった。

「なぜ友人宛の手紙に陸の民だの海賊だの出てくるんだ? 政治的な手紙だ」

 

 ジャンはサリウからメモを受け取ると立ち上がって、

「通詞殿の訳に文句をつけるわけではないが、親しい間柄の手紙には奥に秘められた意味があるものだ」

 と云った。

「その通りだ、裏情報が隠されているのだろう?」とまた野次が飛ぶ。

 審議官は「では伯爵の解釈をご披露願います」と挑戦的だ。


 ジャンはゆっくりメモを読み上げた。

「風向きが悪いので残念ながらご訪問できません。人には適材適所があるものです。マリノスはジュエリーのもとに戻るベき。ここの『失地回復』は比喩表現です。失ってしまったジュエリーの信用を取り戻せるよう心尽くしを。昔のよしみで私の言葉を聞いて下さるなら、と云った意味ですね。妻が友人、マリノスの妹に出した手紙です。マリノスは海峡を渡りジュエリーと遠恋になり、浮気をし後悔している。一緒に海を渡ったマリノスの妹が見るに見かねて、妻に間を取り持ってくれないか相談したのでしょう」


「ええっ???」

 礼拝堂一杯に疑問符が反響した。

「どうしたらそんな風に読める?」

「いや、辻褄は合っている。海の民がマリノスで宝石箱がジュエリー……」

「うそだろ、でっちあげだ」


 騒然とした堂内でラドローは肩を震わせて笑った。

「あの数分間でサリウがラブ・ストーリーを書くなんて……」

「私だって恋くらいする」

 サリウの意味深発言にジャンの声がかぶった。

「友人間の親書だからこそ、固有名詞は使わないものではありませんか? マリノスの名誉に関わりますから」

 ラドローは前の祈祷台に両腕をついて、笑いを隠すためにうつ伏せざるを得なかった。頭の上からサリウの声がする。

「助かったよ、我々の言葉には性別が出なくて。フランキ語では冒頭の『大好きな方』でさえ相手が男か女かで違ってくる」

「そうだな……」



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