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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第九章 親になるということは
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わだかまりの所在は


 二階の大部屋ではみな寝仕度に取り掛かっていたが、フルクの姿がなかった。階段の上下に番人がいるから、二階のどこかにいるはずと思い、ハンスは廊下を歩いてみた。

 海に一番近い方のどん突きに、バルコニー兼見張り台がある。案の定フルクは石の手すりにもたれて暗い海を眺めていた。

「いくら夜行性でも朝からあんなに働いたら眠たいだろう?」

 また意地悪を云われるかもしれないが、できる限りさりげなく、背中に話しかけてみた。


 フルクは、星が瞬き出した空と海の境目を眺めたままで呟く。

「おまえを好きな姫様を見て好きだと気がつくなんてバカだよな……」

「どうして?」

「なんか、手が届くような気がしたんだ。木こりでもいいなら漁師でもいいかって。でもおまえは木こりなんかじゃなくて王子様なわけだ。何年も一緒に島で暮らしていながら振り向いてもらえなかったんだ、バカ以外の何でもない。姫様とはどこで知り合ったんだ? 舞踏会か何かか?」


 ハンスはフルクの横に並んで波の音を聞いた。

「国際会議だよ」

「かいぎぃ? ジンガが行ったやつか?」

「そうだ」


「気付いてはいたんだ、おまえはどこか違う、品が良過ぎるって。やっぱり生まれや育ちってあるよな」

「バカだな、ピオニアが好きになってくれたのはオレが王子だったからじゃない」

「惚気かよ? それともオレの傷に塩すり込みたいのか?」

「違う」


「この気持ちに気がつく前は、オレは海さえあればよかったんだけどな」

「すまん」

「謝られたらこっちがみじめだろう? 謝ってほしいのはそのことじゃない」


「やっぱりオレは何かしでかしたんだな?」

「しでかしたんじゃない、しでかさなかったんだ」

「考え足らずだったか?」

「そうなのかな。二週間前うちに来たよな? なんであのとき、子どものこと話してくれなかったんだ?」

 ハンスは目を丸くしてしまった。

「云うべきだったか? 全く頭になかった」


「ギリーから聞かされて何故か頭に来た。バカにされた気がした。」

「すまなかった。自分が知ったのも直前でまだ実感がなかった」


「オレが態度変えるかもと思って隠したんじゃないんだな?」

「そんなこと考える余裕もなかったよ」

「そっか、ならいい。何かもやもやして、当たり散らして悪かった。自分が余りにちっぽけな気がした。海に出ればちっぽけではあるが、大海原と渡り合ってる気分になれる。そんな自分もおまえの前では価値が無い気がした」

「何云ってるんだ、オレは帆も張れない半人前で、おまえはサリウやパーチも一目置く海の男だ。得意分野が違うだけじゃないか」

 

 言葉を尽くしてもフルクの淋しさは消えないだろうとわかっていながら話した。

「こないだ夫婦喧嘩したんだ。『私は木こりの妻です。赤ん坊は森で産みます』って云いやがったんだぜ、あの女」

「姫様が?」

「ああ。姫様ぶって、お城に帰りたいとでも云えば可愛いのに、ピオニアの場合、姫様ぶると、あなたの云うこと鵜呑みにはしません、自分で決めますからと来やがる。ちっとも云うこと聞きやしない」

「姫様らしくていいな。だが森でちゃんと暮らせているのか? 赤ん坊育てられるくらいには落ち着いているのか?」

「まあな。ピーターはそっちに行くそうだから助けてやってくれ。ベーグんとこは二人目だが、森で大変そうなら知り合いの病院に入れるようにする。ピオニアにもそれを勧めてるんだが」

「そうか……」


「サリクトラの王が友人だと先に云っておけばよかった。心配かけた」

「そうだな、肝が冷えた。拘留されるなら、せめてテームと、大きなお腹抱えて帰りを待ってる奥さんがいる男くらい逃がしたいと思ったのに、そんなヤツらが三人もいる。人選からして間違ってないかイラついた。それをおまえのせいにしたかった」

「オレのせいだよ」

 

「病痕殴ってしまったか?」

「うつるかどうか心配か?」

 やっとハンスは持ち前の軽口が云えた。

「痛むんじゃないかと心配なんだ! おまえはほんとに人の気持ちを汲み取らない男だな。普段からひくひく痛むって聞いたことがあるから、殴られたら酷くなるかと思って!」

「当たってないよ。血でもつくと嫌だろうと思って顔ずらしたら、おまえのゲンコツはオレの頬骨に決まった。こっちもくらっとしたが、そっちのほうが痛かったはずだ」

「そうか、そうか、もういい。おまえのことは心配しないことにする」


「そうだな、レーニアの心配をこれからもっとしなきゃならなそうだし」

「オレも他の誰も、島を諦める気はないからな。おまえはもっと頭使って詰めが甘くならないように気をつけろ」

「わかりやした、船団長さま」

 ハンスはやっと笑ってバルコニーを離れることができた。


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