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王族に生まれてしまったら  作者: 陸 なるみ
第九章 親になるということは
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海洋国家の王と漁師と


「レーニアでも仲間割れすることがあるんだな」

 サリウは面白そうに云う。

「こいつは仲間じゃないかもしれん」

 フルクは殴った手が痛かったらしく、ひらひらさせた。

「いや、仲間過ぎるほど仲間なんじゃないか? そして私の数少ない友人だ」

「へ?」

 レーニアの男たちはハンスとサリウを交互に見比べていた。


 サリウの召使が氷を持ってきて床に座り込んだままのハンスに渡した。ジンガの息子、最年少のテームがそれを手伝った。

「痛ってぇ。もう、フルクもサリウもオレに含むところあるなら面と向かって云ってくれよ。急に拿捕だのパンチだの、勘弁してくれ」

「おまえはイラつく野郎なんだよ」「賛成だな」

 漁師と王は顔を見合わせた。

「どういうところが?」

 ハンスが自信なさげに訊いた。

「鈍感で幸せで自分ひとりわかってる気になってるからだ」「その通りだ」


「王様と気が合うのは気分いいな」

「ハンスだって王子様だが?」

 にやりとしたフルクにパーチが突然水を差した。

「パーチ!」

 ハンスは驚きを隠せなかった。

「ハンスが捕まってるときに若い王子様が様子を見に来たじゃないか。『兄上も必ず戻ってきますので』と云っていた」

 

「父親が国王ってだけで、今はただのハンスだ」

「バカにしやがって……」

 フルクはまた不機嫌になったようだ。

「事あるごとに王子だった頃の友人の力を借りて大きな顔するなら、ただのハンスじゃねぇだろ」


「まあそんなにいじめてやるな。いくつになっても子供の頃一緒に遊んだ記憶は消えないからな」

 サリウが云った。

「隣室に食事を用意したからとりあえずリラックスしたらどうだ?」

「あのな、王様、王様はレーニアの自由な海の男を拿捕したんだぜ? 拿捕ってのは最終手段、そう簡単にするもんじゃねぇんだよ。船団長として抗議するが、満足いく説明もないのに、お礼を云ってごちそうになるわけがない」

 フルクが鼻息を荒くする。まだハンスに対するわだかまりも消えていない。


「そうだな、悪かった。私も海の男の端くれだ。事情を話させてくれ。まずは船団長のお名前を伺おう。私はサリウという」

「フルクだよ」

「よろしく」

 サリウはフルクと握手してから友人に近寄った。

「いつまで床に座り込んでる気だ? 病痕から血でも出たか?」

「いや」

 ハンスは差し伸べられたサリウの手を取ってようやく立ち上がった。そして食堂になっている隣室に連れだって歩いた。

「骨のあるいい仲間たちじゃないか」

「嫌われてるとは思わなかった……」

「嫌われてなどいない。おまえは本気で嫌われた経験などないんじゃないか? だから鈍感と云われるんだ」


 長い食卓の上にはパンとワインと海の幸料理が並んでいた。レーニア人は席には着いたが食事には手をつけない。サリウは肩をすくめて、かいつまんで説明することにした。

「レーニアを陥落させた指揮官が、メルカットの外務軍務大臣になった。すぐさま東の国から軍用船を買い付けて、レーニアの南側の外海にも出てきている。サリクトラ領海内にも入ってきたので、『軍用船の領海運航は合意していない』と主張し、目下メルカットとの領海線で睨みあい中だ。それで、こちらのランサロードとの領海境(りょうかいざかい)でも同様の措置を取らざるを得なかった。大変失礼した」

 サリウは頭を下げた。


「魚は獲っていいのか?」

「ああ、漁業と商船の通行は止めていない」

「ジンガの手紙を無視したわけじゃないんだな?」

「大統領殿のご丁寧な書状は拝受している。メルカット海軍が漁船に化けてうちの海に入ってきたら止められない。となるとレーニアの近くには停泊させられない。ここが安全だと判断した。この城塞には常時見張りを置いているんだ。それから、貴国の船にカモフラージュを施させてほしい。舷側のレーニアの紋章、メルカットの偽の紋章を塗りつぶさせてもらえないだろうか?」

「それは姫様に訊かないと……」

 口籠るフルクにハンスが応えた。

「いや、オレの妻は船の模様に口出しする立場じゃない」

 

「だが、歴史上、船は全部王家の持ちもんだ」

「レーニア王家はもう存在しない」

「なんでだよ。姫さまが生きてる限り、その先も姫さまの子孫が跡を継ぐ限り、なくなりゃしねぇ」

 フルクとハンスは今回、全くぎくしゃくし続けている。

「王様、とりあえず帆布ほぬのでも被せて隠しておいてくれ。姫さまか大統領に返事してもらうから」

「わかった。そうしてくれると助かる」


「定期的に船の手入れをしに来ていいか?」

「ああ、海の男なら当然の考えだな。海から下の港に着ければ問題ない。フルク殿は漁船でサリクトラ岬を廻る自信はおありか?」

「ああ、問題ない」

「なら止める者はいないだろう」

 ハンスが口を開いた。

「ランサロード側から船大工が行っても構わんな?」

「云った通り、漁船、通商船なら航行、停泊は自由だ」

「わかった」


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