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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第九章 親になるということは
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冬の森では


 ハンスたちの一行が森の集落を離れている間に、ジンガは広場に大きな公民館兼作業場を建てさせた。寒くなってきて、いくらなんでも男たちは焚火の周りでダベるわけにいかなくなった、という理由もある。

 

 女性陣は昼間、この作業場の板の間に集まって、編み物をすることにした。きっかけはランサロード城から毛糸がたくさん届いたことだった。

 ピオニアは編み物の経験がないので、アンナに「赤ちゃんのベストやおくるみを作りたい」と甘えた。すると他にも習いたい初心者が集まった。


「役割を男女に分けるつもりはないけれど、アンナって女の鑑よね」

 初めてのかぎ針編みでゆるゆるの綿菓子みたいなものを作りだしてしまったピオニアが肩をすくめた。

「別にハンスさんがこれをして姫様が船を操縦してもいいですけど、母親になるなら手袋くらい編めたほうがいいでしょうね」

「私のできることって中途半端よね。女にしては弓が打てるとかちょっと剣が使える。馬に乗れる。お料理お裁縫はまあまあで、編み物がこれじゃ、先が思いやられるわ」


「みんなが初日から上手にできたわけじゃありませんよ」

 熟練した女性たちは、ぴったり同じサイズの花型モチーフをいくつもいくつも編んでいる。繋ぎ合せて毛布やマントにするのだ。

「何か月も赤ちゃんがお腹の中にいるのは、女が母親になる準備期間ですから、姫様も頑張って下さい」

「はあい……」


 ハンスたちが戻り男手に余裕ができると、作業場の土間側では屋根を葺く柴が束ねられた。秋口に建てられた小屋はレーニア仕様、潮風をやり過ごすために屋根のこう配が小さい。レーニアとランサロードでは、異世界の日本という国で例えれば、愛媛の松山と岐阜高山ほどに気候が違う。積雪を考えて屋根に工夫が必要とういうわけだ。


 外は雪が積もり始めていた。朝が来ても消えなくなり根雪となる。

 最初は面白がっていたレーニアの子供たちはたちまち興味を失った。大人の中にも、海での寒さは気にならないが森の寒さはしんしんと骨身に沁みるとメルカット海岸に引っ越す者が増えた。

 

 レーニア島からメルカット人が逃げ出すのと、森からレーニア人が逃げ出す我慢比べをしているようだとハンスは苦笑していた。

 ルーサーの動向が知れない。ピオニアを捜してもいない。レーニア人狩りをしようともしない。存在感がない。

 アストールから連絡が来るたびに首を傾げた。

 メルカット海軍の様子はフルクが調べ、ピーターが書いて寄越していたが、軍船が島を頻繁に巡回していて、以前のようにレーニアに上陸するチャンスはないようだ。

 


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